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なんか、展開が似てる気がする

 俺は今、憂鬱だ。

 後三日で夏休みが終わる。

 好きなだけ寝ていたあの日々が、どれだけ怠けても怒られないあの時間が、終わりを迎えるのだ。



「後三日か......」

「なんだか元気がないです、マスター」



 ベッドの上でため息をつく俺に、メルが声をかけてくる。

 


「なぜそんなに元気がないのですか?」

「これから訪れる未来に嫌気がさしてな....」



 分かっていても、いざ期日が迫ってくると、どうにも気分が重い。

 俺の言ってることが理解できないのか、メルは首を傾げると、名案があるのか「そうです!」と言って俺にある提案をしだした。



「そんなマスターに良い情報があるです!!」

「情報?」



 いったいなんだと思い、俺は携帯に目を向ける。

 そこには、メルによって開かれたネットのページがあった。



『なんだか疲れを感じる方にお勧め、見ていれば癒される神秘的な壺があります!』



「今ならお得だそうです!!」

「メル、今すぐその情報を削除するんだ」



 ページの見出しを見た瞬間、俺は真っ先にメルに伝えた。

 なんてベタものを持ってくるんだ。

 よくこんなの見つけたな。こんなの、漫画でしか見たことないぞ。

  


「なぜですか?今なら半額ですよ?」

「それに効力なんてないからだ。あるのは買った時の絶望と後悔を味わうだけ」



 俺の言葉を聞き、メルは初めて理解したのか「そうだったのですか!」と驚いている。

 やれやれ、いつか本当になにかに騙されそうだな、メルは。

 


 携帯の画面でほへーとサイトを眺めるメルに、俺は少し心配になっていると、今度は脳内に黄花の声が響いた。



“や、夜兎様”

“黄花か、どうした?”

“あの、少しお願いが......”

 

 

 恐る恐るといった様子で尋ねる黄花に、俺はどんなお願いなのかと耳を傾ける。



 話を聞いてみると、どうやら夏蓮の護衛をしてる道中気になるものが幾つかあり、そこが気になって仕方がないようだ。

 だから、俺に付いてもらってその場所を巡っていきたいらしい。



“なるほど、要するに街をみたいのか”

“はい、駄目でしょうか.....”



 不躾なお願いとでも思ってるのか、やや小声になる黄花。

 正直、残り三日は怠惰な生活でも送ろうなんて考えていたが、そんな言い方をされるとどうも断りづらい。



 そういえば、前みたいにならないように黄花には一度街を案内しておこうと思ってたんだった。

 休みももうすぐ終わるし、やるにはいい機会なのかもしれない。

 ........しょうがないか。



“いいぞ。一緒に行くか”

“よろしいんですか!”



 弱気から一転、俺から了承を受けた途端、黄花は声を明るくする。

 まぁ、これでも二、三日はだらけて過ごせたから、動くにはいい頃合いか。

 そうと決まれば早速動こう。

 じゃないと、怠さで後回しにしそうだ。



“しかし、子供達の方はいいのか?お前がいなくて”

“最近は菜野芽(なやめ)の様なしっかり者が面倒を見るようになったので、多少は目を離しても大丈夫ですよ”



 そういうことなら、問題ないか。

 話はついたので、俺はベッドから起き上がり、立ち上がる。

 あー、さっきまで寝てたからか体が妙に重い。

 肩をぐるぐると回しながら、俺はうーんと軽く伸びをし、はぁっと息を吐く。



“それじゃあ、行くとするけど、念のため着いてからまた呼ぶから、それまでは子供達の方にいてやれ。その方が安心だろ?”

“夜兎様......”



 俺の気配りに嬉しく思ったのか、黄花は感激といった声を漏らす。

 


“はい、そうさせて頂きます”

“じゃあ、また着いた時に”



 そう言って話を終わらせ、俺は出掛けようと携帯を手にする。

 すると、さっきの会話が気になったのかメルは気になる様子で聞いてきた。



「誰とお話してたのですか?マスター」

「黄花に街案内を頼まれた。今から出掛ける」 

「その黄花様は?」

「あいつには着いてから呼ぶことにした。子供達が心配だろうからな」

  

 

 黄花の声はメルに聞こえてないだろうから、俺は簡潔に主旨を伝える。

 それを聞いたメルは、なぜだか感慨深そうにうんうんと頷いていた。  



「マスターも女性の扱いが上手くなってきたです」

「なぜそうなる」



 これくらいは当然の配慮だろ。

 そう思い俺は言い返そうとしたが、メルに「誰かさんの時は、告白まがいなことをされた気がします」 と言われてしまい、俺は思わず黙った。



 それを言われると、否定できないな。

 過去を掘り下げられ、「成長しましたね、マスター」とニッコリと笑顔のメルに、俺は抵抗せず「はい.....」とだけ応える。



 なんだろう、今だけこの主従関係に乱れが生じたような...。

 もしかして、まだ根に持ってたりして。 

 今後、暫くはこの手の話はよそう....。

 そんなことを考えつつも、俺は部屋を後にした。







――――――――――――――――――――





 



「さて、先ずはどこから行くか」



 目的地に着いてから、黄花を呼び俺は要望を聞く。

 ここは通りに店が並び、服や食べ物、雑貨など、色々なものがある。

 景観もオシャレで、若者には人気がある場所だ。



「どこと言われましても、先ずはどこから行けばよいのか.....」


 

 俺の横で、黄花は困ったように目移りしている。

 まぁ、これだけあればそうなるのも無理はないか。

 黄花がどんな所に行きたいかは事前に知っている。

 だから、そこを転々としていけばいいのだが、俺もここはそんなに詳しくはない。



「見つけたものから順番に行くか」 

「そうですね」



 通りは一本道だ。

 見失うなんてことはないだろう。

 俺と黄花はそうすることに決め、通りを歩いていく。



 幸い、もう夏休みも終了間近だからか、人はそこまで多くはない。

 お陰で無理することなく、楽に見回れる。



「お、早速あったな」



 歩いてから少しして、俺は早くも黄花の要求にあったものの一つを見つけた。

 黄花もそれを見て「あれです!あれです!」とテンションが上がっている。


    

 黄花の行きたがっていた店の一つ、それはクレープ屋だ。 

 女子なら好きそうな奴だな。

 黄花曰く、自分のところではこんな匂い初めてとのことで、一度食べてみたいようだ。

 確かに店内からは甘い香りが漂い、黄花はそれを目を輝かせながら見つめている。



「なら、早速買ってくるか。なにか、希望はあるか?」

「では、あの小豆が乗っているのを」



 外に張り出されているメニューを指差しながら聞く俺に、黄花は一番食べたいものを選ぶ。

 希望を聞き、俺は「分かった」と了承すると、店員に注文をした。

 


「五番を一つ」

「ありがとうございます。少々お待ちください」



 メニュー番号を伝え、店員はそれを受けてから丁寧に作る。

 クレープって何気に高い気がするんだよなー。

 そんなことを思いつつも、俺は代金を支払いクレープを受けとる。



「お待ちどうさま」



 後ろで待っていた黄花にクレープを渡すと、黄花は「ありがとうございます!」と言いながら嬉しそうに見つめている。

 そんな反応をしてもらえると、こっちも買った甲斐があるな。



 黄花を見ながら俺は微笑んでいると、ふとそこで店員から視線を感じた。

 何事と思い振り返ると、店員はなにやら唖然としながらこちらを見つめている。

 どうかしたのだろうか。



 だが、それは店員だけでなく、通りかかる通行人達も一緒だ。

 全員なぜだか俺に、いや、黄花の持っているクレープに目がいっている。



「なにあれ?手品?」

「浮いてるよね?」

「どうなってるんだろ?」



 そしてそのクレープを見ながら、通行人達はヒソヒソとよく分からないことを話している。

 浮いてる?どういうことだ。

 クレープを見ながら俺は頭を捻ると、ある結論に辿り着いた。



「あ、そういうことか」



 ここまで来て、俺はようやく答えが分かった。

 黄花は妖怪だ。妖怪は一定以上の魔力を持った人間以外には姿は見えない。

 つまり、一般には誰も黄花が見えていないということだ。



 ということは、今周りの人達はクレープが浮いているように見える、ということになる。

 これはまずい。



「黄花、移動するぞ」

「え、や、夜兎様?」

「落ち着くまでこれは俺が持っておく」

「そ、そんな~」



 今から一口目を食べようとしたところを俺に取られ、黄花は残念そうにしているが、そうも言ってられない。

 ここで目立って注目を浴びるのは御免だ。


 

 黄花の手を掴み、俺は人目がなさそうなところへ黄花を連れていく。



 丁度通りに横道があり、俺と黄花はそこに入り一旦落ち着く。

 ここなら大丈夫か。

 通りの方を確認しながら、見られてないか周囲を見渡す。



「あの、夜兎様?」

「あぁ、悪い。急に連れ出して。ほら」



 未だ状況が掴めない黄花に、俺は謝りつつクレープを返す。

 不思議そうにしていた黄花だが、クレープが返ってきてまた嬉しそうに目を輝かせる。



「お前は普通の人間には見えないから、あれだとクレープが浮いているように見えてたんだ」

「そうだったのですか。気づけず申し訳ありません」



 話を聞いて黄花は頭を下げるが、俺は「気にするな」と言って通りの方に視線を向ける。

 後ろでは、黄花が美味しそうにクレープを食べている。

 終わるまで、ここで見張っているか。



 そう思い、俺は横道から通りを眺めていると、ふとあることを思った。

 なんか、この展開前にもあったな。



 誰かが終わるのを待ち、こうして少し暇をもて余すこの展開。

 以前、夏蓮達と買い物に付き合った時と似てる気がする。

 あの時はコロラが出てきたが、次はメトロンが出てきたりして。



(まさかな......)



 同じような展開に、俺はないないと思いながら頭を左右に振る。

 なんか、自分で言っててフラグみたいだが、世の中そんなに甘くない。 

 第一、拘束されてるのに、どうやって来るんだよ。

 そう考える俺だが、お約束は本当に俺を裏切らない。



 その瞬間、通りを見ていると、見知った顔が視界に入り込んだ。



 金色の髪と目。格好は地球のものだが、顔はあの憎たらしい奴と瓜二つ。

 この時、俺は思った。

 フラグって絶対存在してるんだな。



「いやー、いい気持ちー」



 脱走が成功し清々しい顔をしているメトロン。

 まるで、娑婆に出てきた囚人のように晴れやかな顔だ。

 おいおい、どんな手を使ったんだ.....。



(なぜこうなる......)



 遠くからメトロンを見ながら、俺は自分の発言を恨んだ。

 迂闊に変なことを言うもんじゃないな。

 取り敢えず、なるべく関わらないようにしよう。このまま去ってくれるかもしれないし。



 遠目から俺は見ていると、突然メトロンの後ろから見知らぬ白髪の女性が近づいてきた。



「メトロン様」

「え!?れ、レーネちゃん!?」

「お迎えに上がりました」



 仰天するメトロンに、レーネと呼ばれた女性は抑揚のない声で応える。

 どうやら、あいつは天使みたいだな。

 今の会話のやり取りから、俺は察する。


 

「どうしてここが....いや、それよりも、見つけるの速くない?」

「メトロン様、次逃げるのであれば、先ずご自分の身体を確認すべきですよ」



 レーネの言葉を受け、メトロンはまさかと思い自分の身体を探る。

 すると、なにか見つけたのかメトロンは震えた手を懐に入れ、それを取り出す。



「こ、これって......」



 懐から取り出されたもの、それはチカチカと点滅した小さな水晶玉だ。

 形から見るに、発信器か。



「や、やられた........」



 水晶玉を地面に落とし、メトロンは手で顔を押さえやってしまった...っといった様子をしている。

 中々考えるな、向こうの天使も。

   


「さぁ、戻りますよ。メトロン様」


  

 レーネはそう言いながら歩み寄っていくと、メトロンは諦めていないのか「待って!」とレーネを制す。



「それ以上近づけば、今ここで大声を上げるよ」

「?いきなりなにを言って.....」

「こういう時って、子供の言うことの方が信用されるんだよ」



 メトロンがなにを言いたいのか理解できたのか、レーネは黙ったまま立ち止まる。

 原則、神は世界に干渉はできない。

 ルールを破った挙げ句、ここで騒ぎを起こすわけにはいかない。レーネはそう思っているのだろう。



 全く、なにを面倒なことをしてるんだ、あいつは。

 抵抗を続けるメトロンに、俺は嫌気がさすも、しょうがないと思いながら歩み出す。



「黄花、悪いが少し離れるぞ」

「ほへぇ?や、やほぉさま?」



 クレープを口に含んだ状態で喋る黄花を背にし、俺は後ろからメトロンへと近づく。



「ふっふっふ。僕はまだ捕まるわけには―――――」

「ほーら、やんちゃが過ぎるぞー、坊や」



 言葉を遮り、俺は棒読み気味に言いながらメトロンを両手で持ち上げる。

 いきなり持ち上げられて、メトロンは反応が遅れ「え?」と間の抜けた声を出す。



「あまり、お姉さんを怒らせるなよぉ」

「な、なにいきなり!?は、離し...てか僕は坊やじゃない!」



 色々パニックで頭が追い付かないのか、メトロンは言葉が上手くでない。

 そんなメトロンを無視し、俺はこいつをレーネの下に運ぶ。



 こういう奴は放っておくと危険だ。とっとと送り返す。

 いったい誰の仕業だとメトロンは俺の顔を見ると、更に慌て出した。



「え、ちょ、なんでここにいるの!?」

「あまり人様に迷惑をかけるなよぉ」  



 驚くメトロンを余所に、俺は依然と棒読みで演技を続ける。

 これで、周りに目立たず自然とこいつを手渡せる筈だ。



 俺に持ち上げられたメトロンは「離せー!」とジタバタ暴れている。

 周りからしたら、ただ子供が駄々をこねているようにしか見えないだろう。



 若干視線を感じるが、周りはなんだ、知り合いかという感じで注意を確実に逸らせている。

 演技が効いているな。



 俺に掴まれメトロンは抵抗するも、無事レーネに引き渡せた。


 

「ほら、次はちゃんと見張れよ」

「ご協力感謝します。神谷夜兎様」



 メトロンを受け取りながら、礼を述べるレーネ。



「俺のこと知ってるのか?」

「はい。仕事上、多少なりとは」



 レーネはそれだけ応える。

 仕事上ね。まぁ、それはそれとしていいんだが。

 


「次は逃げないように、椅子に縛り付けといたらどうだ。鎖とかで」

「それは流石に酷くない!?」

「元よりそのつもりです」



 俺の考えにレーネも同意し頷く。

 それにメトロンは信じられないとばかりに「え、まじで....」とレーネの顔を伺うが、返事が返ってこない。



「え、嘘だよね?仮にも主人にそこまでしない、よね......」



 最後まで言い切れずメトロンは恐る恐るレーネを見るが、レーネから返ってきた言葉はただ一つ。



「メトロン様、お仕事、よろしくお願いいたします」



 最早考えてくれさえしてくれないようで。

 無慈悲なその言葉に、メトロンは観念したのか力が抜けたように頭がガクンッと下がる。



「それでは、神谷様。私達はこれで」

「次は逃がすなよ」



 別れの挨拶をして、レーネはメトロンを持ち上げたまま通りを歩いていった。

 哀れな奴め、逃げるから枷が重くなるんだ。

 俺をそれを見送りながら、僅かにため息をつく。



 コロラといい、メトロンといい、神ってのは本当にまともなのがいないな。

 こんな奴等に世界を任せて大丈夫なんだろうか。

 不安に思いながらも、俺は黄花のいる横道に戻る。



「あ、夜兎様。どうされたのですか?」

「いや、少しな....」



 内容が説明しづらく、俺は適当にはぐらかす。

 そんな俺に黄花は不思議そうに首を傾げている。 

 逃げ出した神様を捕まえてたなんて言うのも、なんだかアホらしいな。

 


「それより、食べ終わったなら次に行くか」

「あ、はい。そうですね」



 話を切り上げ、俺と黄花はまた通りを歩く。


活動報告にもありますが、お陰で様でコミカライズが決定しました!

これも皆様のお陰です、ありがとうございます!


おまけ


【奴隷】


 帰ってから


「.....レーネちゃん」

「なんでしょうか?」

「からだ、動かないんだけど」 

「鎖で縛ってるので」

「ついでに、足も重いし。トイレとか行きたいんだけど」

「では、一度鎖から手に枷をつけるので少々お待ちを」

「いや、あの、僕、君の主人.....」

「なにか?」

「なんでもありません」



――――――――――――――――――――


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