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いつも明るいキャラが元気がない時は大概しょうもない理由

 柳達の件から一週間後。

 後処理も無事に終わり、俺はようやく肩の荷が降りた。



「いやー、今回も無事解決できてよかった!」

「あんたは何もしてないけどな」



 満足げに語るおっさんに、俺は釘を刺す。

 なにちょっと大変だったなー的な雰囲気を出しているんだか。

 今回に至ってはなにもしてないだろ。



 図星を突かれ、おっさんは苦笑いしながら話を逸らそうとする。



「ま、まぁ、解決できたんだしよかったじゃねぇか。そのお陰でこうして旨い飯にもありつけるんだから」   



 そう言いながら、おっさんは目の前のテーブルに並べられた料理を見る。

 今俺達は、今回の事件解決の祝いとして、中華料理屋に来ている。


 

 テレビではお馴染みの回るテーブルに、麻婆豆腐やら春巻きやら、沢山の種類の料理が並び、とても美味しそうだ。

 料理は確かに旨そうだ。旨そうなのだが...。



 料理を見ながら、俺はあまり納得のいかない気持ちになる。  

 柳達には変な道具で嫌な目には遭うは、魔法で建物を維持したり【削除魔法】で記憶や記録を消すのに一回気絶するは。



 正直、あれだけ頑張って見返りがこれなのも割りに合う気がしないのは、気のせいだろうか。



「結構大変だったんだぞ」

「悪かったって。その代わり、今回は結構値段の張る店を選んだんだ。それで勘弁してくれ」



 申し訳なさそうに言うおっさんに、俺は小さく息を吐く。

 まぁ、これはこれで有りか。

 おっさんに同等の対価を求めるのも、なんか違う気がするし。



「早く食おうぜ。冷めたら大変だ」 

「そうだな」



 おっさんの言葉に同意し、俺は早速食べ始める。 





―――――――――――――――――






「そういやよー」



 食べてる途中、おっさんは何気なく話しかけてきた。


 

「なんだ?」

「結局、あいつらはあれでよかったのか?」



 「あいつら」というのは、柳と柴多のことだろう。 

 おっさんからしてみれば確かに気になるかもしれないが、そこら辺は問題ない。

 心配そうなおっさんに、俺は食べる手を止めることなく言った。



「いいんだよ、あれで」



 そう言いながら、俺は春巻きを口にする。

 あの時、リーナに頼んでなんとかビルの修復と、建物の爆発で運悪く負傷した人の治療が済んだ俺は、柳達の処遇について考えていた。



 最初はどうにか逮捕とかできないもんかと考えたが、それをするにはこの出来事の一部をさらけ出さなければいけないというリスクがある。

 だが、流石に半壊したビルを囲む巨大な魔法陣なんていう図柄は、残しておいていいものではない。



 じゃあ、どうするかと考えた結果――――あの二人を真人間へと更正させることにした。



 逮捕もできない、帰る家もない、ならいっそ一からやり直させて社会の役にたって貰おうということだ。

 どうやってそうするかだが、二人には【闇魔法】による呪いで―――――――もう二度と悪さができなくなる呪いをかけた。



 これをかけられると、自然と強盗やら殺人やらはいけない!と思うようになり、真っ当に生きようとする。

 これが中々に効果のある呪いで、目を覚ました時には「なんで俺達はあんな真似をしたんだ...」と自分を見つめ直し、懺悔していたな。



 しかも途中から俺に向かって「ご迷惑をおかけしました!!」と土下座までされて、その時は俺や一緒にいたリーナも反応に困ったもんだ。



 元々死亡扱いになっていた為、新たに戸籍を作ったりして、今頃必死に働いているだろう。



「下手に監獄送りにするよりマシだろ」

「でもよぉ、万が一またなにかやらかしたらと思うと、気がかりでよぉー」



 おっさんはあの場にいなかったから、不安が抜けきっていないのだろう。

 あれを見ればおっさんも納得するだろうに。



 そして、今回の元凶である社長の方だが、彼にもまた呪いをかけてある。

 柴多の能力が消えたことにより、研究所の方の洗脳も解け、騒ぎになっていることだろう。



 だから、社長にはその場を治める為に、柴多達と同じような呪いをかけた。

 元々、やっていることがやっていることなので、密かに見ていたが、社長はすぐに改心し、研究を中止、二人を追うのを止めたそうだ。

 研究員達は納得いかないようすだったが、これで無事に解散だろう。

  


「安心しろ、もうあいつらのスキルは消したんだ。やれるとしても、もうあんな真似はできない」



 【テレポート】も【洗脳】も使えないんだ。なにもしようがあるまい。

 そう言いながら、俺はテーブルにある最後の春巻きを取ろうと箸を伸ばす。  

 これ結構旨いんだよな。この中で一番好きな味だ。



 この店の春巻きが気に入り、俺はまた食べようとするが―――――おっさんも同時に同じ春巻きを掴んだ。



「...おい、夜兎。お前さっきもこれ食ってただろ」 

「今回の功労者は俺だ。そこは譲るべきじゃないのか」



 さっきまで和やかに食べていた雰囲気から一変。

 俺達の周りで少しピリピリした空気が流れる。

 ここの春巻きを気に入っていた俺は、意地でも箸から離そうとしない。

 だが、それはおっさんも同じのようで、同じように箸から離さないでいる。



「ここは年配者に譲れって.....」

「そっちこそ、色々あって疲れた若者を労れ」 



 お互い言い合うが、状況は依然として変わらない。



「俺はまだ全然食べてないんだよ.....」

「俺はまだ食べたりないんだ......」



 箸で春巻きを引っ張り合いながら、両者共に譲らない。

 まずい、箸だとうっかり折ってしまうこともあるから、下手に力が出せん...。

 


 このままじゃ埒が明かず拮抗した状態が続くなか、おっさんがある提案を出してきた。



「なぁ、ここは一つ公平にジャンケンで決めないか?」

 


 絶対なにか裏があるな。

 突然の提案に俺は勘ぐるが、ここは敢えて乗ることにした。



「分かった。それでいこう」

「よし。なら、一旦お互い同時に箸を置こう。いいか、同時にだぞ」



 おっさんに指示され、俺は言われた通り箸を皿に置こうとする。

 まぁ、ここで普通にジャンケンをしても、運のステータスも高い俺が勝つ。

 不正を働こうとしても、俺の前ではすぐにバレるだろう。



 そう高を括っていたが、そもそも普通にやろうと思っていたことこそが間違いだった。



「貰った!」

「あっ!?」 



 俺が箸を置き手を離した瞬間、おっさんはギュッと箸を掴み、ひょいっと春巻きをかっさらっていった。

 油断していた俺は止める間もなく、気づけば春巻きがおっさんの口のなか。

 それを眺め、俺は「えぇ...」と思わず口から漏らす。



「そこまでするか、普通.....」

「そこまでしなきゃ、お前から奪えないだろ」



 いや、だからといっていい年した大人が、騙してまで食い物を取ろうとするなよ。

 引いた目をする俺だが、おっさんは気にせずやたら旨そうに春巻きを食べている。

 逆にそこまですると、いっそ清々しいな...。



 怒る通り越して呆れてきた俺は、気を取り直して別の皿にあるこれまた最後の一つであるシューマイを取ろうとすると、



「あっ」

「ん?」



 またおっさんと箸が重なってしまった。



「...なぁ、夜兎」

「おっさん、わざとだろ」



 さっきまで春巻き食ってたのに、なにもう他のに手を付けようとしてるんだ。

 少し大きめなシューマイを器用に掴み合いながら、俺とおっさんは睨み合う。



 このやり取りが後もう二、三回続くが、それはそれである意味賑やかに食事は続いた。







――――――――――――――――――







 食事も終わり、店を出るとおっさんは満足そうな顔をしていた。



「いやー、食った食った。高いだけあって旨かったなぁ」

「落ち着いて味わいたかったな」



 幸せそうなおっさんに、俺は若干疲れた様子でいる。

 なぜだか二、三回続いたあれは、俺が威圧したり、おっさんが姑息なフェイントを決めたりの応酬があり、後半はあまりゆっくりと食べられなかった。

 

 

 あれ、絶対わざとだろ...。

 店を出てからも、俺はそんなことを考えていたが、当の本人は見ての通りご満悦。

 気にする方が負けか。



「そんじゃ、今日はこの辺で解散するか」



 目的である食事も終わり、おっさんはそう切り出した瞬間、ドンッとおっさんが通りすがりの男性にぶつかった。



「おっと、すまないね」

「いえ、こちらこそ」   



 マスクをしていて顔は分からないが、ぶつかった男は謝罪するおっさんに軽く会釈をして去っていく。

 今俺達がいるのは、人の出入りが多い賑わいのある通り。



 他人とぶつかるのは、珍しいことでもない。

 そう思った俺だが、去っていく男性を見ながらどうにも拭えない違和感を覚えた。

 確かに人は多いからぶつかることはあるだろうけど、それにしてはなんだか露骨すぎる。



 そう感じた俺は、去っていった男性の方を向きながらおっさんに確認した。



「なぁおっさん、少しポケットのなかを確認してみてくれ」

「ポケット?なんでだよ?」

「いいから」 



 若干強気な俺の言葉に、おっさんは意図が分からずも言われた通りポケットを探る。

 ズボンのポケットを触っていると、なにか気づいたのかおっさんは「ん?」となり、次第に「ん?ん!?ん!!??」と焦りを見せ出した。



「ない、財布がないぞ!」



 それを聞いて、俺はやっぱりかと思った。



「さっきのぶつかった奴だな」

「え、お前気づいてたのか!?なら、先に言えよ!!てか、サッと捕まえてくれよ!!」

「半信半疑だったんだよ。それにこんな人前で無闇にスキルは使えない」



 俺を欺くとは、敵ながら中々手際のいい仕事だったな。

 呑気に俺は感心するが、被害にあったおっさんはそれどころではない。



「取り敢えず、追いかけるぞ!」 

「まぁ、待てって」



 慌てて行こうとするおっさんを制し、俺は冷静に対処案を提示する。



「今から行ったって見つかる可能性は低い。ここは俺に名案がある」



 そう言ってから、俺は心のなかで我が家の番犬に声をかける。



“ロウガ。聞こえるか”



 心のなかでロウガを呼ぶが、返事が一向に来ない。



“おーい、ロウガー”

“......あれ?この声、主?”

“大丈夫か?なんか元気なさそうだぞ” 



 いつもの元気のある声とは裏腹に、今のロウガは声に覇気を感じない。



“だいじょうぶー。それよりどうしたの?”

“少し頼みがある。今から人目のない場所に転移させるから、急いでこっちに来てくれないか?”

“わかったぁー”



 力の抜けた、ため息にも似た返事をしてから、俺はロウガを人目のつかない路地に送った。

 送ってからすぐに、ロウガは路地からひょこっと顔を出す。



“あ、いた。あるじー”



 俺を見た途端、ロウガは俺を呼びながら一直線に向かってくる。物凄く怠そうな声だが。

 そして、その向かってくる勢いもなく、いつもの爆走とは違い、まるで落ち込んでいるかのようにトボトボと歩いている。

 しかも、通常の歩くスピードより遅い。



 そんなロウガに、俺はいったいどうしたのかと思い、不安げに訪ねた。



「本当に大丈夫か?なんか今にも死にそうなくらい衰弱してるけど」

“体的には全然元気ー”



 ロウガはそう言うが、全然大丈夫には見えない。

 いったいなにがあったのか。

 ロウガのことが心配になるも、俺の考えを察したのかおっさんは顔をひきつらせた。



「おい、夜兎。まさか、お前の名案って...」

「そういうことだ」



 大体のことは勘づいたようだが、おっさんは不安なのか心配そうな表情をしている。

 まぁ、今のロウガ見たらそら不安になるだろうな。

 俺の名案とはお察しの通り、ロウガに臭いで追跡して貰う。



 確かに訓練のされていない犬がいきなりそんなことできるのかと言われたら無理かもしれないが、ロウガだってモンスターだ。

 決してただの犬ではない。というか、狼だ。

 その辺の警察犬より鼻は効くし、知能だって高い。



 それに、他の策といっても【気配察知】では盗人の気配なんて分からないし、【空間魔法(効果範囲 特大)】は今犯人は周りに溶け込んで歩いている為、変な動きを見せない限り特定も無理。

 結局は、ロウガに任せてみるしかないのだ。



 ロウガなら、必ず見つけてくれるだろう......と思ったのだがまさか本人がこんな調子だったとは。

 なんで、家を出る時気づかなかったのか。



「本当に大丈夫なのか?なんか見るからに疲れてるって顔してるぞ」

「任せてみるしかないだろ。ロウガ、このおっさんの臭いを嗅いで、持ってかれた財布を追えるか?」

「わふぅぅ(わかったぁ...)」



 息を吐くような生返事で、ロウガはおっさんの周りをぐるぐると回りながら、クンクンと臭いを嗅いでいく。  

 動きがとろいが、ちゃんと仕事はしている。

 やがて、臭いが分かったのか俺の方へ戻ってきた。


 

「どうだった?」

“ニンニクくさーい。後ちょっと加齢臭するー”

「そういう意味じゃなくてな」


 

 こりゃあ、かなり重症だな。

 いや、まぁ、おっさんも歳だし、さっきまで餃子やらなんやら食ってたからそうだろうけど。



「後は追えるか?」

“無駄に臭うからよく分かるよぉー”



 なんか刺がある気がするが、追えるならいいか。

 


「追えるらしいぞ」

「本当か!?なら、早く向かうぞ!!俺の財布が大変だ!!」



 自分の金が盗まれたからか、おっさんは焦りながら催促する。

 財布が盗まれたんだ。そうなるのも無理はないか。



「急がなきゃ今月の俺の生活が大変なことになる!てか、盗った奴取っ捕まえたら一発ぶん殴ってやらぁ!!」

  


 怒りを露わにしながら、おっさんは脇目も降らず叫んでいる。

 気持ちは分かるが、正直止めて欲しい。周りの視線が痛い。



「とにかく、とっとと取り返すぞ」

「おう!」

“はぁい...”    

 

  

 怒りの炎に燃えるおっさんに、なぜだか気分が沈んでいるロウガ。

 温度差は物凄いが、果たして無事見つけられるだろうか。

 ロウガを先頭に、俺達は哀れな窃盗犯を追いかける。

 

おまけ


【相談】


「なぁ、ロウガ」

“......”

「なんでそんな元気ないんだ」

“......”

「なんなら、相談に乗るぞ」

“......最近”

「最近?」

“最近本当に出る機会失せたなって思って...”

「あー、まぁ、そこはどうしようもないだろうなぁ。俺がどうこうできる問題じゃないし、なにより残念だがその相談にものれないな。だって俺、しゅじん――――」

“それ以上言ったら、マジでぶっ飛ばすよ?”




――――――――――――――――――



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