本当にいました
デンシバーズ様のサイトより、コミカライズが始まっております。
活動報告にURLがあるので、是非見てみてください。
放課後になり、俺は犯人を探すため、事件が起きた通りに来ていた。
「中々騒ぎになってるな」
遠くから見つめながら、俺は呟く。
取り敢えず、事件が起きた通りに来てみたが、案の定そこには警察や報道陣がごった返していた。
路地裏に入りなにやら話し込んでいる警察に、その前でなにやら収録やら記事の撮影をしているマスコミ。
とてもじゃないが、高校生が捜査できるような状況じゃない。
まぁ、それは普通の高校生の話だが。
「さて、先ずはなにからするか....」
壁に寄りかかりながら、俺は現場の方を見つめる。
来たのはいいが、実はノープランなためなにも考えていない。
ちなみに、おっさんは今普通に捜査をしてるから別行動である。
まぁ、あいつは居ても居なくても変わらないけど。
「適当に探ったところで、なにか出るわけでもないし......」
一応【気配察知】で周囲を探ってみたが、特に変わった気配がない。
まぁ、それ以前に、【気配察知】は人の居場所を大まかに特定するだけであって、限定的に人を探すものじゃないからな。
ここは人が多すぎて、どれがどれだか分からん。
第一、犯人ここにいるなんて可能性極めて少ないか。
「やっぱり、スキルを創るしかないか.....」
そう思う俺だが、あまり気乗りはしない。
スキルを創るには、魔力消費が激しいし、一回使えば消えてしまう。
そんなのを一々やっていくのは、正直気が進まない。
仕方ない、やるか....。
覚悟を決め、俺はスキルを作る準備を始める。
その時だ、
「きゃぁぁぁ!!」
突如、通り沿いから悲鳴が上がる。
突然聞こえる悲鳴に、俺は咄嗟にその方向に目を向けると、報道陣の一人が脚立を持ちながら倒れた人を見下ろしていた。
脚立には、僅だが血が付いていて周りはそれを見て騒然としながら距離をとっている。
様子から見るに、どうやらあの記者が脚立で人を殴ったってところか。
しかし、なぜ急に?
疑問に思った俺だが、答えはすぐに辿り着いた。
もしかして、スキル持ちがやったとか?
「おい!いったいなにをしてる!」
半信半疑でいると、脚立を持ったまま呆然としていた殴った記者に警官が近づくと、途端に動き出した。
「うわぁぁぁぁ!!」
狂ったように叫びながら、記者は警官に向かって脚立を振り回す。
急に暴れだしたため、近づいた警官の頭部にガンッ!!と鈍い音が鳴る。
脚立が直撃し、警官は頭を押さえながら後ろに後ずさり、場は更に騒然となった。
警官を退けると、記者はまた機能を失ったように動かなくなる。
明らかに様子が変だな。人殴ってる時点でそうだが、人間の挙動をしていない。
まるで、ただの操り人形だ。
そう感じた俺は、どこかに犯人がいるんじゃないかと辺りを探っていると、一人挙動がおかしい人物を見つけた。
(あいつ、この状況で笑ってるぞ)
普通は驚くぐらいはするだろうこの状況で、その人物はただ一人だけニヤニヤしながら現場を見ている。
まるで、これを楽しんでるかのようだ。
この異質な存在に俺のなかの勘がこいつだと告げていると、丁度暴れていた記者が警察に取り押さえられた。
「う、うわぁぁ!!」
「暴れるな!!」
「おい、手伝ってくれ!!」
抑えられても記者はもがき、警察はそれを止めようと必死に抑えている。
それを見てもう終わったと判断したのか、先程まで笑っていた人物は背を向け去っていく。
怪しさ満天だな。
そう思い俺はそれの後を追っていく。
暫く通り沿いに、その人物はまっすぐ歩いていき、急に直角に曲がった。
曲がったのは人気のない路地で、俺は後を追うため路地に入ると、先程まで追っていた奴が仁王立ちで待ち構えていた。
「さっきからなに、君?人のこと付けてきて」
付けていたのがバレていたのか、その人物は俺に向かって嫌そうな顔で言う。
性別は男。髪はボサボサで、服も少し汚れていてあまり清潔感がない。
男に問われ俺は暫し黙るも、あくまでしらを切った。
「いや、特にそんなつもりはなかったんだが。気のせいじゃないか?」
俺はそう言うも、男は「ふーん」と疑り深い目をする。
こいつが、スキル持ちなのか。
それを確めるべく、俺は男に【鑑定】をかけた。
柴多満 21歳 男 人族 Lv5
体力 480/480
魔力 380/380
スキル
洗脳
この男、柴多満に【鑑定】をかけ、俺は心のなかでやっぱりと思った。
スキルに【洗脳】がある。こいつ、特殊スキル持ちか。
あまり信じたくなかったが、現代にスキル持ちが存在することに、俺は内心うわっと思った。
本当にいたよ。どんな確率なんだろうか。
スキルもそうだが、俺がレベルの方を見てもっと驚いた。
普通、レベルというのは一定の経験値を積まなければ上がることはない。
そして、その経験値というのは、人やモンスターなど、生き物を殺すこと。
それがレベル5まであるとすれば、こいつかなりの数の人間を殺している。
モンスターがいない地球では、ほとんどの人間はレベル1。
それをここまであげるとなると、その数は計り知れない。
こいつがスキル持ちだって分かったところで、俺は一つこいつにかまをかけてみた。
「そういえば、この前夜中にこの通りで事件があった場所からあんたみたいなのを見掛けたけど、あれはお前の仕業か?」
それを聞いて、柴多はピクッと眉が反応する。
俺の質問に柴多は黙ったまま俺を見つめていたが、次第にクスッと笑いだした。
「なんだ、あれ見られてたのかー。だから付けてきたのか。いやー、失態失態」
隠す気がないのか、柴多はハハハッと笑い飛ばす。
あっさり認めたな。これでこいつが犯人ってことは確定した。
俺は無表情のまま断定すると、柴多は突然一人言を喋りだした。
「そういえば、まだ人が自動車に轢かれる姿って見たことないなぁ」
そう言うと、柴多は俺の目を見る。
「ねぇ、やってきてよ」
面白そうに顔をにやつかせながら、柴多は俺に命令してきた。
だが、そんなことを言ったところで俺がするわけもなく、俺は無言のまま動かない。
俺が動かないことに、柴多は「あれ?」と首をかしげ、動揺を表す。
「き、聞こえなかったのかな?早く行ってきてよ」
もう一度柴多は同じことを口にするが、俺は当然ながら動くことはない。
これには柴多も焦りを見せ、「あれ、あれ...?」とどんどん余裕のない顔になっていく。
「言っとくが、お前のその能力は俺には効かないからな」
「!?ど、どうしてそれを....」
黙っていた口が開かれ、柴多はスキルがバレたことに激しく動揺し、震えている。
奴のステータスを見たときに【洗脳】の詳細を確認していた。
実はこの【洗脳】スキル、自分よりレベルが上の相手には洗脳ができない。
洗脳できるのは、自分と同じかそれ以下のレベルを持った生き物のみ。
だから、俺が洗脳されることはない。
「動け、動け!動けよ!」
何回も、何回も命令を下すが、俺は命令に従うことなく、その場で静止し続ける。
こんなことは初めてなのか、柴多は信じられず「なぜ動かない...」と恐怖しながらじりじりと後退りし始めた。
そろそろ捕まえるか。そう思い、俺は一歩足を進める。
「っ!?くそ!」
俺が近づいてきて、柴多は背を向き一気に走って逃げようとするが、俺がそれをさせるわけがない。
「はいストップ」
「ぐぁっ!?」
背を向けた瞬間、俺は転移で柴多の背後に移動し【首トン】で気絶させる。
首に衝撃が走り、柴多は小さく呻いてから、ドサッと倒れ込んだ。
意外とあっさり終わったな。
スキル持ちだから多少は手こずるものかと思ったが、そうでもなかったな。
まぁ、楽に済んでよかったけど。
犯人も捕まり一段落したところで、俺はこいつの処遇について考えたが、そこである問題に気づいた。
「こいつ、どうするか……」
倒れてる柴多を見ながら、俺はやってしまったという顔をする。
犯人は確かにこいつだ。自分で自供したし。
だが、その証拠がなにもない。
例えおっさんに頼んで警察に突きだしたとしても、こいつが自白しない限り、こいつが犯人である物的証拠がなにもないのだ。
スキルのことだって信じる筈がないし、現段階でこいつを裁く法がなにもない。
どうするか、ここで放置するわけにもいかないしなぁ。
思案しながら、俺は頭を悩ませていると、
「おい」
いきなり後ろから声をかけられた。
声をかけられ、俺は振り向くと、そこには眼鏡をかけた鋭い目付きの男が立っていた。
いきなり現れたそいつに、俺はなんだと思ったが、倒れてる柴多を見てまずいと思い、慌てて訂正する。
「い、いやちょっと待て、これは気絶してるだけで...」
「お前も能力持ちか?」
「!?」
勘違いされたと思い取り繕おうとした俺だが、その男の一言で俺はそうではないと悟った。
「誰だ?お前」
「そいつの連れだ。返して貰うぞ」
男がそう言った瞬間、男はその場から姿を消した。
突然男が消え、俺は驚愕したが、後ろに気配を感じ咄嗟に後ろを向く。
後ろを向くと、男が柴多に手で触れていた。
「お前にはいづれこいつの借りを返させて貰う」
それだけ言って、男は柴多を連れて消えていった。
柴多も消え残された俺は、一人やってしまったと落ち込み気味にため息をつく。
まさか、もう一人いたとは。誤算だった。
いや、数億分の一の確率が何回も起きるとは思わないじゃん。
内心自分に言い訳しながら、俺はこの失態に少し反省する。
取り敢えず、犯人が分かっただけ良しとするか...。
頭を切り替え、俺は一応おっさんにこのことを報告しにいった。
おまけ
【スキル】
「スキルかぁ.....」
「どうした、さや?そんなボーッとして」
「私がスキルに目覚めたら、どんなのがあるのかなって思って」
「ちなみに、どんなのがいいんだ?」
「うーん、やっぱりもっと家事が上手くなるスキルかな!」
「いや、もう十分だろ」
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