右端の席は寝るのに最適だ
教室に着き中に入るとそこにはまだ誰もいなかった。
誰一人としてそこには居なくそのせいか何処かがらんとしている。どうりで妙に静かだと思った。
ということはまだ入学式は終わっていないのだろうか。
「誰もいないね」
釜石さんもこの事に首を傾げていたが、窓の外の方で話し声が聞こえる。どうやら今こっちに向かっているみたいだな。
「もうすぐ来るみたいだから先に席に座ってるか」
「そうだね」
黒板には座席順が書かれているので俺達はそこに座って待つことにした。
番号は既に知っているので俺の席は何処だと黒板を見ると、丁度右上の隅っこの席だった。
「神谷君は端っこの席だね」
「あぁ、これはついてるな」
「え?何で?」
「端っこなら寝ててもばれにくい」
そう、席の端、特に教卓から右上の端は俺が経験した中で特にばれにくい席だ。入学初日からこれはついてる。
俺は少し嬉しそうに言うと、釜石さんの目がジト目になりこちらをじっと見つめた。
「神谷君、授業はちゃんと聞かなきゃ駄目だよ」
「分かってる分かってる」
俺は釜石さんの言葉を軽く流すと席に着いた。
あー、やっぱりいいな端っこの席は。よし、早速寝心地を確かめてみるか。そう思い俺は机に突っ伏して眠りの体勢を取った。
「いや、何寝ようとしてるの!?今から皆来るんだよ!!」
俺の行動に釜石さんは驚きながら俺の前の席に座った。そういえば、名前的に釜石さんは前の席か。
「いや、新しい机に座ったら先ず寝心地を確認するだろ?」
「しないよ!?何当たり前の様に言ってるの!?」
しないのか?俺だったら普通新しい席に座った速攻で寝るぞ。中学の時なんか入った席に座って一分もしない内に寝た覚えがある。気付いたら放課後になってたけどな。
「取り敢えずそこは寝ないで待ってよ、ね?」
釜石さんにそう言われ俺は仕方ないと思いながら渋々寝るのを止めた。
暫く釜石さんと二人で待っているとドアからぞろぞろと生徒が入ってきて、先程まで静かだった教室が一気に騒がしくなった。
騒がしい、早く寝たい。俺は内心そう思っていると、ドアからジャージ姿のいかにも体育会系な先生が入ってきた。
「よーし、全員いるな。では今からホームルームを始める。先ず自己紹介から行くぞ」
入って早々話を進め、先生は自己紹介を始めた。
「俺はお前達クラスの担任の武堂建斗だ。これからよろしく頼む」
武堂先生は30代位の若い先生でがたいの良い体に手入れしていないだろう髭が特徴のザッ体育人みたいな人だ。
「それじゃあ、出席番号順でどんどん自己紹介していってくれ」
武堂先生の指示の下自己紹介が始まり、皆無難に自己紹介を済ませていく。
「釜石沙耶香です。体調を崩して入学式には出られませんでしたが、どうぞ仲良くしてください。これからよろしくお願いします」
釜石さんの丁寧な挨拶に男子共は「あの娘可愛くね?」とヒソヒソと話している。
確かに釜石さんは可愛い。見た感じクラスの中では釜石さんは一、二を争う可愛さがあると俺は思う。
釜石さんの自己紹介が終わり、俺は自己紹介をしようと席を立ち上がった。
「神谷夜兎。これからよろしくお願いします」
それだけ言うと俺は席に座った。まあ、こんなもんだろ。無難なのが丁度いい。
さて、自己紹介も終わったんだ。もうやることないし寝て良いだろう。早速寝るか。
そう思い俺は机に突っ伏して寝る体勢に入り速攻で眠りに着いた。
そこから全員の自己紹介が終わり連絡事項などが武堂先生から伝えられていたが、夜兎は勿論そんなことを聞いてはいなかった。
ーーーーーーーー休み時間
「よう神谷!俺牧野信二。これからよろしくな!」
「ぐぅ........」
「よ、よろしくな....」
「ぐぅ.........」
「..............」
ーーーーーーーー1時間目休み時間
「か、神谷君。わ、私、竹中美恵。え、えっと、これからよろしくね」
「ぐぅ..........」
「え、えっと.......」
「ぐぅ............」
「...............」
ーーーーーーーー二時間目休み時間
「お前が神谷夜兎か。俺は佐原雄二。又の名を封印されし漆黒の翼。この出会いは運命だ。共に世界を変えようではないか」
「ぐぅ.........」
「と、共に世界を......」
「ぐぅ............」
「........ふっ、また会おう」
ーーーーーーーー放課後
キーンコーンカーンコーン
「ん、んぅ!よく寝たなぁ。ん?どうしたんだ釜石さん?」
俺はまだ少し眠そうにしながら言うと、釜石さんは呆れた表情をしていた。しかも何か若干不機嫌だ。
「どうしたもこうしたもないよ。何であそこで寝てたの?」
「何でも何も、もう俺の自己紹介が終わったんだからもういいだろと思って、つい」
「ついってレベルじゃないよ。ホームルーム通り越して放課後まで寝るなんてどんな神経してるの?」
「え?もう放課後なのか?」
「そうだよ!今日は三時間しかないとはいえ全部ぐぅすか寝てたよ!全くこんな人初めて見たよ。折角神谷君に話し掛けてくれてた人もいたのに。......まあ、最後の人は寝ててもよかったけど」
「そうなのか?だったら起こしてくれても良かったのに」
「何回も起こしたよ!全然起きなかったけどね!」
そう言って釜石さんはぷいっと視線を反らした。ぷりぷりと怒っている仕草も中々可愛いが今言ったら刺激するだけだろうから止めておこう。
「全く、私も神谷君と話したかったのに.......」
「ん?何か言ったか?」
「別に!」
何をそんに怒っているのかは分からないが、放課後だし兎に角帰るか。そう思い俺は鞄を持って立ち上がった。
「あ、もう行くんだ」
「あぁ、じゃあな釜石さん」
「う、うん。じゃあね」
釜石さんは何故か少し残念そうな顔をしていたが、俺は釜石さんと別れ家に帰った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
翌日になり今日もまた俺は昨日と同じ様に教室の隅の席で居眠りをしている。正直バレないかと思うかもしれないが、担任の武堂が結構適当なのと、まだ授業が始まっていないというのもあるかもしれない。だから俺は長々と眠りに就き、午前の時間が終わり昼休みを迎えた。
「ふわぁ~、よく寝た。ん?どうかしたのか?釜石さん」
「いや、もう何言っても無駄なんだなと思って.....」
昼寝から起きると何故か釜石さんは呆れていた。何かあったのか?俺は不思議に思ったが今は飯だ、早速食べよう。
俺は鞄から弁当を出すと、男子数名が釜石さんに近寄った。
「釜石さん、よかったら一緒にお昼食べないか?」
「一人より皆の方が楽しいでしょ?」
「え?え、いや、あ、あの.......」
下心丸出しの男子に、男が苦手な釜石さんは少し震えながら何も出来ずに固まっていた。
これは助けてやるべきだろうか。正直このまま去ってもいいがそれだと今後の関係にヒビが入りそうだな。しょうがない、助けるか。
「それじゃあ行くか釜石さん。お昼食べに」
「へ?」
「ほら、速く。時間なくなるぞ」
「う、うん」
まだ何が何だか分からないまま、釜石さんは弁当を持って半ば強引に俺と一緒に教室を出た。
ここまででいいか。
少し歩くと俺は立ち止まり釜石さんの方を振り返った。
「大丈夫だったか?」
「う、うん。ありがとう。やっぱり男の人はどうしても苦手で.....」
「苦手な物は誰にでもある。そう深刻になるな。ていうか、男が苦手なら何で俺は平気なんだ?」
「え?そ、それは.....」
俺がそう聞くと釜石さんは急にモジモジしだして何か言いづらそうにしていた。
どうかしたのか?
「まあ、いいや。それよりどうだ?これから本当に一緒に弁当食べないか?」
「へ?い、いいの?」
「あぁ、嫌なら別にいいが」
「嫌じゃないよ!全然!寧ろ嬉しいっていうか、やったーっていうか.........」
俺の言葉に釜石さんは全力で否定してきた。
最後の方はよく聞こえなかったが嫌じゃないみたいだな。
「それじゃあ、行くか」
「うん!」
そう言って俺と釜石さんは一緒に弁当を食べに行った。
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