天然は恐ろしいな
今回は短く。
根暗野郎を追い返し俺は釜石さんを落ち着かせる為近くの公園に来ている。
「ほら」
「ありがとう」
俺は公園のベンチの隣にある自販機で買ったお茶をベンチに座らせていた釜石さんに渡すと隣に座り込んだ。
目の前は噴水があり辺りからはちらほらと子供の声が聞こえる。
時刻は夕方一歩手前の昼間だからかそれなりに暑さはましになっていたが、それでもやっぱり暑い。
「落ち着いたか?」
「うん、もう大丈夫だよ」
確認のため俺は釜石さんにそう聞くと釜石さんは俺に大丈夫と見せるように微笑みながら言った。
実際ここに来るまで釜石さんは大分落ち着いていたから大丈夫というのは本当だろう。
だが問題はそこじゃない。
俺は横目で釜石さんを見た。
隣で釜石さんは缶のお茶を開けず手で横に回しながらぼうっと前を眺めている。
さっきの微笑みは何処に行ったのか笑みが一切ない。
その目には余り力を感じず、何を言ったらいいか分からないと言った感じだ。
(どうしたもんか......)
俺はお茶を飲みながら考えていると、途端に釜石さんが話し掛けてきた。
「ごめんね神谷君。変な事に巻き込んじゃって」
釜石さんは視線を変えず、力のないまま言った。自分のせいでこんな目にあったと思っているのか釜石さんの顔は段々暗くなる。
それを見た俺は手に持っていたお茶を事も無げに釜石さんのほっぺに付けた。
「ひゃぁ!?」
缶のお茶の冷たい感触が突然ほっぺに走ったことに釜石さんは小さく悲鳴をあげて体をびくんとさせた。
咄嗟に俺から体を反らしほっぺに手をやりながら釜石さんは驚いた表情をして俺を見る。
俺はそれに軽い感じで言った。
「少しは元気出たか?」
「な、何急に.....」
俺の言葉に少し動揺しながら釜石さんはほっぺを擦る。
俺はふっと笑うと何て事ない様に言う。
「俺は別に迷惑だとか嫌だとかそんな風には思ってない。寧ろ釜石さんがあの根暗野郎に捕まんなくてよかったと思ってる位だ」
俺は釜石さんの気を楽にさせようと軽い口調で言うが、それでも釜石さんはまだ少し暗い顔をしている。
「でも、それで安久谷君が今度は神谷君に何かしたら......」
「安心しろ。もう二度とあいつは現れないから」
断言するように言う俺に釜石さんは「何で?」と聞くが、俺はそれに「何でもだ」と言って答えた。
あの根暗野郎には次釜石さんにちょっかいを掛けたら死ぬと思い込ませる呪いを掛けてある。
もう二度と来ることはないだろう。
仮に俺の所に来たとしてもそれこそ無謀な話だ。来たら即返り討ちだな。
俺のよく分からない答えに釜石さんは首を傾げていた。
深く聞かれるとあれなので俺はこの話を打ち切ろうと話を終わらせる。
「まぁだから、安心してくれ。もうあんな目に合うことはない」
そう言って俺は立ち上がり缶をゴミ箱に入れる。そんな俺の言葉に釜石さんは少し言いづらそうにして言う。
「何も、聞かないんだね......」
「無理に聞くつもりはないからな」
釜石さんは何も事情を聞かない俺に言うが俺はそれを平然と言い返す。
誰にでも言いたくないことの一つや二つはある。気にならないと言えば嘘になるが、それを無理に聞くつもりはないし、必要もない。
「それとも聞いて欲しかったか?」
俺は釜石さんにそう聞くが、釜石さんは首を横に振りながら言った。
「うぅん、そうじゃないの。でもなんだろう、神谷君の言葉を聞いてると段々安心してきたよ」
そう言う釜石さんに俺は「それはよかった」と言うと、突如釜石さんはにっこりと笑って立ち上がり俺の前に来た。
「だからありがとう。助けてくれた事も励ましてくれた事も。全部神谷君のお陰だよ」
曇りのない真っ直ぐな感謝の言葉。
俺はそれに少し固まり、次第に気恥ずかしくなった。
人にここまで素直にお礼を言われたのは初めてだな。
俺は余りの無邪気な笑みに思わず視線を反らした。これが素でやれている所がまた凄いな。天然は恐ろしい。
「?どうしたの?神谷君」
「い、いや、何でもない」
俺が視線を反らしたことに釜石さんは不思議そうにしていたが、俺は気付かれないようはぐらかす。
俺はこの時釜石さんの笑顔に一瞬心を奪われていたが、釜石さんはそれに気付くことはなかった。
おまけ
【若きあの頃】
「わーい!」
「こっちこっちー!」
「いいねぇ、子供ってぇ....」
「釜石さんは子供が好きなのか?」
「うん、見てると昔を思い出してくるの」
「子供の頃を?」
「そうだよ、純粋で誰とでも打ち解けてたあの頃に。今では到底無理だけど......」
「そんな遠い目をして言われると反応しづらいんだが......」
ーーーーーーーーーーー
ブックマーク、評価よろしくお願いします。




