やっとお帰りになりました
一巻只今発売中です。よかったら見てみてください。
二人に謝罪をさせてから、俺は先ずまだ現状を理解できてない天上院達に事の真相を伝えた。
どうしてか謎の誤解を受けてしまったからな。今度は誤解のないようにしないと。
あいつらより変人とか思われたくないし。
そう思い、俺は天上院達にゆっくりと教える。
「まさか、神がこんな子供だったなんて....」
「声は確かにそれっぽかったけど、まさか本当にそうだなんてねぇ...」
「見た目に騙されるなよ。あれで歳は百を軽く越えてるから」
正座するメトロンとコロラを興味深そうに見つめる天上院と美紀に、俺は付け加える。
話を聞き終わり、天上院達は真実を知ると各々違う反応は見せた。
天上院や美紀は比較的落ち着いているが、中には「勘違いって.....」「俺らがやってたことの意味.....」と気落ちしている奴がいる。
結末がしょうもなさすぎて、怒りを通り越して呆れているようだ。
特に誘拐してた奴等なんて、「失敗してよかった...」と逆にホッとしている。
確かに勘違いで振り回された挙げ句、犯罪にまで手を染めたんじゃ、悔やんでも悔やみきれなさそうだな。
見ててなんか面白いな。
俺はそいつらを眺めていると、リーナが俺の肩をトントンと叩いた。
「いつまでメトロン様達を正座させとくつもりだ?いい加減、放してもいいんじゃないか?」
「そーだそーだ!」
「解放しろー!」
「お前ら反省してないだろ」
リーナを盾に騒ぎ立てるメトロンとコロラ。
もう一回土下座させてやろうか、こいつら。
そんな俺の気持ちを他所に、メトロンとコロラは「お土産買ってきたから後であげるね」「わーい、ありがとー」と仲良く談笑している。
さっきまでの喧嘩はどこいったんだか。
怒る気も失せ俺はため息をつくと、メトロンがまた帰らせろ催促してきた。
「もう行っていいでしょー。早く帰らなきゃ、レーネちゃんに僕の大事な宝物を捨てられちゃうからー」
早く帰りたいのか、ソワソワした様子でメトロンは言う。
もう、こいつにやらせることは特にない。
このまま居ても邪魔なだけだから、もう帰らせるか。
「その前に、こいつらのいた世界に返す魔法陣を用意してから帰れ」
どうせなら、俺が送るよりそっちの方が楽でいい。
俺がそう言うと、メトロンは早速コロラに「コロラ、お願い」と頼む。
それに対しコロラは「分かったー」と了承すると、懐をゴソゴソと漁りだした。
すると、取り出されたのは丸め込まれた用紙のようなもので、それを少し離れた地面に広げる。
広げるとそこには魔法陣が描かれ、広げ終わると魔法陣が光だし、その光が一気に大きくなった。
「なんだあれ.....」
「あれは紙に魔法陣を仕込めばどこでも設置できる魔導具だ。誰でも扱うことができるが、一回使えば消えてしまう消耗品でもある」
俺が驚いてると、リーナが説明してくれた。
便利な魔導具だな。要するに使い捨て魔法陣ってことか。
「お手軽だな」
「魔導具は日々進化してるからな」
展開された魔法陣を眺めながら俺とリーナはそんな会話をしてると、黙ってみていた天上院が声をかけてきた。
「神谷、これはいったい......」
「異世界転移用の魔法陣だ。これで全員帰れ」
「!?これで帰れるのか!?」
「だから、そう言ってるだろ」
天上院の言葉に俺は頷くと、天上院は歓喜で体を震わせながら、「皆に知らせてくる!」と言って全員に知らせていった。
「それじゃあ、僕はこれで帰るね」
魔法陣が設置し終わると同時に、メトロンはこの場を去ろうとしたその時―――――別のところで違う魔法陣が現れた。
「よっと、我ながらナイス着地」
いきなり魔法陣が現れると、そこから飛び出してくるように一人の人物が降りてきた。
赤黒い髪に、ビキニアーマー。それを見ただけで、俺の脳内は警報をあげている。
その人物を見た瞬間、俺はゲッと顔を歪ませた。
「あれ?スカラ」
「あ、【破壊神】だ」
「二人ともここにいたのか、探したんだぞ」
突然現れたスカラにメトロンとコロラを首を傾げるが、見つけるや否やスカラは二人を両脇に抱えだした。
「よし、そんじゃあ行くぞ」
「え、ちょ、ちょっと待ってスカラ!いきなりなんなの!?説明頂戴!!」
この如何にも連れ出されそうな流れに、メトロンは慌てながら説明を求める。
自分の脇でじたばたと暴れるメトロンにスカラは「暴れんなよ」と制止ながら訳を述べた。
「お前仕事サボってどっか行っただろ?それが神王様にバレたから罰を言い渡すってよ。そして私は捕まえるのを頼まれた」
「え.....まじ?」
「まじだ。お前はサボりすぎだとよ。お灸を据えるらしい」
「え、じゃあ、なんで僕も連れてくの?」
スカラに脇で抱えられながら「なぜバレた...」と絶望しているメトロンを他所に、コロラは抱えられたまま手を挙げる。
「お前は他人の世界に手を出したから、そのお仕置きだ」
「えー!なんでー!」
「なんでじゃねぇよ!ルールにあんだろうが!ちゃんとルール守れ!!」
「いや、お前が言うなよ」
恐ろしい程のブーメラン発言に、俺は思わず口が開いた。
どの口がルールとか言うんだろうか。
呆れる俺にスカラは目が合うと、なぜだか嬉しそうに微笑んだ。
「よう夜兎!会いたかったぜ!」
「俺は会いたくなかった」
満面の笑みで挨拶してくるスカラに対し、俺は冷めた言い方をする。
こいつに会うと碌なことが起きない。
今までの経験から俺は静かに臨戦態勢をとっていると、そんな俺にスカラは笑顔のまま言った。
「そんな警戒すんなって。こっちは今日は仕事で来ただけなんだからよ。その内また遊びに行くからな」
「永遠に来なくていいぞ」
あんなの俺は二度と御免だ。
だが散々俺が拒否をしてもスカラは真剣に受け取らず、「恥ずかしがるなよ」と笑顔を崩さなかった。
誰があんな死ぬ目に遇いたいと思うんだか。
話が終わると、スカラは背を向け展開したままだった魔法陣に目を向けた。
「じゃあ、またな」
俺に別れを告げてから、スカラはメトロンとコロラを連れてさっき出てきた魔法陣の中に入っていった。
魔法陣に入ると、やがて魔法陣も消え、そこには帰り用の魔法陣だけが残る。
まさかあいつが来るなんて。折角記憶から忘れかけてたのに。
最後の最後に嫌な奴に会ってしまい俺は頭を抑えため息をつき、隣でリーナは俺に同情し乾いた笑みを浮かべていた。
そしてスカラがいなくなったのと同時に、準備ができたのか天上院が声をかけてきた。
「神谷、皆に伝え終わったから今から帰ろうと.....あれ?あの神達は?」
「帰ったよ。半ば強引だけどな」
あまり説明する気もないので俺はそれだけ言うと、天上院は少し不思議そうにしながらも「そっか」と納得して話を続ける。
「僕達はもう行くよ。向こうが心配だからね」
「そうか。まぁ、向こうで死なないようにな」
「うん、そうする。それでなんだけど....」
「言っとくが、俺は異世界には行かないからな」
なにか伝えようとする天上院より先に俺は言うと、図星なのか天上院は「よく分かったね」と苦笑いする。
なんとなく、そんな感じがしたからな。
それに、異世界に行くより、俺はここでのんびり過ごすのが丁度いい。
「まぁ、君ならそう言うと思ったけど......」
「分かったら、さっさと行け」
「そうだね。皆、中に入って!」
短く挨拶を終わらせ、天上院は皆を誘導し魔法陣の中に入っていく。
チラッとだが、マクシスもちゃんと一緒に魔法陣に入れられていた。引きずられながらだけど。
「あ、あの!」
その途中、背後から弱々しい声が聞こえた。
振り返ると、そこには九重が俯きがちな様子で立っていた。
「あ、ありがとう、ございました。堂本君達を、助けて、くれて」
「助けたのは俺じゃなくてこっちな。それにこっちこそ、教えてくれて助かった」
「い、いえ!それでは」
そう言うと、九重はリーナに一回お辞儀をしてから、そそくさと皆のもとに走っていった。
全員が中に入ると、魔法陣は起動したのか徐々に光輝いていく。
それを俺とリーナは見届けていると、リーナは九重を見ながら口を開く。
「今のが私達に情報を提供してくれた奴か?」
「そうだ。あいつのお陰で事前に知ることができた。まぁ、ある意味無駄だったけどな」
まさか、二人して失敗するとは思わなかったな。
俺の言葉が心に突き刺さったのか、リーナは「う...」と気まずそうに若干俺から視線を外す。
そしてふと思ったのか、リーナ何気なく呟いた。
「それにしても、貴様中々女性とは縁があるんだな。男の友人は少ないのに」
「なにが言いたいんだ?」
俺には男の友達が少ないと言いたいのか、こいつは。あってるけど。
目を見て話そうとする俺に、リーナは「いや別に」とまた目を逸らす。
そんなやり取りをしてると、魔法陣の方から誰かが叫ぶ声が聞こえてきた。
「神谷!!」
名前を呼ばれ、俺は振り向くと天上院が魔法陣の中から叫ぶ。
「色々と迷惑をかけてごめん!!それと、ありがとう!!次は負けないからな!!」
謝罪と感謝を述べ、天上院は満足そうに微笑む。
よくもまぁ、そんな台詞を堂々と言えるな。
こちらに向かって手を振る天上院に、俺は若干の気恥ずかしさを覚える。
あ、そういえば、まだあれを言ってなかったな。
ここで言い忘れたことを思い出し、俺はその人物に指を差し声をあげた。
「そこのお前」
「え?私?」
いきなり指差された美紀は驚くも、俺は構わず続ける。
「【転移魔法】使えるならもっと修行しろよ。鍛えれば、異世界を行き来できるようになる。俺みたいにな」
「え?どういうこと?」
突然な話に美紀は首を傾げていたが、どうやら時間が来たようだ。
天上院達が入った魔法陣は、一気にその輝きが増していく。
「とにかく、そういうことだから。達者でな」
俺がそう言った瞬間、魔法陣の光は天上院達を包み込むと――――― 一瞬にして消えていった。
行ったか。天上院達が消え目の前が殺風景な風景が広がる。
「ようやく戻ったな」
「これでやっと平穏な時間が送れる」
命を狙われる心配もなくなり、これで気が楽になったな。
とっとと帰って昼寝でもしたい。
俺は腕を上に伸ばし、軽くうーんっと伸びをする。
「帰るか」
「帰ったら今度はさや達のお願いだな」
清々しい気持ちになるなか、リーナが横槍を入れてきた。
それを聞いて、俺は伸びをしたままピタッと動きが止まる。
そういえば、そんな話もあったな。
「まぁ、そこはどうとでもなるか」
別に誰かと戦ったりするわけじゃないんだ。
そこら辺は気楽に考えよう。
気持ちを切り替え、俺はその場から背を向ける。
「帰ったら一回寝るかな」
「また寝るのか」
「今日くらいはいいだろ」
他愛のない会話をしながら、俺とリーナは一緒に転移で戻る。
戻った瞬間空を見上げると、空はいつもより青く、清々しさを感じた。
これでこの話も終わり、また日常パートに入ります。
なんとなく、ツイッターを始めたのでよければ見てください。
おまけ
【どうにもならん】
その頃のメトロン達
「ねぇスカラ、どうにかならない?」
「ならねぇよ」
「お願い!この通り!!」
「無理なもんは無理だ。つか、神王様にバレてんだから、どっちにしろアウトだろ」
「使えないなぁ、【破壊神】は」
「なんか言ったか?」
「い、痛い痛い!!脇締め付けないで!!肋骨変な音鳴ってるから!!てか、なんで僕まで!?」
「ミシミシいってるぅ......」
結局、大人しく神王のところに行きました。
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