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なにも起きないというのは絶対起きるの裏返し

 勝負をするために連れられた場所は、城の外にある試合場だった。



「ここで、勝負を行って貰う」



 試合場は、中々にシンプルなもので、外見は古い道場だが、なかは地面のままで客席すらない。 

 なんだこの手抜き工事。



「なんにもないな」

「勝負なんてしていると、一々戦う度に内装が破壊されていくので、これでちょうどいいんです」



 見渡す俺に黄花は補足してくれた。

 この方が返って都合がいいということか。



「そんなに過激なのか?」

「妖怪は多種多様ですから。何が起こるか分かりません」



 黄花が言うには、そういうことらしい。

 人間と違って、性別だけじゃないからな、妖怪は。

 だがそれにしても、改めて見ても本当になにもない。

 あるのは、明かりを付けるための松明。

 そして、奥に佇む異様な存在感を放つあの(まつ)られた白い岩。



「あれは、なんなんだ」

「あれは神の使いである獣が封印された岩です」



 岩を見ながら、黄花が応えてくれた。



「獣?」

「人間に虐げられていた頃、突如として神の使いと称して四匹の獣が妖怪達の前に現れました。『我々は神の命により、貴様ら妖怪を救いに来た』そう言って、獣達は人間に殺されそうになった妖怪を幾度となく救ったそうです」 

「うちらにとっては、英雄みたいなものや」



 黄花の説明に、黒姫が付け加える。

 神の命って、一瞬メトロンのことを想像したが、多分元々この地球を管理していた神のことだろう。

 前にメルに聞いた話では、まだその頃は地球の神は生きていたようだし。



「そんな英雄達が、なんで封印なんかを?」

「それが、謎なんです」


 

 気になるところだったが、黄花は知らないようだ。



「ある日、突然『我々は神の意思が聞こえなくなった。再び聞こえた日に、我々はまた目覚める。それまで誰も起こしてはならない』と言って、四匹とも自ら封印されたのです。今ではこうして、こことは別にもう三ヶ所とも同じように封印されました」



 神の意思が聞こえなくなった。おそらく、そこで地球の神は死んだんだろう。

 突然、神からの交信が絶え、どうしていいか分からなくなった獣達は神からの通信が来るまで眠ることにした。

 永遠に来ることはないのに.....とかだったりして。

 全部確証のない憶測だが、自分としては的はずれではない気がする。



「というか、詳しいんだな」

「今ではおとぎ話として、誰でも知ってますよ」 

「実際に見た人が少ないさかい。しゃあない」



 話を終わらせると、黒姫は一歩前に出て俺達の方を向いた。



「おしゃべりはその辺にして、早速始めよか。二人とも、真ん中に集まってや」



 黒姫に促され、俺と紅磨は試合場の真ん中に行く。 

 互いに向かい合う位置に立つと、紅磨はまたしても俺を睨んできた。



「どんだけ強いか知らねぇが、いい気になるなよ」

「なんだ急に?」

「黄花と仲良く喋れてるからって、いい気になるなよな!」



 思春期な中学生か。

 内心ツッコンでしまったが、紅磨は俺が黄花と普通に話せてるのが気にくわないようだ。

 自分ができないから。



「黄花と仲良くなりたいなら、先ず覗き見はやめた方がいいぞ。あれは誰でも引く」

「元はといえば、原因お前だからな!!」

「それと、勝負前の文句もやめとけ。小者に見える」

「っ!?いちいち腹立つ奴だな.....!!」

「いいから、もう始めるで。なじり合いはもう十分やろ」



 事実を述べたまでの俺の物言いに、紅磨は癇に障ったようだが、黒姫が無理矢理進めた。

 


「ええか、勝負は基本なんでもありやけど、殺しはなし。降参か気絶か、どっちかや。ええな?」

「あぁ」

「いいぜ」



 黒姫の提示したルールに、俺と紅磨は了承する。



「なら、うちがここから黄花達のところまで飛んで着地した瞬間が勝負の合図や。準備はええか?」

「いつでもいいぞ」

「絶対勝つ!」



 準備オーケーな二人に、黒姫は「ほな、頑張りや」と言い翼を使って黄花達のところまで飛んでいく。

 相手は【五芒星】。実力は黄花と同じくらいか。はたして、どれほどの実力か。

 紅磨の力量が気になり、俺は【鑑定】を使う。



 紅磨 男 炎鳥族 Lv115


 体力 6100/6100

 魔力 6200/6200


 スキル  


 変化 火の極意 気配察知 直感 炎転の陣 終炎 



 気になるのがいくつかあるが、強さ的には前に見た黄花のより少し高いくらいか。

 別に、これは殺し合いではないからスキルを消そうという気はない。

 少し気になるが、その間にも黒姫は浮き上がるように弧を描き、黄花達のところへ辿り着こうとしていた。



 紅磨のステータスを見ていた俺は目線を紅磨に戻した直後―――――黒姫の足のつま先が地面に着いた。


 

「爆散!!」



 ほぼ同時に手を鳴らし合掌の体勢をとり、紅磨は念じるように叫んだ。



「っ!?」



 その瞬間、俺の視界が真っ赤に染まった。

 突如、俺の立っていた場所が爆発を起こし、黒煙が舞う。

 地面は黒色に焦げ、爆発の中心地にいたはずの俺の姿は、どこにもない。

 いやいや、まさか初手で爆発とはな。転移が遅れ(・ ・ ・ ・ ・ )()ところだった。  

 とっさに爆発寸前で後方に転移した俺だが、すぐに追撃が来る。



 黒煙が消えるのを待たずして、炎の柱が俺目掛けてまっすぐ伸びてきた。

 赤く燃え盛る炎に、俺は体を捻り間一髪で回避する。

 至近距離で炎が通り小声で「あつ」と声を漏らすと、炎は消え、今度は紅磨が飛び出してきた。



 なんだあれ?爪?いや、鳥の足か?

 見ると、右腕が鳥の足に変化していて、手が鋭い爪になっている。

 妖怪特有のスキル【変化】の応用か。

 紅磨は手を鉤爪のように見立て、爪を立て俺に振りかざす。

 動きはいいが、単純だと読みやすい。

 俺はすかさず迫り来る手の手首を掴み、反対にこちらから反撃するため拳を握る。



 力は圧倒的に俺の方が上だ。

 攻撃を止められた手は掴まれた状態で微動だにせず、俺は反対の拳で殴りにかかる。

 だが、俺の拳はギリギリのところで紅磨の手に受け止められ、ガッチリ握られた。 

 【直感】があるからか、目で追えなくても反射的に手が出たな。

 


 お互い手を掴んだ体勢になった途端、紅磨は俺の拳を強く握った。

 

 

「燃えろぉ!!」



 瞬間、紅磨の手から急激な熱を感じた。

 紅磨の叫びに応えるように、突然体から炎が噴出する。

 赤く、燃え盛る炎は一瞬にして紅磨を包み、至近距離にいた俺をも飲み込んだ。

 身体中に尋常じゃない熱を感じた俺は反射的に紅磨の手を離し、転移で距離をとる。



 まさか、体から炎が出るとは。

 お陰で手が火傷したな。

 不意を突かれ驚くも負傷した手を治癒していると、炎が消えこちらを睨んだ紅磨が姿を現した。



「よく避けたな。あれで終いかと思ったが、さっきから消えてるのはなんなんだ?」

「瞬間移動は、お得意なんでな」


  

 一番、よく使っている魔法だ。



「お前は、火がお得意みたいだな」

「だったらどうした」



 ステータス的にもそうだが、見た目通り。

 俺の物言いに、紅磨は意に介さないようだが、ここで治療していた手が治った。

 相手が火しか使えないなら、話は簡単だ。



「いや、特に他意はない。ただ一つだけ思ったのが――――――」



 俺はその完治した左手で、



「属性一つって結構キツイだろうなって」



 清んだ水の球体を作り出した。

 その途端、紅磨や俺の周囲に俺が作り出したのと同じ水の球体が無数に現れ、宙に浮く。

 火が相手なら、水攻めだろ。



 サイズはバレーボールくらいだろうか。

 球体は徐々に数を増やしていき、あっという間に紅磨を取り囲んだ。



「炎には水ってか。単純だな」

「効果的だろ」



 自分を囲む水球を見渡しながら紅磨は呑気に呟く。

 特に慌てた素振りを見せない紅磨に俺は意外に思えたが、こっちからしたらそれが命取りになる。  



「これには触れない方がいい。大変なことになるぞ」



 俺は紅磨に忠告したが、すでに遅かったようで。

 紅磨の手に、水の球体が触れた。

 当たったことに気づいた紅磨だが特に変わった様子がないかと思いきや、徐々にその違和感に気づく。



「な、なんだこれ?」

 

 

 手に付いた水球を見ながら、紅磨は眉をひそめる。

 触れただけの水球が、紅磨の手から離れないのだ。

 軽く慌てながら、紅磨は手を振って水球を取ろうとするが、水球は一向に取れる気配はない。

 徐々にこの水の恐ろしさを理解したのか、焦り気味にもう片方の手で剥がそうにも、水を掴めるはずもなく。



 バシャバシャと音を立てるだけで、水はすぐ元の形に戻る。

 そうこうしている内に、足や腰、腹部にも水球が付着し、紅磨の体のあちこちに引っ付いていく。



「無駄だ、その水はお前に触れたらもう絶対に離れない。勿論、俺には効かないが」



 目の前にある水球を人差し指で触れても、水球は俺にくっつかず弾みながら浮かんでいる。

 時間が経てば水はお前の全身を包み込む。その間の焦りや恐怖に、思わず降参を選んでくれたら楽なんだが。

 それを見た紅磨は苦い表情を見せるが、それは一瞬だけだった。



「いいか。確かに俺は火しか使えないが、水が弱点だなんて誰も言ってないぜ」



 一呼吸置き、腰を落とし脇を引き締め、紅磨は力を入れる体勢をとる。



「アアァァァァァァァッッ!!!!」


 

 気合いを入れた叫びと共に、紅磨の体から勢いよく炎が放出していく。

 炎は紅磨の気持ちと同調するように火柱を立て、先程とは明らかに勢いが違う。



 自身を炎に包み、そのせいで紅磨に付いていた水球が水蒸気を上げ、瞬く間に蒸発していく。

 あっという間に消えてなくなり、紅磨は高温の炎を身に纏い俺に向かって地面を蹴り、迫る。



 無理矢理越えてきたか。

 浮かぶ水球を蒸発させながら突っ込む紅磨に対し、俺はその場から動くことをせず立ち向かう姿勢を見せる。

 それぐらいは想定内だ。

 こちらに向かう紅磨に、途端に浮かんでいた水球達が一斉に紅磨へと襲いだした。



「邪魔だ!!」



 だが、もうそんなことでは紅磨は止まらない。

 浮かんでいた無数の水球は幾度も紅磨に直撃し、蒸発していく。

 水蒸気が煙のように上がり、俺と紅磨はお互い視認できなくなるが、紅磨の勢いは止まらない。

 かなり高温の炎だな。

 あと数メートルで直撃というところで、水蒸気の霧を突っ切る。



 でも、いくら高温でも限度がある。

 霧を抜け真っ直ぐ俺に迫る紅磨が次に目にしたのは俺ではなく、超巨大な水の塊。



「火には、やっぱり水だろ」



 目の前の水の壁に紅磨は慌てて止まろうとするも、勢いがありすぎてそう簡単に止まれるはずもなく。

 吸い込まれるかのように、勢いよく水のなかへと入っていった。

 入った瞬間は紅磨の炎で大量の蒸発音と水蒸気を出していたが、次第にその量も減っていき、完全に紅磨は水のなかで停止した。



 巨大な水の牢獄に捕らわれた紅磨。

 抜け出そうと必死にもがくが、手足をばたつかせるだけで先程の炎も消えている。

 この水は一度触れたら絶対離れないって言ったろ。



 この中に入れば、いかにお前が脱出しようと泳いでも、水はそれに合わせてお前に引っ付く。

 あの水のなかは、もはや脱出不可能な海中にいるのも同然だ。

 炎が消えた後でも、紅磨はここから出ようと水を蒸発させようと試みるが、気泡が出てくるだけでなにも変わらない。

 

 

「やめとけ。全力でしか水を蒸発できないお前と、まだまだ余裕で水を生成できる俺とじゃ、差は広がる一方だ」



 いくら高温の炎であっても、無限に近い量の水は無理がある。

 水のなかじゃ体も冷え、思うように炎もでないだろうしな。

 片手で口を押さえ、苦しそうな表情をする紅磨。

 これで詰みだ。後はこいつが降参するか、そのまま息が持たなくなるのを待つか。  



 勝つまで時間の問題だ。

 この状況に、もう誰の目にも勝敗は明らかだった。

 だが、ここで俺は気づくべきだったかもしれない。 

 仮に殺しなしの勝負でも、相手は自分達が憎む人間だ。その人間に仲間が窮地に落とされているのに、どうして止めに来ないのか。



 勝敗は決したというのに、全員顔色一つ変えず観戦しているのか。

 まるで、まだ勝敗は決していないと言われてるかのようだ。

 そろそろ息が持たなくなってもいい頃合いで、紅磨は途端に目を見開かせた。



「なんだ.......っ!?」



 終わったかのように思えたが、突如紅磨の体が発光し始める。

 光に身を包み、紅磨の体が変形していく。

 おい、これってまさか......。



「ここにきてそれか.......」



 正直、この展開じゃ使ってこないと思ったんだが......。

 まさか【変化】をしてくるとは。

 形を変え、一回りも二回りも大きくなり、頭と両手が水から突き抜けたところで、変化は止まった。

 



ピィィィィィィィィィッッ!!!!



 光が消え、目に飛び込んだのは、紅い鳥だった。

 翼を広げ、甲高い鳴き声をあげるその姿は、あの紅磨とは思えないほど優美で、きらびやか。

 羽からは火の粉が散らされ、熱風がこちらまで飛び、まるで全身が炎でできているように見える。

 紅磨の本当の姿を見た瞬間、俺は察した。

 これは、ただの鳥じゃない。


 

 真紅の羽を持つ妖怪。空想上の生き物。

 そこで俺は、ステータスで見たあいつの種族を思い出した。

 炎鳥族......。またの名を......火の鳥。



「不死鳥か?」

「そうだ」



 俺の呟きに、紅い鳥へと変化した紅磨は答えた。 

 そんなのもいるのか、この世界には。

 実在したことに俺は驚いたが、そうも言ってられる状況ではなさそうだ。



「ぶっちゃけ、人間相手に真の姿を見せたくなかったが、こうなりゃ仕方ねぇ」



 声や喋り方は同じなのに、雰囲気が丸っきり違う。 

 威圧感や風格ある佇まいに、俺は警戒心を強める。



「今の俺の炎は、あん時とは比べもんになんねぇぞ」



 そう言うと、紅磨の周りに炎の渦が巻き上がる。

 紅磨を囲うように立ち上る炎は、そこを中心にどんどん熱を上げ、体を覆っていた巨大な水球を一瞬にして蒸発させた。

 本当にさっきとは段違いだ。変化すると能力も上がるのか。

 あっという間に蒸発した水は水蒸気となり、紅磨は翼を羽ばたかせ宙を舞う。



「こっからは俺の番だ!」

「だといいな」



 こういうのは、やられる前にやれだ。

 ここまで伝わる熱気に俺は額に汗を流すも、先手をかけるため転移で背後をとる。



爆発拳(フレイナックル)



 炎を纏った拳は確実に紅磨の背後を捉え、突き刺さる。

 だが、紅磨の体に触れた瞬間、拳が激しい熱に襲われた。



「あっっ!?」



 思わず顔が歪むも、拳がぶつかり紅磨の背中で爆発が起き、紅磨の体が前によろける。

 くそ、失敗したな。

 火傷を負った拳を庇いながら、俺は顔を歪める。

 あいつの体、異常に熱を持っている。焼き石を殴った気分だ。

 全然効いてないだろうな。触った瞬間に手を引いてしまったから。

 一旦地面に降り距離を置くと、俺の予想は的中した。



「っ!?だから言ったろ!!効かねぇって!」



 内心呟く俺の予想通り、紅磨はすぐに立ち直りこちらに振り向く。 

 手が駄目でも、手はいくらでもある。

 それとほぼ同時に、俺は体勢を整え今度は紅磨の横に転移し――――足に火を纏う。



「そう思うなら、もう一回受けてみろ」

 

 

 足を後ろに引き、紅磨の顔目掛けて振り抜いた。



爆発蹴り(フレイシュート)

 

 

 火が灯った足は紅磨の顔に直撃した直後、爆発が起きた。

 爆音が轟き、紅磨はなんの抵抗もなく後方に吹き飛ぶ。



 靴の上からじゃ、素手と違って熱が伝わってくるのに時間がかかる。

 昔の俺だったら、リーナと出会った頃の俺だったら、苦戦してたかもな。  

 でも、今は実力の違いがあまりにも大きすぎる。

 一瞬だけでも触れれば、俺の勝ちだ。

 

 

 これであいつが立ち上がらなきゃ終わりだが、どうなるか。

 吹き飛んだ紅磨は、そのまま壁に激突するかと思えたが、ここで思わぬ事態が。

 飛んでいく紅磨の先には、壁でも地面でもない――――――祀られていた封印の岩があった。


 

「あっ」



 俺が気づく頃には、もう手遅れ。

 多分、この場にいた奴等は全員胸のうちに同じ言葉を発しただろう。

 封印の岩に激突した紅磨に押し潰されたかのように、岩は見事に砕けた。

 こんな偶然あるんだろうか。

 粉々になった岩の上で紅磨は気絶してるのか、ぐったりとして動かない。



 これは、俺の勝ちでいいんだよな.......?

 誰かから判定を貰いたいところだが、黒姫達も壊れた岩に唖然として固まっていた。

 



 あの封印の岩は、神に仕えた獣が封印されている。

 その封印が壊れたってことは.......。

 俺は嫌な予感がし数秒間、封印場所を呆然と見ていたが、なにか起きる気配はない。



 ........なにも起きないな。

 誰か収拾をつけて貰いたいところだが、岩が崩れてから場は静まり返っている。

 黄花達もこの事態に困惑しているようだが、そこに黒姫がゆっくり前へ出て紅磨の前へ歩み寄っていく。



「......なにも起きへんな」



 俺と同じことを思っていたのか、崩れた残骸を見ながら黒姫は呟いた。

 

 

「みたいだな......」



 壊れてから時間が経つが、変化もなく、それらしい気配も感じない。

 だとしたら、獣なんてそもそもいなかったということになるのか。

 状況からしてそう考えざるを得ないなか、俺は黒姫に確認をとる。



「取り敢えず、俺の勝ちでいいんだよな?」

「まぁ、そうやな......」



 気を失っている紅磨を見て、黒姫は頷く。

 その言葉を聞けて、俺は安心し一息つくと、黄花が駆け寄ってくる。



「夜兎様、大丈夫でしたか?お怪我はありませんか?」

「この通りな」



 火傷は途中で治したからな。

 心配する黄花に腕を見せつけると、他の奴らは紅磨の方へ歩み寄った。


 

「まさか、封印の岩が壊れるなんて....」

「あんな簡単に壊れるとは思わなかったな」

「そりゃ誰も壊そうとせんからの」



 紅磨の下にある岩の残骸を見ながら、緑葉と白入道と徳蒼は顔を見合わせる。

 ここに来て紅磨のことは無視とは。

 それも信頼の上なのかは不明だが、三人は特に気にしてる素振りはしていないが、緑葉がやっと紅磨を気にかけた。



「というか、大丈夫なの?紅磨」

「随分とやられたのぅ」

「これぐらい、平気だろう」



 完全にのびている紅磨を覗く三人。 

 当たり前のように言う徳蒼は手に氷塊を作り出すと、紅磨の頭上に落とした。



「早く起きろ」



 当たる瞬間、氷塊は瞬時に蒸発し消えてなくなったが、今のが効いたようで、紅磨の目がゆっくりと開いた。



「......身体中がいてぇ」

「ボコボコだったからな」



 体の状態や徳蒼達が自分のところに来ていることから、自分が負けたと察した紅磨は、また光に包まれ人型に戻り仰向けの体勢で寝そべる。

 


「派手にやらかしたな」

「うるせぇ。まだまだ俺はあんなもんじゃねぇ」

「そうではなく、これだ」


 

 下を指差す徳蒼に紅磨は怪訝そうに下に目を移すと、途端に顔色を変えた。



「え......あれ?あれ!?」

「今更か.....」


 

 自分が下敷きにした白い石の残骸に気づき、紅磨は体の痛みを忘れ慌ててその場から飛び降りその全貌を見て驚愕している。

「お、おい!これ俺がやったのか!?なぁ、なぁ!!」と喚く紅磨に徳蒼達は呆れているようだが、まぁなにはともあれ大丈夫そうだ。



 黒姫は無言で崩れた岩をじっと見つめて考えているようだが、これで一先ず監視が付くことはなくなった。

 最後はスッキリしない終わり方だったけど。



「これで帰れる」



 遠巻きから見ていた俺は息を吐き安堵していると―――突然背後から視線を感じた。



「.....?」

  


 いきなり後ろから刺すような鋭い視線を感じ振り向くが、人がいるどころか壁だけでなにもない。



「どうされました?」

「今、後ろに誰か――――」

「黒姫様!!黒姫様!!」



 口を開いた直後、入り口から兵士が慌てた様子で入ってきた。

 


「どないした?」

「町の外れに、妖魔が、妖魔が現れました!!」



 兵士の口から放たれたその一言に、俺は一瞬にして悟った。

 あ、まだ帰れそうにない。

おまけ  


【誘惑】


 夏蓮達がいる神社では


「まてまてー!!」

「こっちこっちー!!」


(...なにか、教えたいな.......)


 夏蓮は誘惑に耐えていた



―――――――――――――――――――


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