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大きくいえば、同じなような気がする

小説版、3巻が発売中です。

よろしくお願いします。

 人間とはなんなのか。

 そう問われた時、そこには無数の答えがあるだろう。

 欲にまみれた者、狡猾な者、人の心を顧みない者、様々な言い方がある。

 

  

 中には、一緒にいて楽しい存在、良い人もいれば悪い人もいる、互いに支えあうものなど、それは個人の価値観によって左右される。

 だが、こと妖怪に関して言えば、大半の者が口を揃えて言うだろう。



 ――――『臆病者』と。



 未知なる者である自分達を恐れ、物影に隠れ、意味もなく怯え、心の平穏を保つため力の有るものに頼り、自分達の領域から排除する。  

 歩み寄ることはせず、ただ未知であるから、自分達より大きな力を持っているから、外見が自分達と違いすぎるから、人間は必要以上に妖怪を遠ざけてきた。



 その結果、虐殺を繰り返し、妖怪は異界にまで追いやられ、今はその存在も架空のものになった。

 それを『臆病者』と言わずしてなんというだろうか。



 だが、それはさっきも言った通り「大半」の妖怪の話だ。

 一部の、とある人間に仕えている妖怪の答えは、また違った。

 


 人間は、『妖怪と大差ない存在』





―――――――――――――――





「皆さん、あまりはしゃぎ過ぎちゃ駄目ですよ」


 

 森林のなかに佇む一軒の神社。

 緑が深く、その周辺に入る道がないその異界の地で、黄花はのんびりとした時間を過ごしていた。



「「「はーい!!」」」



 黄花の呼び掛けに、小狐達は元気すぎるほどの返事をあげ、ちりぢりに散っていく。

 季節は秋に近づき、神社の周りの木も徐々に緑から紅葉に変貌し始めた。 

 気温も下がり、外に出るには気持ちの良い時期になったようで、子供達のはしゃぎ具合も中々なものである。

 


 気持ちが良いと感じるのは黄花も同じで、神社の石段に腰を降ろし、リラックスしながら小狐達を見守っていた。



 今日は良いお天気ですねー。 

 少し涼しげな風に煽られ、黄花は心が穏やかになりながら思う。

 この日は快晴。こうも天気が良すぎると、少し眠気に誘われてしまいそうだ。

   


「平和ですねぇ」



 今自分が見ている風景に、黄花は幸せを感じていた。

 夏の頃は、封印されていた妖魔が復活しそうになり平和とは程遠いものだった。

 なのに、今では豊かな自然に囲まれ、子供達が目の前で楽しげに遊んでいる。



 これ程平穏な時はいつ振りだろうか。

 嬉しさで自然と柔らかい笑みを浮かべる黄花だが、決して忘れてはいけないことがある。

 それもこれも、全ては夜兎がもたらしてくれたものであるということ。

 あの御方と出逢い、窮地を救ってくれ、得たいの知れない自分達、妖怪を人間と変わらず普通に接してくれる。



 黄花には、それがなによりも嬉しかった。

 人間をよく思わない者はたくさんいる。

 それは、過去が証明した事実だから、仕方ないといえば、仕方ない。


  

 だがだとしても、黄花は言いたい。

 世の中には、こんな人間もいる。

 我々、妖怪は人間を知らなすぎた。  

 自分達が見てきたのは、我々妖怪を拒絶するだけの人間。

 それが全てと思い込み、過去の固定概念に捕らわれて、人間と隔絶した異界で生きすぎたのだ。

 

 

 だから、その者達になにか言えるのであれば、敢えて言おう、『人間と出会って、私は今とても楽しいです』と。

 そんなことを考えているうちに、黄花の眠気は徐々に増してきたようで。

 小さくアクビをしながら、うとうとしていると、一匹の小狐が黄花の下に走り寄ってきた。



「黄花様ー!一緒に遊ぼー!」



 走ってきたのは、以前夜兎と夏蓮に助けてもらい、二人をここに連れてきた小狐、菜野芽(なやめ)である。

 


「はい、いいですよ」



 菜野芽に誘われ、黄花は立ち上がり菜野芽の下に歩こうとしたその時、



 チリィン―――――――――



 突然、鈴の音が聞こえてきた。

 神社全体に響き、だが決してうるさくない音色のそれは、黄花や菜野芽だけでなく、他の小狐達も一斉に動きを止め、音の出所を探る。



 すると、今度は神社の真っ正面の木々が霧に満ち始めた。

 これは、誰かが来たときに起こるサインだ。

 黄花や菜野芽、他の小狐達が霧の方を見守るなか、霧のなかから出てきたのは、一人の黒い翼の生えた人物だった。



 わらじや、黒を基調とした古風な服装。

 雨や炎天下の対策で作られた藁の被り物、菅笠(すげかさ)を被っているせいで顔はよく見えないが、黒い翼の人物は迷うことなくゆっくりと歩く。

 

   

 あの黒い羽は......。

 見覚えがあるのか、黄花は黒羽を凝視する。

 小狐達の視線が釘付けのなか、黒羽の人物は黄花の目の前まで来ると、おもむろに膝をついた。



「失礼ながら、黄花様でいらっしゃいますでしょうか」

「そうですけど。ご用件は?それと、子供達がびっくりするので、さっきの鈴の音はお控えください」

「申し訳ございません。いきなり領域に入るのは不粋だと思ったので、事前にお知らせをと思いまして」



 そう言って、声からして男だろうその人は懐から小さな鈴を取りだし、黄花に見せる。



「我が主からの伝令でございます」



 黒羽の男は鈴を仕舞うと、今度は紙に包んである古風な手紙を差し出した。

 暫しその手紙をじっと見つめ、黄花は若干な抵抗を感じる様子で手紙に手を伸ばす。



 あの黒い羽を見たときから、誰からの使いかは見当がついていた。間違いなく、あの御方(・ ・ ・ ・)でしかない。

 そして、使いが「伝令」と言っている時点で、それはもうただのお手紙でないことは明白だ。

 どことなく緊張感を味わいながら、黄花はゆっくりと包みを開き、手紙を開く。

  


「これは......」



 手紙の内容を読み、黄花は目を見開き、言葉を詰まらせる。

 自分が想像していたよりも、遥かに斜め上な内容だったからだ。

 不味い、非常に不味い......。



 手紙を読むにつれ、黄花の心は焦りに満ちていく。

 それも無理はない。

 なんせ、下手をしたら、自分の今の幸せが消えてしまうかもしれないのだから。







――――――――――――――――





 

 

 

 学校終わりの自宅の部屋で。

 普段はゆっくりと本を読むか、だらだらベッドの上で寝ているかの俺だが、今だけは苦悩に満ちた表情をしていた。



「はい、王手です」



 携帯の画面から聞こえるメルの声に、俺はガックリと頭を項垂れる。

 画面には、将棋盤の画像に、大きく真ん中に「負け」の二文字。

 完全に詰んでる......。

 


「強すぎ...」

「AIは日々学習していますから!」


 

 今でも十分優秀なのに、これ以上なにを学習するんだか。

 意気揚々と語るメルに、俺は小さくため息をつく。

 勝てて嬉しいのか、喜ぶメルとは対照に俺の気は沈むばかり。

 四連敗もしてれば、落ち込みたくもなる。



 メルに誘われて、将棋のゲームで対戦していたんだが、ここまで圧倒的とは......。

 別に、そこまで将棋に自信があるわけではないが、やられっぱなしは流石に嫌だな。



「もう一回やろう」

「はい!」



 一度くらいは勝ちたい。 

 再戦ボタンを押し、俺はまたメルと勝負を始める。

 画面に集中し、俺は一手一手に神経を注ぐ。

 なんとしても勝ちたいという気持ちが出てるのか、対局が始まってから会話が一度もない。

 ここまで真剣になったことが、今まであるだろうか。 



 お、今度はいける気がする。

 終盤に差し掛かり、盤面からして勝ちが見えてきた俺は、内心ヨシッと思いながら駒を動かしていると、

 


“あの、夜兎様......”

 


 突然、頭の中から黄花の声が聞こえてきた。



「ん?」

「はい、詰みです」



 黄花の呼び掛けに反応し、俺は画面から目を離す。

 それと同時に放たれる、無情なるメルの宣告に、俺は思わず「えっ」っと叫び画面を見る。

 画面には、最早見慣れてきた「負け」の二文字。

 驚きながらも盤面を見ると、確かに詰みになっている。

 


 泳がされてた......。

 メルからしたら、もう遊び相手にすらならないのか。

 またも敗北し、俺は言葉を失っていると、“あのー...”と恐縮気味な黄花の声が聞こえた。



“夜兎様、どうかされましたか?”

「......いや、なんでもない」



 ただ今この上ない敗北感を味わっている最中だが、取り敢えず黄花の用件を聞こう。



「どうかしたか」 

“あの、折り入ってご相談があるんです”



 相談と言われ、俺はなにかと思ったが、この状態で話を聞くのもあれだな。



「なにかは知らないけど、一先ずそっちに行ってもいいか。少し外に出たいと思ってたんだ」



 じっとしていたら、さらに気が滅入りそうになる。

 気分転換も兼ねた俺の申し出に、黄花に”畏まりました“と了承を得て、俺はベッドから立ち上がり玄関から靴を取りに部屋を出る。



「帰ったら、また他のやつでもやってみるか」

「私が五連勝中というのをお忘れなく!」

「数えんでよろしい」

 


 笑顔で調子に乗りおって。

 五連敗して、さすがに対抗心が出てきた俺は、帰ったら次の対戦を約束する。

 他のゲームならまだ勝てる要素あるだろ......多分。



 あそこまで完封されたら、若干自信も削がれるが、やってみなきゃ分からない。

 楽しかったのか、素直に喜ぶメルに俺は苦笑いしながら、黄花のところに向かう。

おまけ


【生活習慣】


「しかし、ゲームやるのも久々だったな」

「マスターは普段ゲームはしないんですか?」

「特に意識はしてないが、してないな。いつもは本読むか寝てるかの、どっちかだし」

「え、どっちかですか?他には?」

「ない」

「.....マスター、一日損してるとかたまに思いません?」

「?いや、全然」

 

ほぼ習慣です。



―――――――――――――――――


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