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どっちもボコせばいいんじゃないか理論

 夜になり、俺は風呂から上がり部屋に戻った。

 


「あー、疲れた....」



 体から力が抜けるように、俺はベッドにドサッと倒れる。

 まだ髪の毛が僅かに湿っているが、俺はお構いなしに顔をベッドに埋め、一日の疲れを取るようにはぁ~と息を吐く。



 最近になって、やっと夏休み明けの気怠さがなくなってきたな。

 普段から怠けていたせいか、余計そう感じられる。



 やっぱり、布団の上が一番心地いいな...。

 踞りながら、染々と感じていると、突然携帯から着信音が鳴り響いた。



 こんな時間に誰からだ?

 携帯を手に取り画面を見ると、リーナからだと分かり、俺は寝転んだ体勢のまま電話に出た。



「もしもし?」

『私だ。今時間あるか』



 電話に出ると、リーナは颯爽と確認を取ってくる。

 すっかり携帯に慣れてるな。昔は電話一本で慌ててたのに。成長してるな。

 電話の話し方から俺はそう思いながらも、手早く用件を聞いた。



「なにか用か?」

『なにかって程ではないが...貴様、なにか隠してるだろ?』



 リーナに聞かれ、俺は心当たりが有りすぎて思わず黙った。

 隠し事って、スキル持ちのことだろうか。

 俺が黙ったことで、リーナは確信づき『やはり』と呟く。



『貴様が隠してるのは、この前私に聞いたこの世界でのスキルに関してのことだろ。今日出会したあのおかしな男も、それ関連の奴だな』



 図星突かれるどころか、もう全部バレてたな。

 いや、別に隠してたつもりはないんだが。

 最早反論するまもなく全て見透かされ、俺はどうしようなく「ははは...」と半笑いになる。



「よく分かったな」

『誰でも分かる』



 驚く俺に、リーナは淡々と言うと、少し声が柔らかくなった。



『あまり隠し事はしすぎるなよ。あの後、さやは『またなにか巻き込まれてるのかな』って心配していたぞ』



 柔らかい口調で、リーナは告げてくる。

 そんな風に思われていたとは思わず、俺はなんだか申し訳なく感じてきた。



「隠そうと思って、隠してるわけじゃないんだけどな...。それに、今回も無事に片は着くだろうし、わざわざ言う必要がないように思えてくるんだよ」

『貴様にとってはそうでも、さやはなんの力も持たない一般人だ。貴様は毎度のことだから慣れているだろうが、さやのことだ、なにもできずただただ心配しているだろう』



 まぁ、確かにさやならあり得そうだな。

 リーナの言うことが正しく思え、俺は少し罪悪感を覚えてきた。

 いくら神や勇者に人質にされたり、無人島で色々な目に遭っても、さやは他人を優先する。

 楽観視していたのだろうか、俺は。



「それもそうだな」

『あまり無駄な心配はさせるなよ』



 反省する俺に、リーナは納得したならいいとそれ以上はなにも言わない。

 


「にしても、まさかお前にこんなことを言われるなんてな。メールでもよかったんじゃないのか」

『メールだと貴様無視するだろ』



 よく分かってらっしゃる。

 俺の性格が分かってきてるのか、リーナの的を射た発言に俺は「まあな」と言って返す。



『とにかく、用件はそれだけだ。それでは切るぞ』

「あぁ、また」



 そう言って別れを告げて、俺は電話を切った。

 電話を切った後、俺は暫く携帯を見つめながら少し微笑ましそうな笑みを浮かべる。

 わざわざ、さやのために電話をしてくるとは、リーナも最初の時とは比べ物にならないほど変わったな。



 初めは神に執心していたリーナだが、今ではこうして友人のために動いている。

 大きな進歩だ。



 リーナの変わりように俺は嬉しく思うのと同時に、さやのことが頭のなかで蘇る。

 さやには、安心させるために一応教えておくか。

 すぐに済むとは思うが、下手に心配されたくはないし。



「マスター!」



 そう思っていると、今度はメルが携帯から声をかけてきた。



「どうした?」

「マスターに言われて調べてたあの二人組のことが、やっと分かったのです!!」

 


 相当苦労したのか、メルはふぅっと汗を拭う仕草をとる。

 おー、調べ終わったのか。

 メルにはなにか情報が掴めないかと思って、あのスキル持ちの奴等について調べて貰っていたのだ。


  

「なにが分かったんだ?」



 気になり俺はメルに聞くと、メルは「えー、少々お待ちください」とどこから取り出したのか用紙をペラペラと捲る。



「えーっとですね、先ずマスターが調べようとしたあの柴多満と柳敬介という人物ですが、この二人は元々大手企業が秘密裏に運営している極秘施設にいたのです」

「極秘施設?」



 なんともあからさまに物騒な名前に、俺は顔色が渋くなる。



「幼少の頃、柴多満は目の前で両親を殺害され、柳敬介は交通事故で両親と一緒に乗っていた車が大破。運よく生き残ったんですが、二人は表向きは死亡扱いにされ、今に至るまでずっと施設にいたらしいのです」



 殺人に交通事故。恐らくそこで、あの二人はスキルに目覚めたのだろう。

 そして、それが周囲に知れ渡り、よからぬことに利用されていたってところか。

 メルの話に俺は難しい顔をするも、それを調べることができたメルに俺は驚嘆した。



「自分で頼んでおいてなんだが、よく調べられたな」

「最初は調べても全然出てこなかったので、直接その施設から資料をパクってきたんです」



 「地味に頑丈なセキュリティでしたけど、へっちゃらでした!」と、まるで遠足終わりの子供のような笑顔を見せるメル。

 パクってきたって...いったいどこでそんな言葉を教わったんだか。



 純粋な笑みを浮かべるメルに、俺は苦笑を漏らす。 

 多分、向こうからしたら最高峰のネットセキュリティを誇ってたんだろうが、メルからしたら『地味』の二文字で済んでしまう軽いもの。



 平然とネットというネットを支配する、この天然AI。

 この世界において、俺よりメルの方が強力な存在な気がするな。

 


 扱いには、気をつけていこう。

 改めてメルの恐ろしさを実感していると、途端にメルの表情が歪んだ。



「それと、その施設で行われていたことなんですが......どうやら、人体実験をしていたみたいです」



 人体実験。またあからさまに物騒なのが出たな。



「異能力の実態を知るため、色んな薬品の投与、能力の限界を引き出すため、死ぬ一歩手前まで追い込んだりと、非人道的なことを重ねてたようです」



 異能はこの科学的な世界にとっては異端なもの。

 それを徹底的に知るために、あの二人は犠牲になった。

 聞けば聞くほど、酷い話だな。

 


 一通り説明し終わり、メルは「大まかな内容は以上です」とペコリと頭を下げる。

 ただ掴まえて能力消して、なんらかの対処をすれば終わりかと思えば...。

 一筋縄ではいかなそうだな。



「あいつらが逃げ出した後、その施設はどうなってるんだ?」



 逃げたしてるのだから、壊滅とかはしてそうだが。

 気になり俺はメルに尋ねると、なぜだかメルは「えーっと....」と歯切れの悪そうにしだした。



「施設自体は、というより、その施設にいた人達も全員怪我もなく無事です」

「無事?無傷でか?」



 無事なら、なぜあいつらは逃げ出せたんだ?

 疑問に思っていると、メルはすぐに答えてくれた。



「施設の監視カメラを覗いたのですが、施設の人達は普段通りお仕事してるみたいなのです。誰もいない(・ ・ ・ ・ ・)部屋を監視しながら、ですが」



 含みのあるこの言い方に、俺はすぐその真意に気づく。



「能力で自分達がいなくてもバレないよう洗脳したのか」

「恐らくそうだと思うです」



 下手に壊滅させれば、当然周りの人間はこのことに気づく。

 いくらスキルがあっても、永遠に追いかけられるのはしんどいだろうから、敢えて殺さずバレないようにしたんだな。

 多分、これは柳の提案だろう。柴多じゃ、全員始末してそうだし。

  


「あのー、マスター」



 そんなことを考えていると、メルは恐る恐る提案してきた。



「これは予想ですが...脱走したあの二人、施設を運営している企業の社長を狙っているのではないでしょうか」

「社長を?」 

「実は、施設の記録に何度か社長が施設に来たことが書いてあったのです。もしかしたら、施設内であの二人は社長に対してなにか大きな恨みを持ってる可能性があるです」



 このメルの推測に、俺は確かにと思った。

 昼間、柳はこれから大きなことを起こすと言っていた。

 それが、社長に対しての復讐だとしたら、恨みは大きいだろうし、筋は通っている。



「いっても、自業自得だよな...」



 それだけのことをしたんだ。恨まれて当然な気がする。

 俺は別に、復讐はいけないとか、殺しはよくないとか、そんな偽善を言うつもりはない。

 やるなら、俺の知らないどこか遠くでやって欲しい。巻き込まれたくないから。



 だがそうはいっても、止めないのもおっさんとの約束に反する。

 どうしたもんかと悩んでいると、また提案があるのかメルは「はいはい!マスター!」と元気よく手を挙げる。

  


「マスターがどっちもボコればいいと思うです!!」



 可愛い顔をして中々なことを言うな、この子は。

 いや、言ってることはあながち間違いではないけど、メルってこんな子だったっけ......。

 純粋な顔をしながらえげつないことを言うメルに、俺はえぇ...と複雑な気持ちになる。

  


「まぁ、結局はそうだよな」



 どっち道、俺が動くことには変わりはない。

 今回は、両方どうにかするしかないか。

 面倒に思うも、メルから「頑張ってください、マスター!」と言われ、俺は「やるだけやるか」と自分を奮起させる。

おまけ


【電話】


 夜兎に電話をかける前


「えー、先ずこのボタンを押してから奴のプロフィールを開いて.....よし、これで大丈夫なはずだ。後は、この台本通りに読めば....」


 そんなに進歩はしてなかった。


―――――――――――――――――


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