戦いの中でやったか?という言葉はただの呪い
互いに睨み合いながら、俺とブラックドラゴンは少しの間硬直する。
しんとした時間が流れ、嫌に静かな空気に変わり俺はブラックドラゴンを警戒していると、先にブラックドラゴンが動いた。
「ギャオォ!!」
吠えると同時にブラックドラゴンは体を回転させ尻尾を鞭の様にしならせ俺にぶつける。
「速っ!?」
俺は予想以上の速さに驚いたが上にジャンプし何とか避ける。
俺はブラックドラゴンの尻尾を見ながら少しホッとするがそれだけでは終わらない。
ブラックドラゴンは正面を向いた途端に口を俺の方に向けた。
「ギャォア!!」
「!?」
俺がブラックドラゴンの体勢からブレスが来ると察っした瞬間、ブラックドラゴンの口から人が包み込まれる程の大きさの黒炎の弾が発射される。
発射された瞬間俺は転移でブラックドラゴンの顔の横に避けると、拳に赤い炎を纏わせ後ろに引いた。
「爆発拳」
俺の拳がブラックドラゴンの顔に直撃した瞬間俺の拳から爆発が起きる。
爆風と爆音が周囲に広がりブラックドラゴンの顔が仰け反る。
これでダメージ入ったか?
俺は地面に着地すると一旦距離を置いた。
ブラックドラゴンは顔から少し黒い焦げた煙を出しながらふるふると顔を振ると若干苦しそうに唸っている。
ダメージはあるみたいだな。
俺はダメージがあることに少し安心したが、流石はドラゴンの最上位種。
鱗の固さが半端じゃない。お陰で手が痺れたぞ。ビリビリと小刻みに震える手を見ながら俺は冷や汗を流した。
ここで【削除魔法】で殺せたらいいんだがそうもいかない。
【削除魔法】は人の記憶やスキルには干渉できるけど肉体には干渉出来ない。だから自力でやるしかない。
殴るのは止めた方がいいな。これじゃあブラックドラゴンより先に俺の手が死んじまう。
「ギャオォォォ!!!」
ブラックドラゴンの固さに俺は驚いていると、殴られて怒ったのかブラックドラゴンは高々と怒りの咆哮をあげた。
やっぱり煩いな。耳が痛い。
俺はブラックドラゴンの咆哮に軽く耳を抑える。するとブラックドラゴンは俺に向かってまた息を大きく吸い込み、黒炎の弾を乱発し始めた。
どうやらご乱心みたいだな。
冷静に黒炎の弾を避けながら俺はそう思った。
魔力節約の為なるべく転移を使わないようにして避けながら魔力の消費を最小限に抑える。
ブレスを避け続け俺は攻める為避けながら手を上げブラックドラゴンの頭上に意識を集中させる。【並列思考】のお陰かスムーズに出来るな。
「隕石落とし」
するとブラックドラゴンの頭上に突如巨大な岩石が現れた。その岩石は風を纏いブラックドラゴンの頭上に浮かんでいると、突然勢いよくブラックドラゴンの背中に降り注いだ。
「グギャアォォ!!?」
降り注いだ岩石はブラックドラゴンの背中に突き刺さり地面が揺れヒビが入る。
ブレスを放ち続けていたブラックドラゴンは何が起きたのか分からないのか驚きにも似た奇声をあげた。
奇声をあげ終えたブラックドラゴンはそのままぐったりと倒れ俺はそれを暫く見つめた。
倒したのか?
「.....やったか?...あ、やべ」
俺は一人そう呟くと自分で自分の失態に気づいた。これ言っちゃいけない奴だった。
俺は自分の言った言葉に後悔していると、そーっとブラックドラゴンを見た。
ブラックドラゴンは今だピクリとも動いていない。
ま、まさか本当に起きたりとかしないよな?
嫌な予感がしながら俺は注意深くブラックドラゴンを観察すると、突如ブラックドラゴンの爪がピクッと動いた。
「ギャアアォォォォォォォオオ!!!!」
そしてこれまでにない最大音量の咆哮をあげながらブラックドラゴンは勢いよく立ち上がる。
咆哮で地面がビリビリと揺れ大気が震える。
それを見た俺は先程自分が言った言葉を呪った。
もう二度とあの言葉は言わない。絶対にだ。
怒り狂うブラックドラゴンに俺はひきつった顔をしながら思った。
するとさっきまで吠えていたブラックドラゴンは本当に狂ったのか出鱈目に黒炎の弾を乱発させる。
「グルギャオアァァァァ!!」
四方八方に飛び散る黒炎の弾は地面に着弾したり遥か彼方まで飛んでいく。完全に正気失ってるな。
方向が定まっておらず、俺はそれをもしかしたらこのまま力尽きて倒れるんじゃないかという淡い希望を持ちながら黙って見ている。
このまま自滅してくれるんならそれに越したことはないからな。
だがそんな俺の希望とは裏腹に、ブラックドラゴンの放った黒炎の弾の一つの中にリーナに向かっているのを発見した。
だがリーナはあちこちで飛び散っている黒炎の弾に萎縮して思う様に動けないのか、その場を離れられないでいた。
「くっ!!」
「リーナ!!」
諦めたのか目を瞑ってじっとするリーナに俺は【時空転移魔法】を使いリーナを抱き抱え回避した。
「大丈夫か?」
「あ、あぁ、すまない助かった」
俺の言葉にリーナは礼を言うと途端に申し訳なさそうな顔をした。
「すまない。貴様一人に戦いを押し付けてしまって......」
「気にするな。俺が勝手にやったことだ。それよりあれ何時か止まるのか?」
申し訳なさそうにするリーナに俺はそう言うと、今だ暴れ狂うブラックドラゴンを見ながらリーナに聞いた。
「恐らくあいつの体力が無くなれば止まるんだろうが、直ぐには止まらないぞ」
見極める様にしながら見るリーナに俺はまじかよと思った。
それじゃあこれが止まるまで待つのは無理か。
「そうか.....」
「何か策はあるのか?」
残念そうに言う俺にリーナは聞いてくる。
「いやあるっちゃあるんだが、魔力がな....」
先程の隕石落としに転移の連発、節約したとは言えもう俺の魔力もそろそろやばい。
策はあっても魔力がなきゃどうしようもない。
俺の言う事にリーナは少し考える素振りを見せると決心したのか俺の方を見た。
「魔力があればいいんだな」
「ん?あ、あぁ」
「そうか.....なら仕方ない。少し動くなよ」
リーナはそう言うや否や抱き抱えられた状態のまま俺の首に手を回し抱き着いてきた。
突然の事に俺は驚いたが、急に体に何かが流れ込んで来るのを感じる。
これは、魔力か?
俺は流れ込んで来る魔力にじっとしていると、リーナは俺から離れた。
その様子は恥ずかしそうにしながらも少し疲れた表情をしている。
「私の持っていた魔力をお前に渡した。これでいけるか?」
「あ、あぁ、大丈夫だ」
俺の言葉にリーナは安心したのか少しぐったりした。
「お、おい、大丈夫か?」
「あぁ、魔力が少なくなり少し疲れただけだ。それに今の私にはこれくらいしか出来ない。これであれを倒せるなら本望だ」
何とも潔い言葉に俺はおぉっと感嘆していると、リーナは俺にふっと笑い掛けた。
「ここまでしたんだ。必ず倒してこいよ」
「あぁ、任せろ」
微笑むリーナに俺も微笑むと、突然俺はリーナに向かって言った。
「てかお前お姫様抱っこは恥ずかしそうにしてたくせにハグは平気なんだな」
意地悪そうに言う俺にリーナは一瞬意味が分からなかったのかキョトンとしていると、次第に意味が理解できたのか徐々に顔を赤くし始めた。
「な、ば、馬鹿を言うな!あれは魔力を与える行為であってそういう意図はない!!勘違いするな!!ていうか何時まで抱いているつもりだ!!いい加減下ろせ!!」
俺の腕の上で暴れるリーナに俺は「はいはい」と言いながら降ろすと、ブラックドラゴンに体を向けた。
ブラックドラゴンは今だ暴れ狂いそこら中に黒炎の弾を乱発している。
「それじゃあ、いっちょ派手に決めるか」
そう呟くと同時に俺の周りから異色な魔力が放出される。
それは一つの色に留まらず、『赤』『青』『黄』『緑』『茶』『黒』の魔力が混じりながら放出される。それはさながら虹の様だ。
「こ、これは....六属性の並列魔法...」
六色に分かれて放出していく俺の魔力にリーナは驚きながら自然とその口から溢れた。
六属性の並列魔法。
即ちそれは読んで字の如く六つの属性、『火』『水』『光』『風』『土』『闇』からなる並列魔法だ。
普通なら六つの属性も一度に操るのは不可能に近いが、ここに来て【並列思考】がおおいに役立っている。最初はあんま使えないと思っていたがこれは見直す必要があるな。
俺の周りで放出されている六つの属性は徐々にその強さを増していく。
そして、その魔力に反応したのか先程まで暴れ狂っていたブラックドラゴンがブレスを止めこちらを向いた。
気づいたか。悪いがもう遅い!
「六槍封波」
次の瞬間俺の頭上に赤、青、黄、緑、茶、黒の槍が出現し真っ直ぐブラックドラゴンの方へ飛んでいく。
六つの槍はブラックドラゴンを中心に六角形を描く様にして地面に突き刺さると、刺さった槍同士が線で結ばれる。
「ギャオ!?」
すると突如ブラックドラゴンは驚きの声をあげた。ブラックドラゴンの体がぶるぶると震えている。動こうとしているのだろう。だが槍が突き刺さり線で結ばれた時点でもう勝負は決している。
「派手に散りな」
動けなくなったブラックドラゴンに六つの槍は頭上に六色の魔力を集め始めそれをブラックドラゴンはただ見上げる。
六つの魔力が混在した禍々しい色をした魔力は次第にその大きさを増していき、それを見るブラックドラゴンは次第に正気が戻ったのか怯えていた。
悪いが慈悲はない。潔く死ね。
直後、頭上の禍々しい魔力は一気にブラックドラゴンに降り注いだ。
ドゴォォ!!という激しい音と爆風をたてながら降り注ぐ巨大な魔力波はブラックドラゴンを包み込む。
「ギャォォォ.......ーーーーー!!」
巨大な魔力波に悲鳴をあげていたブラックドラゴンの声も途中で途切れ、音と爆風だけしか聞こえなくなる。
やがて音と爆風も消えそこには先程までいたブラックドラゴンの姿はなく文字通り影も形もなく塵と化していた。
残っているのはブラックドラゴンがいた位置に空いた底知れぬ穴のみだ。
「まぁ、やり過ぎてはいないか」
自分でも予想以上の結果に俺は静かにそう言った。
おまけ
【並列思考】
「【並列思考】ってあんま使えないと思ってたけど実際結構有能だよな」
「まあ、二つの事を同時に出来るのは確かに凄いことだな」
「これなら宿題しながら本を読むことも出来る。やっぱり有能なスキルだな」
「では寝ながら授業を受けるのも可能ということか!?良かったな神谷夜兎!!」
「いや、それは普通に無理だろ」
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