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終わるには終わった

おひさ

「もうあんなのは御免だ」



自室で寝ながらボヤく。

あの日からまたいつもの日常が始まった。

剛督を連れ戻してからごたごたはあったものの、こうして自宅で寝そべれるようになったのはたまらなく嬉しい。



「ねぇ」



噛み締めてるのも束の間、突然夏蓮が部屋に入ってきた。



「……どうした?」

「また連れてって」



主語がないが、どこかはハッキリ分かる。



「また神社か?」

「そう」



最近、神社から帰ってからというもの、夏蓮はなにかと神社に行きたがっている。

理由は狐達に会いたいということだが、正直別の理由があるんじゃないかと疑っている。

神社で夏蓮を連れて帰る時、どこか夏蓮は心ここに在らずといった感じだったから。



「最近そればっかだな。なんか神社であったか?」

「特にない。ただ、暇だからあの子達会いたくなったの」



本当にそうだろうか。



「早く行こ」



そう言って俺に腕につけてるブレスレットを見せてくる。



「行く気満々だな」

『あの……夜兎様』



いきなり、頭のなかで黄花の声が聞こえてきた。



『なんだ?』

『その、少し相談が………』



急かす夏蓮を少し置いておき、言いづらそうにしながら相談をもちかける黄花に耳を傾ける。



『どうした?』

『実は、黒姫様から頼み事をされまして……』



余程のことか歯切れが悪い。



『えっと…人間界を見てみたいそうです』

「え、まじ?」

「え?」



あまりの事に思わず声が出てしまった。

いきなり脈絡もなく声を上げるものだから、夏蓮が驚いている。

元来、妖怪は人間界から隔絶された異空間に住んでて今に至るまで人間界と何一つ関わってこなかった。



『なんで今更?』

『この前のいざこざで黒姫様や他の五芒星達も夜兎様、ひいては人間に興味を持ったらしく。今後なにか役に立つかもしれないと』



今度は夏蓮に驚かれないように声に出さず会話はするが、いきなりどうしたんだ。

どうせ普通の人間には見えないんだから、勝手に行けばいいのに。



『それなら、人間界のことをよく知ってる夜兎様がいた方がいいとなったらしく……』



要は、案内役か。

まあ、どこを見に行くかはさておき、都会の姿なんてみたら全員パニクるだろうな。



『ちなみに、それっていつだ?』

『えっと、それが今からでして』

『今!?』



あまりにも急すぎる。



『決めたら即行動に移るお人でして…大変申し訳ございません……』



そっちも苦労してるのか、声が疲れてる。

黄花にあれこれ言うのは筋違いか……。



『そしたら、どうしたらいい。一回、そっちの神社に行けばいいのか?』

『はい、お願い致します。実はもう既に黒姫様達がこちらに来ていますので』



もういるのか。準備がよすぎる。



『すぐ行く』

『ありがとうございます。夜兎様』



話が終わったところで、俺はすぐに立ち上がった。



「悪い夏蓮、用事ができたから、また今度な」

「えっ?」



急に無言になって、急に立ち上がられて、急に断られた。

夏蓮からしたら訳分からないだろう。



「……なんか、妖怪達の方であった?」



先日の事があったからか、はたまたただの勘か。

どちらにせよ、当てられたなら俺はもう隠すもつもりはない。



「そうだ」

「なら、また私も行く」

「今回はダメな」



言うと想像がついていたので即却下する。



「なんで?」

「なんでもだ」



妖怪の王様や他の妖怪がいると言ったら、益々行きたくなるだろう。

神社(あそこ)に夏蓮を連れて行くわけにはいかない。

黄花だけならまだしも、他の妖怪達に夏蓮を会わせるのは不安要素しかない。



「だから、また今度一緒に行こうな」



そう言って俺は不満そうな夏蓮を置いて靴を取りに部屋を出た。



_______




神社に着いたら、すぐ目の前には黄花の言う通り全員が揃っていた。



「お、本当に来たな」

「便利じゃのぉ」

「さっきから黄花黙ったままだったのに、不思議ね」



俺が現れ、五芒星達が興味深そうに俺と黄花を見渡した。



「突然人を呼び出すなよ」

「いやー、あんさんなら来てくれると思っとったで」



五芒星達の間を抜けて、嬉しそうにしながら黒姫が前に出てきた。



「聞いたで。あんさん黄花と人間界を回ったそうやな」



バレてるや否や、俺は思わず黄花の方に視線を向けた。



「すいません、夜兎様。つい…」



意外とおしゃべりだな、黄花は。



「そういえば、あの小狐達はどうした?」

「あの子達なら、神社のなかにいてもらってます」



周りを見渡しても見かけないと思ったら、そういうことか。



「一応聞くが本当に見学するだけだよな。間違っても人間を襲うなよ」

「そんなことせん。あんさんには恩があるんやさかい。その辺は守る」



だったらいいんだけどな。



「それに目的は見学するだけちゃうんよ」



黒姫が後ろに視線を向けると、また間を抜けて気まずそうに視線わ逸らす剛督が出てきた。



「あ、お前」

「っ!?」



俺が口を開けると、剛督は怯えたよう身体を震わせる。

またか……。



「気にせんといてな」

「分かってるよ」



目が冷めてから、剛督は俺に対してずっとこんな調子だ。

どうやら妖魔に取り憑かれた時のことを覚えているらしく、何度も殴った俺に対して思わず条件反射でこうなるらしい。



「そいつも連れてくのか?」

「目的の一つとして、剛督に人間界を見せるためでもあるんや」

「こいつに?」

「まだ、剛督達の処遇については決めかねてるんやけど、それ決める前に剛督達の人間への感情をどうにかせなあかん。ほら、いくら人間への干渉を禁止したといえど、心のなかに一度抱いた感情はそう簡単には収まりがつかへんやろ?だから、一度人間界を見て少しでも気持ちが変わればと思うんや。剛督はその天狗達の代表や」



あんなことがあった後でも、黒姫は剛督のことを考えている。

剛督を連れ戻してから、事情を知った天狗達は自分達のやった罪の罪悪感に押し潰されていた。

それは剛督も同じで、その場にいた俺達に自分を殺してくれと懇願する程だった。

だがそれでも、黒姫は剛督を見捨てなかった。



「いいのか?もし、実際に見に行ってもっと人間に嫌気が差したら」

「うちらは今まで無知がすぎた。人間のことも少しは知るべきなんや」



妖怪達の中での人間へのイメージはあの頃で止まっている。

だが、それが今ここで変わろうとしている。



「お、俺からも是非お願いしたい!」



突然、怯えていた剛督が俺と目を合わせてはいないがはっきりと自分の思いを言葉にしている。



「あんたに助けられるまで、俺は多くの同胞達を殺した。それは、俺が憎んでいた人間への感情のせいでもある。取り憑かれたからしょうがないと言えばそれまでだが、俺もこのままではいかんと思っているんだ」



覚悟は本物のようだ。怯えながらも必死に頼んでくる。



「夜兎様、私からもお願い致します」

「俺達からも頼む」

「もうこれ以上目を背ける訳にはいかないの」



剛督に続いて黄花や五芒星達にまで頭を下げてきた。

こうもここまで全員に頼まれると、さすがに俺も断りづらい。



「待て待て、誰もやらないとは言ってないだろ。やるからそういうのはやめろ」



そういうのは、むず痒い。



「ほんま?」



了承した途端、必死さが消えた。

いやこいつ……。



「ほんまだよ。ちなみにどこに行きたいんだ?」

「ほな、人間界で一番栄えてるとこに行ってみたいわ」



栄えているところ、そう言われてパッと思いつくのは東京駅とか新宿駅周辺とかだろうか。



「じゃあ、連れてってやるから全員俺に掴まりな」



呆れながら手を突き出すと、黄花と黒姫だけは素直に応じた。



「?どうかしたか」

「…あぁ、そういえば、お前は一瞬でどこでも移動できるんだったな」

「すっかり忘れとった」

「私も」



まだ俺の転移に慣れてなかったか、遅れて続々と俺の腕に掴まってくる。



「……そういえば、俺も殴られる時そんなの使ってたな」



遅れて、怯えながら剛督もおそるおそる腕に掴まる。



「なにしてるんだ、紅魔」

「置いてくわよ」

「……」

「紅魔?」



ただその中で、黄花の呼び掛けにも応えず、紅魔だけはこっちを見ならがら躊躇していた。



「この俺が人間の手に触れる時が来るとは……」



前の黒姫みたく少し抵抗があるようだ。



「あいつはほっといて先に行こう」

「そうね、どうせ一人で飛んでくるでしょ」



急に徳蒼と緑葉が冷たくあしらいだした。



「いや待て待て!誰も行かねぇとは言ってないだろ!」



すると、紅魔は慌てだしすぐに俺に掴みにいった。



「お前ら仲良いな」



言い争いが目立つが、俺の目には気心が知れた仲のように映る。



「私達は子供の頃からのお友達なんです」

「特にこいつは昔のまんまだ」

「成長ないのよ」

「はぁ!?舐めんじゃねぇぞ!」



こういうのは昔からってことか。



「じゃあ、行くぞ」



その掛け声と共に、俺達は神社を後にする。

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[一言] 二年ぶり。待ってました。
[良い点] 更新おつ
[一言] やったー
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