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同じような展開がどっかでありそうなこの感じ

 人混みが多い昼間の通り沿い。

 休日もあってか、その日は学生や家族連れ、休日出勤中のサラリーマンなど、沢山の人が賑わいを見せている。

 そのなかで、人の通りが少ない隅にいる柴多と柳は、この光景を特にどうも思うことなく見つめていた。



「いいか、手筈通りに動くんだぞ」

「分かってる分かってる」



 メガネをくいっと上げ少し尖った言い方をする柳に、柴多は軽いノリで応える。

 とても大事な作戦の前の態度ではないが、柳は気にせず通り沿いの人に目を向けた。



 やはり、休日だと人が多い。これなら、計画に支障をきたすことはないだろう。

 冷静に分析すると、柳は拳に力を入れ、目線を上に流した。



 やっと、やっとここまで来た......。

 向けた視線の先を忌々しそうに見つめ、顔付きがどんどん険しくなる柳。

 目線の先には、通り沿いに高くそびえ立つ高層ビルが建っている。

 このビルの奥に、奴がいる......。


  

 柳が言う奴とは、自分達がいた施設を運営し、その場所に連れてきた張本人、この会社の社長だ。

 


「もう、十五年か...」



 独り言のように、柳は呟く。

 十五年、十五年待った。あいつに復讐できるこの日を...。

 腹の底から色々な憎悪が沸きだつのを感じるも、柳はそれを抑えようとまたメガネをくいっと上げる。

 一旦落ち着きを取り戻すと、柳はふぅっと息を吐く。



 事故で家族を亡くしたあの日から、柳は不思議な力に目覚めた。

 目に見える場所は勿論、覚えのある場所に自由に移動できる力。

 最初は訳が分からなかったが、理解をしてからは覚えるのは早かった。



 両親が死んで自棄になっていたのか、柳は力を使ってはよく病院を抜け出し、家族を探しに出掛けていた。

 まだ、きっとどこかで生きてるかもしれない。なにか事情があって会えないだけかもしれない。

 そんな幻想が、まだ幼かった柳にはあったのだ。



 柳には身寄りがなく、病院を退院してからも孤児院で預けられることになった。

 孤児院に入っても、柳のすることは変わらない。

 毎日孤児院を抜け出しては、両親を探す毎日。周囲の大人にもう両親はいないと言われても、柳は諦めることはなかった。


 

 そんなある日、柳の前に一人の男が現れた。



『今日から私が君の親になる。色々思うことはあるだろうけど、一緒に暮らしていこう』   



 それが、地獄の始まりの第一歩だった。

 いきなり親になると言われても、柳は了承するわけがない。

 当然拒み、その日は何事もなく終わったが......次の日。

 柳は気づけば、見知らぬ部屋に連れられていた。



 なぜ自分はここにいるのか。


 なにが起きているのか。  



 周辺は真っ白な壁や床。見えるのは上の方で窓越しに見つめる白衣を着た大人達。

 本当にわけが分からなかったが、あの場において柳の意思は関係ない。

 説明される間もなく、実験は開始された。

 


 そこから先は、思い出したくもない。



『やめて!ここから出して!!』

『嫌だ、もういやだ....』

『痛い!!痛い!!痛い!!いたい!!!』

 


 枯れるまで泣き叫んだ悲鳴。諦めても許されず、永遠ともいえる苦痛の時間。

 劇薬の投与による人体実験に、能力強化のための強制的な訓練。

 


 毎日、死ぬ一歩手前まで能力を使わされ、一日が終わる頃には、柳の心や精神はボロボロだった。



『助けて、だれか、たすけて......』



 届く筈もない助けを祈り、毎晩同じことを何度も願った。

 何日経っても、何年経っても、誰も助けはこない。

 


 なぜ、自分はこんな目に遭う...。


 誰のせいでここにいる...。



 次第に柳の心は、懇願より疑問に移り変わっていった。

 そして、その答えはすぐに見つかる。

 能力強化という名の拷問の最中、奴は突然現れた。



 ボロボロの体で床に這いつくばりながら上を見上げると、いつもの白衣を着た大人達の他に、見覚えのあるスーツを着た大人が一人。

 ここに来てから忘れていたが、柳はすぐに思い出した。



 そうか...全部、お前のせいか......。



 この瞬間、どこに振りかざしていいか分からなかった憎しみが、あるべき対象を見つけた。



(あの時、研究所にあんたがいなかったのは残念だが、それも今日で終わる)



 少し昔のおぞましい記憶に浸っていた柳は、落ち着いたように顔を下に向ける。



「それにしても、楽しみだねぇ。今まで色んな遊びをしてきたけど、あんなの比じゃない。楽しみすぎて、興奮が止まらないよ!」



 隣でウキウキとしながら体を震わせる柴多。

 こいつだって、元からこんな性格じゃない。

 柴多と柳は実験中は違うが、基本は同じ部屋で寝起きしていた、謂わばルームメイトのようなものだった。

 


 長きに渡る拷問とも呼べる実験のせいで、彼の精神は疲弊していき、こんなサイコパスな心が生まれてしまったのだ。

 事情を知っている柳には、柴多を見ていると嫌悪よりも同情の念が沸いてくる。



「行くぞ。やることは多い」

「はいはーい」


 

 柳の言葉に柴多は適当に返事をし、二人は人混みに紛れる。



「そういえばさ、敬介」

「なんだ」

「あいつはどうするの?結局あやふやで終わっちゃったけど」


    

 歩きながら、柴多は柳に問う。

 柴多の言うあいつとは、当然夜兎のことである。

 柴多に聞かれ、柳は暫し考え込むように黙った。

 柴多を伝って夜兎と話をしていた柳は、夜兎から感じた威圧感も柴多を伝って感じ取っている。 



(あれは、関わってはいけない類いのものだ)



 未だかつて感じたことのないあの圧力。   

 能力はテレポートだけかと思ったが、柳は本能であれの強大さを感じた。

 自分達で手に終える代物ではない。



「関与してくるかは分からないが、できるのであれば極力接触は避けるぞ」

「もし、止めに来たら?」

「その時は考えがある」



 とても勝てるとは思えないが、奴を殺すことだけはなんとしてでも成し遂げる。

 たとえ、その後にあの邪魔者に殺されてもだ。

 確たる信念を抱きながら、柳は作戦実行に移る。

    





―――――――――――――――――――――







「ここが、その社長がいる会社か」   



 通りに立ち並ぶビルの一つを見ながら、俺は呟く。



「はい、今日は休日でも出勤してるようで、今このビルの上層にいます」



 仕事熱心なことだな。

 スマホからメルに言われ、俺は中を少し調べようと【空間魔法(効果範囲 特大)】でビルの中を探る。

 ビルの中は、特に異常はなさそうだな。



 メルの推測やあいつらの言動からして、ここを狙ってくるのは間違いない。  

 だから、こうして一度様子を見に来てみたわけなんだが...まだ特になにも起きてはいないようだ。



 まぁ、違ったら違ったでその時は臨機応変にいこう。

 そう思うなか、俺は暫しビルの上を見上げた後、少し目線を下にさげ周りに目を置いた。

 


「にしても、いくらなんでも多すぎないか......人」



 俺の目の前では、休日もあってか学生やら社会人やらが一つの波となって移動している。

 電車使ってた時から気づいてたが、なにこの尋常じゃない人の数。

 お陰で、来るのが結構大変だったな。



「ここは駅のすぐ近くですから、人通りも多いようです。なにより、マスターのいる地域より都心に近いので、人が多いのは必然です」  



 俺の愚痴にメルは補足を入れてくる。

 駅が近いというか、すぐそこだからな。

 家の近くの駅と違って広さが大きいから、ここからでも普通に見える。



「人混みって苦手なんだよな...俺」

  


 今でさえ、波に呑まれないように端にいるし、できればすぐに帰りたい。

 


「なぁ、メル」

「なんですか?」

「お前がここの社長を監視ってできたりしない?」

「カメラなきゃ無理ですよ?」



 そりゃあ、そうだよな。



「じゃあ、このビルにいる間は?」

「それなら、大丈夫です」

「よし帰ろう」


 

 大丈夫だと分かった途端、俺はすぐさま駅の方に体を向ける。

 これ以上ここにいたって、あいつらが今すぐ来るなんて確証はないし、メルがいるなら問題ないだろう。

 なにより、休みを返上してまでこんなとこにいるのはごめんだ。



「メル、できる範囲でいいから見張っといてくれ。なにかあったら、すぐ知らせること」

「了解です」



 俺の指示にメルは元気よく返事をし、俺は早く帰ろうと早々と駅へと向かう。

 帰って暇を持て余していたい。

 そんなことを考えていると、駅の壁沿いに不審な人物が視界に入った。



(なんだあれ?)



 具合でも悪いのだろうか。壁に乗り掛かりながら、ヨロヨロと歩いている一人の女性。

 顔は伏せていて見えないが、俺はそれを見た瞬間あれが誰なのか気づいた。



「あれ、さや?」



 さやだと気づき、俺は少し急ぎながらさやの下まで急ぐ。



「おい、さや。大丈夫か?」

「あ、あれ、夜兎君......?」



 俺の声を聞いて、さやは震え声になりながらも顔を上げる。

 いったいなにが起きたんだろうか。

 顔は真っ青で、足は生まれたての小鹿の如くガクガクと震えている。

 


 俺を見ると、さやは安心したようにぐったりと俺の方へ倒れてきた。



「え、ちょ、さや?なにがあったんだ?」

「ひ、人が沢山いた......」

  


 未だ状況が理解できないでいると、さやは震え声のまま説明をし始めた。



「電車、混んでて...男の人が沢山いて、波に呑まれたり...押し潰されたり、男の人と何回も接触した......」



 途切れ途切れではあったが、さやの説明で俺は全て納得した。

 電車が混みすぎて、男に触れすぎたのか。

 ただでさえ、まださやは男が苦手なのに、完全にキャパオーバーしたというわけだ。

 まぁ、倒れないだけましか。

 


「よく頑張ったな。取り敢えず、落ち着くまでじっとしてろ。それまで俺も隣にいるから」

「う、うん...」



 俺に体重を預けていたさやを壁沿いにそっと戻し、俺はさやが落ち着くまでずっと隣にいた。

 家に帰って暇を持て余す俺の計画は、延期だな。



 隣で、「駅怖い...人怖い...」と小声で連呼しているさやを見てると、とても置いて帰れる雰囲気ではない。

 仕方ないと思いつつも、俺は内心ガックリと思うのだった。






―――――――――――――――――――








「もう平気か?」

「な、なんとか......」 



 暫くして落ち着いたのか、先程より顔色がよくなったさや。

 まだ心なしか顔色は優れないが、これならもう大丈夫だろ。



「それで、どうしてあんな無謀なことしたんだ?やる前から結果は見えてたのに」

「少しはフォローしてよぉ...」



 遠慮のない俺の言い方にさやは少し拗ねているが、実際無謀としか言いようがない。

 慰める気が一切ない俺に、さやは恨めしそうな目で見るも、ここに来た理由を述べた。



「お母さんからの頼まれごと。最初は私だって無理だと思ったし行きたくなかったけど、お母さんに『少しは慣れてきなさい』って言われて、それで...」

「仕方なく来たと」



 呆れる俺に、さやは無言で頷く。 

 来るだけ勇気があったというべきか、なんというか......。

    


「よく辿り着けたな...」 

「自分でもビックリしてるよ...」

 

    

 目的地に着いただけでも、さやにとっては奇跡に近いようで。

 俺とさやの間に微妙な空気が流れる。



「そう言う夜兎君はなんでこんなところにいるの?」 



 話を変えるためか、さやは俺に聞いてくる。

 突然聞かれ、答えを用意してなかった俺は「あー」と戸惑ってから、



「ちょっとした用事だ」  



 咄嗟に口から適当な言葉が出た。

 このはぐらかすような俺の返しに、さやは不機嫌そうな顔をする。

 


「最近、夜兎君そればっかりだよね」 



 なにか言いたそうに含みを持ったさやの言い方に、俺はあっと自分の失態に気づく。

 つい、いつもの調子で誤魔化してしまった。

 昨日リーナにも言われたのに、忘れてたな。


 

「いや、そうだな......少し、話聞いて貰っていいか」  



 ちゃんと話そう。流石に、無駄な心配はして欲しくないし。

 それから、俺はスキル持ちについてのことを話した。



「――――――というわけだ」

「そんな人がいたんだ...」



 俺の話を聞いて、さやは色々と驚いていたようだが、



「夜兎君に平穏ってないんだね」



 一番驚いたのは、俺の巻き込まれ具合のようだ。

 あ、そっちに驚いたのね。



「言うな。俺が一番認めたくないんだから」



 平穏が大好きな俺にとって、それだけは聞きたくなかったな。

 現実から逃げるように遠い目をする俺に、さやは「あはは...」と愛想笑いをすると、途端に明るい顔になった。



「でも、よかった」

「え?」

「それぐらいなら、夜兎君は大丈夫だもんね」   


 俺の目を見ながら屈託のない笑みをするさや。



「どうして、そう思うんだ?」

「だって、夜兎君強いし。それよりもっと強い人と沢山戦ってるでしょ?だから大丈夫」



 分かってらっしゃる。

 さやにとって、自分が知らないより相手が危険に晒されている方が嫌なのだ。

 そんな笑顔を向けられ、俺は少し呆気にとられ、さやを見つめたまま動かなくなる。



「?夜兎君?」



 動かなくなった俺を見て首をかしげるさや。

 名前を呼ばれ、俺は「なんでもない」とすぐに目を逸らす。

 危なかった、恥ずかしながら少しドキッとしてしまうとは...。

 分かってはいるが、やっぱり天然とは恐ろしい。



「それより、用事の方はいいのか」

「あ、そうだ。もう行かなきゃ」



 俺と話していて忘れていたのか、思い出したさやは「じゃあ、またね」と別れを告げながら手を振る。

 俺も手を振りながらそれを見送っていると、数歩歩いてから、さやは急に止まってしまった。


 

「?どうしたんだ?さや」



 突然立ち止まったさやに、俺は声をかけると、さやはぎこちない動きで俺の方に振り返りながら「どうしよう...」と呟く。



「人多くて、行ける気がしない...」 



 どうやら、さやはこの人の波の向こう側に行きたいようで、渡れず困っている。

 いや、まぁ、さやらしいといえば、らしいが...。

 この流れなら何事もなくパッと去って欲しかったな。



(なんか、やっぱり敵う気がしないな...)



 今日もいつも通りなさやに、俺は苦笑いしていると、

 その時――――――



『はーい!どうも皆さん、こんにちはー!!』

 


 突然聞き覚えのある声が響き渡った。

 いきなり聞こえるその声に、波を作っていた人達の足も止まり、全員一斉に声のした方に顔を向ける。



「あいつ....」



 俺も顔を向けると、駅の入り口にあるモニターに柴多の顔が映っていた。

 


『少しの間、ご注目くださーい』



 そう言うと、柴多はじっと画面を見つめ出す。

 その動作に、俺はあいつがなにをしようとしているかすぐに理解した。さやが危ない。



「さや、見るな!」



 咄嗟に俺は近くにいたさやの目を手で隠し、さやは状況が理解できず「え?え?」と困惑している。

 俺が手でさやの目を隠した瞬間、周りにいた人達は全員機能が停止したように動かなくなった。



 全員膠着し、騒がしかった周囲は、一気に静かになる。



『アハハ!!成功!!』



 どこからか見ているのか、柴多は高笑いをあげる途中で画面が切り替わり、モニターは元に戻った。

 ほんの、数秒のできごとだった。

 だというのに、辺りは先程の光景とは思えないものに変わる。



「凄いことになったな...」



 周りを見ながら呆然とする俺。

 なにかするとは思っていたが、まさかこんなこととは...。   

 予想外に感じていると、メルが「マスター!」となにやら慌てながら呼び掛けてくる。   



「ここら一帯の地域にあるモニターが全て先程の映像に切り替わっていたようで、画面を見ていた全ての人が洗脳にかかってしまっているです!」   


 メルの報告に、俺はまじかと思い【空間魔法(効果範囲 特大)】を使ってみる。

 調べてみると、確かに所々人の動きがない箇所がある。  

 全員、動きを止めているのだ。  



 まるで映画だな....。動きを止めてなにがしたいんだ?

 驚きながらも、俺はあいつらの意図を探る。

 取り敢えず、面倒なのは変わりないな。

 突如始まったこの事態に、俺は「はぁ」とため息をつく。

おまけ


【忘れかけ】


“はぁ、最近出番がほとんどない気がする...このままじゃ、皆に忘れられちゃうかも”(独り言)


・・・・・・・・


“あ、主ー!”

「......あ、ロウガか」

“今忘れてかけてたよね?”



―――――――――――――――――――――――


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