家族が一人増えました
それから数日経っての週末の土曜。
暇な俺は部屋で寝転がりながら気長に本を読んでいる。
んー、暇だな。
本も読み飽き俺はベッドの上でなにもすることがなくだらけていると、その近くでは夏蓮がロウガと何やら戯れていた。
「お手」
「わん!」
「お座り」
「わん!」
「伏せ」
「わん!」
「ばく転」
「わん!」
夏蓮の命令を全てこなしロウガは夏蓮にいいこいいこと頭を撫でられ喜ぶ。
完全に躾られているな。
夏蓮にスキルの事がばれて以来夏蓮はどうもロウガの事が気に入ったらしく、こうして定期的にロウガに会いに来ては芸を教えている。
「よしよし」
「くう~ん」
ロウガの方も夏蓮を気に入った様で夏蓮に頭を撫でられ嬉しそうに鼻を鳴らす。
何か俺がやるときより喜んでるのは気のせいだろうか........。
主としては少し寂しい感じがある。
「......ねぇ」
俺は何とも言えない目で夏蓮達を見ていると、ロウガを抱いたまま夏蓮が話し掛けてきた。
「何だ?」
「ロウガを家で飼おう」
「飼う?家で?」
「そう」
突然の夏蓮の申し出に俺は少し考えたが、
「そもそも飼う必要あるか?」
根本的な事に思い至った。
ロウガは俺の【使役魔法】で常に出し入れされていて基本食事はいらない。
娯楽程度に食べる事はあるが基本魔力があれば十分だ。
それなのに態々飼う必要が何処にあるんだろうか。
「重要なのは過程じゃない。家で飼うことに意味がある」
「ほー。で、本音は?」
「態々ロウガに会うのに頼むのが面倒」
それが本音か。迷わず言うとは潔いな。
「でもロウガはどうなんだ?家で飼われたいか?」
“飼われるってなーにー?”
「そうだなぁ、何時でも外にいられる事だな」
“美味しい物食べれるー?”
「まぁ、食べれるといえば食べられるな」
犬からしたらドッグフードはご馳走みたいなもんだよな。
まぁ、こいつ狼だけど。
“じゃあなるー!!”
「なりたいだってよ」
ロウガの返事に俺は夏蓮にそう伝える。
だが夏蓮を見ると夏蓮は俺をまるで変な人を見るような目で俺を見ていた。
「会話してるって知らないと、一人でエア会話してるやばい人に見える」
そう言って夏蓮は俺から少し後退り距離を置く。確かに周りから見れば見えない何かと会話してるやばい人に見えるかもしれないな。
実際にいたら俺もそう思うだろうし。
俺は後退る夏蓮に苦笑し、このまま退かれ続けるのもあれなので話を戻した。
「それはそうと飼うのはいいとして、母さん達には何て言うつもりだ?」
別に母さん達は動物が嫌いだとかは聞いたことがないが、これまで家で動物を飼ったことがない。果たして許可が貰えるだろうか。
「大丈夫。それには秘策がある」
やけに自信満々な夏蓮に俺は大丈夫だろうかと少し不安を感じた。
いったい何する気何だ?
ーーーーーーーーーーーーーーーー
夜になり母さん達が帰宅し夕食を食べた後、夏蓮は遂に行動に出た。
「お父さん、お母さん。話がある」
「話し?」
「どうしたの?改まって?」
突然の夏蓮の神妙な顔に父さんと母さんはそう聞いた。
そんな神妙な感じにする必要があるのか?
神妙な顔付きになる夏蓮を見て俺はそう思う。
「お願いがある」
「お願い?」
「いったいどうしたんだ?」
もったいぶる夏蓮に父さんと母さんは更に聞くと、突然夏蓮は身を少し屈め何かを掴んだ体勢を取った。
「この子を飼いたい」
そう言って夏蓮は勢いよくテーブルの下に下げた手を上げる。
夏蓮の手にはロウガが抱き抱えられ、父さんと母さんに挨拶の鳴き声を交わす。
「わん!」
「あら!可愛いワンちゃんね」
「いったい何処から出てきたんだ.....?」
愛くるしい表情をするロウガに母さんは顔を緩ませ、父さんは何処から出てきたんだと不思議に感じていた。
さっきまでロウガは【使役魔法】でしまっていたからな。不思議に思うのは無理はない。
「可愛いから拾った。家で飼いたい」
「ん~、急にそう言われてもねー」
「躾が大変だろう」
夏蓮の頼みに渋い顔をする父さんと母さんに夏蓮は大丈夫とばかりに言った。
「心配ない。この子は賢い」
そう言って夏蓮はロウガを床に置くとロウガに指示を出し始める。
「お手」
「わん!」
「お座り」
「わん!」
「伏せ」
「わん!」
「ばく転」
「わん!」
「死んだふり」
「わぅん~」
次々に出される夏蓮の指示にロウガはミスなくこなす。
まさかこの為に芸を教えていたとは。
これまでやってきた成果が出てるな。
全て完璧にこなすロウガに関心をしている俺の隣では父さんは「おぉ」と母さんは「すごーい!」言いながら楽しそうに見ていた。
そして最後に極めつけとばかりにロウガは最後の大技を披露する。
「ブレイクダンス」
「わおーん!」
死んだふりだぐったりしていたロウガはその体勢のまま背中や首の後ろを使ってぐるんぐるん回りだす。それは動画で見たことあるよなブレイクダンスそのものだった。
まさかこんなのまで仕込んでいたのか。
いったい何時教えたんだこんなの?
俺は華麗なるブレイクダンスを見せるロウガに驚き、父さんと母さんは驚きを通り越して唖然としていた。そりゃあブレイクダンスする犬なんているわけないもんな。
「お仕舞い、礼」
夏蓮の号令でロウガはブレイクダンスを止めお座りの状態に戻り夏蓮と共に一礼。
ロウガの披露が終わり俺は父さんと母さんの反応を伺うと、二人は今だ唖然としているままだった。
「す、凄いわー!!」
すると突然母さんは驚きの声を上げロウガの元に駆け寄った。
「本当に賢いわねー!この子」
「だから飼ってもいい?」
「これなら私は賛成よー!」
母さんからの了承を貰い夏蓮は父さんの方を見ると、父さんは小声で「これは使える......」と何やらぶつぶつと呟いていた。
流石はディレクター。もうその話を考えるのか。
「お父さんは?」
「ん?あ、あぁ、いいんじゃないか?」
突然夏蓮に話し掛けられ父さんは少し驚いていたが、了承は得られた。
これでロウガが飼うことが決定だ。
「よかったな。ロウガ」
“うん!これで美味しい物食べれるー!”
喜ぶロウガに俺は頭を撫でる。
ロウガは嬉しそうに「くぅ~ん」と鼻を鳴らし、その姿に父さんと母さんは心打たれたのか頭を撫でにロウガに近づく。
「つ、次!私にやらせて!」
「お、俺もいいか」
頭を撫でたがる二人に俺は譲ると二人はロウガを撫でまくる。
それを嬉しそうにするロウガの表情に二人は更に顔を緩ませ更に撫でまくる。
早くも気に入られたな。
「やったね」
「そうだな」
ロウガを愛でる父さんと母さんに俺と夏蓮はそう言った。
これでロウガは正式に家の家族になるわけか。
賑やかになりそうだな。
未だロウガを撫で回す父さんと母さんに俺はそう思った。
こうして、我が神谷家に一匹の家族が増えた。
おまけ
【犬じゃん】
“主ー?これなーにー?”
「これはドッグフードと言って、犬からしたらご馳走みたいなもんだ」
“僕犬じゃなくて狼だよー!!”
「まぁ見た目変わんないからいけるんじゃないか?」
“むぅー、だから僕は犬じゃなくて、狼.......あれ、でも何だかいい匂いがするー”
「食べてみたらとうだ?」
“じゃあ一口....(パク。!!?!何これ美味しいー!!”
「あ、やっぱり旨いのか」
“物凄く美味しいよー!!”
「やっぱりお前犬だろ?」
“何か否定出来なくなってきたー.......”
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