ちょっと言うタイミングがなかった
ブラックドラゴンが消滅したのを確認し俺は後ろを振り返ると、リーナが口を開けたまま呆然としていた。
「おーい、どーしたー」
呆然とするリーナに俺は顔の前で手を振る。
するとやっと我に返ったのかリーナはハッ!としだして目をぱちくりさせながらブラックドラゴンがいた場所を見た。
「い、今、何が起きたんだ.......」
まだ少し呆然としているリーナに俺は何てことないように言った。
「ただ消滅させただけだぞ」
「だけとは何だ!?だけとは!?当たり前みたいに言うな!!」
俺の言葉に激しく突っ込むリーナに俺はまぁまぁと落ち着かせる。
「お前も出来るだろ?無魔法とか使えば楽勝じゃん」
「出来るか!!無魔法で消し去る前に私が消えてしまうわ!!」
リーナは声を荒げながら叫ぶ。
少し息を切らしやがて落ち着くと呆れた様子で言った。
「あのなぁ、無魔法はそこまで万能ではない。消し去るまでに多少なりと時間がかかる。ブラックドラゴンのあの巨体では数十分はかかるな。それだけ時間もあれば私は普通に殺される。しかもさっきまでの状態となると勝ち目はほぼゼロだ」
そうなのか。てっきり瞬殺出来るもんだと思ってた。
「じゃああの羽を散らす奴はどうなんだ?」
「あれは触れられれば倒せるがブラックドラゴンはそんなに甘くない。ブレス一つで全て焼き消されてしまう」
リーナに言う事に俺はへーと思ったが、そこで少し疑問が生じた。
「え?あれって燃やせるのか?」
「当たり前だろ。あれは私が敵と認識したものを消滅させるだけであって魔法は違う。触れなければただの羽と一緒だ」
当たり前の様に言うリーナに俺はまじかよと思った。それじゃあ何も【削除魔法】で消す事はなかったのか。態々魔力を消費するやり方をしていたとは、何で気がつかなかったんだ俺........。
俺は自分の失態に悔いていると、リーナは途端に話を変えた。
「まあ何はともあれ、さっきは本当に助かった。心から礼を言う。ありがとう」
そう言って頭を下げるリーナに俺はどうしたもんかと頭を掻いた。
そういう堅苦しいのは苦手なんだが....。
「取り敢えず頭を上げてくれ。さっきも言ったがこれは俺が勝手にやったことだ。お前が礼を言う必要はない」
「だが助けられたのも事実だ。せめて礼は言わせてくれ」
何とも真面目なことで。
頭を下げたまま言うリーナに俺はそう思う。
「分かった。礼は素直に受け取っておく。だから頭を上げてくれ。そういうのは苦手なんだ」
「ふふ、貴様らしいな」
苦手そうに言う俺にリーナは微笑みながら頭を上げた。
礼も言い終わり心のつかえが取れたのかリーナは現状を再認識し、顔を曇らせた。
「やはり私は、見放されたのだな.....」
ブラックドラゴンの戦いの跡を見ながら小声で呟く。最初程ではないがやはりまだ未練があるんだろう。少し苦しそうに胸に手を当てている。
「なぁ、お前はどうしてそんなにメトロンに忠誠を誓ってるんだ?」
苦しそうにしているリーナを見て俺は率直に思った。俺の質問にリーナはどういったもんかと一瞬迷い、やがてこう切り出した。
「.........少し長くなるがいいか?」
「いいぞ。どうせ時間はあるんだ。ゆっくり聞こう」
そう言って俺は地面に腰を下ろした。
俺に促される様にリーナも腰を下ろすと、リーナは何ともいえない顔をしながら俺を見る。
「何かやけに軽くないか?貴様」
「そうか?別に普通だと思うぞ」
俺の言葉にリーナは「そうか...」と言って納得し、話し出した。
「....憧れだったのだ」
「憧れ?」
俺の言葉にリーナは「そうだ」と言って頷き、続きを話した。
「我が天界では神は尊い存在。天使達は皆神を敬愛し、その身に仕える事が我が天使としての最高の喜びとし、最高の名誉とされている」
リーナは淡々と語る。
何か神至上主義みたいな感じだな。
俺はそう思いリーナの話しは続く。
「勿論私も神を敬愛していた。両親からの教えもあり物心つく頃には既に神に仕える事を夢見ていた。だから私は修行を重ね、モンスターを倒してレベルを上げ、持っていた無魔法を限界まで極め、強く見せるために口調まで変えて、遂には神に仕える事が出来たのだ」
「簡単には神に仕えられないのか?」
リーナの話しに俺は疑問が生じ口を挟んだ。
「神に仕える為にはある試練を乗り越えなければならない。その試練は過酷でな。実力は勿論雑務を何でもこなせるようにならなければならない。お掃除試験に書類処理能力試験、果てには実力を測るバトルロワイヤルまであったな」
「いやぁ、あれは大変だったな」とリーナはうんうんと頷く。
なんだその試験。過酷にも程あるだろ。
リーナよくそれに受かったな。
感慨深そうにしているリーナに俺は素直に凄いと思った。
「神に仕えられなかった奴はどうなるんだ?」
「別にどうもしないぞ。落ちたらまた次の機会で頑張ればいい。それまでは他の仕事をしている」
「他の仕事?」
「あぁ、物を作ったり店を開いたりとやっていることは貴様達異世界人と一緒だ」
そうだったのか。
天界ってもっと雲の上に噴水とかある感じだと思っていたが意外と現実的だった。
子供の夢が一つ壊れたな。
じゃあてことはリーナのやっていた試練って謂わば就職試験ってことか。
うわ、一気に現実的になったな。
俺は天界の現実的事情に何とも言えないと思っていると、途端にリーナは懐かしそうに遠い目をしだした。
「あの頃は毎日が充実していた。神に仕える事に喜びを感じ、日々身を粉にして働いた」
だが次第にリーナの顔は暗くなる。
「だがそれも今日までだ。私はメトロン様に見放され今こうしてこの【零の世界】に閉じ込められてしまった」
リーナはそう言うと暫し黙り込んだ。空気がしんみりとなってくる。
しんみりと視線を下げるリーナに俺は少し言うか言わないか迷いながら言った。
「今でもその忠誠心はあるのか?」
「分からない。だが少なくとも前ほどの忠誠心は私にはもうない。もしここから私だけ助けられたら、メトロン様に反発してしまうかもしれんな」
若干口を緩ませながらリーナは言う。
一通り喋り終わるとリーナは両手を上げふぅっと脱力した。
「さぁ、これで全部話終えた。どうだ?満足したか?」
力が抜けた様に言うリーナに俺は両手を地面に置き体を支える様に力を抜くと、暫し目を瞑り次第にこう言った。
「何か俺には分からん話だな。特に神に仕える所とか。俺だったらそんなのよりもっと自由に生きたいぞ」
「自由にか?」
「あぁ、神に仕えるなんていう物よりもっと他にやりたいことを探す。例えそれが異世界にあったとしてもだ」
「あったらどうするんだ?」
「天界捨ててその世界にでも住むな」
当たり前の様に言う俺にリーナは顔をひきつらせた。
「流石にそれはないだろ。少なくとも天界を捨てる何て事天界では誰もしないぞ」
「だが一つの手でもあるだろ」
「それはまぁ、そうではあるが.....」
「ならいいだろ。問題は後で考えればいい」
あっけからんとしながら言う俺にリーナは呆れたのか小さなため息をついた。
「何か貴様と話していると先程までの自分が馬鹿らしくなって来るな」
「お前は考えすぎなんだよ。先の事を見すぎないで今だけを考えろ」
「今か....」
「そう、今だ」
俺の言葉に何を思ったのかリーナは少し考えると途端に立ち上がった。
「ならば先ず拠点作りから始めるか!」
「....はい?」
突然の一言に俺はリーナを座ったまま見上げた。
え、なに言ってんの急に?
「その後は各部屋を決めて水は魔法を使えば何とかなるだろう。食糧に関してはどうなるか分からんがそこは後で考えるとして、先ずはどうやって拠点を作るかだな」
「え、あ、ちょっと待て」
「建てるのは難しいから穴を掘るというのが最適だな。少し暗くなるだろうがそこは我慢だ」
「いや、だから待てって」
「後は拠点を作ったら元の世界に帰る手掛かりを探そう。正直帰る方法があるかは分からないがそこはやってみるしかないな」
「だから待てって!!」
俺の言葉を無視しながら考え込むリーナに俺はリーナの両肩を掴みながら叫んだ。
「ん?どうしたんだ?」
「どうしたんだじゃねぇよ。お前さっきから何言ってるんだ?」
「何って、これからの事についてだが?.....はっ!!貴様まさか!!」
俺の言葉に何を勘違いしたのかリーナは顔を赤くしながら視線を反らしもじもじしだした。
「す、すまないが、そういうのについては待ってくれ。まだ心の準備ができていない。そ、それにまだ私は貴様とそう言う仲になった訳では....」
「いや、何言ってるんだお前?別にそんなんしなくてもいいぞ」
俺の一言にリーナは赤くなっていた顔が一気に冷め、は?といった顔をに変わる。
「しなくていいとはどういう事だ?我々は帰れないのだぞ」
「いや帰れるぞ」
「.........へ?」
真顔で言う俺にリーナは更に間の抜けた顔をした。
元の世界には簡単に帰れる。俺の【時空転移魔法】を使えばな。
【時空転移魔法】は時間と空間の間を行き来出来る魔法。ここが異世界なら帰られるのは当然だ。まぁ、欠点として発動に時間がかかるのと魔力消費量が異常に多いというのがあるがな。
俺はその事をリーナに伝えると、リーナはわなわなと体を震わせ、
「さ....」
「さ?」
「先に言えぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
声を大にして叫んだ。
その声は誰もいないこの空間でこだまする様に響き渡った。
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俺達は【時空転移魔法】で最初いた山に転移した。山はまだ夜中のままで冷たい風が体に染みる。
隣では顔を赤くさせ俯いているリーナがいる。先程自分が言った事が恥ずかしいのか俺と顔を会わせれくれない。
俺別に悪くないよな?
「まさか、私がこんな失態をするとは......」
「まぁ、そんな落ち込むなよ。元気出せって」
「煩い!元はと言えば貴様が....!!」
リーナは俺に声をあげようと俺と顔を合わせると、また恥ずかしくなったのか更に顔を赤くさせそっぽを向いた。
まともに話すのも無理か。
「それじゃあ、俺は帰るな」
そう言って俺はリーナの前を二、三歩歩くと、いい忘れていた事があり後ろを振り返った。
「明日ちゃんと学校に来いよ。皆お前が来るの楽しみにしてるんだからな」
「わ、分かっている!!さっさと行け!!」
顔を赤くしながら叫ぶリーナに俺は「はいはい」と言ってまた山を降るため走り出した。
帰る分の魔力がないから途中までダッシュだ。
スキルとステータスのお陰であっという間にリーナの前から姿を消すと、それを見送ったリーナは若干まだ顔を赤くしながら口許を緩ませた。
「ありがとう、神谷夜兎。私を救ってくれて」
その感謝の言葉はどういう意味なのかは分からないまま、夜空の彼方へと消え去る。
一人残ったリーナのその一言には、今までの堅苦しい感じのない少し無邪気な声に聞こえた。
ここでまた一区切りつき、また次回から日常パートに入ります。
おまけ
【仕事】
「神に仕えるのは全ての天使の夢とされている」
「そんなに人気なんだな。神に仕えるのは」
「あぁ、それに人気なのは他にも理由がある」
「他に理由?」
「給料が圧倒的に高い」
「そこも現実的なんだな......」
「一応仕事だからな」
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