四天王ってニュアンスが噛ませ犬っぽい
いよいよ、書籍版が9月30日に発売です。
活動報告の方に一巻の表紙絵を公開しています。よければどうぞ。
場所は変わり、異世界で魔族達を相手にしていたレンの方では、
「こんなもんか」
すでに戦いは終わっていた。
一息つくレンの周囲には、戦いの跡であろう無数の陥没した穴や、ひび割れた地面が混在している。
そして、その荒れた大地のあちこちで倒れ伏している魔族達。
「意外と弱かったな」
全員息がないのか、ピクリとも動いていない。
それに対しレンとはいうと、特に目につくような外傷はなく平然としている。
戦いは圧倒的だった。
先ず一番最初に魔族達が使役していたモンスターが全滅させられ、次は魔族達。
まるで作業のごとくあっという間に終わった。
モンスターは粒子となって消えたせいで、影も形も残っていない。
全滅した魔族に無傷の少年。
これだけでも、戦況が一方的だったと伺える。
(くそ....いったいなにが.....)
だがそのなかで、全滅したと思われた魔族の中で一人だけ、息があるものがいた。
一人息のある四天王のマクシスはこの状況に頭が追いつかず、部下の死体の中で息を潜める。
(まだだ.....まだ、終わってねぇ....)
「お疲れさまー、レン」
死体の中で遠くからマクシスがレンを睨むなか、戦闘が終わりマナがレンの下に駆け寄る。
「意外と呆気なかったねー」
「まぁ、今の俺ならこんなもんだろ」
特に傲ることもなく平然と言うレンに、マナは「そうだねー」と笑みを浮かべる。
すると、そこで少しの風が吹き、レンとマナのフードが揺れた。
「あっ」
「おっと」
向かい風にいたマナはフードが取れそうになったが、咄嗟にレンがマナのフードを抑える。
「終わったからって気を抜くなよ。周りに見られないようにフードを被ってるんだから」
「もぅ、そんなの分かってるよ」
レンに注意され、マナはむぅっと少し不機嫌そうに両手でフードを深くかぶる。
今のレンは、ルリアーノ達に死んだと思われている。
初めは帰ろうとしたレンだが、今は別の目的があった。
それを果たすまでは、ここでバレるわけにはいかない。
「恩返しも終わったし、そろそろ行くか。さっきの戦いで誰か来てもおかしくない」
「そうだね」
レンの言葉に頷き、レンとマナは倒れる魔族達に背を向けそのまま立ち去ろうとする。
だがそれを許さないマクシスは、懐からあるものを取り出す。
(このまま生かして返さねぇ....)
ボロボロの身体で呼吸も荒く、震えた手でマクシスが取り出したのは、ドス黒い液体が入った小瓶だった。
(天上院とやるまで使わないと思っていたが、仕方ねぇか....)
多少戸惑いながらも、マクシスはそれを一気に飲み干す。
すると、飲んだ途端マクシスは静かになったと思ったら徐々に身体を震わせ、
「ウォォォオオォオォォオォオオォ!!!」
心の底から雄叫びを上げた。
「な、なにあれ!?」
「こいつは.....」
いきなり叫び声が聞こえ、レンとマナは振り返りマクシスを見て目を見開く。
目は白目を向き、体格が一回りか二回り大きくなっている。
部下の死体をはね除け、雄叫びを上げるマクシス。
それをレンとマナは驚きの表情のまま眺めていると、今度はマナに異変が起き始めた。
「あ゛ぁ゛っ!!」
短い呻き声を上げ、マナは苦しそうに片目を抑える。
「マナ!」
それを見たレンは、マナを支えるように身体に手を回す。
抑えてないもう片方の目の先には、小さな魔法陣が青から赤へとチカチカ点滅している。
まるで、魔法陣が暴走でもしてるかのようだ。
「こ、これ、やばっ」
片目を抑えながらマナは声を出そうとするが、思うように声が出ない。
一方でマクシスは、雄叫びから次第に自らの怨念を口にし始めた。
「全部あいつのせいだ.....天上ぃぃぃぃぃぃん!!」
自分をこうさせた、奴がいなければこうならなかった。
一番憎んでいる人物の名を、マクシスは上げる。
マクシスが飲んだのは体の限界を超えるための薬。
飲めば痛覚や痛みは消え、能力が底上げされる。
その代わりに、理性が飛びやすくなり自我が保てなくなる。まさに奥の手中の奥の手。
そんなマクシスを余所に、レンはマナに必死に声をかける。
「マナ!しっかりしろ!マナ!!」
「レン、私より、あっちを先に......」
レンの必死の叫びに対し、マナはマクシスを見ながらレンに言う。
チカチカと点滅する魔法陣は段々とその速度が増していき、遂には魔法陣が赤く染まった。
「あ゛ぁ゛っ.....だめ、これ以上は.....」
暴走が頂点に達したのか、マナは掠れた声で暴走を止めようとするも、その願いも届かない。
その瞬間、マクシスの足元に魔法陣が現れた。
「ウオァァァァァァ――――――――!!」
理性を失いかけているマクシスの声は、魔法陣が起動したと共に薄れ、文字通り消えていった。
魔法陣と一緒に、マクシスは姿を消す。
マクシスがいなくなると、そこで目も収まったのか魔法陣も赤から青に戻り、マナは「はぁはぁ」と肩で息をする。
「マナ、大丈夫か?」
「う、うん。なんとか......」
汗を流しながらマナは返事をし、途端に申し訳なさそうな顔をする。
「ごめん。さっきの人、今のでどこかに飛ばしちゃった」
「それよりも今は自分を大事にしろ。また例の発作が起きたんだよな」
「うん、最近どんどん増えてる」
「早くなんとかしないとな、その目」
「そうだね......」
そう言うと大分落ち着いてきたのか、マナは深呼吸してからまたいつもの笑顔を取り戻した。
「よし!もう大丈夫だよ!」
「変わり身早いな」
苦笑いするレンに、マナは「それが私ですから!」と明るい声で返す。
発作も無事収まり、レンは消えたマクシスについて考え出す。
「今の奴、どこに行ったか分かるか?」
「私が場所を指定したわけじゃないから、相手がその時考えていた場所や人のところに行くとも思う」
相手が考えていた場所や人。
それを聞いて、レンは先程のマクシスが言っていたことを思い出そうとする。
レンがマナに気が行っていたとき、マクシスは天上院の名前を呼んでいた。
それを思い出せれば、どこに行ったかなんて明白だ。
「天上院のとこか」
「天上院って、レンのお友達だよね。それってまずいんじゃない?だって今、彼等はレンのいた世界にいるんだし」
マナに言われ、レンは暫しうーんと悩みだす。
「.....まっ、多分大丈夫だろう」
最終的にそういう結論に至り、レンは「このままあいつらに任せよう」とマナに述べる。
「いいの?助けに行かなくて?」
「俺のやることはやった。後はあいつらでなんとかするだろ。それに.....」
「それに?」
「マナを置いて行く気は更々ない」
真っ正面から面と向かって言われ、照れるかと思ったマナだが、嬉しそうに笑みを浮かべた。
「言うねー。このこの~」
「分かったらとっとと行くぞ」
茶化すようにマナはレンに絡もうとするが、レンはすでに歩き出していた。
いつの間にか去っていたレンに、マナは「素直じゃないな~」と呆れつつもその後をついていく。
レンはまた自らの目標のために、進みだした。
―――――――――――――――――――――
俺は今困惑している。
あの二人に任せたというのに、なぜ夏蓮やさやが捕まっているのだろうか。
まさか失敗したのか?いや、あいつらに限ってそれはないだろうし。
空中に映る映像を見ながら、俺は頭を捻る。
場所はどこかの建物のようだが、どこだかは分からない。
二人は縛られているが、すやすやと眠っている。
なにかされた形跡はなさそうだ。
どうする、いっそこのまま殲滅するか。
映像を見ながら俺は考えていると、天上院が映像に向かって止めるよう促した。
「堂本君止めるんだ!そんなことしても、なんにもならない!」
『負けたお前に言われたくない』
必死に止めさせようとしても、堂本と呼ばれた男は止めようとしない。
「君達は騙されてるんだ!メトロンの言うことに耳を傾けちゃ駄目だ!」
なにやら、天上院と堂本とかいう男が言い争っている。
これはチャンスだな。今のうちに連絡を取ってみるか。
そう思い、俺は意識を集中させる。
“黄花、聞こえるか?”
“これが、人間の技術の力!どこもかしこも未知なものだらけですね!”
俺の声が届かないのか、黄花は楽しそうな声をあげる。
あー、なるほど、そういうことか。
“おーい、黄花ー”
“...あ、え、え?この声は、夜兎様ですか!?”
俺の声が聞こえ、黄花は驚き取り繕った態度をとる。
“随分と楽しそうだな”
“え、な、なんのことですか?わ、私はちゃんと任された仕事をしてますよ”
“それなら今ちゃんとそこに夏蓮はいるか?”
俺がそう言うと、黄花は“えーっと”と夏蓮を探す。
少し間が空き、見つからないのか黄花は焦った様子の声を出した。
“や、夜兎様.....”
“やっと気づいたか.....”
今頃になって気づく黄花に、俺は呆れ果てる。
そういえば、夏蓮は今日どこかに行くとかなんだか言ってたな。
失敗した。護衛をつける相手を間違えたか。
脳内に“も、申し訳ございません!”とひたすら謝る黄花の声が響き渡る。
今度またこうならないように、街にでも連れていこうか。
頭を抑えながら、俺はそう思う。
あいつの方はどうなっているだろうか。
俺は今度はもう一人の方に連絡を取ろうとすると、その直後、
ドォォォォンッ!!
『な、なんだ!?』
画面の向こうでなにかが崩れる音が聞こえた。
いきなり聞こえる大きな音に、堂本達は騒然とし俺は画面の方を見る。
見てみると、そこには天井に穴が開きそこから舞い降りてくる一人の天使の姿がいた。
『私の大切な友人に、なにをしている』
天使状態のリーナは、怒りを抑えつつも冷静に声を抑えて言う。
やっと来たか。全く、黄花といいお前もなにしてんだか。
遅く現れたリーナに俺はそう思っていると、こちらの画面に気づいたリーナが申し訳なさそうな顔をした。
『すまない神谷夜兎。遅れた』
「なにしてたんだ?」
『今日は護衛のついでにさやと出掛けていたのだが、途中で電話が入り出ていたらさやが人の波に飲まれてしまってな。気づいたらいなくなってた......』
なんと間の悪い。
自分の過失にリーナは『自分が情けない.....』と卑下している。
はぐれたところを狙われたのだろうか。運がないな。
まぁ、こうしてギリ間に合っただけでもよしとしよう。
「い、いったいなにが.......」
突然の事態の急変に天上院はついていってないが、今はこいつに構ってる暇はない。
こっちはもういいし、俺もあっちへ行くとしよう。
“あのー、夜兎様?どうかされましたか?”
すると、こちらの状況が分からない黄花が、恐る恐る俺に聞いてくる。
あ、忘れてた。
“黄花、もうこっちは大丈夫だ。もう戻っていい――――――”
そう言いながら、俺が黄花を戻そうとしたその時、
ドォォォォン!!
なにかが落ちる音がした。
「なんだ?」
突然聞こえたそれに、俺は言葉を途切らせ振り返る。
振り返ると、そこには魔法陣が空中に現れ、その下で土煙が舞っていて見えないが人影が見えた。
あそこから落ちてきたのか。
俺は冷静に状況を把握すると、土煙が晴れ人影の正体が姿を現した。
「ここは......」
人より巨体な肉体に膨れ上がった筋肉。
顔は白目を向いていて、理性があるのか疑いたくなる。
なぜか服はボロボロで傷だらけであったが、まずいい印象を与える見た目ではないな。
“........あー、やっぱり手伝ってくれ。なんか凄いの来た”
“あ、はい!”
俺にまたチャンスを貰い、黄花は大きな声で返事をすると、俺の下に現れた。
「リーナのところに行ってきてくれ。終わったら迎えに行く」
「お任せください。今度こそ役目を果たします。夜兎様から頂いたこの羽衣を使って!」
肩にかけている羽衣を見せながら、黄花は自信満々に言う。
黄花のレベルでは、正直勇者達と戦うには心もとない。
だから、黄花には事前にあるものを渡しておいた。それが、あの羽衣だ。
あれを着けてれば他人から視認されなくなり、なおかつ気配も一切遮断され、スキルでの感知が一切不可能になる。
まさに、暗殺とかにはもってこいだ。
「それじゃあ、頼むぞ」
「承知しました」
そう言ってから、俺は黄花をリーナ達がいるところに送った。
映像から『ぎゃあ!』なんていう悲鳴が聞こえるが、気にしないでおく。
黄花にはあれを持たせたし、リーナもこの夏修行してレベルが200近くまで上がったらしい。
まず負けないだろう。
さて、次はこっちだな。
そう思い、俺はいきなり出てきたデカぶつを見る。
「も、もしかして、あいつは......」
「知ってるのか?天上院」
見覚えがあるのか、地べたに座りながら呟く天上院に、俺は問いかける。
「姿が少し違う気がするけど、あいつはマクシス。魔族の四天王だ」
魔族の四天王って。本当にいるんだそういうの。
響き的に噛ませ犬感が否めないが、焦った表情をする天上院を見ると案外そうでないのかもしれない。
天上院の言葉を聞いて俺はそう思っていると、マクシスがこちらに気づいたのか目があった。
「お前は、天上院!」
天上院を見てマクシスは驚く声を出すと、急に怒りの表情を表した。
「見つけたぞぉぉぉぉぉぉ!!!」
相当恨みを持ってるのか、マクシスは大声をあげる。
大声は結界中に響き、肌にビリビリと伝わってくる。耳が痛いな。
マクシスの声に俺はうわっと思いながら嫌な顔をすると、隣で天上院が剣を支えに立ち上がろうとする。
「まずい、このままじゃ.....」
「どうする気だ?」
「決まってるだろ。あいつを倒す」
口ではそんなことを言うが、天上院はすでに戦える状態ではない。
立っているのがやっとなのに、なにを考えてるのか。
「止めとけ」
「あだっ!」
必死に立ち上がろうとする天上院に、俺はまた押して天上院を無理矢理座らせる。
「いたた.....なにをするんだ」
「そんな身体じゃ死ぬだけだ」
「でも、僕は勇者だ。僕がやらないわけには....」
「アホかお前。自分の体見てみろ。それで戦っても即あの世行きだ」
俺の言葉を聞いても「それでも.....」と諦めない天上院に、俺は続けて話す。
「それにその剣を使うのもお勧めしない。現にお前の体は剣に付いていけず悲鳴を上げてるだろ」
高性能な剣には、それなりの対価がいるもんだ。図星をつかれ、天上院は押し黙った。
黙る天上院を見て、俺は数歩進み天上院の前に立つ。
「それと、ここは地球だ。そういうテンプレ事は異世界でやれ」
「だが、あいつは....」
「それにだ、あの程度の相手なら――――――俺一人で十分だ」
その瞬間、俺は転移でマクシスの目の前に飛ぶ。
「さっきから煩いぞ。お前」
「な、なんだおまっ!?!?」
マクシスが喋る途中で、俺はマクシスの顎を蹴り上げる。
顎を蹴られ、マクシスは顔が後ろにのけ反り、ドォンッ!と仰向けに倒れた。
「こっちは色々あって疲れてるんだ。すぐに終わらせる」
こういうのは、とっとと終わらせるのに限る。
倒れたマクシスに、俺はそう告げた。
おまけ
【メール】
「リーナはもう携帯には慣れたか?」
「多少はな」
「ならよかった」
「ただ、メールの方がどうも分かりづらい」
「そうか?簡単だと思うが」
「やる人が……少ないからな」
「今度教えてやるよ」
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