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暗い奴に気さくに話し掛けると誤解されやすい

 安久谷慎二は駆け出している。 

 夜兎に呪いを掛けられ、一人恐怖に刈られていた。



(何なんだ、あいつ.....)



 次釜石に会ったら死ぬという事を信じる呪い。 

 それに安久谷はまんまと騙され、一刻も早く逃げなければとひたすら走る。

 道行く人を押し退け、夏場のせいで体から尋常じゃないほどの汗を流しながらも走り続けた。


 

 やがて息も切れ、疲れはてた安久谷は目先にある路地裏に入り壁に背中を預けるようにして呼吸を整える。

 ここまで来ればいいだろう。

 安久谷はそう思い息を整えると途端に憎悪の心が芽生え始めた。



(くそ、何でこんな事に......!!) 



 唇を噛み締め手に力が入り壁を背にしながら何度も壁を叩く。

 安久谷にとって釜石に会えた事は本当に偶然だった。

 親の突然の引っ越しに安久谷はそれに付いていっただけで、釜石を見たのは今日が初めてだ。

 その時安久谷は自分の運命をこれ程までに喜んだ事はない。



 自分が中学の時に思いを寄せていた相手がいたのだから。

 安久谷は元々気が小さい性格だ。

 何をやっても駄目で根暗な顔からよくクラスの男子にからかわれていた。

 故に友達と呼べる人物はいなく何時も孤独を過ごす毎日。



 苛められないだけまし。

 安久谷はそう思っていたが、ここで出会ってしまった。



『あの、これ落としたよ』

 


 自分が落としたハンカチを笑顔で渡して来てくれた、釜石に。

 その時安久谷の目には神々しい光が見えたんだろう。 

 自分にこんなにも優しく話し掛けてくれる人がいるなんて。

 このたった一回の出来事で全て始まった。



 そこから安久谷は変わった。

 あの人と知り合いになろう。

 もっとお近づきになりたい。

 安久谷はあの手この手を使い釜石に近付いた。

 その思いは日に日に増していく。

 だが途中で釜石は引っ越し、安久谷は暫く失意のどん底にいた。



(やっと、会えたのに!!)



 しかしそこから奇跡的に安久谷は釜石と再会。

 こんなに嬉しいことは今までなかった。

 安久谷は直ぐに釜石に話し掛けたのだが、そこに夜兎という邪魔が入る。



(あいつのせいで沙耶香ちゃんが!!)



 安久谷の顔は激しい憎しみの顔に変わる。

 あいつのせいで沙耶香ちゃんが変わってしまった。



『嫌だって言ったの!もう私に関わってこないで!!』



 思い出すだけでもおかしくなってしまいそうだ。

 自分は拒絶された。

 この事実が安久谷には受け入れられなかった。



(きっとあいつが!あいつが言わせんだ!!)



 きっとあの時あいつは沙耶香ちゃんにそう言うように囁いたんだ!

 そう思う内に安久谷の考えは確信に変わった。

 そして安久谷の頭の中にはすっかり夜兎への恐怖が消え憎しみに染まる。

 


「あいつさえ、あいつさえいなければ.....」



 ぽつりと、そして重く呟く。

 安久谷は一人夜兎への憎しみを積らせていると、



「ふぅやれやれ、酷い目に遭いました」



 路地裏の奥からリーナとの戦いから逃げて来たゲルマが出てきた。

 ゲルマは夏だというのに黒いスーツを着て道化の仮面を被っている。

 それだけあれば安久谷の視線を集めるには十分だった。



(何だこの人?)



 安久谷は少しの間夜兎への怒りを忘れゲルマを変な者を見るような目で見つめていると、やがてゲルマと目が合う。

 


「おや、君は.......」



 目が合った瞬間ゲルマは安久谷を見て何かを感じ取ったのか、ゲルマは安久谷に話し掛けた。



「君からいい憎悪を感じる。この憎悪なら私の休場となるに相応しい」



 ゲルマの言うことに安久谷は何を言っているのかよく分からなかった。 

 だが何故だろうか。

 安久谷にはゲルマの言葉が頭の中に響くようにして聞こえた。

 黙っている安久谷にゲルマは話続ける。



「君、何か願い事がありませんか?」

「願い、事?」

「そうです。貴方の憎悪からは欲望を感じます。何か手に入れたい物があるのでしょう?言ってみてください」

「いや、何を言って....」

「私ならその願いを叶えてあげられると言ったらどうしますか?」



 ゲルマの言葉に安久谷は息を呑んだ。

 端から見ればばかばかしい話だが、安久谷にはゲルマの言うことが嘘には聞こえなかった。

 安久谷は意を決してゲルマに願いを告げようとしたが、ここであることを思い出す。

 


 自分には呪いが掛けられている。

 例えどんな願いを叶うとしても近付けば死ぬ呪い何てあればどうしようもない。

 そう思い安久谷は再び黙っていると、ゲルマが何に気付いたのか声をあげた。



「ん?よく見れば貴方呪いを掛けられてますね。どれ、私が解呪してあげましょう」



 そう言ってゲルマは安久谷に近付き人差し指を安久谷の額をトンッと押した。

 すると安久谷の体は電気が走ったかのようにビクンッと震える。

 


「どうですか?気分の方は」

 


 ゲルマに問い掛けられ安久谷は自分の体を見回す。

 そして次第に思う、何で自分はあんな話信じたのだろうかと。 

 呪いなんてあるわけないのに。

  


 安久谷は自分の体に異常がないのを確認すると少し考えた後、ゲルマに言った。



「願い事の話ですけど」 

「何でも言ってみてください」



 仮面で分からないが笑顔であろう口調のゲルマに安久谷は少し顔を伏せ、決意したかのように顔を上げて告げる。   


 

「僕は、沙耶香ちゃんが、欲しい!」

「それだけですか?」

「あいつを!沙耶香ちゃんを変えたあいつを!この手で殺す!!」



 ゲルマに促されるようして安久谷は自分の中にある憎悪を吐き出す。

 その顔は憎悪や欲望で塗られ安久谷の心を昂らせる。

 その欲望や憎悪の顔と決意を称える様にしてゲルマは手を広げ安久谷に告げた。



「ではその願いを叶えましょう!」



 その瞬間手を広げたままゲルマの体は黒い煙と変わる。

 やがて全身が黒い煙へと変わり安久谷の体を包み込む。


 

「うぅ゛.....うあぁ゛....がぁ゛....」



 黒い煙に包まれ安久谷はうめき声をあげながら頭を抱え壁に寄りかかる。

 体の中に何かが入り込んで来るような、頭の中が侵食されていうような、苦痛とは言い難い何とも気分の悪い感触が安久谷の体を蝕んでいった。



「あ、あぁ゛......あーーーー」 



 だが途中で安久谷はピタリと声を止め、手がだらんと下に垂れる。

 


「.....ふふふ、ハーッハッハ!!成功です!!」



 すると突如安久谷の声をしたゲルマは高笑いしだした。

 憑依が成功した安久谷は体に禍々しい魔力を発し、顔付きが根暗な顔に笑顔が加わり不気味な顔に変わる。

 


「しかしこの体は予想した通りですね。よく体に馴染ます。これなら傷だけでなく失った力も早く回復出来そうですね」



 安久谷の体を見回しながらゲルマは気分良く言った。



「一先ずはこの体を慣らすのに専念するとして、取り敢えずはこの体の願いでも叶えましょうか。私は寛大な神ですからね」



 ゲルマはそう言って路地裏の奥へと消えていく。 

 ゲルマと安久谷、どんな運命か出会ってはいけない二人が出会ってしまった瞬間だった。

おまけ


 【傷の舐め合い】


「神谷君は子供の頃はどうだったの?」

「そうだなぁ、確かにその頃は誰かと遊んだ事はあったな」

「やっぱりそうなんだ」

「でももう会っても覚えられてないんだろうけど.......」

「神谷君、私は何時までも覚えてるよ」

「釜石さん、ありがとな」

“傷の舐め合いもいいところだねー”



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