この気まずい空気は苦手だな
夜明けの朝。
俺は眠そうにしながら学校の机に突っ伏している。また寝不足だ。昨日何故か家に帰って時計を見たら朝になる手前の時間帯になっていた。
恐らくあの世界の時間の流れとこっちの時間の流れが違うんだろう。
そのせいでこっちの時間が速く流れてしまい寝不足になってしまったのだ。
迂闊だった。こんなことなら【時空転移魔法】で時間設定しておけばよかった。
俺は後悔の念に苛まれていると、隣でリーナはクラスの女子達に囲まれ何やら騒いでいる。
「えぇ!!リーナさんお料理も出来るの!?」
「あぁ、私は一人暮らしだからな」
「一人暮らしなんだ!!凄いねぇ!!」
朝っぱらから騒ぐ女子達に俺は若干嫌気が差した。隣で騒ぐのは止めてくれ。煩くて寝られん。 昨日の一件からリーナはちゃんと学校に来た。その顔には迷いがなくなったのか前よりクラスに対する愛想が良くなっている。
「何かリーナさん少し変わったよね」
「うん、何か笑うようになったかというか明るくなったというか」
「前は体調が悪かっただけなのかな?」
その証拠に遠くから見ている女子もリーナを見てひそひそ話している。
確かにリーナは前より笑うようになった。
いや、多分こっちが素なんだろう。
前は任務ということもあって淡々と喋るだけだったからな。
驚くのも無理はない。
「おい、何か今日のリーナちゃん前もより可愛くないか?」
「あぁ、あの笑顔とか正に天使だぜ」
それは男子にも届いていた様で、何人かの男子はリーナに見惚れている。
最後に言った奴正解だな。
「俺ちょっと声掛けてくる」
「まじかよ!?止めとけって!玉砕するだけだぞ!!」
「いや今なら行ける気がする!!」
そう言って男子生徒は席を立ちリーナの近付く。
確かにリーナは笑うようになったが変わったのはそこだけではない。
「や、やぁリーナちゃん。今日は一段と綺麗だね」
「煩い俗物が。気安く話し掛けるな」
この通り男子に対してだけはかなり毒舌になった。前は話し掛けられても目を合わせないだけで返事はしていたが、こっちが素なんだろうか。
リーナの毒舌に男子生徒は撃沈し落ち込みながら席に戻っていく。哀れな奴だな。席に戻ると近くの男子が「お前は勇者だ!!」と声を掛けた男子を讃えている。
周りの奴等も男子を誉めているがそれが返って傷付いたのか男子生徒は顔を赤くしながら顔を隠す。何か可哀想になってきたな。
頑張れよ。名前は知らないけど。
俺は名も無きクラスメイトにエールを送る。
にしても何でリーナは男をそこまで嫌うんだ?
もしかして男嫌いだったりするんだろうか?
だとしたら何で俺は平気なんだ?
俺は突っ伏しながら考えていると、前の席の釜石さんが小声で俺に話し掛けてきた。
「何か変わったよね。リーナさん」
「まぁ、確かに変わったな」
「でも何でリーナさん男子に対してだけあんなに冷たいんだろう?」
「さあな。案外釜石さんと同じで男が苦手なんじゃないか?」
俺は突っ伏しながら言った。
まぁ、釜石さんはその度合いが桁違いだけど。釜石さんが他の男子と会話をしたところを今だ見たことがない。何時になったら会話を出来るようになるんだろうか。
「そ、そうなのかな?でもリーナさん会話は出来るみたいだから私程じゃないね」
釜石さんは少し自信満々そうに言った。
いやなに張り合ってんだ?
そこ自慢になるような所じゃないぞ。
俺は若干勝ち誇った顔をする釜石さんにそう思うと、途端に何か思い出したのか釜石さんは「あ!」と言ってこちらに顔を戻した。
「そうだ神谷君。今日リーナさんをお昼に誘おうと思ってるんだけどどうかな?」
「昼にか?別にいいぞ」
俺の賛成の言葉に釜石さんは少し嬉しそうにしながら言った。
「じゃあ後で誘ってみるね!」
「あぁ」
俺はそう言うと少し眠りにつこうとする。
どうせ授業ではリーナが起こしてくるんだ。だったら今のうちに睡眠をとらねば。
そう思いながら俺の意識は深い眠りについた。
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昼休みになり俺と釜石さんとリーナは学校の庭の木陰にあるベンチで昼食を食べようとしている。授業は休み時間寝ていたお陰か何とか乗りきった。いやよく頑張ったな俺。だが何だろうか、何かこのままだとリーナによって更正されそうな気がする。
俺は何かリーナに躾されている様で釈然としないが今は弁当だ。
屋上でも良かったんだが今の季節だと暑すぎるため中庭で食べることにした。
季節はもう夏に入り蝉の声がそこら中から聞こえる。
「ここにしようか」
「あぁ」
「そうだな」
釜石さんの声に俺とリーナはそう言って三人仲良くベンチに座る。
釜石さんがリーナをお昼の弁当に誘おうとするのに大分苦労していた。
何せ休み時間になればクラスの女子の何人かがリーナに話し掛けてくるんだ。
そんな状態の中友達の少ない釜石さんが突っ込めるかといったら至難の技だ。
休み時間ギリギリの所を突いて何とか了承を得たがその顔は疲れに満ちていた。
頑張ったな。釜石さん。
お昼を食べに移動するとき俺とリーナが一緒に歩いている所をクラスの男子達が「何故だ!?何故あいつなんだ!!」「あいつにはもう釜石さんがいるだろうが!!」「神よ!!あいつに裁きの鉄槌を!!」と言いながら机を叩き泣いていたが気にすることなかれ。
「ちょっと飲み物買ってくるね」
「今日は水筒忘れたのか?」
「うん、ちょっと朝慌てて」
少し恥ずかしそうにえへへと笑うと「じゃあ行ってくるね」と言って歩いていった。
そしてこの場には俺とリーナの二人きりとなった訳なんだが、
(何か、気まずいな.....)
特に話す事もなく俺とリーナは無言のまま座り続ける。辺りから蝉の声が鳴り響き額の汗が顔を伝って服の上に溢れ落ちる。
俺はどうしたもんかと横目でリーナを見るがリーナは涼しい顔をしながら目を瞑っていた。
話しかける気ゼロか。
俺はしょうがないのでこの空気を何とかすべく声を掛けた。
「「なぁ」」
すると俺とリーナの声がはもる。
「「え?」」
はもったことに驚き俺とリーナは顔を見合わさると互いに譲り合った。
「先言っていいぞ」
「貴様こそ先に言ってみろ」
「いやお前から言えって」「いや貴様から言え」と俺とリーナは何回も譲り合おうとする。
何回もやる同じやり取りに段々可笑しくなってきたのか俺とリーナは一緒に小さく笑った。
「ふふふ、何だが馬鹿らしくなってきたな」
「ははは、確かに」
少し笑った後に俺とリーナは落ち着きを取り戻し話に入った。
「では私から話させてもらう」
「どうぞ」
俺はリーナに話を譲るとリーナは少し間を空けてから言った。
「貴様と釜石殿は付き合っているのか?」
「は?俺と釜石さんが?」
俺の間の抜けた言葉にリーナは無言で頷いた。待て、なんだその話。
「何でそんなこと聞くんだ?」
「いや、クラスの者達が皆貴様と釜石殿は異常に仲がいいだの釜石殿は恋のライバルと戦っている等聞いたのでな。つい気になって」
異常に仲がいいのは認めるが、何だ恋のライバルって。そんなやつ何処にいるんだ?
てかクラスの周りで俺と釜石さんってそんな風に見られていたのか。
知らなかったな。
「いや、別に俺と釜石さんは付き合っていないぞ。勿論恋のライバルとかも知らない」
「そ、そうなのか?そうだったのか。ならいい」
「ん?ならいいって?」
「い、いや!何でもない!気にするな!」
不思議に思う俺にリーナは何故か焦っていたが、俺と釜石さんが付き合ってないのを知ると少しホッとしている。
俺と釜石さんはただの親友だ。
付き合っている訳ないだろうに。
「じゃあ次は貴様の番だぞ。貴様は何が言いたかったんだ?」
リーナの言いたいことも言い終わり次は俺の番になると俺は少し言いづらそうにしながら言った。
「いや、俺はたださっきまでの無言の空気を変えようと話し掛けただけなんで、これといって話したいことはないんだ」
「何だ、そうだったのか」
「そういうことだ」
そう言い終わるとまた俺とリーナの間で無言な時間が流れた。
やっぱりこの空気何かやだな。
「......やっぱり話していいか?」
「ん?さっきはなかったんじゃないのか?」
「今思い付いた」
強引に言う俺にリーナは「そ、そうか」と若干戸惑っていたがそこは無視だ。
「じゃあ話すぞ」
「あ、あぁ」
俺の強引な勢いにリーナはまだ戸惑っていたが俺はそんなこと知らんとばかりに話を続ける。
おまけ
【その頃教室では】
昼休みの教室
「くそ!何でまたあいつなんだ!?」
「あいつには釜石さんがいるというのに!!」
「おまけにもう一人いるって話だろ。だったら三人もいらないだろ!!」
「少しは分けてくれ!!」
「だがお前らあの神谷に勝てると思うか?」
「.....無理だな」
「神谷は顔だけはいいからな」
「くそ、やっぱり男は顔なのか!」
「これが現実か........」
「リーナさんってやっぱりあれなのかな?」
「神谷君の事好きなのかな?」
「だとしたら凄いね!これで三人目だよ!」
「これで神谷君への恋の戦いは激しくなりそうね!」
「いったい誰が勝つんだろう?」
「案外リーナさんって押しが強い人だったりして」
「だとしたら釜石さんが居なくなった瞬間神谷君に.....」
「「「キャー!!(>_<)」」」
男女ともに別々な意味で盛り上がっていた。
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