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全部勘違いでした

 突然聞こえたその声に、場は一時静寂になる。

 今のが天上院達を地球に送った張本人だろうか。

 そう思っていると、この沈黙のなか一番最初に天上院が口を開いた。



「め、メトロン.....」



 出てくると思わなかったのか、目を見開きながら天上院は呟く。

 本当にこいつが、犯人みたいだな。

 天上院の呟きを聞いて俺は確信したが、同時に確信したのがもう一つある。



 こいつ、メトロンじゃないな。

 声からしてまずメトロンじゃないのは、すぐに分かった。 

 これにはリーナも同意見のようで、顔を向け目が合うと、無言で頷く。



「お前、誰だ?」

「え?」

「メトロンじゃないだろ」



 突然発した俺の言葉に、天上院は驚いたような顔をする。



「どういうこと?メトロンじゃないの?」

「俺は本物のメトロンに会ったことがある。だから、分かる。こいつはメトロンじゃない」



 神と会ったと聞いて、天上院を含め周りの奴等は無言ながらも顔は動揺している。

 俺のこの一言から途端に黙り込んだ偽者のメトロンは、なにを考えてたのか間を空けてから言った。



『......なにを言ってるの?僕はメトロンだけど?』



 あくまでもしらを切るつもりか。

 自分が偽者であると認めない黒幕に、今度はリーナが黒幕に向かって言い放った。



「私はメトロン様に仕えている天使です。

 貴方様はどこかの世界の神とお見受けします。 もうお止めください!こんなことを独断で続けるなら、神王様からキツいお仕置きを受けてしまいますよ!」



 お仕置きって...なんだか言い方があれだが、それを聞いた黒幕は『お、お仕置き....』と臆した声を出す。

 それにはビビるのか。いったいどんなお仕置きなんだ。



 少し気になった俺だが、それでも偽のメトロンは強気に言い張ろうとする。



『ふ、ふん!だからなんなのさ!僕は本物なんだからそんなの関係ないね!』



 このまま引き下がるわけにはいかないのか、意地でも黒幕は貫き通そうとする。

 焦りを見せた偽のメトロンだが、一旦咳払いをして落ち着きを取り戻す。



『それにしても、まさかあそこまでやって負けるなんて、彼が強いのか、勇者達が弱いのか、どっちにしても不甲斐ないな~』



 上から目線で言いたい放題言われ、天上院達はイラッとした目付きで上を見上げる。

 顔は分からないが、うざったいのだけはなんとなく分かるな。

 呆れた様子で言うそいつに、俺はそう思う。



「だったら、どうするつもりだ?素直に諦めるか?」

『まさか。それならわざわざ君達の前に出てきたりしないよ。――――――僕が直々に相手をする』


 

 自信ありげなその一言に、俺とリーナの顔に僅かな緊張が走った。

 相手をするって、こっちに来る気か。

 一応、規則では世界の干渉は禁止だが、常習犯がいるせいか意外と緩いのが神のルール。


  

 ここにきてそれが出てきたな。

 それに対しなにも知らない天上院達は、え?といった顔をしているが、見た目で騙されてはいけない。

 声は子供みたいだから実感は持てないだろうが、紛いなりにも相手は神だ。



 なまじ半端な強さではないだろう。

 自分で相手をするという黒幕に、リーナは若干焦りながら止めに掛かる。



「規則を忘れたのですか。そんなことをすれば、後で罪が重くなってしまいますよ」

『勿論、僕だって分かってる。無駄にお仕置きは受けたくないからね』

「じゃあ、どうするつもりなんだ?」



 罰を受けるつもりがないなら、いったいどうするつもりなのだろうか。

 疑問に思う俺に、偽のメトロンは『ふっふっふ』といかにも子供らしい笑みを浮かべる。



『それはこれから分かるよ』



 そう言うと、黒幕は開始の合図をとる。

 なにをするか分からんが、穏便にはいかないみたいだな。

 合図をとる前に、俺は体勢を整える。



『それじゃあ―――――』



――――――ちょっと待ったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!



 だがその瞬間、黒幕がなにかをしようとしたその時、脳内にまた別の声が響いた。



『あ、あれ、メトロン!?なんでここに......』

『なんか嫌な予感がしたから戻ってみれば、案の定だったよ!というか、案の定すぎ!人の管理してる世界でなにしてるのさ!!』



 いきなり現れたその人物に、さっきまで威勢がよかった黒幕がアワアワしている。

 あ、もしかして、本物が帰ってきた?

 聞き覚えのある声に、俺とリーナは唖然としながら耳を傾ける。



『ちょ、そんな揺らさないで!一回落ち着いて、話せば分かるから!』

『毎度毎度、なんで僕がこんな目に遭わなきゃいけないの!?これじゃあ、息抜きもできないよ!!』

 


 疲れでも溜まってるのか、メトロンは黒幕ともめながらも嘆く。

 それを宥めようと黒幕は言うが、メトロンには届かないのか一向に止める気配がない。



『大体僕がなにしたっていうの!?したの最初だけじゃん!!それからというもの―――――』

『だからそんな揺らさないでって!変なところ押したらどうするのさ...あっ!!』



 止まらないメトロンに、黒幕は必死に忠告しようとしたが、既に遅かったのかやらかしたような声を出す。

 その瞬間、俺やリーナ、天上院達の目の前の上空に魔法陣が現れた。



「ふぎゃっ!」

「あだっ!」



 上空に現れた魔法陣は、特に変化を見せずそこに停滞していると、そこから放り出すようにして二つの影が降りてきた。

 一人は、言わずと知れたメトロン。

 そして、もう一人は――――――



「貴方は、コロラ様」



 突然現れたその人物を見てリーナは呟き、それと同時に「そうか...」と言って納得した様子を見せる。

 


「リーナ、誰なんだこいつは」 

「このお方はコロラ様。【友愛神】であり、メトロン様のご友人だ」



 【友愛神】。なんとも耳当たりのいい名前だが、メトロンの友人か.....。

 その名を知り、俺は改めてコロラを見る。  

 銀色の髪に銀色の目、見た目ならメトロンと変わらないくらいの幼さ。

 若干、男か女か分からないが、多分声からして男だろう。



「いたた.....」

「あれ、ここって.....」



 上空から落下し、痛そうに声をあげながら体を起こすメトロンとコロラ。

 一瞬状況が掴めてなかったが、メトロンは俺を見るや否や驚きながら俺を指差す。



「うわっ!?出た!!」

「誰が、出ただ」


 

 人を化け物みたく言うな。

 メトロンの言葉に俺はツッコンでいると、リーナは一人全てを理解したかのように「そういうことか....」と呟く。



「犯人はコロラ様だったか」

「知ってるのか?」

「さっきも言ったがコロラ様は【友愛神】。その名の通り友情が神名となっていて、なによりも友人を大事にしている優しい御方だ。ただな....」



 言いにくいのか、言葉の途中でリーナは言い淀む。



「ただ...なんだ?」

「友への愛が過ぎるため、たまにこんな度が過ぎることまでしてしまうのだ」



 度が過ぎてるにも程があるが、どうやらそういうことらしい。

 ということはなにか、こいつはメトロンの為に俺に仕返しをしようとしてたってことか。

 なんて迷惑な........。



 リーナの話に俺はえぇ...と思っていると、コロラがここはどこだと周りを見渡している。



「ここって.....もしかして世界に降りてきちゃった!?」



 現状を理解したコロラは、次第に慌て出す。



「大変だ!戻らなきゃお仕置きを受けちゃう!」

「それ以前にアウトだよ!!」



 慌てるコロラにメトロンは声をあげると、メトロンはコロラに問い詰め出す。



「ていうか、そもそも人の世界でなに勝手なことしてるの!?下手したら僕まで罰を受けるじゃないか!」



 憤慨するメトロンに、コロラは一瞬理解できないといった顔をしてから理由を述べる。



「メトロンが言ったんじゃないか!」

「え?僕が?」

「君が僕に相談してきた時『もうなんでもいいからどうにかして!!』って泣きついたじゃん!!」

「それ泣きついたんじゃなくて、ただの愚痴だから!別に頼んでない!」



 「僕はメトロンの為にやったんだよ!」「余計なお世話だよ!」とメトロンとコロラは互いに譲らずギャアギャアと騒ぎ立てる。

 むきになってるのか、二人とも声の音量がどんどん大きくなっていく。



 会話を聞くと要するに、コロラが勘違いしてメトロンの為に天上院を使って俺を襲わせたってことか。

 全部勘違いとか、迷惑すぎる話だな....。

 真実を知り俺は肩を落とす。



 メトロンとコロラはまだ口喧嘩を続けている。

 なんだろう、この不毛な言い争い。

 こっちからしてみれば、子供の口喧嘩にしか見えないが、このままじゃ話が進まない。

 そう思い俺はため息をつくと、二人の間に入った。



「お前ら、一回落ちつ――――」

「コロラっていっつも人の話聞かないとこあるよね!」

「だから落ちつ―――――」

「僕はいつだって友達を大切にしてるだけだよ!」

「.........」


ゴンッ!!


「「いったぁぁ!!」」


 

 徐々にヒートアップしていく二人に無視され、俺は無言のまま手で拳をつくる。

 二人の頭上から鈍い音が響き、会話は見事に中断した。



「話を聞け」

「いった!?なにこれいった!!なんか凄いデジャブを感じる!!前より痛くない!?」

「頭蓋骨が割れそうに痛い....」



 頭を殴られ騒ぐメトロンに、頭を抑えながら踞るコロラ。

 いきなり殴られて理不尽に思ったのか、コロラは頭を抑えたまま抗議してきた。



「ちょっと!こんないたいけな子供になにするの!!幼児虐待!!」

「リーナ、こいつの年齢はいくつだ」

「メトロン様とほぼ変わらない」



 嘘じゃん。

 コロラの言ったことが嘘だと分かり、俺は今度はチョップでコロラの頭を叩き割る。

 俺の手刀を喰らい、コロラは「ふぎゃ!!」と悲鳴をあげると、「頭に更なる追い打ちが~」とまた踞った。

 


 それを見たメトロンが「更なるデジャブ....」と呟いていたが、そんなことはどうでもいい。



「お前ら、それよりももっとやることがあるだろ」

「へ?やること?」

「取り敢えず、こいつらへの謝罪だ」



 送り返す云々よりも、先ずはそれからだ。

 そう言いながら、俺は天上院達を指差す。

 突然の展開に、天上院達は全くついていけず終始呆然としているが、形だけでも謝らせよう。



「え、それって僕も?」

「当たり前だ」



 自分を指差しながら聞くメトロンに、俺は頷く。

 そもそもお前が居なくならなきゃ、こんなことにはならなかった。

 当然、お前も同罪だ。



 それには納得いかないのか、メトロンは不満を言い出した。



「えー!?僕関係ないでしょ!」

「元凶はお前だろ。言っとくが、逃げたらまたお前のデータ消すからな」

「理不尽過ぎる!鬼!悪魔!」

「なんならもう一発いくか?」



 不満を漏らすメトロンに、俺はまた手で拳をつくると、リーナが「すまない、少しいいか」と言いなかがら恐る恐るメトロンの下に近づいた。



「メトロン様、実はレーネさんから言伝てがございます」

「え?レーネちゃんから?」



 メトロンの言葉にリーナは頷くと、その内容をヒソヒソとメトロンに話す。

 すると、なにを聞いたのかメトロンの表情が段々と青ざめていき、次第にガタガタと体が震え始めた。



「それ?ほんとう........?」

「はい、ですから早く戻られた方がいいかと」



 それを聞いた瞬間、メトロンはすぐさま踞るコロラに駆け寄り頭を下げるよう促し始めた。



「コロラ、頭下げて!」

「え、なに急に?」

「いいから早く!でないと、手遅れになる!」

 


 急に焦りだしたメトロンにコロラは変に思ったが、神はそんな簡単に頭を下げることはしない。



「なんで神がホイホイと頭下げなきゃいけないのさ!それよりもメトロン、今なら二人でやればこいつを倒すことができる!一緒に戦おうよ!!」

「こっちはそんな場合じゃないの!!」



 まだ俺を倒すのを諦めてなかったのか、コロラはメトロンにチャンスだと囁くが、メトロンは今それどころではない。



「お願い!早くしないと僕の大事な物が色々と消えちゃう!!かといってここで逃げても、別の大切な物が消えちゃう!!もうやるしかないの!!お願い、親友の頼みだと思って!」

「し、親友.....」



 親友という単語に、コロラは嬉しそうな反応を見せる。



「僕とメトロンって親友なんだ.....」

「そう!ほんと、親友だから!だからお願い、協力して!!」



 必死なメトロンとは反対に、コロラは「親友....」と呟きながら余韻に浸っている。

 え、なにその反応....。

 友愛の神ともあろう者が、そんなのに騙されていいのか。



「親友の頼みなら、仕方ないかなぁ」



 そんなコロラに俺はそう思っていると、あっさり了承してしまった。

 それでいいのか、【友愛神】。

 友達大好き故に騙されやすいのか、単に友達がいないのか、これじゃあ分からないな。

 話が決まると、メトロンとコロラは天上院達の方に向き直り地面に膝をついた。



「「すいませんでしたー!!」」



 息ぴったりに合わせ、二人は謝罪と共に地面を頭につける。見事な土下座だな。

 神二人からの土下座に、天上院達の反応はというと、



「.....え?なにこれ?」



 全員混乱していた。

 神なんて者に会ったことない彼等からして、先ずどっちがメトロンなのかも分からないし、状況すら呑み込めていないだろう。

 まぁ、やっぱそうなるよな。後で説明しておくか。



 呆然とする天上院逹に、俺はそう思う。

 話がいきなりすぎて訳が分からなくなった天上院だが、理解できたのが一つだけあった。



「神谷って、神よりもヤバい奴?」



 誰が言ったのか分からないが、全員同意なのかメトロン達よりもなぜか俺に視線を向けている。

 さっきまでのやり取りを見ててそう感じたのか、一歩身を退かれてる。



 そんな退かれることしただろうか。

 ただ神二人の喧嘩を仲裁して、謝罪させただけなのに。  

 そして隣にいるリーナからも「まぁ、そうもなるか」と言われ、俺は解せない気持ちになった。

 ちゃんと、説明はしておこう....。

 誤解されぬよう、俺は思った。

おまけ


【友達】


「コロラは【友愛神】っていうんだから、やっぱり友達は好きなんだよな?」

「当たり前だよ!僕は友達が大好きなんだ!」

「じゃあ、金貸してとか言われたら?」  

「勿論、貸してあげる」

「面倒事を頼まれたら?」

「当然、手伝ってあげる」

「意外と優しいな」 

「でしょ!この前だって、皆にご飯奢ってあげたんだ。友達の証として」

「友達はちゃんと選べよ」



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