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心霊現象はこうやって成り立ってると思う

 変な邪魔があったが、それからも俺と黄花は通りの散策を続けた。

 


「次からは気を付けろよ」

「はい、申し訳ありません.....」



 少し呆れる俺に、黄花はしゅんとしながら顔を俯かせる。

 どうしてこんな状態になったかというと、次に入った店でのことだ。



 次に入ったのは服屋だった。

 黄花からしたら、和服以外のものは見たことがほとんどないらしく、前から俺や夏蓮の服装を見て気になってたらしい。



 だが、そこでも案の定ポルターガイスト現象が起こってしまった。

 妖怪は他人には見えないため、黄花が服を持ち上げると、服だけが浮くように見えてしまう。



 つい黄花が服を持ってしまい、そのせいで周りからは「ゆ、幽霊!?」と騒がれ、少し目を離していた俺は黄花を連れて服屋から逃げるようにして去っていったのだ。



「まぁ、俺も目を離して悪かった。次は夏蓮達に頼んで実際に服を着てみたらどうだ」

「いいんでしょうか」

「頼んでみなきゃ分からんさ」



 多分、夏蓮達なら普通に引き受けてくれるとは思うがな。  

 他人をコーディネートするの好きみたいだし。

 そんなこんな話をしつつ通りの店を隈無く見渡していると、次の目当てらしき店を見つけた。



「あれじゃないか?お前が行きたいって言ってたの」



 そう言いながら俺は指差すと、黄花は「あ、そうです」と頷く。

 俺が指差した店、それは雑貨屋だ。

 食器や小物、便利グッズ等が置いてあり、結構なんでもある店だ。

 ここなら黄花が気に入りそうなのが多そうだな。


  

 店を見つけ、俺達は早速店内に入った。



「見たことないのが沢山ありますね」

「そりゃそうだろうな」



 店内に入ってから、黄花は興味深そうに商品を見渡す。

 種類が豊富なため、色々目移りしそうだな。

 黄花を監視しつつ、俺は店内に流れる冷房に涼んでいると、楽しそうに商品を見ていた黄花が急に立ち止まった。



 あるものが目に留まったのか、黄花は立ったままそれを見続けている。



「ボールペンがどうかしたのか?」



 俺は黄花の隣に立つ。



「いえ、私なにかを書く時はいつも筆を使ってるので、どうやるのか気になりまして」

「使ってみるか?」

「え、いいんですか?」

「試し書きができるんだ」



 説明するだけじゃあれなので、俺は実際にボールペンを持って試し書きができるスペースに適当に書く。

 それを見た黄花は、「おぉ」っと少し驚くような反応を見せ、俺はそのまま黄花に「ほれ」っと差し出す。



「お前もやってみろ」

「え、いや、ですが」

「心配するな。今なら誰も見てない」



 幸い、店の中に人は居なく、店員もレジの方にいるだけで、向こうにはこっちの様子が見えていない。

 そういうわけで、俺は黄花に半ば強引にボールペンを渡すと、黄花は若干緊張しながらもペンを走らせてみる。



「こ、これは....!!」



 試し書きのスペースに一本の線を引いた瞬間、黄花はまるで電流が流れたような表情をする。

 


「なんて書きやすい!」



 そりゃあ、筆よりは書きやすいだろうな。

 楽しそうに満面の笑みでボールペンを動かす黄花に、俺はそう思う。

 初めての体験で本当に楽しいのか、黄花はどんどん試し書きのスペースを埋めていく。

 楽しそうでなによりだ。

 


(そういえば、俺も持ってたペンのインクが切れてたな)



 黄花を見て思いだした俺は、まだ終わりそうにない黄花に、今なら大丈夫かと判断し一旦その場を離れる。

 周りに人はいないし、問題ないか。



(急いで行こう)



 俺はなるべく早く戻ろうとペンを手に取り、素早くレジに向かう。

 会計を済ませ、黄花のところへ戻ろうと黄花の方を見た時、戻ろうとした俺の足が自然に止まった。



 やってしまった。

 俺の目の前には、試し書きを楽しむ黄花と、それを見て唖然としている別の女性店員の姿だった。

  


「ぺ、ペンが......」

(もう一人いたか)



 まずい、店員の方は震え声で見つめていて、顔色がどんどん悪くなっていく。

 このままでは叫ばれてもおかしくないぞ。

 黄花も黄花で見られていることに気づいてないし、どうしたものか。



“黄花、黄花”



 直接声をかけるわけにもいかないので、俺は念話で黄花に声をかける。

 俺の声が届き、黄花は「夜兎様?」と言いながら俺の方を向くと、そこで丁度女性店員の存在に気づき、目があった。



 店員に気づき、黄花は一瞬動きが止まるが、途端に「あ、あの、これは」と慌て出し、ペンを持ったままあたふたする。



 だが、そんなことをしても、店員に声は届かない。

 突然ペンが暴れるような動きを取った瞬間、



「ペンが動いてる!!!」



 大きな声が店内中に響いた。

 悲鳴ではないにしろ、あの大声なら余裕で店内中に聞こえるだろう。



「す、すいません!あの、落ち着いて....」

「こ、こっち来た!!」



 いきなり叫ばれ、黄花は店員を宥めようと近づく。

 だが、姿が見えない店員には、ペンがこっちに近づいて来るようにしか見えない。



「あの、大丈夫ですから...」

「だから、来ないでって!!」



 宥めるどころか、状況がどんどん悪化し、黄花はどうしようと慌てふためいている。 

 いや、お前が慌ててどうする。 



 普通にペンを戻せばいいだろうに。

 その後、俺に言われ黄花はペンを元の場所に戻し、俺達はまた逃げるようにしてその場を去った。

 一応、心霊現象だとか言われないように、店員の記憶は消しておいた。

  







――――――――――――――――――――――








「はぁ....」

「そう気を落とすなって。同じ失敗はあるもんだぞ」



 店を出てから、二度目の失敗に黄花はため息をつきながら通りを歩く。

 それに俺はフォローしようと言葉をかけるが、立ち直る気配が全くない。



「同じ失態をした上、夜兎様の手を煩わせるなんて、これではこれから仕えていく自信がなくなってきます」

「俺に仕えるのに自信なんていらないだろ。それに今回は離れた俺が悪かったんだから。自分を責めるなよ」

  


 実際、さっきは俺が勝手に離れたから起こってしまったこと。

 黄花に責任はほとんどないだろう。

 落ち込む黄花に、俺はどうしたらと悩んでいると、あることを思い出した。



「そうだ。お前に渡すものがある」



 そう言って俺はさっき買った袋から、一本のペンを取り出す。



「夜兎様、それは......」

「お前が気に入ってたみたいだから、ついでに買ってきた」



 黄花には、これまでのことや、これからのことも含め、苦労をかける気がするから、ちょっとした先行投資だ。

 まさかくれるとは思わなかったのか、黄花は驚いた表情をしたままボールペンを見ている。



「よ、よろしいのですか?」

「あぁ、その為に買ったんだからな」



 これで貰ってくれなかったら逆に困る。

 黄花は俺とボールペンを交互に見ながら、「そ、それでは」と恐る恐る手を伸ばし、ペンを掴もうとすると、俺はサッと手を引き黄花の手が空ぶった。



「まぁ、渡すのは終わった後だけどな。ここじゃさっきの二の舞だ」



 そう言いながら俺は意地の悪そうに笑いペンを袋に仕舞うと、黄花は「夜兎様ー」と少しむくれている。



「なんか、からかわれた気分です」

「気は紛れただろ」



 少し納得のいかない黄花に、俺は微笑を浮かべながら言う。

 本人はまだ腑に落ちないという感じだが、表情はさっきより少しは明るくなった気がする。

 ちょっとは上手くいったようだ。



「それにしても、少し、変な感じがします......」



 暫し沈黙してから、なにか思うところがあるのか、むくれていた黄花の表情が急にしんみりとしだした。



「変な感じ?」

「これまで、人間と関わってこなくなった私達妖怪が、こうして夜兎様と並んで歩いているのが、不思議な感じがするんです」



 そういえば、前にメルから妖怪は人間達に襲われ続けていたと聞いた。

 その遺恨が今でも残り妖怪は姿を見せなくなったわけなんだが、今俺達はこうして二人で並んでいる。



 そう言われると、確かに変かもしれない。



「私は、いつか妖怪が人間の社会に溶け込めればと考えていましたが、いつの間にかその願いが一歩進んでいました」

 


 「姿が見えないという体質とか問題がありますけど」と黄花は苦笑する。

 少なくとも、今まででは街に出ることもなかっただろうと、黄花は考えているのだろう。

 俯きがちに視線を下に下ろしながら言うと、黄花はこちらに顔を向けた。



「ありがとうございます。夜兎様」


  

 微笑みながら、黄花は俺に告げる。

 こっちとしては普通に接しただけなので、なんだかこそばゆい感じがするな。



「別になにもしてないぞ」

「こちらからしたら、してるんですよ」



 そういうものだろうか。

 まぁ、そうならそれでいいか。

 自分の中で自己解決しつつ、俺はまた目当ての店がないか黄花から視線を外す。


  

 なにかないかと周りを見回していると、



「なんだあれ?」



 とあるものが目に入った。

 おかしなものが目に映り立ち止まる俺に、黄花は「どうかされましたか?」と聞くが、俺はなにも応えずそれを見続ける。


  

 あれは、狸か?

 俺の視線の先には、通りの隅でこそこそと辺りを観察している茶色と黒の毛玉が見えていた。

 こんなところになんで狸が...。



 不思議に思った俺だが、俺の視線を辿った黄花が狸らしきものを見てあることに気づいた。



「あれは、まだ子供ですが、妖怪ですね」

「妖怪?」



 妖怪と言われ、俺は狸をよーく見つめるが、どうにもただの狸にしか見えない。

 しかし、確かに周りの人は狸を見るどころか素通りするばかりだ。


 

 どうやら黄花の言う通り、本当に妖怪のようだ。



「なんで妖怪がこんなところにいるんだ?」

「恐らく迷子でしょう。この辺りに移動用の空間があるんだと思います」


 

 この近くにそんなのがあったのか。



「てか、妖怪って意外と身近にいたりするんだな」

「普段は人前には姿を現しませんよ。通り道にするだけで普通なら表には出ません」



 それが今回偶々子供が迷い込んだと。

 それなら、元の場所に返してやるべきだろうか。

 そんなことを考えていると、黄花は焦った表情をしだした。



「まずいですね」

「なにがだ?」

「子供がここにいるということは、必ず近くに親がいる筈です。もし、その親が人間に良い感情を持っていない者だとしたら―――――」 



――――――坊やーーーーーー!!



 話の途中、突如として叫びにも似た大きな声が通り中に響き渡った。

 いきなり声が聞こえ、いったいなんだと思ったら、近くの横道から大人位の巨大な狸が顔を出してきた。



 全体は狸だが、大きさが明らかにおかしい。

 俺でも分かる、あれ妖怪だ。

 


「....持ってなかったら、なんだ?」

「....人間に手を出すかもしれません」

   


 それを聞いてから、俺と黄花は暫し無言で狸を見つめた後、



「黄花は親の方を説得してくれ、俺は子供の方に行く」

「分かりました!」

 


 指示を受け、黄花は親狸の方に急いで向かって行った。

 共存には、まだまだ遠そうだな。



 子狸の方に急ぎながら、俺は苦笑いをする。

 結局、親には子供が俺に連れてかれる等、誤解は受けかけたが、狸達はしっかりと帰しました。

おまけ


【妖怪】


「妖怪って、狸以外にも沢山いるよな?」 

「勿論居りますよ」

「やっぱり、ろくろ首とか、一反木綿とか?」

「首のない騎士とか、目を見たら石化する蛇女とか」

「それ、妖怪だっけ?」



―――――――――――――――


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