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こいつ絶対やばい奴だ

 釜石さんに寄り付こうとした男と俺は暫し睨みあっているが、内心ではこの状況に付いていけてなかった。



(つい勢いで手を掴んだがこれどういう状況だ?このいかにも性格がひん曲がってそうな顔した奴が今にも泣きそうな顔をしている釜石さんに何かしようとしてるってのは分かるが)



 実際俺が見掛けた時には既に釜石さんとこいつとの距離は大分近くまで来ていて、確認する暇がなかった。 

 母さんに買い物頼まれただけでこんなのに遭遇するとは、運がいいのか悪いのか。

 片手に小さいスーパーの袋を持ちながら俺は思った。



 これで勘違いならかなり恥ずかしいな。

 俺は心の中でそんなことを思っていると、手を掴んでいた男が俺を見ながら首を捻った。



「んぅ?誰、君?僕と沙耶香ちゃんの感動の再会を邪魔しないでくれるかな?」 



 俺の横からの乱入に特に驚く事はなく、気味の悪い笑みを浮かべながら目線を釜石さんに向ける。

 目線を向けられた釜石さんはびくつくと隠れるようにして俺の後ろについた。

 俺はこのやり取りから察する。



(あ、こいつやばい奴だ)



 あんな言われ方したら誰でも嫌だろう。

 目線を向けられてない俺でも嫌悪感を感じたぞ。気持ち悪い笑みを浮かべる男に俺は少し顔を歪ませたが、直ぐに持ち直し微笑を浮かべながら言った。



「感動の再開の割には随分と嫌われてるみたいだな」

「沙耶香ちゃんは恥ずかしがり屋だね。そんな男の後ろに隠れてないで僕の胸に飛び込んでくればいいのに」



 根暗な笑みを浮かべる男は掴まれている俺の手を振り払うと、俺の横に歩み出て釜石さんに手を伸ばした。



「さぁ、こっちにおいで。沙耶香ちゃん」



 横から手を伸ばし釜石さんを捕まえようとする根暗男に俺はパシン!とその手を払いのけ釜石さんを後ろに隠す。



「だからお触りは禁止だって言ってんだろ。根暗野郎」



 手を払われ根暗野郎は気分を害したのか眉を釣り上げ不機嫌そうに言う。



「邪魔しないでくれよ。沙耶香ちゃんが嫌がってるだろ」



 こいつの目は節穴だろうか。

 この今にも泣き出しそうな程怯えている釜石さんの何処を見てそう言えるんだ。

 ねぇ?といった目で釜石さんを見る根暗野郎に俺は眉間にシワを寄せた。



「これの何処を見て嫌がってる様に見えんだ。明らかにお前に嫌がってるだろ」

「君こそ何処を見てるんだい。沙耶香ちゃんは完全に君に怯えてそこから動けなくなってるじゃないか」


 

 駄目だこりゃ。話が通じない。

 これじゃあ俺が何を言っても無駄だと思い視線を変えないまま釜石さんに話しかけた。

  


「釜石さん、こいつとどんな関係で何が合ったか知らないが俺が何を言ってもこいつは止まらない。だから釜石さん。自分の言葉で言うんだ」

「.......自分の、言葉?」 

「そうだ、はっきりとあいつを拒絶するんだ。嫌だってな。そうすればあいつも少しは目が覚めるだろう」

 


 少し小声になりながらも俺は釜石さんに提案するが、釜石さんは弱々しい声をあげながら首を横に振る。



「む、無理だよ。も、もう、私安久谷君と目を合わせるのも無理なのに、そんなことーーー」



 言えない。とは言わせない。

 その先の言葉を言わせないとばかりに俺は釜石さんの頭にポンッと手を置き顔を釜石さんの方に向け微笑んだ。



「安心しろ。もしあいつが何かしてきたら俺が止めてやる。だから思う存分ぶつけてやれ。今の釜石さんの気持ちを。大丈夫(・ ・ ・)俺がつ(・ ・ ・)いている(・ ・ ・ ・)



 少し優しげに、そして笑みを浮かべながら俺は釜石さんに囁く。

 俺の言葉を聞いた途端釜石さんは何に驚いているのか目を見開かせながら俺を見て固まった。

 まるで遠い、何処か別の何かが見えているかのような目に俺はどうしたのかと釜石さんに聞こうとしたが、 

 


「ねぇ君、さっきから僕の沙耶香ちゃんに何してんの?勝手に僕の沙耶香ちゃんの頭に手を触れていいと思ってるの?ねぇ思ってるの?」



 根暗野郎が俺と釜石さんのやり取りを見て口を挟んできた。

 やり取りを見て不快に感じたのか、その声には怒気が含まれている。

 誰がお前のだ。誰のでもないだろ。



「あのなぁ、誰のでもなーーー」



 俺は根暗野郎に言い返そうとするが、突然釜石さんが俺の隣に立った。

 それに驚き俺は言葉を失い釜石さんの方を見ると、その目には決意の色が籠っている。 



「神谷君、悪いけど手、握っててくれる」   



 真っ直ぐ根暗野郎を見つめながら言う釜石さんに俺は「分かった」といって微笑み釜石さんの手を握る。

 釜石さんが出てきたことにさっきまで不快そうな顔をしていた根暗野郎は途端に嬉しそうに顔を喜ばせた。



「あぁ、やっと出てきてくれたね、沙耶香ちゃん。でも駄目だねぇ。そんな男と手なんか握って。ほら、早く手を離して僕の所においで。僕は怒ってなんかないからさ」



 手を広げ自分の所に呼び込む様にして構える根暗野郎に釜石さんは震えていたが、既に決意は済んでいる。

 俺の手をギュッ!と握り釜石さんは目をカッ!と開いて根暗野郎に告げた。



「.......嫌」

「.....へ?」  



 釜石さんの返答が予想外だったのか根暗野郎は間抜けな声をだした。

 突然の釜石さんの拒絶に根暗野郎は少し取り乱したものの眼鏡を中指でくいっと上げ気持ちを落ち着かせる。



「ご、ごめん沙耶香ちゃん。もう一回言ってくれる?聞き間違いかな。今嫌って聞こえた気がしたけど」



 冷静さを取り戻しながら言う根暗野郎は再度聞くが答えは変わらない。



「嫌って、言ったの」

「い、今なんて....」

「嫌だって言ったの!もう私に関わってこないで!!」



 止めの一言。

 もう聞き間違えようのない大きな声で放たれた一言に根暗野郎は信じられないとばかりに呆然とし広げていた手をぶらんと下に垂らす。  

 言いたいことを全部言い終えて気落ちしたのか釜石さんは再度俺の後ろに隠れた。



 清々しい一言だったな。

 見ていて気分が良かったぞ。

 言いきった釜石さんに俺は満足そうにふっと微笑むと、呆然としていた根暗野郎がぶつぶつと何かを言い出した。



「何で?何で拒絶されたんだ?僕が何をしたと言うんだ。僕はただ沙耶香ちゃんと仲良くなりたかっただけなのに。その為に沙耶香ちゃんと仲良くなろうとあんなに頑張ったのに、あんなに、頑張ったのに......。何で、何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で」



 念仏でも唱えてるんじゃないかと言うくらいに小さい声で呟く根暗野郎に俺は危機感を覚えた。

 普通の人には聞こえないかもしれないが、レベルが上がり能力が強化された俺には聞こえる。 



 正直耳を抑えたくなる程聞くに耐えない。

 何かしてくるか?と俺は未だ念仏を唱えるが如く呟く根暗野郎を警戒し少し身構える。

 すると根暗野郎は急に呟くのを止めゆっくりと顔を上げこちらを見た。

 その顔に生気は感じられず虚ろな目をしている。



「お前か?」



 虚ろな目をしながら根暗野郎は聞いてくる。

 その口調は先程までとは違い平坦で抑揚のない声だ。

 

 

「お前が沙耶香ちゃんをそんな風にしたのか?」 

「そんな風にってのはどんな風にだ?」



 俺は質問を質問で返すと、根暗野郎はいきり立ちながら声をあげた。

 


「惚けるな!!お前が沙耶香ちゃんをそんな風にしたんだろ!!昔の沙耶香ちゃんは僕だけの物だったのに。僕だけを見て、僕だけを気にかけてくれたのに!それをお前が!!」



 そう言うと根暗野郎はズボンのポケットに手を伸ばした。

 中からは木製の板みたいなのを取りだしその木製の板の間から銀色に光る鋭利な刃物が飛び出す。

 折り畳み式ナイフか。



「な、ナイフ!?」



 根暗野郎が取り出したナイフに釜石さんは驚き声をあげる。

 ナイフか、正直今更ナイフが出てきたところでなんだって話だが、とうとう自棄(やけ)になったな。ナイフを取り出して構える根暗野郎に俺は警戒する目で見ていると、急に根暗野郎は不気味に笑いだした。



「心配ないよ沙耶香ちゃん。今すぐこの害虫を潰して君を取り戻して見せる。もう少しの辛抱だからね」



 じりじりとナイフをチラつかせながら近寄ってくる根暗野郎に俺は小さくため息をついた。

 しょうがない。結局はこうなるのか。



「釜石さん、悪いけど少しの間離してくれ」 

「え?離してって、神谷君どういうーーー」



 釜石さんが理由を聞く前に俺はスーパーの袋を地面に置き釜石さんの手を離し根暗野郎にゆっくりと歩きながら近づく。

 流石に根暗野郎も驚いたのか一瞬たじろぐが、目を瞑りナイフを突き出し前に飛び出してきた。


 

「う、うわぁぁぁぁ!!」

「か、神谷君、危ない!!」 



 突き出してくるナイフを見て釜石さんは俺に叫ぶ。

 だが俺はそのナイフを冷静に観察し、膝を上に上げ根暗野郎のナイフを弾く。

 


「.....え?」



 ナイフが弾かれた事に根暗野郎は驚き戸惑うがそれだけでは済まさない。

 俺はナイフを弾いたと同時に魔力を放出し根暗野郎に威圧をかけた。



「ひぃ!!」   



 俺の威圧に根暗野郎は腰を抜かし地面に尻を着かせる。

 俺は落ちたナイフを拾い刃を仕舞うと根暗野郎の下に返す。



「いくら周りに人が少ないからって流石に刃物は警察沙汰になる。それは互いに不都合なことだ。正直それは避けたい。この意味分かるよな?」  



 しゃがみ込み、根暗野郎と目線を合わせながら俺は言う。

 悪いがお前が何をしたのかは知らないが釜石さんがあんな顔をしてたんだ。それ相応の罰は受けてもらう。

 俺はナイフを握った手で根暗野郎の額を人差し指でトンッと押した。  

 するとその瞬間根暗野郎の体は電気が走ったかのようにビクッと跳ねる。



「いいか、今お前に呪いを掛けた。これ以上釜石さんに何かしたらお前は悲鳴をあげる間もなく死ぬ。そういう呪いだ」



 俺の言葉を聞くと根暗野郎は理解したのか顔が段々青ざめていく。



「二度と釜石さんには近づくなよ。次はこれじゃ済まさねぇからな」

「ひ、ひぃ~!!」



 軽く威圧しながら言う俺に根暗野郎はナイフを受け取ると一目散に逃げていった。 

 俺はそれを黙って見送る。

 根暗野郎にはあんなことを言ったが、実際は死の呪い何て掛けちゃいない。言ったって信じる筈がないからな。


  

 だから俺が掛けたのはーーー俺が言ったことを素直に信じる呪いだ。

 これは【闇魔法】の一種で害はないが効果は永久的に続くある意味厄介な呪いで、そのせいで根暗野郎は俺が死の呪いだとか言っても簡単に信じたという訳である。これならもう何もしてこないだろう。



 それに警察沙汰にしたくないのは本当だ。

 俺一人ならおっさんを使えば何とかなるが、釜石さんや根暗野郎まで絡んでくると流石におっさん一人じゃどうしようもないだろう。

 俺は少し一息ついてから釜石さんの方に向き直ろうとするが、



「大丈夫だったか?釜石さ「神谷君!!」んお!?」 



 俺は釜石さんの無事を確認しようと後ろを振り返ろうとするが、突如腹にタックルでもされたのかと思わんばかりの衝撃が走る。

 見ると、釜石さんが涙目を通り越して泣きながら俺に抱き着いていた。



「何であんな危ないことしたの!?もしかしたら死ぬかもしれなかったんだよ!!」



 泣きながら釜石さんは俺に訴えた。

 俺としてはあんなの止まってるのに等しいんだが、どうやら心配させてしまったらしい。



「悪かった。俺が軽率だった。だから泣かないで欲しい。周りの目が痛い」



 さっきまで人が少なかったが、根暗野郎とのやり取りで何人かがこっちを見ている。

 正直結構恥ずかしい。



「......分かった。でも、もうあんなのは止めて。お願いだから」



 そう言いながら釜石さんは俺から離れ泣き止んだ。鼻をぐすんとすすり俺にそう頼む釜石さんの姿に、これは断れんと思い釜石さんに誓った。



「分かった。もうあんなことしない。だから取り敢えず落ち着くまで一緒にいるからここを移動しないか?ここだと人目につきすぎる」

「.....分かった」



 未だ涙目で目を擦りながら釜石さんには言った。



(これはもう二度と同じことは出来ないな.....)



 あんな顔されたらもうする気も起きない。

 俺は自分の荷物と釜石さんの荷物を持ちながらこの場を移動した。

何か今更ながら安久谷が本当にやばい奴に見えてきた。



おまけ


 【三角関係】


 その頃の周囲の反応


「ねぇ、あれ何かしら?」

「何か言い争ってるわね」

「一人の男子が女子を庇い、もう一人の男子が迫る。これって、まさか!?」

「三角関係!?」 

「しかも見て!ナイフ取り出してるわよ!」

「過激!過激な恋ね!」 

「これは燃えるわね!」

「いいわね~。若いって」

「いいわね~」



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[一言] 昔の木曜日10時代のドラマなら刺さってるな!
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