生き倒れに遭遇しました
さて、どうしたもんか.......。
俺は目の前で倒れている女生徒をじっと眺めていた。まさか、生きていく中で生き倒れに遭遇するとは。ある意味貴重な体験だな。
どうする、取り敢えず声でも掛けるか。流石にここで見捨てるのも後味が悪いしな。
「おーい、大丈夫かー?」
「........」
返事がない。只の屍のようだ。
いや、屍じゃ駄目か。返事がないがちゃんと生きてるだろうか。取り敢えず体を起こすか。
俺はそう思い体を仰向けにした。
見るとその顔は一言で言えば美人だった。
白い肌にサイドテールにした茶髪、少し小柄ながらも出るところは出ていて、美人の一言につきる顔立ちだった。
しかしどうしたもんか。体を仰向けにしたのはいいが、この子が美人だったという以外何も変わらない。よく見れば胸元に俺と同じ花が飾られられている。同じ一年ということか。
「ていうか鑑定してみればよくね?」
そういえば鑑定使えば状態異常は分かるんだった。もっと早く気づくべきだったな。
というわけで、俺はこの子に鑑定をしてみた。
釜石沙耶香 16歳 女 人族 Lv1 貧血
体力 200/200
魔力 100/100
スキル
料理 清掃 裁縫 虚弱体質
どうやら貧血で倒れたみたいだな。名前は釜石紗耶香か。レベルが1なのは当たり前として家事スキルめっちゃ持ってるなこの子。
普通スキルを得るまでは結構な年数と経験が必要なんだが、この子はかなり家事が得意みたいだな。貧血の原因はこの虚弱体質のせいだ。
どうやらこの釜石さんは体が弱いみたいだ。そのせいで歩いている途中で貧血を起こし倒れたって感じか。
原因は分かったがどうするか。このまま放置するわけにはいかないし、取り敢えず保健室に運ぶか。俺はそう思い釜石さんを背中におんぶした。
背中に軟らかい感触がするがこれは致し方ない事だ。そう、全く持って致し方ない。
...........少し遠回りしようかな。
何て馬鹿な事も考えたが俺は素直に真っ直ぐ保健室に向かった。いやはや、役得だったな。
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保健室に着き俺は先生の指示の下彼女をベッドの上に寝かせた。
「どうやら貧血みたいね」
保健室の先生が女生徒を見て言った。知ってます。ステータス見たんで。
「この子はこのまま寝かせておくとして、貴方はどうする?本来なら今からでも入学式に出るべきなんだけど、正直私は別にどっちでもいいと思うのよね。入学式何てめんどくさいだけだし」
いやあんた先生だろ。先生がそんなこと言っちゃ駄目だろ。
だがまあ、出たくないのは確かにそうだな。
「じゃあ、ここに残って見てていいですか?」
「いいわよ」
あっさり了承してくれた。この先生適当だな。
「それじゃあ、私ちょっと仕事があるからこの子の事見ててあげて。入学式は出なくていいから」
「分かりました」
「それじゃあお願いね」
そう言って先生は保健室を出ていった。
正直この状況は有難い。退屈な入学式に出なくていいならこれもありだな。
しかし暇だな。入学式に出るよりはましだがこれもこれで暇だ。
「.......俺も寝るか」
俺はベッドの側にある椅子に座り肘を膝につけ顎を支える体勢をとった。
そうだ、寝る前にあれをしとかなければ、
「エクスリープ」
俺の体は少し光り体が少し温かくなった。これ使うとぐっすり寝られるんだよな。
これなしではもう寝られん。俺は心の中でそう言うと早々に眠りに就いた。
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「う.....うぅん...ここは?....」
気がつくと私はベッドの上にいた。ここは何処だろう?私は確か学校に早く着いたからその辺を散歩していたら急に目眩がして........そうだ!倒れたんだった!
でも何でそれが今ではベッドの上に居るんだろ?私は首を傾げていると不意に視線を横にずらした。そこには膝に肘を付けながら寝ている男の人がいた。
男の人!?
どうしよう!私男の人は苦手なのに.......。
私は少し体を後ろに引くと近くにあった机にぶつかって物音を建てた。
「.......んあ?」
すると物音で起きたのか、その人はゆっくりと目を開け大きなあくびをしながら体を伸ばした。
やがてこちらに気づいたのか目線があった。
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目が覚め俺はあくびをしていると目の前には先程まで寝ていた少女がこちらを見ていた。
「ん?起きてたのか」
「えっと....はい、今さっき...」
「そうか、気分はどうだ?」
「大丈夫....です。あの、私どうしてここに?」
「校内で倒れてたのを見つけたんで、取り敢えず保健室に運んできた」
「そうなんですか....えっと、ありがとうございます」
「気にするな、偶々見かけただけだしな。それに俺もお前のお陰で入学式サボれたしお互い様だ」
「は、はあ.......」
何処か間の抜けた彼女はまだ状況が理解できてないのか気の抜けた返事をした。
そして何故か話をする度に少しずつ離れていくのは気のせいだろうか。
「あら、起きたのね。丁度良いわ。もうすぐ入学式が終わるから貴方達は先に教室の方に行ってなさい」
丁度そこに先生が帰ってきて俺達に教室に行くように言った。
「分かりました。そんじゃあ行くか。立てるか?」
「う、うん。大丈夫」
そう言って彼女はベッドから立ち上がり、一緒に教室へと向かった。
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「そういえば、お前はなん組なんだ?」
「え、えっと、に、二組だよ」
「俺も二組だ。これからよろしくな」
「う、うん。よろしくね......」
俺と釜石さんは一緒に教室へと歩いてるんだが、釜石さんは男が苦手だろうか、精神的にも物理的にも距離を感じる。
「......なあ」
「な、なに!?」
釜石さんは俺の言葉にビクッと反応した。意外と傷付くなそれ。
「男が苦手なら先行こうか?」
「え!?い、いいよ!そんな気を遣わなくても!そ、それにそれだと何だか悪いし........」
釜石さんは段々と消え行きそうな声になりながらも言った。何この子めっちゃええ子やん。
「まあ、ならいいけど」
そう言って俺達は無言のまま歩いた。
釜石さんはチラチラとこちらを伺っているが特に話し掛けてくる様子はない。何か気まずいな。
「あ、あの!」
すると釜石さんは急に立ち止まり俺に声を掛けた。
「さ、さっきは本当にありがとう。私、体が弱いから、よく倒れちゃったりするの」
それが言いたかったのか釜石さんは俺の目を見ながら話終えると我慢出来なくなったのか俯いた。さっきからそれが言いたくてチラチラ見ていたのか。やっぱりめっちゃええ子やなこの子。
「気にするな。さっきも言ったが本当に偶々見かけただけだしな。そんな畏まって礼を言う必要はないぞ。釜石さん」
「い、いやでも.....あれ?どうして私の名前知ってるの?」
おっとしまった。つい口が滑った。
自分の名前を聞いて釜石さんは不思議そうに言った。
「あー......さっき、保健室の先生に聞いた」
「何だ、そうだったんだ」
どうやら納得してくれたようだ。危なかった。次からは気を付けよう。
「えっと、じゃ、じゃあ君の名前も、教えて貰っていい?」
すると今度は少し恥ずかしそうにしながら釜石さんは聞いてきた。何これ可愛い。
「俺は神谷夜兎。よろしくな釜石さん」
「うん!よろしくね!神谷君」
そう言って俺達は再び教室まで歩いた。
その間で釜石さんとの距離が二つの意味で縮まった気がする。
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