幾らなんでもレパートリー少ないだろ
突然光に包まれ俺は瞑っていた目を開けると、そこは何もない場所だった。
「何だここ?」
俺は突然の事に驚きながら辺りをキョロキョロと見渡す。目の前ではリーナも目を開け急に変わった景色に驚いていた。
「な、何だここは.....」
「分からん」
驚くリーナに俺はそう言った。
先程何もないと言ったが本当に何もない。
水もなければ土もない。
風もなければ空もない。
だが空気はあるな。じゃなきゃ死んでる。
他には暗い天井に白いコンクリートみたいな床が地平線の彼方まで続いている。それだけだ。
いったいどうなってるんだこりゃ.......。
俺はこの事態に困惑していると、リーナは何か思い当たる事があったのか無言で目を見開かせた。
「ま、まさか.....」
「どうした?何か分かったのか?」
まさかと言いながら震え出すリーナに俺は聞いた。そのリーナの震えからここはただならぬ場所だということがリーナから伝わってくる。
「恐らくだが、ここは【零の世界】だ」
「【零の世界】?」
「そうだ。かの昔神達が世界を創造する前の段階で使用すると言われる空の世界。それが【零の世界】だ」
リーナの説明に俺はようやくこの場所について知ることができた。
要はここは世界を創るための器ってことか。
俺はこの世界については分かったが、肝心な事が分かっていない。
「じゃあ何で俺達はその【零の世界】とやらにいるんだ?」
「【零の世界】は神にしか創れない。既に世界は存在するため今でこそ殆んど使われないが、この世界は見た通り何もない世界。つまり閉じ込めるにはうってつけだ」
「じゃあ誰かが俺達をこの世界に閉じ込めたって事か?いったい誰が?」
「そんなの決まっているだろ.....」
すると言葉の途中でリーナは言いたくないのか苦痛な表情に変わった。
だが言わなくてはいけないと心では分かっているのか、次第にその口は重たそうに開いた。
「そんなの.......メトロン様しかいない」
苦痛そうに、そして悲しげな顔をしながら言うリーナに俺は声を掛けられないでいると、リーナは乾いた笑みを浮かべた。
「やはりか。やはり私はメトロン様に見放されてしまったのか......。それも当然だ。任務の一つもこなせない配下など、必要ないからな......」
顔を俯かせ声を段々小さくさせながらリーナは言う。俺はそんなリーナを見るなり、しょうがないとばかりに言った。
「リーナ、俺はさっきも言ったよな。メトロン何て関係ないって」
「だが.....私はメトロン様に忠誠を誓った身、そのメトロン様に見放されてはどうしようもない......」
俺の言葉に顔を俯かせながら呟くリーナに、これじゃあ埒があかないと思い俺は膝を折りリーナと同じ目線で話した。
「別に見放されたからってお前は死ぬ訳じゃない。他にも生きる道はある。だからそう卑屈になるな。お前はまだ死んじゃいない。前を見ろ」
「........前を?」
「そう、前だ」
俺の言葉を復唱するかの如く呟くリーナは顔を上げる。
その目には少しの光が見えたかのようにが色が戻り始めたが、直ぐにリーナの顔はまた俯いた。
「だが、メトロン様を失った今、私はどうやって生きればいいんだ.....。メトロン様に見放され、メトロン様の力であの世界に来た私は天界に帰ることは出来ないのだぞ.....」
「だったら地球に住めばいい」
俺の提案にリーナはへ?と言った顔をしながら顔を上げこちらを見た。
「もう天界に帰れないのならいっそこっちで暮らすのはどうだ?そこでも十分暮らしていけると思うぞ」
「い、いやしかし、それは....」
「それにさっきも言ったが、クラスの奴等はお前の事気に入ってるんだ。お前の事を必要としている。帰るにしろ帰らないにしろ、考える余地はあるだろ?」
そう言った後に俺は「あ、あと教師達も気に入ってたな」と今思い出したかのように言う。
リーナは俺の言ったことを想像してそれもいいと思ったのか少し顔が和らいだが、今度は曇った顔に変わった。
「だがそれは帰れたらの話だ。この世界から出られなければ意味がない」
残念そうに言うリーナに俺は何だと思い、あっけらかんとしながら言った。
「あー、それならだいじーーーーー」
だが俺が言い終わる前に俺とリーナの前に突如巨大な光が現れた。
突然の光に俺とリーナは会話を中断させ光の方を見る。
この光は、また何か来るのか?
俺はしゃがんだ状態のまま光を警戒する。
リーナも警戒しているのか光の方をじっと見つめている。
やがて光は収まると、俺は目の前の物に言葉を失った。
「ギャオォォォォォ!!」
俺の目の前にいるモンスター、ドラゴンに俺は口をひくつかせる。
おいおいまたドラゴンかよ。レパートリーが少ないにも程があるだろ。
そんな皮肉を言いながらも俺はそのドラゴンの全貌を見る。
黒い鱗に鋭い鉤爪、前見た赤いドラゴンより倍位の大きさを持つその姿に俺は思わず顔を見上げた。
「リーナ、どうやらお前んとこの神様はこうまでしてまで俺を殺したいらしいぞ」
異世界隔離にドラゴン召喚の二段構えと来たか。幾らなんでも保険かけすぎだろ。
俺はそう思っていると、リーナは目の前の黒いドラゴンに震えながら驚愕していた。
「ば、馬鹿な....ブラックドラゴンだと!!」
ドラゴンを見て戦慄するリーナに俺は聞いた。
「何だ?ブラックドラゴンって」
「ドラゴンには体の色でそれぞれランクが決まっている。貴様が以前倒したのはレッドドラゴン。せいぜいドラゴンの中では中の下だ。それに引き換えブラックドラゴンはーーー」
話を続けるリーナに俺は耳を傾けていたが、目の前にいるブラックドラゴンはそれを待ってくれる程生易しくない。
「グルゥゥ.......」
ブラックドラゴンは俺達を見ると口を大きく開けて息を吸い込んだ。
あ、これはやばい!
「リーナ!!」
俺は咄嗟にリーナを抱き抱えると、避難するためブラックドラゴンの後ろに転移した。
転移した瞬間ブラックドラゴンは勢いよく口から黒い炎を噴射させる。
ゴォォ!!という効果音を後ろに黒い炎は広範囲に渡って広がっていき、先程まで白かった地面を黒く焼き付くしていく。
うわー、何だよあれ....。
あの赤いドラゴンより威力が桁違いだぞ。
俺はブラックドラゴンのブレスの威力に驚嘆していると、抱き抱えていたリーナが抗議の声をあげた。
「お、おい、何時まで、そうしているつもりだ....」
リーナは少し頬を赤く染めながら言う。
今俺はリーナを両手で抱える様に抱いている。つまりはお姫様抱っこだ。
ブラックドラゴンに見とれてて降ろすの忘れてたな。俺は恥ずかしそうにするリーナを降ろすと途端にブラックドラゴンの方に歩いた。
「お、おい待て!!何処に行く!!」
何処かに行こうとする俺にリーナは俺の服の袖を掴みながら聞いた。
「決まってるだろ。あいつを倒しに行く」
「な!?馬鹿を言うな!!無謀だぞ!!」
当たり前の様に言う俺にリーナは驚きながら声をあげた。
「いいかよく聞け!色毎でランク分けされているドラゴンの中でブラックドラゴンは最上位のドラゴンだ!!全快ならまだしも、私との戦闘で魔力と体力を消費している貴様では勝ち目はない!!」
リーナの言うことに俺は黙った。
幸いブラックドラゴンは俺達を見失ったのかキョロキョロと俺達を探している。
リーナの言う通り俺の魔力は感覚的に後半分程度しかない。
これでレッドドラゴンより格上なブラックドラゴンに勝てるかと言ったら正直分からない。
「じゃあどうする気だ?魔力が回復するまで待つか?この何もない所で」
「そ、それは......」
俺の言うことに今度はリーナが黙った。
この山も谷もない世界で逃げ続けるなんてそれこそ魔力の無駄だ。
ならいっそやるしかない。
俺はリーナが握っている俺の裾を振り払うと、背中を向けたまま首を後ろに振り返らせた。
「まあ見てろ。ちゃっちゃと倒して来るから」
俺はそれだけ言うとブラックドラゴンの方に駆け出した。
恐らくリーナはもう戦える力は残っていない。戦えるのは俺一人だ。
俺は少し走るとブラックドラゴンの頭上に転移し、全力のかかと落としを喰らわせた。
「おい蜥蜴野郎!!」
そう叫びながらやる俺のかかと落としにブラックドラゴンは少し頭が揺れる。少しはダメージがあったのかふるふると頭を振ると、俺を見るなり唸りながらこちらを睨んだ。
「ぶちのめしてやるから掛かってこい」
「ギャオォォォォォ!!」
俺の挑発にブラックドラゴンは乗ってくるかの如く咆哮をあげた。
さあ、いっちょやるか.....。
俺はブラックドラゴンを前に俺は静かに構えた。
ドラゴンはそれぞれ色毎に強い順で分けると
黒>白>紫>緑>赤>青>黄
という感じです。
おまけ
【神の手】
「【零の世界】って謂わば何もない世界なんだよな?」
「そうだがそれがどうかしたか?」
「それじゃあ俺が永久に眠っていても誰にも文句言われないってことか!」
「まぁ、そうなるな」
「そうか、ならあそこに家を建てて休日はそこで過ごすという手もありだな.....。よし、じゃあ早速【零の世界】を創ってくれ!」
「いや無茶言うな。どこの神がそんなものの為に創ると思っているんだ」
「大丈夫だ。いざとなれば神の手(作者)を使えば楽勝だ!」
「お前神をなんだと思っているんだ....」
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