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随分と小物感満載だな

不意打ちで殴られたゲルマは忌々しそうな目でこちらを見る。

 少しは利いたのか腹をさすりながら顔を歪める。

 腹の痛みも収まったのか腹から手を離し平静を装いながら言った。



「まさか、不意打ちをしてくるとは。この体がどうなってもいいんですか?」

「別に知り合いでも何でもないし。多少怪我させても治せるからな」



 それに根暗野郎なら別に殴るのに抵抗はない。

 そいつ釜石さんの天敵みたいだったし。  

 こうなったのも自分の責任。

 自業自得だ。

 


「ぶっちゃけ言うと俺はそいつの体はどうなってもいいと思ってる。だからその体を盾にしようとか考えるのは止めた方がいいぞ」



 俺の物言いにゲルマは嘘はないと感じたのか少し黙った後、これまたを平静を装いながら微笑を浮かべた。



「そうですか。それは残念です。少しでも躊躇してくれればと思ったのですが、これでは仕方ありませんね」

 


 そう言い終わった瞬間、ゲルマの体から黒い魔力が吹き出る。

 身体中から出す黒い魔力に安久谷の顔でする笑顔が合わさり不気味さは一層に増していく。

 


「このまま行くとしましょう」



 余裕とばかりの笑みを浮かべながらゲルマは言う。

 黒い魔力に当てられ俺は咄嗟に身構える。

 雰囲気が急に変わったな。ここからが本領発揮って事か。

 


「正直どうやってあれを消したかは分かりませんが所詮は人間。神である私には勝てませんよ」



 そう言ってゲルマは後ろに無数の球状の黒い霧を出現させた。

 禍々しくゲルマの周りに浮かぶそれはどんどん数が増えていき、その数はざっと見ても千は越えている。



 空中に浮かぶ千を越える黒い霧の球。

 その圧巻の光景に俺は思わずおぉっと感嘆してしまった。

 後ろではリーナも驚いているのかそれに見いっている。

 神というだけあるな。ここまで出来るのか。

 


「先ずは小手調べといきましょうか」



 ゲルマは手を上げすっと手首を降ろす。

 すると空中に浮かぶ黒い霧の球は一斉に俺とリーナに襲い掛かってきた。

 襲い掛かってくる黒い霧の球にリーナは無魔法で迎え撃とうとしたが、俺はリーナに向かって手を上げ待ったをかける。   



 俺の意図が分かったのかリーナは止まり俺はそれを確認すると、後ろに黄色い光に輝く光の球を出現させた。

 やっぱ闇には光ってのが定番だよな。

 俺は波打つ様にして一気にゲルマと同じくらいの光球を出現させていく。



「行け」



 やがてあっという間にゲルマと同じくらいに達し、俺は一言だけ言うと黒い霧の球に迎え撃つ様にして光球を一斉に放った。

 光と闇。黄色と黒の光が互いにぶつかり合い光の粒となり消滅していく。

 このままいけば全部撃ち落とされる。

 そう思ったのかゲルマは次なる手を打つ。



「少しはやるようですね。ではこちらはどうですか?」



 光球と黒い霧がまだぶつかり合っているなかゲルマは更なる攻撃を仕掛けてきた。

 突如俺の周りに黒い霧が現れ俺を包み込もうとする。



「今更こんなもん効かねぇよ」



 俺はそれを【削除魔法】で難なく消したが、それは次の一手を隠すための布石でしかなかった。



 消した瞬間俺の目の前には無数の黒い霧で出来た槍状の物が俺を囲んでいる。

 360度全方位を囲む黒い槍は俺が視認すると同時に一斉に襲いかかる。



「チッ!」



 俺は舌打ちを打ちながら【時空転移魔法】で逃げようとしたが、それより先にリーナが動いた。



「させん!」



 そう叫ぶと同時にリーナは無魔法を使い俺を囲む黒い槍を包む。

 槍は灰色の靄に包まれたちまちと消えていき俺を取り囲んでいた黒い槍は全て消滅していった。



「私を忘れて貰っては困るな」



 俺の隣に立ちながらリーナは言う。

 


「悪い、助かった」

「油断するな。相手は元神だ。何をしてくるか分からんぞ」 

「そういうことです」

 


 リーナの声に同調するようにしてゲルマは言った。

 しかしその声は前からではなく後ろの方からだ。



「後ろががら空きですよ」



 何処から現れたのかゲルマは俺達の後ろに現れ手を伸ばす。

 リーナはそれに驚きながら後ろを振り向こうとしたが、既にゲルマの手はリーナに届こうとしている。

 このままではやられてしまう、このままではだが。



「お前もな」



 後ろを取ったゲルマに俺は【時空転移魔法】で更に後ろを取りゲルマの背中に手をかざす。

 これにはゲルマも予想外なのか驚愕の表情をしていた。

 慌ててゲルマはこちらを向こうとするがもう遅い。



衝撃波(インパクト)



 俺の手から風を圧縮した衝撃波がゲルマに放たれる。  

 爆発音にも似た音が街中に響き、ゲルマは背中を曲げながら空中を地面と平行に飛んでいく。



「ぐぁぁぁぁ!!」



 悲鳴を上げながらゲルマは飛んでいくが、そこは神の意地か。

 途中で踏み留まった。



「くそがぁ!!」



 今までの知的な雰囲気が崩れる程の気合いの言葉を入れゲルマは踏み留まる。

 そして乱暴な動作で目の前に人一人入れそうな位の黒い霧を出現させ中に入る。 

 すると俺達の前に別の黒い霧が現れそこからゲルマが出てきた。

 一種の転移か。さっきもそれで俺達の後ろを取ったんだな。

 転移で戻ってきたゲルマは少し息を切らしながらも余裕と見せたいのか少し声を強くして言う。



「今のは中々効きました。正直予想外です」

「そりゃあどうも」 

「諦めろ。貴様一人では私達には勝てない」



 リーナの言葉に流石のゲルマも認めざる得ないのか少し黙る。

 負けるわけないとか言ってた癖に逆に押されてるんだもんな。認めるしかない。

 ゲルマは黙っていると次第に何を思い付いたのかまた不気味な笑みを浮かべる。



「そうですね。確かに私一人では貴方達二人には少々分が悪い。そこは認めましょう。だがーーー ーー」



 そう言うとゲルマは目の前に黒い霧を出しながら何かを抱える。

 霧が晴れゲルマに抱えられている人物に俺は目を見開いて驚いた。 



「これならどうですか?」

「さや殿!!」 



 俺の目の前には、ぐったりと頭を垂らしながらゲルマに抱えられている釜石さんがいた。

 リーナはそれを見て驚く様にして声をあげる。

 釜石さんは気を失っているのかピクリとも動かない。



「この人間なら盾役としては申し分ありませんよね」 



 不気味な笑みを浮かべゲルマは釜石さんに目を向ける。

 ここに来て人質って、随分と小者感満載な神様だな。

おまけ


 【削除魔法 2】


「【削除魔法】は何でも消せるんだな」

「そうだな。確かに俺のスキルの中で一番強力なスキルだと思うぞ」

「何か弱点とかはないのか?」

「強いて言うなら直接人体に影響があるものは消せないし、一度に一つしか消せない。【空間魔法】を使えば一度に消せるがこれは時間が掛かる。展開が速い戦いの中では使えない」

「成る程。ではもしその【空間魔法】を使って世界中の人間の記憶や物を消すことも?」

「可能だな」

「........やるなよ?」

「いや、やらねぇよ」



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