心が晴れません
兵士の放った一言は、この場にいる誰もが息を呑むものだった。
「それほんまか?」
「はい!見回りをしていた者が発見したようで、こちらに向かって来ています!」
真剣な面持ちで確認する黒姫に、兵士は緊張気味に返す。
妖魔が現れた。その言葉だけで、あの恐ろしさを体験しているこの場の全員の心をざわつかせるには十分なものだ。
妖魔は妖怪が心から悪に染まった姿。人間、妖怪関係なしに暴虐の限りを尽くすその姿は、この場にいる全員がよく理解している。
なんで急に妖魔なんかでてくるんだ。
一瞬そう思ったが、俺は先程感じた視線を思い出した。
まさか、いや、まさかな.......。
瞬時にとある考えが思い浮かんだが、俺は否定するように頭を横に振る。
しかし、一度頭をよぎった考えはそう簡単に消せるはずもなく。
また俺の頭のなかで浮上し始めた。
俺が壊した封印の岩が原因だったりして.....。
「なぁ、ここは妖魔ってよくでるのか?」
「そんなの有り得ません。妖魔は本来一度起きたら災害と呼ばれるほどの恐ろしいものです。そうそう起きるわけがありません」
ですよね。毎回出てきたらこの国滅ぶよな。
こっそり黄花に確認するも当たり前のように返され、俺は胸のうちがざわついた。
じゃあ、やっぱりあれのせいなのか。
タイミング的に、偶然と片付けるのは余りにも難しすぎる。
もし本当に俺が壊したあれが原因ならば、この事態は俺が招いたということになる。
「いったい、誰なんや?その妖魔になったのは」
「報告によれば、がしゃどくろ一人のようです!」
黒姫の質問に兵士は全員にはっきり聞こえるよう、大きな声で応える。
がしゃどくろって、あのデカイ骸骨みたいなやつだったよな?
聞き覚えのある名前に俺はイメージしてると、不可解なのか紅磨の口から「がしゃどくろ?」と声が漏れた。
「あいつって、ここよりもっと山奥に住処があったよな?なんでそんなやつが妖魔になるんだよ」
紅磨の言ってることは尤もなのか、誰もそれに対して反論しない。
「とにかくここでじっとしている場合ちゃう。皆急いで向かうで」
黒姫のかけ声に、全員頷き急いで試合場を出ていく。
「夜兎様、私達も行きましょう」
「あ、あぁ。そうだな」
黄花に促され、俺は黒姫達と一緒に試合場を後にする。
なにはともあれ、自分の目で確かめるしかないな。
そして、俺のせいなら速攻で倒そう。真実を揉み消す。
これ以上面倒な反感を買わないために、俺は胸のうちのざわめきを悟られないよう、静かに思った。
――――――――――――――
「報告があったのはこの先のようです」
「そうか」
黄花から妖魔の居場所を知らされ、俺は一刻も早く見つけられるよう目を凝らす。
まだ、目的の妖魔の姿は見えない。
空を飛んでの移動なので、この分なら見えてくるまで時間の問題だろう。
「にしても.......」
思うと同時に、俺はなんとも言えない目で視線を横にずらす。
「なんか、物々しいな」
俺がそう言うのも無理はない話だった。
横で俺と並走している黄花達は、皆人型から本来の姿に戻って飛行している。
すなわち、俺以外まともな人間はいないわけだ。
「飛行はこの姿でないとできませんから」
「しょうがないのよ」
黄花と緑葉に言われるも、俺としては凄く変な気分だ。
黄花の狐や、紅磨の不死鳥は見たが、緑葉は緑の大蛇、徳蒼は青い竜、白入道は顔に車輪が付いた化物。
なんだ、この百鬼夜行の群れは。
「元々翼があるうちは大丈夫なんやけどな」
「全員、見た目が恐ろしいですからなぁ」
いや、お前が一番恐ろしいわ。
真顔で言う白入道に、俺は心の底から思った。
そういえば、黒姫は人間のままだったな。
人の姿のまま自前の翼で飛ぶ黒姫は分かるが、お前はそもそも種類が違うだろ。
全員蛇やら竜やら生き物なのに、お前だけ顔がそのままでかくなって車輪がくっついた普通のお化けだからな。
「おい、あれじゃねぇのか?」
言いたいことを心で述べながら白入道を見ていると、先に気づいた紅磨が声を上げた。
あれが、がしゃどくろか。
前を見ると、そこには異様な雰囲気を放った巨大な骸骨がこちらに向かって進行していた。
一同はある程度近くまで行くと途中で停止し、その場から様子を窺う。
木々を薙ぎ倒し、岩や川などの障害もものともせず、がしゃどくろは歩いている。
やたらでかいな。
「本当に妖魔になっとるの」
「妖魔になって、ここまで歩いてきたってことかしら」
「みたいやな。あんな模様、前にはなかったわ」
驚く白入道に、緑葉が推測する。
黒姫も同意のようで、確かにあの禍々しい気配。かつて出会った妖魔とそっくりだ。
顔に縦のラインが入っていて、容姿まで変貌しているらしい。
「どうされますか。黒姫様」
確認が取れ、徳蒼は指示を仰ぐ。
迫る妖魔に、黒姫は見つめるようにして悩んだ結果。
「.......殺すしかあらへん」
冷静に決断した。
「妖魔になった以上、もう助けることはできひん。奴の行く先にはうちらの国がある。ここで止めなあかん」
国を仲間を守ることが、今は一番大事なことだと、黒姫は理解していた。
妖魔になってしまったら、もう助けることはできない。
そして、それは黄花達も同じことで、全員反論一つせず、神妙に頷く。
その直後だった。
突然、歩くだけだったがしゃどくろの腕が大きく振り上がった。
なにもないところで重々しく上げられた腕は、遠心力を生かし目の前を薙ぎ払う。
どうしたんだ、急に。
加速した腕は木々や大地を抉り、削れた土や木は空へと打ち上がった。
俺達に攻撃したわけでもない。邪魔な障害物があったわけでもない。
それどころか、がしゃどくろはなにかを見つめるようにして攻撃を仕掛けてるように見える。
がしゃどくろの謎の行動に俺達は怪訝に思ったが、それだけでは終わらない。
突然、がしゃどくろの顔が発火した。
「な、なんや!?」
なんの予兆もなく起きたこの事態に、黒姫を含め黄花達は騒然となる。
しかも、ただの炎ではない。灰色に染まった奇怪な炎だ。
炎に包まれるがしゃどくろは、苦しそうに、だがどうすることもできずに、ただゆらゆらと揺れてもがく。
なにかおかしい......。
それを見ていた俺は、なんとも言いがたい違和感を抱いていた。
炎に包まれるがしゃどくろの顔は、徐々に一部が消滅していく。
燃えてるというよりは、消されてるようだ。
これ、なんかどっかで見たことある気がする……。
どこか既視感を覚えていると、灰色に包まれた顔は首から離れ地面に落ち、がしゃどくろは膝から崩れた。
そして身体中が光の粒子に変化していき、あっという間に消滅してしまった。
死んだ。
説明を求めようと全員顔を見合わせるが、答えを知っている者などいるはずもない。
「やったのか?」
徳蒼が一人言のように呟くが、誰も応えてやる気にもなれず、小さく頷くのみ。
なんで倒されたんだ?自滅か?
訳が分からないまま近づいてみると、がしゃどくろがいた付近に人影が見えた。
「リーナ?」
見覚えのある人物に、俺は思わずその名前を口にした。
がしゃどくろのいた跡を眺めているのかと思えば、こちらを振り向いたリーナの表情は、なぜだか暗い。
「神谷、夜兎……」
「なにやってるんだ?こんなところで」
地上に降りリーナに駆け寄ると、リーナは途端に身体を震わせ、目に涙が貯まる。
「……やってしまった」
「え?」
「つい、倒してしまった……」
焦燥しきっているリーナだが、その発言でやっと違和感の正体が分かった。
あれはお前の【無魔法の極意】だったか。通りで見覚えがあると思ったら。
先程がしゃどくろを倒したのは炎でもなんでもなく、天使だけが使える魔法で、あれに触れたものを全て消し去るという代物。
がしゃどくろに反撃されて、それで倒したんだろうが、それなのになんでこんなに落ち込んでるんだ?
ある程度状況は読めてきたが、後ろで静観していた黒姫達はそうではないようで。
「あんさんの知り合いやったん?」
黒姫に問われ、俺は応えようとするもとっさに言葉を呑み込んだ。
リーナは妖怪ではない。それがバレれば、がしゃどくろについて変に疑われるんじゃないだろうか。
そんな考えが頭を過り、俺は一瞬言葉を詰まらせると、いきなり黄花がお辞儀をしだした。
「お久し振りです。リーナ様」
黄花が頭を下げたことで、話の対象が黄花に移る。
「黄花も知ってるん?」
「はい。リーナ様には少し前にお世話になったことがありまして」
軽く説明を入れ、黒姫は黄花の知り合いでもあることで、「そうなんや」と納得してくれた。
助かった。黄花が助け船を出してくれなかったら、信じてもらえなかっただろう。
一安心する俺だが、いざ冷静になってみると、リーナは妖怪でなければ、人間でもない。
見た目も、今は天使の姿だから、あんな焦る必要なかったかもな。
そう思えていると、近くから「はぁ......」と重苦しいため息が聞こえる。
振り向くと、地面に体育座りしながらリーナはあからさまに塞ぎこんでいた。
なにやってるんだ、こいつは。
「さっきから気になってたんだが。なんでそんなに落ち込んでるんだ?」
聞いてみると、触れてはいけないのかリーナはさらにため息をつく。
「失態を犯した.......」
「失態?」
「私は、メトロン様の命で最近妖怪側で変な動きが見えるから様子を見てきて欲しいと言われたんだ。その途中で、いきなりあんなのが現れ、攻撃されて思わず......無魔法で頭を消してしまった......」
だいたい俺の予想通りだな。
「それのどこが悪いんだ?」
「前にも言ったろ。天界の者は下界に手は出してはいけない。それをこんなところで破るなんて.....」
言い終わると、リーナはまた顔を伏せ落ち込み出した。
そういえば、初めて会った時もそんなこと言ってたな。
あの時はメトロンから多少の干渉は許されていたが、今回は違うのだろうか。
「にしても、なんでがしゃどくろが妖魔になったんだ?」
「奇怪じゃのぅ」
抉られた地面を眺めながら、紅磨と白入道は疑問を抱く。
「確かに。あそこは人間とは無縁の土地。妖魔になる要因がない」
「でも、あれは間違いなく妖魔だったわ」
それについては徳蒼と緑葉も同意件のようだが、どうにも腑に落ちない点があるようだ。
妖魔は、妖怪が心が憎悪で満ちたときになる、闇落ちみたいなもの。
なろうと思ってなれるものではない。
誰かが、がしゃどくろを妖魔にさせるほどの事態を引き起こしたと考えるのが妥当だ。
そして、その事態を引き起すのは人間でしかないと、紅磨達は過去の記憶から連想させている。
「そら、普通の人やったら不可能やろうな。普通の人ならな」
含みのある黒姫の言い方に、紅磨達の視線が一斉に俺の方を向いた。
会話は聞こえていたから、なんとなく言いたいことは分かる。
少なくとも、ここに普通ではない人間がいるからな。
「言っとくが、俺じゃないからな」
「そうですよ!皆さんいきなりなんですか!?」
訂正する俺を、黄花が庇うようにして前に立つ。
そう思いたくなるのも無理はないが、冤罪をかけられたくはない。
一度は疑いの視線を向けた一同だが、さすがにこじつけに過ぎないと感じたか視線が外れた。
「動機があらへんもんな。すまへん、けったいなこと言うたわ」
自らが生んだ失言に、黒姫は謝罪する。
「別にいいさ」
黒姫達の気持ちも理解できるから、俺は素直に謝罪を受ける。
少なからず、黒姫達も混乱してるんだろうな。
突然謎の原因によって妖魔と化したがしゃどくろ。
今回の一件、妖魔を倒しただけじゃ終わらないことを、全員薄々予感しているんだろう。
「一先ず、がしゃどくろ達の住処を訪れてみてはいかがでしょうか。なにか分かるかもしれません」
ここにいてもしょうがないと、徳蒼は提案する。
「それなら、もう向かわせてる」
「黒姫様ー!!」
もう手は打ってあると黒姫は言うと、遠くから大声で黒姫を呼びながら一人の兵士が飛んできた。
「がしゃどくろ達の住処を調査してきました」
「どうやった?」
「それが......」
兵士は表情を曇らせたが、すぐさま応えた。
「見たところ、住処はかなり暴れた形跡があり本人達も一人も見当たりませんでした。もしかすると、全員.....」
兵士の言葉はここで途絶えたが、なにを言いたいかは聞かずとも直感できた。
誰かが住処を襲った。そう捉えるのが自然だろう。
兵士の言葉を受け全員静かに息を呑むなか、黒姫は「そうか...」と言い目を伏せ、全身に力が入る。
「.....夜兎はん。あんさんが知ってる範囲で、あんさんみたいな強さを持つ人間はいてはるか?」
顔はこちらを見ないまま、黒姫は問う。
物言いは冷静だが、体は堪え忍ぶように小刻みに揺れる。
怒っている。なんてのも生易しい。
仲間がやられて、これまで平穏を望んできた黒姫は腸が煮えくり返るほどの怒りが込み上げているんだ。
今この場にいると知れば、すぐにでも殺しにかかるほどに。
「......残念だが、そんな人間はいない。俺の力はこの世界じゃどうやっても身に付けることはできないからな」
神様に頼むくらいじゃなきゃ、得られないものばかりだ。
殺気を放つ黒姫に俺はまっすぐ応える。
「さっきの暴れ方を見れば、あのがしゃどくろは人間の力じゃ到底倒せる相手じゃない。ましてや、全滅なんて不可能だ」
まぁ、兵器とか持ってくれば可能かもしれないが、あんな山奥にそんなことをする理由が皆無だ。
現代兵器とか詳しくないからなんとも言えないが、あの山奥中の山奥まで持ち運ぶのは無理があるし、空からだと普通に兵士が気づくだろ。
倒せるかもしれないが、住処を全滅させるのは現実的じゃない。
言い切る俺に黒姫達は納得はしたようだが、お陰で考えが振り出しに戻ってしまった。
誰もすぐには思い付かなかったようで、ここで俺はまたあの考えが頭をよぎる。
まさか、本当に封印の岩を破壊したことに関係してたりして......。
なにも手がかりがないと余計にそう思えてきて、内心気が気でない。
解決への兆しが見いだせず途方にくれる黒姫達だが、ここでふと視界に未だうずくまっているリーナが目に入った。
「いい加減元気出せって。よくあるだろ、失敗なんて」
「日頃からしない分、たまにやると凹むんだ......」
膝を折りしゃがみながら励ますが、真面目なリーナはそう簡単に立ち直れないようで。
こっちはそれどころじゃないんだがなー......。
状況がなに一つ好転せず困り果てていると、先程のリーナの言葉が甦った。
「そういえばリーナ、さっき妖怪で変な動きがあるとか言ってたよな?」
急に振られ、リーナは「え?」と顔を上げる。
「ほら、なんか言ってただろ。変な動きがあるとかどうとか」
俺に言われ、リーナはやっと理解したのか「あー......」と声を上げる。
「いや、私もメトロン様から聞いただけで詳しくは聞いてないが、この先にいる妖怪に怪しい行動が見られるらしい。なんでも、人間に甚大な被害が及ぶ可能性が高いとか」
「被害って、なにが起きるんだ?」
「分からない。メトロン様でも把握しきれないところはあるからな」
首を振りながらリーナの指が指し示す方向は、がしゃどくろが歩いていた方向とは真反対の方向だ。
そっちは国とは全然方向が違う。国にいる妖怪ではないのだろうか。
「あんさん、それほんまか?」
話を又聞きしてたのか、いきなり黒姫が話に割って入ってきた。
「黒姫様、確かあっちには.....」
「分かっとる。あそこしかあらへん」
黒姫に続き、徳蒼も心当たりがあるようで揃って神妙な顔をしている。
「変な感じやな。最初はまったく度外視してたのに、言われた途端怪しく思えてきたわ」
嬉しいような悲しいような、なんとも言えない気持ちな黒姫だが、やがて整理がついたのか落ち着いた様子でその名を口にした。
「天狗達やな」
それを聞いて、俺やリーナ以外の表情が変わった。
全員、微かに納得のような驚きをしている。
「天狗って、あの天狗か?」
そのなかで俺はピンっと来ない物言いをする。
天狗といえば、赤い顔に長い鼻で、背中に翼を生やしたあれというイメージしかない。
リーナに「そうなのか?」と聞いてみると、正解なようで「あぁ」と頷かれた。
天狗が怪しいと言っただけで、なにをそんなに驚いているのだろうか。
「天狗は、昔人間から迫害を受けてた時代での最大の功労者で、最大の被害者なんです」
するとそこで、黄花から話してくれた。
「天狗は、元々戦闘に長けた妖怪で、力も素早さもあり、自身の翼を使った空中戦でも大きな活躍をしていたんです」
だから、他の妖怪の誰よりも戦ったのか。
「しかし、人間と争うことはその分犠牲を増やすことにもなり、争いを続けた天狗達はどんどん疲弊していき、数も減りました。そして、最終的には我々は異界へと逃げ延びたわけですが、あの頃から天狗達は未だに人間のことを憎み、滅ぼそうとも考えるようになったんです」
なんだその過激派組織は。
「今では息を潜めてはいますが、協力して穏やかに暮らす我々とは違う、人間を絶滅させて本当の自由を得ようという思想を持つ者達と変わってしまったのです」
「今では、ただの野蛮集団よ」
一頻り説明をしてくれた黄花。
緑葉は天狗が好きではないのか素っ気ない言い方だが、俺は共感できるので否定はできない。
「しっかし、仮に犯人がそいつらだとしても、なんでがしゃどくろの住処を襲ったんだ?」
「そういうのは、会ってみれば分かるやろ」
疑問に思う紅磨だが、ここで考えても仕方ないと黒姫は考える。
「行かれるのですか?天狗達の住処に」
「そうしなきゃ、前には進めへん。そうでなくても、なにか知ってるかもしれへんからなぁ」
「我々も同行致します。奴等は我々のことをよく思っていません。一人では危険です」
「好きにせぇ」
はなから付いてくる気満々な徳蒼に黒姫は軽く頷いてから、報告しに来てくれた兵士に顔を向ける。
「うちらはこれから天狗達のところに行ってくる。あんさんは城に戻って待機しとってくれ」
「はっ!」
「本当に信用するんですか?どこの誰かも分からない、確かな筋かも不明な情報を」
黒姫は告げると、兵士は大きな返事の後に翼を広げて飛び去っていく。
いきなり話がトントン拍子で進み、唐突なことに紅磨は不安を感じてるようだが、それは黒姫も同じだ。
「正直、うちもまだ半信半疑なんや。せやけどな、この犯行が人間に不可能な今、こんなことするのは妖怪しか考えられへん。そのなかで考えられるとしたら、うちのなかでは今天狗達しかいーひん」
「上手くいかへんもんやな、世の中......」と黒姫は悲しげに呟く。
平和な妖怪の世界を築くことが夢だった黒姫にとっては、同じ妖怪の、ましてやかつて自分達のために死力を尽くした相手を疑うのは心苦しいだろう。
それでも、国のため、国民のために自ら進んで行動に出るその姿は、まさしく王ともいえる姿だ。
「なんやかんや話が纏まってきたな。お前も行くだろ、リーナ。様子を見に」
それが仕事なんだから。
座り込むリーナに俺は手を差し伸べると、リーナは「え?」と間抜けな声をあげる。
「落ち込む前に、やることやらないとな」
味方は多い方がいい。
俺の手と顔を交互に見ながら、落ち込んだ手前恥ずかしそうにしてるが目線を逸らす。
「.......分かってる」
返す言葉もないようで、リーナはゆっくり俺の手を取った。
「夜兎様達も行かれるのですか?」
「あぁ」
リーナを立たせながら、俺は迷いなく応える。
正直、俺はまだ壊した封印の岩が原因じゃないかと感じていて、気持ちが落ち着かない。
こういうのは、とっとと拭ってしまいたい。
確認を入れてくる黄花に俺は頷くが、黄花の表情は少し心配気味である。
「天狗は恐ろしいほどに人間を憎んでいます。行けば確実に襲いかかり、話し合いどころじゃなくなります。ですから、ここは――――」
「分かってる。姿は隠していくから大丈夫だ」
さすがにこのまま行くほどバカではない。
その言葉に安心したか、黄花は「そうですか」とホッとしている。
「善は急げ。早速行きまひょ」
黒姫の号令に黄花達は空を飛ぶため人型の姿を解く。
暗くなるまでに、夏蓮達のところに戻れるだろうか。
なぜだかこのままでは終わることのなさそうな予感を感じながらも、俺は黒姫達に続く。
おまけ
【仲良し】
「まさか、黄花が人間を慕うとは思わなかったわね」
「確かに驚きではあるが、そこまで不思議なことじゃないだろ」
「あの子は昔から妙に人間の肩を持ってたからのぉ」
「通りで色恋沙汰の話がないわけよ」
「初めから決まってたわけか」
「一途なものじゃな」
「なにか言いました?」
「「「いえ、別に」」」
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