視線が合っただけでこいつ俺の事好きなんじゃね?と思わない方がいい
また長くなってしまった....。
よく晴れた日の空の上空で、一人の少女が浮いていた。少女は真下にあるとある建物をじっと見つめている。まるで仕事の下見にでも来ているかのように。
「ここか......」
少女はそう言うとその建物、即ち学校の中にいる人物をじっと観察した。
「あれが今回の対象か」
その人物は机に突っ伏し惰眠を貪っている。
授業中だというのにぐうすかと寝息を立て、それを教師が咎めようとしても何かを言って再び眠った。
授業中に寝るとは何て奴だ。
少女は少し憤慨しそうになったが直ぐに自分の考えを捨てた。
これも任務、私はそれをただ完璧にこなすだけだ。
少女は心の中で自制心を利かせ、観察対象と接触をするため次なる行動にでた。
観察対象、神谷夜兎の........。
ーーーーーーーーーーーーーー
何時もと変わらない朝の教室、今俺のクラスではある話題で盛り上がっていた。
「ねぇねぇ聞いた!今日転校生が来るんだって!」
「聞いた聞いた!何でも海外からの留学生らしいね!」
「どんな子なんだろな!」
「可愛かったりしてな!」
クラスの男子や女子はそれぞれ別の方向でわくわくしながら話している。
教室には真新しい机と椅子が置かれていて、皆それに視線を集めている。
転校生か。この時期に珍しいな。
俺は何となくそう思ったが、特にどうも思う事はなかった。
あんまり興味ないな。
「ねぇ神谷君聞いた!今日転校生が来るんだって!!」
だがここにも転校生が来ることにわくわくしている人がいた。
釜石さん、俺の興味なさそうな感じから察してくれてもいいんじゃないか?
俺はそう思ったが取り敢えず話を合わせておいた。
「あぁ、そうみたいだな」
「どんな子なんだろうね!」
「海外からの留学生って噂だぞ」
俺は周りから聞いた話を釜石さんに言うと、釜石さんは俺の態度から察したのか聞いてきた。
「あれ?神谷君もしかして興味ないの?」
「正直言って」
俺の言葉に釜石さんは申し訳なさそうにしながら言った。
「ごめんね。勝手に一人で盛り上がっちゃって」
「いや、釜石さんのせいじゃない。俺がおかしいだけだ」
普通なら少なからずとも転校生に興味を抱くのものだが、俺は違う。
人が一人増える。それだけの話だ。まあ、俺の知り合いとかなら話は別だが。俺に知り合いはいないけど。
「でも何でそんなに興味ないの?」
「何でと言われても、興味ないものはないからな」
俺がそう言うと釜石さんは「へぇー」と言い、それと同時に担任の武堂が教室の中に入ってきた。武堂が入ってきた事でさっきまで話していたクラスの連中は全員席に着いた。
「普通なら読書の時間になるが、今日は知っての通り転校生が来るので読書はなしだ」
そう言うと武堂は教室のドアの方を向いた。
「それじゃあ、入ってきてくれ」
武堂の指示によりドアが開かれると、そこから凛々しい姿で颯爽と歩く少女が入ってきた。
「初めまして、リーナ・ホワイトです。よろしくお願いします」
リーナと名乗るその少女は礼儀正しくお辞儀をすると、クラスの連中、主に男子が騒ぎだした。
「おお!!可愛い!!」
「白髪美人来たぁ!!」
「まだ世の中にはあんな娘がいたのか!!」
白髪のショートカットにキリッとした目付きの美人な容姿をしたリーナにクラスの男子は歓声を送っている。
だがそんな男子の歓声にリーナは顔色一つ変えず佇んでいた。 確かに美人なのが来たな。
俺も他の男子と少なからず同じことを思っていたその時ーーーーー
(ん?何か一瞬目が合ったよな?)
チラッとだが、確かに一瞬リーナと目が合った。
だが本当に一瞬だった為見間違いだと思い、特に気には止めなかった。
(気のせいか......)
俺はそう思い二の腕を枕にしながら楽な体勢を取る。
教室はまだリーナのことで騒いでいたが、俺は一人早く終わらないかと心の中で呟いていた。
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ホームルームが終わり教室内では既にリーナの周りに人だかりが出来ていた。
「ホワイトさんって何処から来たの?」
「何で日本に来たの?仕事の都合?」
「日本語上手だね。勉強したの?」
「今付き合っている彼氏とかいる?」
クラスの連中は各々好き勝手に質問をするが、リーナは特に困った様子を見せず冷静に「遠くからです」「そんな所です」「多少なりと」「いません」と淡々に質問を返していく。
「何か変わった娘だね」
それを遠くから見ていた釜石さんは言った。
「確かに少し変わってるな」
あそこまで物怖じしないのは地味に凄いな。まるで機械みたいだ。
冷静に淡々と質問を返すリーナにクラスの連中は若干戸惑っているが、リーナは依然と目を閉じて礼儀正しく座っている。
まるでどうでもいいとでも言っているかのような態度を取っているリーナを俺は何となく見つめていると、
(またこっちを見た?)
またリーナと視線が合った。
しかも今度は一瞬ではなく少し長めに視線が合った。先程まで微動だにしなかったリーナが動いたことにクラスの連中は驚き、リーナが向いた方を見た。それと同時に俺は関係ないと言わんばかりに視線を反らした。
勘違いされるのは御免だ。
「あれ?今こっち見なかった?」
釜石さんも気づいたのか不思議そうに首を傾げている。
「きっと釜石さんの事が気になったんじゃないか?」
「私を?」
「あぁ、釜石さんその辺の人より可愛いからな」
「か、可愛いって!!そ、そんなことないよ......」
リーナが俺を見た事を誤魔化す為に言った言葉を、釜石さんは顔を赤くしながら恥ずかしそうに顔を俯かせた。
クラスの連中はそれを見て「何だ」と思ったのか直ぐに視線を戻した。
俺は誤魔化せたことに安心すると、前の席で釜石さんは「可愛い.....可愛いって言ってくれた」とぶつぶつ小声で呟いている。
誤魔化す言葉間違えたかな。
小声で呟きながら少し嬉しそうにする釜石さんを見て俺はそう思った。
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授業が終わり皆帰りの支度を済ませている時、俺は今日の事を思い返した。
あれからもリーナはちょくちょくとだが俺の事を見てきている。
一瞬もしかしてこいつ俺の事好きなんじゃね?という考えが浮かんだがどうやらそれは違った。
何回か視線が合って分かったんだが、リーナが俺を見る目は何処か少し警戒しているような目をしていた。
そんな目をしているのに俺を好きになる筈がない。
ただ釜石さんはそうは思っていないみたいで、「まさか神谷君の事......」と言いながら別の意味でリーナを警戒している。
それは絶対ないからリーナを凝視するのは止めなさい。
俺は今だリーナを凝視している釜石さんに苦笑いしていると、手にくじ引きの箱らしき物を持った担任の武堂が入ってきた。
「皆急で悪いが、今から席替えをする」
武堂の言葉にクラスの一部は喜ぶ者、嫌がる者に分かれそれぞれ声をあげた。
その中で俺は嫌がる方だ。
折角右端といういい席に座ったというのに何故変えなくちゃいけない。
「いやー、前からやろうと思ってたんだがすっかり忘れててな。ホワイトが転校してきていい機会だと思ってくじを用意してきた」
そう言って武堂は教卓の上にくじの箱を置いた。クラスの中ではこれを聞いて「これでリーナちゃんと隣になれる!」「これはお近づきになるチャンスだ!」と意気込んでいる奴が何人かいる。 元気だなあいつら。
それを聞いてもリーナは涼しい顔をしながら礼儀正しく座っている。本当に動じないな。
「席替え.......」
その中で釜石さんは席替えと聞いて神妙な顔付きをしていた。
「どうしたんだ?釜石さん」
「これで神谷君と離ればなれになったら私どうしよう.....」
そう言って釜石さんは不安そうな顔をしていた。
確かに友達が俺しかいない釜石さんに取ってこれは重要な問題だろうな。
それに引き換え俺はそこまで不安に思っていない。ただ寝るだけだからな。
「それじゃあ端の席の奴がじゃんけんして勝った方から順番に引いてけよ」
そう武堂が指示を出すと、席の端にいる奴がじゃんけんを始めた。結果は俺がいる方からとなり前の奴がくじを引くため席を立った。
そしてどんどん前の奴がくじを引いていき、釜石さんの番になった。
くじの前で「どうか神谷君の近くの席になりますように」と引く前に祈っていたが、俺まだ引いてないからそれやってもあんま意味ないだろ。
釜石さんは祈りながらくじを引くと、引いたのは今と同じ席の番号だった。
この結果に釜石さんはまだ喜んでおらず、席に戻り俺の方をじっと見つめる。
全ては俺次第ってことか。
等々俺の番になり黒板の座席表を見た。
俺がまた同じ席に座るためには『6番』のくじを引かなければならない。
だがそんなこと今の俺なら造作もない。
何故ならレベルを上げた事により運も上がっている俺なら必ず引けるに違いないからだ。
俺は余裕の表情で手をくじの箱の中に入れた。 少しがさごそと音を建てながらくじを引くと、そこには『6番』と書かれていた。
「何だ神谷はまた同じ席か。お前は前の方がいいんじゃないか?」
担任の武堂が少し皮肉混じりな事を言ってきたが、俺は「嫌ですよ」と言って自分の席に戻る。
席に戻ると釜石さんが嬉しそうな顔をしながら出迎えてくれた。
「やったね神谷君!また同じ席だよ!」
「そうだな」
嬉しそうにする釜石さんに俺は微笑みながら言った。我ながら上手くいったな。
俺はまた同じ席になり安心していると、クラスの男子が少しざわつき始めた。
「おい、次リーナちゃんの番だぞ」
「頼む!俺の近くに来てくれ!」
「いいや俺に!」
「俺の所に!」
男子連中が懇願しているなか、リーナはゆっくりとくじの箱に手を入れた。
その間クラスは何故か静まり返りリーナの引くくじをじっと見つめる。
何この状況?
俺はこの状況がよく分からなかったが、取り敢えず流れに合わせて静かにしていた。
リーナの手がくじの箱から離れ手には一枚の紙が握られている。
握られた紙の中には『12番』と書かれていた。
「うあー!!何てこった!!」
「神は我を見放したか!!」
「運命は残酷だ!!」
書かれた番号を見て近くになれなかったクラスの男子は絶望していた。
そこまで落ち込むか?普通。
俺は落ち込んでいる男子達を見てそう思ったが、あの番号を見て俺はまさかと思い黒板を見た。
見ると俺の隣の席に『12』と書かれている。
やっぱり俺の隣か。
リーナが俺の隣の席になったと分かり俺はチラッとリーナを見ると、
(またこっちを見てる......)
またリーナがこちらを見ていた。
本当、いったい何なんだ?俺何かしたか?
俺は他の人のくじが終わるまで色々考えてみたが、何も思い付く事はなかった。
くじも引き終わりクラスの皆は一斉に自分が引いた席に移動した。
リーナも席を移動し俺の隣の席に座ると、俺は何となく声をかけた。
「よ、よろしく」
「.........」
俺の言葉にリーナは無言のまま前を向いた。
何かやりづらいな。
俺は隣で礼儀正しく座っているリーナを横目で見ながらそう思った。
おまけ
【席替え交渉】
席替え終わりの放課後。
「頼む神谷!!俺と席変わってくれ!!」
「いや、俺と!!」
「いや俺の席と!!」
「何だお前ら?言っとくがこの席を変わる気はないぞ」
「そんな事言わずにさ!!俺の席前のでかい奴のせいで教師に見つかりにくいから!!」
「ふっそんなんで釣られるか.......因みにお前の席は何処だ?」
「神谷君?」
「すいません何でもないです」
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