魔法を手品って言い張るのは無理があるな
ドラゴンに襲われていた相手が夏蓮であることに俺は驚いていた。
何で夏蓮がここにいるんだ?この時間帯じゃ家にいる筈だろ?
「お前何してんだ?こんな所で」
「......いや、そっちこそ何してんの?」
質問する俺に夏蓮は倒れているドラゴンを見ながら質問で返してきた。
まあ、そう言いたくはなるわな。
自分が何をしているかより目の前でドラゴンと戦ってる人の方が気になるに決まっている。
「あー、ドラゴン退治?」
「何で疑問系になるの?」
言い方に迷って何か疑問系になってしまった。
俺の言い方に夏蓮は変に思っていると、急に顔色を変え慌て出した。
「ちょ!後ろ!!」
夏蓮は騒ぎながら俺の後ろを指差した。
俺の後ろではドラゴンが起き上がり俺に向かってブレスを吐き出そうとしている。
「ギャォォ!!」
だがそんなこと俺は最初から分かっていた。
俺はドラゴンに後ろを向きながら足をトンッと地面に一回鳴らした。
「しつこい」
すると俺とドラゴンの間に土の壁が出現し、ドラゴンのブレスが土の壁によって遮られた。
散々弱りきったドラゴンのブレスなんて土の壁で十分だ。
「いい加減くたばれ」
俺は壁越しでドラゴンにそう言うと見えない所で風の刃でドラゴンの首を切り落とした。
態々壁越しなのは夏蓮にグロテスクな場面は見せたくない為の配慮だ。
「ギャォォアァァ........」
壁で見えないがドラゴンの首は確かに切り落とされ弱々しい最後の叫びが聞こえたと共にドラゴンは光の粒子となって消えていった。
今度こそ倒したな。
「......何?今の?」
ドラゴンが消滅し俺は安堵していると、今の俺の力を見て夏蓮は唖然としていた。
あ、やべ。つい何時もの様に使っちゃった。
いやまあ、どっちにしろさっきの戦いでバレてるようなもんか。だがそうだとして夏蓮に何て言うか。
俺は夏蓮にこの力の事をどう説明するか迷っていると
「えーっと.....て、手品」
苦し紛れの言葉が出た。
「いや、そんなわけないでしょ」
俺の言葉に夏蓮は馬鹿かという感じで言ってきた。だよな俺も自分で言ってそう思ったぞ。
何だよ手品って、これじゃあ何時かのおっさんと一緒じゃねぇか。
「っとそうだ。今はそんなことより」
この事態をどうにかするのが先だな。
今頃街の方じゃ凄い騒ぎになっているだろうからな。俺は先ずこの状況に終止符を打つべく一つの魔法を創った。
“スキル、【削除魔法】を習得しました”
これでよし。これで街の人の記憶とついでにそれに関する物全てを消す事ができる。俺は早速街の人の記憶を消す為【削除魔法】を使った。
先ず【空間魔法】で範囲の指定。範囲は夏蓮以外のこの街の人全てだ。何故夏蓮以外かと言うと、多分この魔法を使うと俺は魔力切れを起こし気絶する。
だから一人でも記憶が残っていた方がいい。最悪夏蓮なら俺の力について話してもいいと思っているしな。範囲の指定も終わり俺は【削除魔法】を使い人々のドラゴンに関しての全ての記憶とそれに関する物全てを削除した。
(削除、開始)
俺は心の中でそう唱えると体から力が抜けていく感じがする。
どんどん魔力がなくなっていく証拠だ。
俺は魔力がなくなっていくのを感じていると、急に頭痛がしだした。やっぱり来たか。
「え、ちょ、どうしたの?」
急に俺が手で頭を抑えだしたのが夏蓮が俺に少し驚きながら俺に近づいてきた。
そうだ。先ずこの事を夏蓮に言わなくちゃな。
「夏蓮..俺は今から.....少し..気絶するから...後....よろしく....」
俺は意識が飛びそうな所を必死に耐えながら夏蓮に伝えた。
“スキル、【精神耐性】を習得しました”
すると必死に耐えたのが功を奏したのか、新しいスキルが手に入った。
これはありがたい。これで気絶時間も少しは軽減出来るだろう。
俺は思わぬスキル取得にラッキーと思いながら意識を手放した。
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今私は少し混乱している。
ドラゴンが来たと思ったらお兄ちゃんが来るし、そのお兄ちゃんが変な技を使ってドラゴン倒しちゃうし、事情を聞こうと思ったらお兄ちゃん何か気絶しちゃうしで訳が分からなくなってきた。
今お兄ちゃんは私の膝の上で気絶している。このまま地面に寝かせるのもあれだと思ったから膝枕で寝かせている。
下が地面なのが少し痛いが気にするほどではない。私は状況が飲み込めずよく分からないでいたが、
「また、助けられちゃったな」
自分はまたお兄ちゃんに助けられたという事実は分かった。
本当、何時も何時もこういうタイミングで助けに来るんだから。あの時だってそうだった。
あの時というのは私が小学校の頃虐められていた時の話である。
当時まだ虐めに対する対策や反撃する度胸もなかった私は何時もクラスの女子に虐められていた。
『神谷ちゃん何で学校に来るの?』
『もう来なくていいよ』
『目障りなの』
誰もいない場所でクラスの女子に囲まれ次々と浴びせられる罵倒に私は泣きながら耳を塞いでいた。
もうこんなの嫌、もう死にたい。
私は全てが嫌になりそうになったその時、
『お前ら家の妹に何してんの?』
私のお兄ちゃんが現れた。
お兄ちゃんはその頃から何処か達観していて何時も物静かな性格をしていた。
そこからお兄ちゃんは虐めをしていた女子と口論になったが、
『お前らそんなんやってて楽しいか?』
『やってることがしょうもなさすぎ』
『そんなんやってる暇があんなら別のことしろ』
『目障りなのはお前らなんだよ』
次々と出てくるお兄ちゃんの言葉に女子達は怯み逃げる様にして去っていった。
それを見送るとお兄ちゃんは地べたに座っている私に手を差し伸べた。
『帰ろう、夏蓮』
その言葉に私は心に来たのかまた別の意味で泣き出した。そのせいでお兄ちゃんが少しおろおろしていたのは今でも覚えている。
でもお兄ちゃんが凄いのはここからだった。
翌日私はまた学校に行くと何とクラスの女子からの虐めはなくなった。
何故なら誰かが私が虐められた様子を写真や映像にして学校中にばらまかれていたからだ。
その誰かというのは言うまでもなくお兄ちゃんだろう。本人はそんなの知らないというけど、私は絶対お兄ちゃんだと確信している。だってお兄ちゃん、嘘隠すの下手だから。
こうして私の虐めが明るみに出て私を虐めていたクラスの女子は他校に転校していった。
今回もお兄ちゃんは知らないと言い張るかもしれないけど、今度は絶対真実を言わせてみせる。
「ありがとう.....お兄ちゃん」
私は気絶しているお兄ちゃんにそう言った。
その顔は何処か嬉しそうで、口許が少し緩んでいた。
おまけ
【引っ掛け】
夏蓮と夜兎が小学生の時、
「写真ばら蒔いたのお兄ちゃんだよね」
「違うよ」
「お兄ちゃんなんでしょ?」
「だから違うって」
「じゃあお兄ちゃんじゃないんでしょ?」
「違うって......あ」
「やっぱお兄ちゃんなんだ」
「いや今のはせこいだろ」
「言質は取った」
「お前それ何処で覚えた」
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何か段々思い付かなくなってきたんでおまけは一話につき一つで。
ブックマーク、評価よろしくお願いします。




