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他のと比べて大分地味だな

 転移してみたら、なにやら襲われそうだったので俺は咄嗟に止めに入った。

 俺に手を掴まれたまま場は膠着したが、柳は「くそっ」と苛立った顔をしながら俺の手を振り払う。



「これはお早い到着だな。下の奴等でなら少しは時間が稼げると思ったんだが。やっぱり、使える能力は一つじゃないな」

「色々と万能なもんでね」



 気を落ち着かせ、柳は警戒しながら呟く。

 【テレポート】しかできない柳には無理だろうが、俺には【空間魔法(効果範囲 特大)】がある。

 これがあれば、どこになにがあるか手に取るように分かり、実質俺はどこでも転移できるのだ。



 軽口を叩く俺に、柳は俺を凝視ながらも斜め後ろにいる社長にチラッと目を向ける。

 


「よく俺達がここを襲うと分かったな。どこから情報を得た」

「うちの優秀な子がちょっと調べたら出てきたぞ。お前達の生い立ちとか、今までどこにいたとか」



 その俺の言葉に反応し、柳の眉がピクッと動き、柴多は「え?」と声を漏らす。

 だが、ここで一番驚いたのは社長の方で、「なっ!?」と驚愕していた。



「う、嘘だ!!あれが外部に漏れることなんてあり得ん!!」



 俺の斜め後ろで社長がギャーギャー喚いているが、俺はそれよりも柳に少し呆れ気味に言った。



「というか、そんな丸分かりな時間稼ぎは意味ないぞ。拐うなら拐えよ、これ(社長)



 親指で後ろを指しながら、俺は柳に言い放つ。

 さっきから、チラチラとタイミングを見計らうようとしてるのが見え見えなんだよな。

 


「まぁ最も、もう能力は使えないだろうけど」  



 それを聞いて、柳はなにを言ってるんだと半信半疑になっていたが、次第に自分の身体に異変が起きたことに気づく。



「っ!?」



 目の瞳孔が震え、自分の体を見つめながら柳は言葉にできず口が開いたまま呆然としている。

 能力が使えない。柳は自覚したのだろう。



「啓介?どうしたの?」

「どうなっている...」 



 様子がおかしい柳に柴多は尋ねるが、そんな柴多の問いに応えず、柳は動揺を隠せず取り乱す。


 

「逃げられるのはもう面倒なんだ。悪く思うなよ」



 焦る柳に俺は冷静に伝える。

 こいつのスキルは、この部屋に来た直後から既に消しておいた。

 転移されるのは流石に厄介だからな。 



 柴多の【洗脳】はそのままだ。こいつのを消すとビルに警察やらが入ってきて、色々面倒になるだろうから、今は消さないでおく。

 それに、洗脳できるといったら社長くらいだし、問題ないだろう。



 【テレポート】が使えず慌てた柳だが、すぐに思考を切り替えクッ!と俺を忌々しそうに睨みながら、徐にポケットに手を入れた。



「こっちは目的を遂げるまでは逃げるつもりはないし、止める気もない。それに、お前がここに来ることも予想の範囲内だ」



 そう言うと、柳は突っ込んだポケットから小さなリモコンのようなものを取りだし、俺に向けてボタンを押した。

 リモコンからは、小さくピーっと音が鳴るばかりで、特に変化はない。



 ビル自体にも異変は起きていないし、いったいなにがしたいのか。



「なにも起きな......!?」



 リモコンを見ながら俺は怪訝そうにしていると、突如自分の中の違和感に気がついた。

 突然、視界が揺らいだ。頭痛がして、思考が上手く働かない。



 まるで頭の中がグルグルかき混ぜられているみたいだ。

 耳鳴りがし、なんだか吐き気までしてくる。

 手で口を押さえながら、俺は上手くいったという顔をしてる柳を見る。



 どういう原理かは知らないが、原因は間違いなくあれだ。

 柳の手に持つリモコンに目をやっていると、後ろでも「うぅ...」と小さい呻き声が聞こえた。



 目線だけ振り返ると、どうやら社長にも影響が出ていたようで、顔色を悪くしながら跪いている。

  


「中々苦しいだろ。これは俺達が研究所にいた時に使われたもので、脳に直接電磁波を送り集中力の阻害や吐き気など色々な影響を生む。なにかに使えると思って持ってきておいてよかった」



 集中力の阻害か。道理でさっきからボーッとすると思ったら。

 柳の言うことに俺は口を押さえつつも耳を傾ける。

 だが、そんなもんさっさと奪えば済む話だ。

 そう思っていた俺だが、見透かしているのか柳は「そして...」と付け加えてきた。



「これを浴びていると、その間は能力は使えない」



 それを聞いて、俺はえ?と顔を柳に向ける。



「能力を使うには必ず集中力がいる。その集中力が断たれれば、能力が使えなくなるのも当然だ。おまけに視界まで揺らぎ立つのも辛くなる。暫くそこでじっとしていろ」



 まじですか。   

 試しに転移を使ってみようしたが、視界が霞んだり集中ができず上手く発動しない。

 いつもなら歩くのと同じくらい軽くこなしていたのに、集中力って大事だったんだな。



 呑気にそう思うが、柳は俺が辛そうにしているのを見て今度は踞る社長に目線を置く。

 


「さぁ、今度こそ俺達と一緒に来て貰うぞ」



 テレポートは使えないから、普通に連れていくつもりなのか。

 柳は社長にゆっくりと近づく。

 目眩がしながら、俺はフラフラと倒れるのを耐える。



 確かに、こんな状態じゃ歩くこともできないかもしれない。

 まぁ......普通の人ならの話だが。



「結構効くなぁ...」


 

 一歩足を前に出した瞬間、俺は一瞬で柳の背後に回り若干辛そうな声を出しながら柳の右腕を掴んだ。

 右腕が動かなくなり柳は振り返ると、動ける俺を見て「なっ!?」と驚いていたが、俺は有無を言わさずリモコンを奪いぐしゃっと握り潰した。



 床にパラパラと破片が飛び散るも、柳は目もくれず俺が動けることに激しく動揺していた。



「な、なぜ動ける。電磁波が効かないのか....!?」

「いや、普通に効いてた。正直まだ気分が最悪だ」

「じゃあ、どうして!!」

「単純に言えば、気合いだな」



 頭を押さえながら顔を歪める俺に、柳は意味がわからないといった顔をする。

 いくらレベルやスキルがあったところで、体の造りは人間のまま。

 


 普通なら、このまま俺は意識を失うか、膝をつき踞るかの二つだ。

 だが、ここで俺が普通の人間と違うところがレベルやスキル以外にも、もう一つある。

 


 それは、身体能力だ。

 レベルが上がれば、力や速さと言った身体的なところが強化される。

 そして、その他に俺は【精神耐性(極)】があり、こっちは常時発動型なので生半可なことじゃ精神的に折れはしない。



 だから、気合いで動いて、リモコンを奪い取った。それだけだ。 

 本当は後ろに回る気なんてなかったが、こんな状態だからか加減を間違えてしまっただけである。

 


「もう止めておけ」



 そう言いながら俺は手を離すと、柳は微かに恐怖を感じたような顔を見せながら素早く距離を置く。



「お前は...いったい何なんだ......」

「お前と同じ能力者だぞ。色々特殊なだけで」



 もう訳が分からなくなった柳に、俺は軽く返す。

 能力が封じられ、頼みの策も通じず、柳に残ったのは俺への畏怖だけ。

 ここでならとっとと気絶させて回収すべきだろうが、それだと俺が少し納得いかない。

 もう万策尽きたであろう柳に、俺はある提案をした。

 


「捕まる前に、こいつに一発殴るぐらいは許すけど、どうする?」



 未だ床に座り込んでいる社長に目を向けてから、俺は二人に問う。

 今回はある意味こいつらは被害者みたいなもんだし、それくらいの権利はあるだろう。

 指名されて社長は「な、なに!?」とバッ!と俺の方を見てくるが、俺は特に気にしない。   


  

 柳は納得がいかないのか唇を噛み締めながら無言でいると、次第に力を抜き脱力したように顔を俯かせた。



「...もういい。お前は俺達にはどうすることもできないのはよく分かった」

「じゃあ、大人しく――――――」

「だが、最初に言った筈だ!!」



 目をカッ!と見開き、柳は決意に満ちた目を俺に向ける。



「こっちは逃げるつもりはないし、止める気もないとな!!――――――満!!」

「了解!」

 


 指示を受け、先程まで静かだった柴多は真っ直ぐこっちに目を向けてきた。

 【洗脳】を使う気か。だが、俺には効かないのは向こうも分かってる筈だ。



 じゃあ誰に使ってるかと考えれば、そんなの一人しかいない。

 その瞬間、突然背後から社長が手で俺に目隠しながら俺に乗り掛かってきた。



 年寄りに抱きつかれる趣味はない。

 乗り掛かれ数秒だけ視界が遮られるも、俺は咄嗟に服を掴み社長を引き剥がす。

 だが、その数秒が彼等に大きな影響を与えることになる。

 


「俺達はなにがなんでも復讐を遂げる!!」



 社長を放し、再び開いた俺の視界の先には、なにやらさっきまで持っていなかったであろうスイッチを、柳は持っていた。

 それは既に押された状態で、次の瞬間突如下の方でドォォォンッ!!と爆発音が鳴り響く。  



 これって、もしかして...。



「自爆する気か...」

「本来なら俺の能力で逃げるつもりだったんだがな」



 俺がスキルを消したせいで自分達も逃げられなくなったが、捕まるより復讐を選んだか。

 爆発音が止むと、今度は地響きがし床が段々斜めへと傾いていく。


 

 ゴゴゴッと音を建てながら、机やら小物やらが傾く方向へ滑る。

 下が破壊されたせいで、ビル全体が倒れようとしているのか。

 傾く床にバランスを保ちながら、俺は冷静に分析する。


  

 チラッと窓から外を見れば、そこには洗脳を受けた集団と警察やら報道陣やら大量の車や人が集結していた。

 すぐ後ろでは、社長が「お、落ちるぅぅ!!」と情けない声を出しながら床にへばりついている。しぶといな。



 このままでは、ビルがへし折れ多大な被害が出る。



「あの研究所に入った時点から、俺の人生は終了していた。復讐を遂げられれば、未練なんてない!」



 傾いていくなか、柳は叫んでくる。

 その間にも傾斜は更に大きくなり、立っているのがやっとな位になってきた。

 未練なんてない、ねぇ。

 この言葉には柴多も同意してるのか、特に慌てずじっとしている。

 


「お前にはなくても、俺にはある」



 根性があるのは認めるが、そういうのは一人でやってくれ。 



「俺も前に言った筈だ。お前達が取れる手段はなにもしないこと。それ以外は全て敗北に終わる」



 床に手を付き、体勢を整える。



「つまり、こんなことしても無駄ってことだ」



 そう言ったと同時に、折れたビルを囲うように四つの大きな緑色の魔法陣が現れる。

 魔法陣は次第に緑色の光を帯び、四方から突風を巻き起こす。



「残念ながら、ビルは倒れない」



 窓の外にある魔法陣を背に、背後から緑色の光が射し込む。

 魔法陣から吹き出される風は、折れたビル全体を包み込み、ふんわりと持ち上げる。



 やがて、傾く勢いは落ちていき、ピタリとビルは動きを止めた。

 これでもう大丈夫だな。

 揺れが収まり、死を覚悟していた柳と柴多はこの現状に言葉が出ずにいる。



「一応、最後に殴るくらいのチャンスはあげたからな」



 呆然としている二人に、俺は【首トン】で二人を気絶させる。

 「ぐぁっ!」「あぁ゛っ!」と呻いてから、二人は床に倒れ伏した。



 こうなることは確定なんだから、せめて殴るくらいすればよかったものを。

 これを言うために柳のスキルを消してからもすぐには気絶させなかったのが、まぁ案の定といえば案の定だった。

 気絶した二人に、俺は軽く哀れに思っていると、



「な、なにが起きたんだ...」



 先程まで床にしがみついていた社長が起き上がった。

 それに気づいた俺は、急ぎ足で無言のまま社長の下へ歩みより、



「一応、お前が元凶だからな」

「え?」



 少し強めに腹をぶん殴った。

 俺の言葉の意味を察せなかった社長は、腹に拳が突き刺さり「お゛ぼぅっ!」と間抜けな声を出してから、チーンっと床に沈んだ。



 元はといえば、全部こいつが始めたことが原因だ。

 これぐらいはしなきゃな。ちょっとした二人への同情も込めて少し強めにしといた。

 本気だと普通に風穴が空いちゃうから、少し強めだ。



 元凶も気絶させてから、暫しこの場には一時の静けさが残る。

 全員気絶し、この場に残ったのは俺だけ。

 犯人は無事捕まえ、残されているのは後始末くらいだな。



「どうするか、このビル...」

  


 外を見ながら、俺は悩ましい顔をする。

 今このビルは、俺の魔法によって現状を保っている。

 現在の俺のスキルでは、これを修復する手だてはない。

 


 なら、それ用のスキルを造ればいいわけなんだが、それだと下手して魔力切れで俺が気絶したらそれこそ大惨事だ。

 それに、このビルを修復しても、俺にはこれを見た人達の記憶を消すという作業も残っている。



 魔力の消費はできるだけ避けたい。

 少し考えた末、俺は自分だけではどうしようもないと悟り、ある手段に出る。



「リーナに電話するか」



 リーナなら、なにかいい魔導具を持っていそうだ。

 早速リーナに助けを求めるため、俺は携帯を取りだし電話をしようとする。



 曇り一つない、晴天の空の下。

 周囲に異様な雰囲気を漂わせ、魔法陣に囲まれたビル。

 それを見た者は一生忘れないであろうと思われたが、覚えていた者は――――誰もいない。

いつもより短いですが、今回はここで終わりまた日常パートに入ります。

あんまり派手に終われなかったな...。新しい魔法なかったし。


【物足りない】


「しかし、物足りない...」

「なにが物足りないないんだ?」

「新しい魔法が出なかったのもそうなんだが、社長殴った時の強さが我ながら弱すぎて物足りない」

「本気だすわけにはいかないだろ」

「だとしても、本気の一割も出てないと物足りないって思うだろ」

「それでも、あいつ肋骨何本か折れてたみたいだがな」



―――――――――――――――――


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