真面目過ぎるのは逆に面倒
夜兎から逃げ去った後、リーナは一人住みかにて失意のどん底に落ちていた。
(くそ、あんな奴に負けるなんて......)
床に膝を着けながらリーナは長いことそのままでいる。
自分は同じ天使達の中では優秀だった。
仕事は真面目にこなし、任された事は完璧に達成し、それを行う実力もある。
自分は優秀だ。誰にも負けない。
その自信がリーナの中ではあった。
だがそれは今日、その自信は夜兎によってへし折られた。
夜兎との戦いの時、リーナは持ち前の自信から余裕で勝てると思っていた。
自分は努力を重ねてきた。こんな異世界に行き遅れた奴に負ける筈がない。そう思っていた。
その慢心にも近い自尊心が今回のリーナの敗北に繋がったんだろう。
ステータス何て確認しなくても勝てる。そう思っていたせいでリーナは夜兎の実力を測れず無謀にも挑んだ。そしてそれがこの結果だ。
(メトロン様に何て報告すれば......)
リーナは一人頭を悩ませていると、天井の方から光が現れた。
「やあ、リーナ」
するとそこには白い部屋の空間の中で椅子に座っている金髪の小さな子供の姿、メトロンの姿があった。
映像の様に映し出されリーナはそれを見ると途端に慌て姿勢を正す。
「め、メトロン様!?」
「大分やられたようだね、リーナ」
慌てて膝まずく体勢を取るリーナにメトロンは落ち着いた様子で言う。
メトロンの言葉にリーナは顔を暗くさせ俯かせた。
「も、申し訳ありません。まさか神谷夜兎があそこまで力を付けていたとは」
「それに関しては僕も驚いたよ。まさかあんなに強くなってたなんてね。でもねリーナ、僕が言いたいのはそこじゃないんだよ」
そう言うとメトロンは少し間を開けて言った。
「僕は監視を命じたんであって、別にあの異世界人を連れてこいなんて言ってないよ。あわよくば連れてこれたらいいなとは言ったけどさ」
少し呆れながらメトロンは言った。
実はリーナはメトロンに命じられていたのは夜兎の監視である。
予想以上に力を付けた夜兎を危険視したメトロンは、リーナに夜兎が何かしたら直ぐ報告出来るように監視を任せた。
確かにその力が異世界で使えたらいいなとはリーナに言ったことはある。
だがそれはいいなという願望であって別に命令ではない。
少しため息をつくメトロンにリーナはバッ!と顔を上げた。
「私はメトロン様の優秀なる配下。例えそれが命令でなくとも、メトロン様が一番に望む事をするのが私の役目です」
「君のその無駄に真面目な所がなければもっといいんだけどねぇ.......」
真っ直ぐとした目でいうリーナにメトロンは再びため息をついた。
「でもどうしようかなぁ.....正体がばれたんじゃ監視は無理だし.....」
「メトロン様!私にもう一度チャンスを下さい!」
悩むメトロンにリーナは申し出た。
「チャンス?」
「私に変身の許可を下さい!そうすれば必ずや神谷夜兎を倒し異世界に連れて行きます!!」
意気込むリーナにメトロンは渋い顔をした。いや、倒すより監視の方がいいんだけど.....。
「私に変身の、【天使化】の許可を下されば、必ずや神谷夜兎を倒して見せます!!」
渋るメトロンにリーナは更に申し出た。
【天使化】。リーナがこの地球に留まる際にメトロンがリーナに掛けた物だ。
リーナが地球で人間の姿を保つためには天使である力を抑える必要がある。
その抑えていた力を開放するのが【天使化】だ。
開放すれば今より強い力を有する事が出来る。それがあれば夜兎を倒せる。リーナはそう言っているのだ。
だがそれでもメトロンは許可は出来なかった。
「悪いけどリーナ、それは許可出来.....」
だが、メトロンはリーナの意見を却下しようとした直後、メトロンの動きが止まった。そこから暫し考え込むようにしていると、急に明るい顔をしながら告げる。
「いや、やっぱり許可するよ」
「本当ですか!?」
「うん、君の熱意に負けたよ」
明るく言うメトロンにリーナは許可が出たことに嬉しそうに顔を明るくさせる。
「ありがとうございます!!必ずや!!必ずや!!神谷夜兎を倒してみせます!!」
嬉しさの余りリーナの目には涙が溜まる。
自分はメトロン様に期待されている。
その事が嬉しくて堪らなかった。
「あ、うん、頑張ってね。それじゃあ」
涙を流しながらお礼を言うリーナにメトロンは苦笑いしながらリーナとの会話を切った。
「はい!!お任せ下さい!!メトロン様!!」
映像の消えた何もない天井でリーナは叫んだ。その声は深夜の夜の街によく響き、少しこだまするように聞こえた。
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リーナとの会話を切りメトロンはふぅっと一息ついた。まさか泣かれるとは思わなかった。思わず早く通信切っちゃったよ。
先程のリーナの様子にメトロンはそう思った。
最初はリーナに【天使化】の許可を出す気はなかった。何故かと言うと出しても無駄だと思ったからだ。
リーナが【天使化】したところであの異世界人には到底追い付けない。
夜兎のステータスを見たメトロンはそう思っていた。
夜兎のステータスは異常すぎる。
レベルはまだまだであるがステータスの上がり幅、スキルの種類がメトロン達神に届こうとしている。
それでも神と人間の壁はあるが、ただの一般の地球人がこんなこと出来るわけがない。メトロンはそう思ったが目の前の現実を受け入れるしかなかった。
このままでは不味い。いずれ神谷夜兎がメトロン達神の領域に達したら手に負えなくなる。
そうなる前にリーナに監視を任せたというのに、まさかこんな事になってしまうなんて......。
「リーナは真面目過ぎるんだよなぁ....」
リーナの真面目さには目に余るものがある。
メトロンはそう思っていたが、直ぐに気を取り直した。
「まあいっか。それも次で終わるし」
メトロンはそう言って不適な笑みを浮かべた。
神谷夜兎はいずれメトロン達神でも手に負えない強大な者になる。
ならいっそそうなる前に始末すればいい。
「リーナには悪いけど、これも未来のためだ」
真っ白な空間の中でメトロンは真顔で呟いた。その声にリーナに対する悲しみや戸惑いは一切感じられなかった。
前回のを読んでいる方は違和感を感じるかもしれませんが、リーナのステータスを一部変更しました。
おまけ
【反射速度】
「あれからリーナを見かけないが何処にいるんだろうか?」
“意外と近くにいるかもしれないねー”
「少しかまをかけてみるか」
“どんな?”
「例えばそうだなぁ.....。メトロンのばーか」
「何だと貴様!!」
「本当に出てきたよ......」
“もはや病気並みの速さだねー”
おまけは本編とは何ら関係ありません。




