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どの組織においても、幹部の登場は定番

お待たせしました。

 それは、大きな襖だ。

 黄花に付いて行き、階段を登り、歩いた先は、なんだか物々しい扉の前だった。

 襖には鴉の絵が描かれていて、この先にラスボスでも待っているかのような雰囲気がある。

 いよいよか。


 

「くれぐれも気を付けてください。黒姫様は同朋(どうほう)には過保護ですが、人間に対してはどうなのか分かりませんから」

「わざわざ呼びつけるくらいだ。それぐらい分かってる」

 

 

 黄花の注意に俺は承知の上といった物腰で、襖の奥を見つめる。

 すると、俺達が来たことに気づいたのか襖が一人でに動いた。



 門の前では黄花に濁されたが、果たしてどんな奴なのか。 

 ここに来るまで色んな妖怪を見たからか、正直想像がつかない。

 頭の片隅で興味が引かれるも、襖が完全に開ききる。



 先ず目前には、この襖を開けたであろう門で見た門番と同じ格好をした者達と、その奥で優雅に座っている一人の人影。



「待っとったで。お二人さん」

 


 透き通るような声色。歓迎されてるかの如く聞こえるそれに誘われ、俺と黄花はその妖怪の前まで赴く。



「お久し振りです。黒姫様」

「久し振りやな。黄花」



 自分達の王を目の前にし、黄花は膝を付き、黒姫は嬉しそうに微笑む。

 こいつが、黒姫か。

 背中に鴉の羽を生やし、綺麗な黒の着物を着こなす、黒髪の彼女。

 羽が無ければ、ただの美しい女性である。



 だがこれでは、さっき黄花が言っていた『大きい』というのがなに一つ当てはまっていない。

 そう思えるかもしれないが、黒姫を見た瞬間からあの意味を察していた。



 確かに大きいな、あれ(・ ・)

 言葉にするには抵抗があるものの、俺はあれ、黒姫の胸部に付いている二つの大きなそれに思わず目をやる。

 黄花の言いたかったのはこれのことか。というか、自分達の王を相手に印象が胸ってどうなんだろうか。



 なんともいえないが、あんまり見るのは失礼だな。

 黄花が跪く隣で仮面の裏から黒姫の顔をじっと見つめていると、黒姫がこっちを向いてきた。



「あんさんが例のお人やなぁ」



 俺を眺め、黒姫は今度は襖の方に目を向ける。



「おおきにな。もう行ってええで」

「「はっ!」」


 

 襖に待機していた先程の兵達に伝えると、兵達は返事をして部屋を出ていった。

 兵を退出させ俺と黄花と黒姫の三人の場を作ると、早速黒姫は俺に興味津々な目を向ける。



「これで邪魔はいーひん。そのお面、外してくれへん?」 


  

 どうやら、俺の顔が気になるようで。

 面を取るよう催促する黒姫に俺はどうしたものかと黄花に意見を求めると、黄花は小さく頷いた。

 そういうことなら、いいか。



 黄花の許可も出て、俺は狐のお面を外す。

 俺の顔が露らになると、黒姫は「ほぉ」とまたも興味深そうにしながら椅子から離れこちらに近づいてきた。



「ほんまに人間やなぁ。こうしてじっくり見るのもいつ以来やろうか」



 なんだか懐かしそうに人の顔を観察されてるんだが。

 俺の顔を触りながら、黒姫はまるで初めてのものを見る子供のように無邪気に顔を近づけたりする。

 なんだか、想像してたのと大分違うな。



 黒姫に触られながら、俺は下手に動けず直立不動のまま思った。

 もっと、敵意剥き出して来ると思ったのに、ここまで一切敵意を感じない。

 黒姫は黄花と同じように、人間にそこまでの悪意を持っていないのだろうか。



 そう思っていると、俺はなんだか上半身になにかが当たっていることに気付いた。

 不思議に思い、ふと視線を下げると、そこには、先程見ないよう努めた巨大なものが二つ。

 俺は直ぐ様視線を逸らそうとしたが、妖怪でも女性はそういうのには敏感なのか、その前に黒姫に気づかれ一歩後ろに退いた。



「恥ずかしいさかい、あんまり見んといて」



 頬をほんのり赤くして、恥ずかしげに腕で胸を隠す黒姫。

 そんな黒姫に、俺は慌てて否定しようとすると、途端に足に痛みが走った。



「夜兎様?」



 まるでなにか警告するように目を細めた黄花から肘打ちを受け、俺は悶絶しながら足を押さえる。

 結構、というか、かなり痛い......。



「俺のせいなのか......今の」

「ふふ、仲がええことで」



 俺と黄花のやり取りを見て、黒姫は穏やかに微笑む。

 切り返しの速さからして、わざとやっただろ。



「どうやら、黄花があんさんに操られてるっちゅうことはなさそうやなぁ」



 確信したのか、黒姫はどこか安心している。



「分かるのか?」

「うちはな、そういう類いのものは得意なんや。操られてるかどうかは、見ただけで分かる」

「黒姫様は、呪術が得意なんですよ」


 

 呪術、つまりは呪いなどの精神系の魔法が得意ということか。



「それと、触ってる時にちょいと調べさせてもろうたけど、あんさん中々強い力持ってるなぁ。隠してはおるけど、尋常じゃない霊力や」

 


 興味深そうに触ってる振りをして、そんなことしてたのか。

 落ち着いた口調とは似合わず、意外と抜け目のない。

 霊力は異世界でいう魔力。

 俺の魔力を感じ取った黒姫は、それを恐れるでもなく落ち着いた様子で元の椅子に座り直した。



「改めまして。うちはこの都の長、黒姫と申します。ようこそ、縁の都へ。とは言っても、残念やけど歓迎はせんよ。人間さん」 

「まぁ、そうだろうな」


 

 そんなことは百も承知である。

 簡単な挨拶を済ませたところで、黒姫は早速本題に話を移した。

 


「今回、あんさんを呼ばせてもらたのは、他でもなく黄花のことや。一先ずは黄花が操られてるわけでないことは分かったやけども、だからといってまだ安心はできひん」

「なんでだ?」

「黄花があんさんに騙されてないとも限られへんやろ」

「っ!?お待ちください!!」 



 聞き捨てならない言葉に、今まで跪いていた黄花は慌てて立ち上がった。

 

 

「黒姫様、この方は私達が知っている人間とは全く違います。夜兎様は私達妖怪に出会っても、態度を一切変えず普通に接してもくれました。命の危機から助けてくれました。決して騙すようなお人ではありません!」

「そない言われてもなぁ。いくら黄花の言うことでもそれを証明できひんことには、信じようもあらへん」



 まぁ、尤もだろうな。

 黄花が必死に俺を擁護しようとしてくれるのは嬉しいが、感情だけでは誰も納得しない。

 


「うちはな、黄花のこともそうやけど、それ以上に人間に妖怪の存在が認知されたことの方が問題なんよ」



 困ったように、黒姫は俺を見る。



「これまで長い間、人間との関わりを一切遮断してきた。その甲斐あって、今ではこうして穏やかに過ごすことができてる。また、昔のようなことは御免なんや」



 昔、妖怪は人間に迫害を受けた。

 何度逃げても虐殺され、その当時にはこれほどの平穏など存在しなかっただろう。

 だからこそ、黒姫はそれを失うことだけはなんとしてでも阻止したかった。



「あんさん見てると思い出すなぁ。昔のこと」



 人間である俺を見ながら、黒姫は物思いにふける。

 なにを思っているのか、決していい記憶ではないのに、黒姫の感情が読み取れない。



「―――――不愉快やわ」



 突然、空気が一変した。

 その言葉を言い終えた途端、黒姫の周囲の空気が重くなったと同時に、突然体に怠さを感じ出した。

 なんだ、急に力が抜けた.......。



 体全体が弱体化してるのか。

 この違和感に、俺は直ぐ様違和感の正体を探ろうと周囲を見渡すと、外の景色が赤く染まっていた。

 まるで、赤いプレート越しに見ているかのように。

 これは、結界か。



「なぁ、どうしてうちがあんさんみたいな人間をわざわざ城にまで呼んだと思う?」



 俺を見ながら、黒姫は問う。

 


「どうしてだろうな。教えてくれないか」



 それが分かれば苦労はしない。

 平静を努めながら、俺は内心緊張気味に返す。

 俺の返答に、黒姫は不適な笑みを浮かべる。



「それはな―――――もし、あんさんがうちらの敵なら、あんさんを確実に殺すためや」



 これが奴の素なのか。

 さっきまでの穏やかな雰囲気とは程遠い、ドス黒く、不気味である。

 

 

「黒姫様、なにをなさるおつもりですか.....」

「安心しいや、まだなにもしいひん」



 黄花も結界の影響を受け黒姫に訴えるが、黒姫にまだその気はない。  

 あいつも、『敵なら』って言ってたからな。



「殺すだけなら、わざわざ呼びつける必要あるのか?」 

「結界は便利なもんではおまへん。それなりの準備はいる。それに、ここならあんさんに逃げ場はあらへん」



 逃げられないとはどういうことなのか。その言葉の意味は、俺は理解していた。

 結界の影響なのか、魔法が使えない。

 さらに外には、【気配察知】で分かるが城の兵達が待機している。


  

 まさに、八方塞がりか。

 結構危機的状況に、俺は強ばった表情で黒姫を見る。

 黒姫の顔は変わらず穏やかだが、漂う空気がそれを逆に不気味にさせている。

 


「今日に至るまで、うちは数々のものを体験してきた。それこそ、人間に殺されそうになったり、その人間を呪い殺そうと死ぬ気で呪術を磨いたり......。その長く生きたなかで、これほど平和な時間はあらへん。なんでだか、分かるか?人間がうちら妖怪の存在を忘れたからや。あんさんがこの時を脅かす者なら、うちは容赦はせん」



 口調はそのままだが、端々に怒気や恨みが含まれているのを感じる。

 初対面ではあんな態度ではあったが、もしかしたら、彼女は妖怪のなかでも一際人間に敵意を持ってるかもしれない。



 それも、今俺がここで妖怪を殺して回れば、その場で妖魔に変化してしまうほどに。

 そう思えるほどの感情が、今の黒姫からは伝わってくる。



「うち、怒らせたら結構怖いで」



 にっこりと笑いながら、黒姫は脅しをかけてくる。

 こういうのは、場に呑まれた方が負けか。

 黒姫から発せられる圧力に臆さず、俺は態度を変えることなく黒姫に頷いた。

 


「みたいだな」



 脅しが終わると、満足したのか黒姫からの圧力は消え、結界も消えていった。



「いいのか。折角の結界を消して。俺が逃げるかもしれないぞ」

「そん時は、伝令に書いてあったことをするまでや」



 謎に思った俺だが、黒姫は自信ありげに応えた。

 伝令に書いてあったこと、俺の周囲の人物に危害が及ぶってやつか。 

 どうやら、あの脅迫はまだ継続中のようだ。



「分からないぞ?俺が自分さえよければ他人を犠牲にするかもしれない」

「それは有り得へん」

  


 俺的には有り得る話だと思うが、黒姫はそれはないと断言した。



「もしそうなら、あんさんとっくに逃げ出してるやろ」



 まぁ、確かにそうかもな。

 自分が殺されるかもしれないのに、焦る素振りすら見せないのはおかしいか。

 一応、危険な状況だったのは確かだが、まだ手はあった。

 黒姫にはお見通しなようで、俺は肯定するように苦笑いする。



「さて、うちから言いたいことは粗方言い終えたけど」

「もういいのか?」 

「うちとしては、ここに来るまで黄花を操っていて、血祭りにあげる前提で呼んだんやけど、そうやなかったし。暫くは見送りや」



 意外とあっさり解放されようとしていて、黄花も「よろしいのですか?」と耳を疑っている。



「言うとくけど、うちが信じてるのはあんさんを選んだ黄花や。あんさんやない。そこは承知しといてや。あくまで見送り。あんさんが本当にええ人やったら、悲しむのは黄花の方や。だが、人間のことは信用できひんし、あんさんが黄花傷つければ地獄の果てまで追いかけて八つ裂きにするさかい、覚悟しといてや」



 「うち、怖いに加えてしつこいさかい」と笑顔で釘を刺してくる黒姫。

 今は信用できる判断材料がないから、様子見ってことか。

 一応、すぐには命を狙われずには済んだな。



 思いの外上手くいき内心ホッとしていると、突然黒姫は「はぁ」っと脱力しだした。



「黄花が人間と一緒にいると報告されたときは、操られて酷い仕打ちを受けてたらどないしよかと思たわ」

「誰からの報告なんですか?」



 相当、黄花のことを心配していた黒姫に、黄花は自分達のことを報告した人物について聞き出した。

 この人物が、あの時俺達に石を投げてきた犯人かもしれない。

 そうとは知らず、黒姫は黄花の質問に応えようとする。



「そら――――――」

 


 今まさに質問に該当する人物の名を言おうとしたその時、突如黒姫の口が止まった。

 止まるや否や、黒姫の視線が俺達の後ろの方を向き、俺はそれに釣られるように振り向く。

  


「あら、今頃来たようやな」

「遅れて申し訳ありません。黒姫様」

緑葉(ろくは)がちんたらしてるからだ」

「別に急がなくてもよかったでしょ」 

「じゃが少しは急いだ方がよかったかものぅ。もう話し合いは佳境の雰囲気じゃ」 



 突然入ってきた、一人丁寧に頭を下げる男と、言い争いをしている男女にご老人。 

 自己紹介もなしにいきなり纏まりなく騒ぎ出され俺は混乱したが、それは俺だけのようで。

 黒姫含め、黄花も「貴方達....」と知っている素振りをしている。



「紹介するなぁ。彼等はうちが最も信頼を置く妖怪達【五芒星】の皆さんや。今回、うちだけじゃ判断しかねない時のために予め呼んでおいたんや」



 歩いてくる彼等を見ながら、黒姫から軽く説明が入る。

 そういえば、ここに来る前に黄花が言ってたな。

 黒姫が都を造る際、五人の妖怪に協力を求めたって。

 こいつらがそうなのか。 



 話に聞いた妖怪達に俺は興味深そうに眺めていると、さっきまで緑葉と言った女性と言い争いをしていた男が、俺を見た途端睨みながら近づいてきた。



「お前か。うちの黄花をたぶらかしたっていう人間は」

「なんだ、急に」

「やめろ紅磨(くれま)。黒姫様の前だぞ」



 紅磨と呼ばれた男は鋭い目付きでジロジロと俺を観察していると、龍の角を生やした律儀そうな男が紅磨の肩を掴んで止めにかかる。

 なんか、チンピラみたいな奴だな。

 いきなり来て、いきなり絡まれて。振り回されていると、「はいはい」と黒姫が手を叩きながら自分に注目を集めだした。



「喧嘩は止めて。あんさん達随分と遅かったなぁ。なんかあったん?」 

「いえ、実は我々四人が揃ったらこちらに向かおうと思ったのですが」

「この女が準備に手間取るからよぅ」

「伝令でも、ゆっくりでいいって書いてあったでしょ」

「じゃが、その結果がこれではいかんじゃろ」

「バラバラで行けばええのに」

徳蒼(とくそう)の奴が許してくれなかったんですよ」

「伝令に一緒に来いと書いてあっただろ」



 なんか、キャラが濃そうな奴等が来たな。

 俺を置いて語り始めた見た目と中身共に濃そうな四人に、俺は客観的に思う。



「まぁ、ええわ。彼が例の人間や。一先ず、自己紹介しよか」 

「はん!人間に名乗る名前なんて―――」

「えー、このあからさまに目付きの悪い赤いトサカが紅磨(くれま)や」

「勝手に言わないでくれよ!後、目付きが悪いのは余計です!!」

「因みに、あんさんのことを報告してくれたのも彼や」

「話聞いてます!?」



 こいつが、俺と黄花のことをバラしたのか。

 黄花もビックリなのか「紅磨が?」と信じきれずにいる。

 紅い着物を着て見た目頭悪そうだが、一応黒姫には敬語を使うようにしてるようで。

 勝手に紹介され紅磨は抗議するも、黒姫は気にせず「お次は―――」と紹介を続ける。



徳蒼(とくそう)だ」

緑葉(ろくは)よ」

「わしは白入道(はくにゅうどう)じゃ」

「以上や」

「おい、なんかあっさりし過ぎじゃねぇか!?」



 そのまま黒姫が紹介するのかと思いきや、あっさりと終わってしまった。

 意義を申し立てる紅磨に、徳蒼は「自分でさっさと言わないからだ」と自業自得の様に言う。

 バカにされた紅磨は「んだとぉ!!」と徳蒼に突っかかり徳蒼も「なんだ?」と迎え撃つ姿勢を取る。



 こいつらが、都創設最初期メンバーか。  

 なんだか騒がしい奴等だが、俺は少し引っ掛かりを覚えた。

 


「後一人はまだ来ていないのか?」



 どう見ても紹介されたの四人しかいないんだが。

 率直に疑問に思うが、これを聞いた黒姫達はなにを言ってるんだとばかりに首を傾げていた。



「はぁ?なに言ってんだ?お前」 

「ちゃんと、五人いるだろ」



 先程まで喧嘩していた、紅磨、徳蒼が当たり前のように応えるが、俺にはどういうことなのかさっぱりで。

 だがそこで理解したのか、黒姫は黄花の方を見た。



「黄花、あんさん言うてへんの?」

「......はい」

 


 驚く黒姫に、黄花は小さく頷いた。

 その様子に俺は「え?」っと黄花を見ると、黄花は恥ずかしげに、それでいて申し訳なさそうに俺から視線を逸らす。



「黄花、お前もそうなの?」

「...黙っていて申し訳ありません」



 黒姫の発言と黄花の反応から何となく察すると、黄花は観念したように呟く。



「隠さないで言えばよかったのに」

「私は先代のを引き継いだだけなので......その、なんといいますか、自分から言うとなんだか自慢みたいだし。言うのも抵抗があったので、つい......」



 ただ単に言うのが嫌だったようで、バレて恥ずかしそうに顔を逸らす黄花だが、これを聞いて俺は一つ納得がいった。

 妖怪一人のためにここまでするのかって思ったが、そりゃするわな。

 自分の信頼できる仲間が危険かもしれないんだから。



 合点がいったところで、黒姫は「まぁ、そういうことや」と言って話を変える。



「それにしても、あんさん達本当に遅かったなぁ。話はもうついてもうたで」

「やはり、そうでしたか」 

「どうせ殺しで決定だろ?」

「いーや、保留にしたわ」

「はぁ!?」



 話が終わっていたことに白入道は予想通りといった感じだが、その結果には紅磨は驚いて思わず黒姫を見た。



「なんでですか!?あいつ人間ですよ!」

「黄花は別に操られてへん。自分で決めて付いてきてるんや。でも、かといってこのまま自由にする気もあらへん。せやから、見極められるまで保留や」

「見極める必要なんてないですよ!人間がなにも考えなしに妖怪と仲良くやってるわけないでしょ!」



 割りと考えなしに仲良くやってるんだけどな。



「あの人は黄花が自分で選んだ人間や。確証もなしに殺せば悲しむのは黄花。あんさん、黄花が泣く姿でも見たいん?」

「いや、それは見たかないですけど.......」


     

 黄花の話が出た途端、痛いところを突かれたか紅磨は強気にでなくなった。 

 だがそれでも俺への処遇が不満な紅磨は、理由を聞いてもまだ納得がいってなさそうな顔をしている。

 するとそこで、隣にいた黄花が紅磨に詰め寄った。



「紅磨。貴方、どうやって夜兎様のことを知ったの?」 

「え、なんだよ、急に......」

「いいから、答えなさい」



 若干責める様に問い質す黄花に、紅磨は気圧されたのかたじろぐ。

 


「......妖魔が復活した時、お前のとこはお前しかいないから退治した後に式神飛ばして様子を見たんだよ。やばかったら、急いで加勢に行こうって思って、それで......」 

「要するに覗き見だろ」

「ちげぇよ!!」



 黄花の顔が目の前にあったからか、言葉が詰まり途中で徳蒼に煽られ紅磨は焦りながら声をあげる。

 その時に偶然俺を目撃してしまったのか。



「にしては、バレるまでに時間がかかったな」

「その後も見間違いかもしれないとか言って、何回か覗いてたらしい」

「だから、覗きじゃねぇって!!」



 なにげなく呟いた一言だったが、知りたくないことまで分かってしまった。

 徳蒼にバラされ、紅磨は必死に否定してるが黄花には今はそんなこと重要じゃないようで。



「じゃあ、あの時妨害したのは貴方じゃないんですね?」



 どうしても聞きたかったことを、優先させた。



「妨害?なんだそれ。いったいなんの話だ?」



 聞かれ、徳蒼を睨んでいた紅磨は不可解そうに黄花に顔を向ける。

 反応からして、嘘は言ってなさそうだな。嘘下手そうだし。



「事情はこれで分かったやろ。他に異議のある者はおる?」



 まだ納得していない者がいないのかと、黒姫は他の三人に確認を取る。



「害がないならええわ」

「私も異論はない」

「黒姫様が決めたことなら」

「なら、決まりやな」



 呆気なく了承が取れ、これで万事解決かと思ったが、まだ全然納得していないのが一人。



「ちょ、ちょっと待てって!このまま野放しにしたら、こいつが悪党なら黄花がなにされるか分からないだろ!!」 

「悪党なら、もう黄花になにかしてるやろ」


 

 さっきからしつこいな、この紅いの。

 俺を指差しながら紅磨は必死に抗うが、黒姫に軽く流される。 

 まぁ、確かに黄花と会ってから数ヵ月は経ってるからな。

 俺が悪人なら、なにかしらのことはしてるか。


 

「ならせめて、俺がこいつを監視する!」

「え?」

「俺がこいつが信用に足る人間か見極める。どっちにしろ、そういう役目は必要だろ。それを、俺がやる」


  

 さっきまでいつ帰ろうかと黙って様子を伺ったいたが、無意識に言葉が出た。

 なんか、凄い嫌な発言を聞いたんだけど。

 面倒極まりないと思ったが、黒姫は首を横に振った。



「駄目や。それであんさんまでなんかあったら、それこそ問題や」



 これも黄花同様、紅磨を心配しての言葉だろう。

 だがそれでも、紅磨の決意は固い。



「昔ならともかく、力を失った今の人間に負けるわけがねぇ!そのために先代と交代するまで修業してきたんだ!」

「今こうしてこの国におる時点で普通の人間ちゃうやろ。それに触れて分かったけど、この人半端やないを霊力を持ってる。紅磨、悪いけどあんさんじゃ荷が重すぎる」



 俺の隙を突いて魔力を体感した黒姫は、紅磨がしようとしてることが如何に無謀かが分かってるようだ。

 こいつ、さっきから何でこんなにしつこいんだ。

 あまりのしつこさに、俺はなにか別の理由があるんじゃないかと思っていると、またしても黄花が紅磨に詰め寄る。



「紅磨、貴方が人間を憎んでいることも、貴方が強くなったことも知っています。ですが、ここにいる夜兎様は、貴方が思っているような人間ではありません。今だけは退いてください」


 

 宥めるように、黄花は紅磨を説得する。

 

 

「い、いや、俺はお前のことが心配で......」

「だいたい、どうして貴方はいつも私にばかりしつこく執着するんですか。他の人の時は全然気にしていないのに。嫌がらせですか?」


  

 眉間にシワを寄せ、若干イラつきながら黄花は捲し立てる。 

 黄花の言い分からして、紅磨は黄花に対してだけ妙にしつこくなるらしいが。

 それを受けて紅磨は、「だ、だから...」となんだか緊張していて態度がしおらしい。 



「俺は、お前のことが本気で心配なんだよ!!」


  

 勢いで言ったのか、それとも無意識なのか、紅磨は恥を感じながらも真剣に叫んだ。

 その叫びの意味には勿論黄花のことが心配というのもあるだろうが、もっと特別な感情が根幹にあることを俺は今の流れで察した。


 

 こいつ、黄花に気があるらしい。  

 だから、こんなにも俺を解放するのに反対してたのか。

 今までの行動に理解が及び、俺は小声で「ほー」と呟き黄花の返答を見守る。



「それはもう分かりました。ですから、私が言いたいのは、どうしてそこまで私ばかり贔屓(ひいき)するのかということです」



 だが、返ってきたのは紅磨の言葉の意味にも気付かない、黄花の呆れた台詞だった。

 気づいていない。これっぽっちも。

 これには俺も内心えーっと思いながら黄花を見る。

 


 気づかないにせよ、少しは引っ掛かりを覚えるだろうに。掠りもしなかったな。

 思いが届かず、紅磨は頭を押さえ苦悩に満ちた表情をしていると、



「なら、こうしまひょか」



 黒姫が助け船をだしてくれた。



「そこまで言うなら、紅磨。あんさんこの人間と勝負してみ。もしかしたら、あの感じた霊力はうちの勘違いかもしれへんし。勝てたら、監視の件は許可したる」


 

 この思いがけない提案に、俺も紅磨も虚を突かれた様子で黒姫を見るが、紅磨は乗り気なようで。



「あぁ!やってやる!」


  

 めちゃくちゃ意気込んでいる。

 一方、俺はというと、正直乗り気じゃない。



「あんさんはどうする?勿論、あんさんが勝てば今回はこのまま見送りで今日のとこは見逃したる」

「結局は見送りなんだな」

「そら、いくら勝ったところで変わるもんやないからな」 



 そりゃ、そうだ。

 理屈では理解しているが、俺は割りきれない気持ちでいた。

 こいつと勝負して例え勝っても、現状維持のまま。

 あんまり、やる気になれない。



「まぁ、やるしかないか......」



 でないと、延々と話が平行線になりそうだ。

 夏蓮と小狐達のこともあるし。

 気は進まないが、状況からいって俺は半ば諦めながら了承する。



「決まりやな」

「よろしいのですか?」

「もう、それしかないだろ」

 


 多分、こうでもしなきゃ紅磨はずっと抵抗するだろうし。こっちの方が手っ取り早い。

 そう自分を納得させ、割りきる。

 最初は意外と話せば分かると思ったが、そう都合よくいかないか。



 紅磨が「絶対勝つ!!」とやる気全開のなか、俺はそれを見ながらめんどくさそうにため息をつく。

おまけ


【似た者同士】


「黄花、さっきの紅い奴の発言なにも思わなかったのか?」

「紅磨のですか?なにか変なところでもあったでしょうか?」

「そうか......。もう少し察してあげた方がいいと思うぞ」

「はい?」


"(絶対、主が言っていい言葉じゃないと思う......)"


―――――――――――――――――――

 

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