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舌が肥えてます

「早速お弁当食べようか」

「そうだな」



 俺は今釜石さんと弁当を食べるため屋上に来ている。春の屋上は少し暖かく緩やかな風が吹いていて、正に弁当を食べるのに丁度いい環境だった。



 何故屋上かというと、了承したとはいえ俺と釜石さんが一緒に弁当を食べている所を見られるのも何かと恥ずかしいものがある。だから人が少ないであろう屋上にしたのだ。幸い屋上は誰も居らず俺と釜石さんの二人っきりだ。



 俺と釜石さんは屋上のベンチに座り、弁当を取りだし蓋を開けた。



「釜石さんの弁当旨そうだな。手作りなのか?」

「えへへ、そうだよ。自分で作ったの」



 釜石さんの弁当は唐揚げに卵焼き、ブロッコリーなど色とりどりでどれも旨そうである。流石は料理スキルを持っているだけあるな。



「家、お母さんと二人で暮らしてるから。仕事が忙しいお母さんの代わりにご飯作ったりするの」

「それは凄いな」 

「よかったら一つ食べる?」



 そう言って釜石さんは卵焼きを一つ摘まんでこちらに持ってきた。



「いいのか?」

「うん、私小食だから。遠慮しないで食べて」



 そう言って釜石さんは卵焼きを摘まんだ箸をづいっと俺の口許に出した。いや、卵焼きを食べる事自体は別に構わないんだが、これって間接キスになるんじゃないか?



 俺は口許に出されている卵焼きと釜石さんを交互に見て少し迷った。

 多分釜石さんの事だから気付いてないんだろうな。  

 天然は恐ろしい。だがまあ、ここは食べておこう。俺も食べてみたいし。

 


「じゃあ、遠慮なく」



 俺は口を開き釜石さんが摘まんだ卵焼きを食べた。



「.....うん、旨いな」

「本当?」  

「あぁ、家の母さん並みに旨いぞ」

「そうなんだ。神谷君のお母さんって何してる人なの?」

「料理研究家」 

「へぇ........ってえぇ!!」



 釜石さんが盛大に驚いていたが驚くのも無理はない。  

 俺の母さん、神谷詩織(かみやしおり)は料理研究家をしていて、美人料理研究家として良くテレビに出ている。



 当然料理の腕はプロ並みに上手く、下手な店より旨いせいで俺の舌はかなり肥えまくっている。

 そんな舌が肥えている俺が旨いと言うのだから釜石さんの料理の腕は相当上手いということだ。



 因みに父さんはテレビのプロデューサーをしていて、母さんとも仕事場で出会ったそうだ。

 職場恋愛という奴だな。



「神谷君のお母さんって凄い人だったんだね」  

「あぁ、そんな母さんと同じ位に旨い弁当を作れる釜石さんも凄いと思うぞ」

「そ、そうかなあ~」



 俺の言葉に釜石さんは少し照れながら言った。   


 

「良ければ俺の弁当も食べるか?」

「え?いいの?」

「あぁ、さっきのお返しだ」



 そう言って俺は自分の弁当から卵焼きを摘まみ釜石さんの口許に運んだ。



「で、でも、何だが悪いし」

「いいからいいから。ほら早く食べろよ。母さんの料理食べてみたいだろ?」



 料理研究家の料理.....っとやはり興味があるのか釜石さんは喉を鳴らした。やがて決心したのか釜石さんは口を開きながらこちらに近付いた。



「そ、それじゃあ.........」


  

 そう言って釜石さんは俺の卵焼きをパクっと食べた。



「もぐもぐ.....美味しいね」

「だろ?」



 自分で言うのも何だが母さんの料理は旨いからな。そう思いながら俺はもう一つの卵焼きを食べた。うん、やっぱり旨いな。



 その後も釜石さんと楽しくお喋りをしながら弁当を食べていき、楽しい時間を過ごした。






ーーーーーーーーーーーーーー






 弁当も食べ終わり俺と釜石さんは少し屋上のベンチでまったりしている。日差しが暖かく、弁当を食べた後だと眠くなってくるな。



「ふわぁあ~。眠くなってきたな」

「あれだけ寝たのにまだ寝るの?」



 釜石さんは少し呆れた様子で言った。



「午後からは授業なのに大丈夫なの?また、寝たりしない?」

「大丈夫だ。問題ない」 

「何でそんなに自信満々なの..........」



 釜石さんは更に呆れた様子で言ったが、俺には秘策がある。だから問題ない。さて、午後もしっかり寝よう。





ーーーーーーーーーーーー





 午後の授業に入り、俺は案の定速攻で寝た。

 教師の説明がよいBGMとなり、お陰でスヤスヤと寝られている。



「じゃあこの問題を、神谷」

「ぐぅ.............」

「おい神谷、起きろ」

「ぐぅ.............」

「起きろ!!」


バシィン!!


 

 呼んでも起きない俺に教師は持っていた教科書を使って俺の頭を叩いた。



「........んあ?」

「入学早々居眠りとはいい度胸だな。余程勉強に自信があると見える。というわけで神谷、あの問題を解いてこい」



 額に青筋を建てている教師が黒板の問題を指差しながら言った。

 俺は黒板の問題をじっと見つめると、



「X=3」

「な、せ、正解」



 答えを即答し教師が驚いているなか、俺は再び寝ようとすると教師が待ったをかけた。



「待て神谷、では教科書5ページの問三の答えは」

「y=8、X=2」

「ぐっ.......正解だ」



 この事にクラスの連中はおぉ!!と驚いている。これが俺の秘策だ。実はレベルが上がるとステータスにはないが他にも色々と上がる事が分かった。

 例えば今回役立った知力の他にも攻撃力、防御力など様々ありこれには重宝している。そのお陰で昨日教科書丸暗記してきたから予習はバッチリだ。



 これなら寝てても文句は言われまい。心置きなく寝られる。俺は教師の悔しそうな顔をよそに気持ち良さそうに寝るのだった。   







ーーーーーーーーーーーーーーー







 入学式初日の学校が終わり、私は一人お母さんと二人で暮らしているマンションの家へと帰った。



「ただいまー」

「お帰り沙耶香。学校はどうだった?」

「最初貧血で倒れたけど、その後はとても楽しかったよ」

「あらまた倒れたの?大丈夫だった?」

「うん、倒れた時に助けてくれた人がいたから」

「そう、それなら良かったわ。夕飯もう少しで出来るからね」

「分かった。着替えてくるね」

 


 私はそう言って自分の部屋へと入り鞄を床に置くとベッドの上に倒れこんだ。



(入学式からまだ二日だけど色々あったなー)



 そう思い私はこれまでの事を思い返していた。

 貧血で倒れたり、

 神谷君に助けられたり、

 神谷君とお昼を食べたり、

 神谷君と楽しくお話したり、

 って途中から神谷君の事ばっかりじゃない!!



 私は一人恥ずかしそうに足をバタバタさせていると不意に疑問に思った。



(どうして私神谷君に対しては平気なんだろう?)



 私は色々あって男の人が苦手だ。目を合わせることも話すこともろくに出来ない。

 でも何で神谷君に対してだけは平気なんだろう?しかも、よく考えたら倒れて初めてあった時から会話が出来てたような.............。



「これってあれなのかな......私、神谷君の事....きゃあ!!何言ってるの私!!」 



 枕に顔を埋めながら私はベッドの上を転がった。うぅ、口に出すと余計恥ずかしいよう.........。


 

 やがて恥ずかしさも収まると、私が食べた神谷君のお弁当を思い出した。あれ、美味しかったなぁ。流石は料理研究家だよね。私もあんな風に作れるようになりたいなぁ。



 あれ?待って、よく考えたら私あの時、


 神谷君と間接キスしちゃった!?



 きゃあ!!!私何て事しちゃったのー!!私は今更気付いた自分の失態に悶えながら枕を強く抱え顔を埋めた。



 どうしよう...........神谷君に変な女だと思われてないかな?私はそんな不安に駆られたが、ある程度落ち着きを取り戻すと、神谷君について考え出した。



「神谷君って凄かったなぁ。色々な意味で」



 自己紹介の時に途中で寝てそのままお昼まで寝たり、実はお母さんが有名人だったり、寝てばっかかと思ったら実は物凄く頭がよかったり、色々と凄かったな。



「また、明日も神谷君と話せるかな......」



 誰もいない部屋の中、私は一人静かにそう呟いた。

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