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何も起こらなきゃいいんだがと言ってる時点で絶対何か起こる

2月9日 オーラの所を魔力に変更しました。

 少し曇りがかった夏の空の下、ゲルマはビルの屋上で街の人達を見下ろしていた。

 ビルの屋上は風が強くビュービューとゲルマが憑りついている安久谷の髪を揺らす。



「さて、この体にも慣れた事ですしいよいよ始めましょうか」



 そう言ってゲルマは不適に笑う。

 安久谷の根暗な顔とゲルマの不適な笑みが混ざり合いその顔は一層不気味に見える。

 


「この体の願いも叶えますが先ずはこちらを先に済ませましょう。何せこれは少々時間が掛かりますから」



 ゲルマは体から黒い魔力を出し手を空に向かって伸ばす。

 黒い魔力は伸ばした手の方に移動するようにして凝縮されていき、やがて空に向かって放出されていく。

  


 黒い魔力は空に向かって伸びていきやがて放出するのを止めると空が先程魔力を放った所を中心に渦巻く様にして雲に包まれた。

 先程の空とは一転して暗くなり今にも雨が降りだしそうな感じだ。


 

「これでいいでしょう。後は完成するのを待つだけです」



 渦巻く曇りの空を見てゲルマは満足そうに言った。

 


「これが完成すれば私の力は更に増大し、私が求めていた世界が誕生する。神のいないこの世界で私は本当の神となる事が出来るのです。これならば愚かな天使達も、あの破壊女も、私に屈辱を与えたあの天使も、私の敵ではない!」



 ゲルマは気分が高揚してきたのか段々声を大きくしながら語る。

 この世界に神がいればその神がゲルマを捕まえようとするのは当然な話。

 余り世界に干渉してはいけない神にとってこれは世界に干渉する数少ない事例だ。

 それに来ないということはこの世界に神はいない、ということにゲルマは既に気づいていた。

 


「そういえば、少し気になることもありましたね」


 

 訝しげにゲルマは言う。

 ゲルマは憑依した相手の記憶を見ることが出来る。

 その中でゲルマはある奇妙な人物を見つけていた。

 


「彼はいったい何者でしょうか?」



 この体に呪いをかけ、常人では到底放てない威圧を放ったこの人間。

 ゲルマはこの人間を見た時から不思議に思っていた。 

 「こんな力を持った人間がこの世界にいるわけがない」っと。



 この世界は文明が発達している分戦闘能力が低い。ゲルマはそれを知っていた。

 だというのにその人間はこの世界では逸脱した力を持っている。

 記憶からじゃどれ程の力を持っているかは分からないがゲルマはその人間を少なからず警戒していた。



「まぁ、会えば分かりますか。これはその為の保険でもありますし」



 そう言ってゲルマは渦巻く曇りの空を見る。

 これはゲルマの理想を現実にするための物でもあり、不可解な人間への保険でもある。

 戦闘能力の低い世界の中にいる不可解な力を持つ人間。

 ゲルマからしたらそれだけでも十分警戒するに値した。



「さぁ、これで準備は整いました。後はこの体の願いを叶えるだけですね」



 準備も終わりゲルマは安久谷の願いを叶えるため、釜石と夜兎を探しに行こうとビルの屋上で後ろに翻す。



「先ずは女の方の人族と行きましょうか。ひょっとしたらあの男の方の人族のいい盾になるかもしれませんし」

  

  

 また不適な笑みを浮かべながらゲルマは呟く。

 ゲルマは一歩一歩足を踏む毎に体の一部を闇へと変え、ビルの日陰の影の中に消えていった。

 






ーーーーーーーーーーーーーー







「沢山買ったねー」

「ノート以外にも切らしてたのがあったのを思い出してよかったよ」

  


 俺は釜石さんと一緒に文房具屋を出た。  

 買ったものは鞄の中に仕舞ってあり、俺は手ぶらだがノート以外にも買うものがあるのを思い出し結構沢山買った為鞄が少し重く感じる。

 一緒に行っといて正解だったな。

 俺は釜石さんと少し話しながら歩いていると、



「あれ?何あれ?」



 釜石さんが何かを見つけたのか空に向かって指を指した。

 俺は指が指された方を見ると、空の雲が変な形をしているのに気がついた。   

 


「何だろう?あれ」



 空の雲の様子を見て釜石さんが不思議そうに言った。

 雲は一点を中心にしてまるで竜巻の様に渦巻いている。

 それだけでも確かに人目につかせるのには十分だったが、俺はそれよりも別の所に注目していた。



(いや、なんかあれ、めっちゃ禍々しいオーラ放ってるんだけど.......)



 尋常じゃない程の禍々しいオーラを放つ雲空に俺は呆然としながら見ていると、釜石さんが話し掛けてきた。  



「神谷君?どうしたの?」

 


 呆然とする俺に釜石さんはどうかしたのかと話し掛けてくる。

 釜石さんの反応からして他の人にはあの禍々しいオーラは見えてないみたいだな。



(......行くしかないか)



 流石にこれはほっといたらやばい奴だと察した俺は視線を空の雲に向けたまま釜石さんに言った。



「悪い釜石さん。ちょっと用事を思い出した。先に帰るな」



 俺はそう言うのと同時に雲がある方向に少し小走りで走り出す。

  


「え、ちょ、神谷君!?」



 急に俺が走り出したことに釜石さんは驚いていたが、俺は振り返らず手を振りながら「じゃあな」と言って走り去る。

 角を曲がり釜石さんの視界から俺が消えたと確信すると、俺は【時空転移魔法】で禍々しい雲の近くに転移した。



 何もなきゃいいんだけどなぁ......まぁ、どうせ何かあるんだろうけど。

 俺はこれから起こるであろう事態に少し憂鬱感を覚えた。

 

おまけ  

   

 【例の大佐】


「ねぇ見てあの雲!」

「何あれ!?あんな雲見たことないんだけど!?」

「何かアニメとかに出てきそうだね」

「そうか!わかったわ!!」

「何が分かったの?」

「きっとあの上にはラ○ュタがあるのよ!!」

「え?でもあれって竜の巣にあるんだよね?」

「きっとあの雲の上に竜の巣があるのよ!」

「じゃああの渦巻いてるのは?」

「あの渦巻いてる中心からラ○ュタの雷が放たれるんだわ。絶対例の大佐が私達を見て嘲笑ってるわよ。『ハハハ!!見ろ!人がゴミのようだ!!』ってね」

「放たれたらどうなるの?」

「あれが放たれればここら辺一帯は火の海になるわね」

「.......逃げる?」 

「.......逃げるわよ」



ーーーーーーーーーーーーーー


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