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この世はテンプレ通りにはいかない

言い訳を言うなら、リアルが忙しいのです......。

 メトロンから受け取った剣の力により、天上院の実力はかなり上がっていた。



「貰った!」



 足を光に代え、光速に近い動きで剣を振る天上院。

 それに俺はなんとか避け、反撃しようとするも速すぎて狙いがつけられない。

 避けられた天上院は、そのまま俺を通りすぎ遥か先で踏み止まり、また剣を振るう。

 


 避けては剣が迫り、避けては剣が迫り。

 さっきからこれの繰り返しだ。

 いい加減こっちも目が慣れてきて対応しやすくなったが、速くて狙いがつけづらい。



 加減してるのか光の速さという程ではないが、これはスカラ並みに速いな。

 無駄に高性能な剣だな、全く。



「面倒だな」



 攻めれないこの状況に、俺は小声で不満を漏らす。

 いい加減どうにかしよう。これじゃあ埒があかない。

 そう思い、俺はタイミングを見計らい目の前に土の壁を出現させた。



「っ!?」



 突如目の前に現れた壁に天上院は驚くも、急には止まれない。

 ありがちな方法だが、一番簡単なやり方だ。

 果たして通じるのか。

 動き出した足はそのまま壁へと進み、やがて天上院は土の壁に激突する瞬間、



「無駄だ!」


  

 天上院は壁を気合いで突き破った。

 あの速度で体当たりをされ、壁が粉々に砕ける。やっぱり駄目か。

 壁を破られ、俺はチッと舌打ちを打つが、これも想定内だ。



 流石に壁一枚でどうにかなると思っていない。

 予測していた俺は壁が壊される前に転移で横に周り、死角を突く。


 

 捕まえられればこっちのものだ。

 突然俺が消え、天上院は俺を見失い、俺は横から天上院の身体に掴もうと手を伸ばす。


 

「遅いね」



 あと少しで手が届こうとした瞬間、掴む俺の手が空を切った。

 いったい何が起きたのか。その理由は天上院の声が聞こえた後すぐに分かった。

 よく見ると、天上院の腕が足と同様光に変わっている。 

 できるのは足だけじゃなかったか。

 


 掴むのをかわされ、天上院は勢いに任せ俺の頭部に向かってまわし蹴りが飛んできた。

  


「っ!?」



 飛んでくる光の蹴りに、俺は咄嗟に手でガードの体勢を取る。

 蹴りがガードした腕に直撃し、ドォンッ!と鈍い音が響いた。

 直撃した腕からはビリビリと衝撃が走り、じんわりと痛みが広がっていく。



 蹴りが防がれると天上院は直ぐ様俺から距離を取り、お互いに睨み合う。



「今のは中々痛かったな」

「あれを防がれるとは思わなかったよ」



 腕を擦りながら言う俺に、天上院は少し信じられないといった顔をする。

 天上院はそう言うが、実際本当に危なかった。

 肉眼では見えないから、ガードできたのはほとんど勘だ。



 勘でこんなことができるのは、これまでの戦闘経験があったからだろう。

 ここにきて、これに助けられるとは思わなかったな。

 やってよかったとは思わないけど。



「次こそ当てる」



 剣を構え、天上院は足を踏み込んだ。

 しょうがない。あまりやりたくはなかったが、やるしかないか。



(消えろ)



 踏み込んだ瞬間、俺は剣に向かって心の中で念じた。

 正直魔王倒すならあれがあった方がより確実に倒せると思うが、その前に俺が面倒だ。

 メトロンからの貰い物らしいし、壊してもいいだろ。 

 それに、スキルだけあれば魔王は大丈夫だろう、多分。



 剣が消えれば、あの厄介な光も消える。

 接近する天上院に俺は【削除魔法】を行使したが―――――剣は一向に消えなかった。



「っ!?!?」



 剣が消えなかったことに驚くも、迫り来る剣に俺はギリギリのところで避ける。

 だがお陰で反応が遅れ、剣が肩に掠り少量だが血が流れた。



 なんで消えなかったんだ。

 肩を手で押さえながら、俺は苦い顔をする。

 あの剣、他者からの魔法が効かないのか?本当に面倒な代物だな。


 

 そう思う俺とは反対に、天上院は果敢に攻めにかかる。

 俺に傷を負わせたのを見て、好機と思ったのだろうか。調子づいてしまった。


 

 肩の掠り傷を魔法で治しながらも、俺は体勢を建て直し天上院の攻撃を避け続ける。

 剣が消せないなら、別の手を考えるか。



「神谷!」



 だがそこで、攻め続けたままの状態で突如天上院の声が聞こえた。



「君が今までなにをしてきたかはこの目で見たことはないけど、僕達にはやらなきゃいけないことがある!」



 攻め続けたまま、天上院は話続ける。



「君が悪である以上、僕達は君を打ち倒し、大切な人のところへ戻る!」



 天上院は熱く語ってくるが、俺は言い返すこともせず、無言を保つ。

 よく喋るなー、あいつ。避けながら、俺は呑気にそう思う。

 長々と話してくれたお陰で、打開策は見つかった。

 


「勝つのは僕達だ!」



 そう言ったと同時に、天上院は背後から剣を振ろうとする。

 背中を完全に取ったと感じた天上院は、迷いなく剣が降り下ろされていく。

 これで天上院の勝ちだ。

 そう思われた瞬間、



“スキル、【予測】を習得しました”



 脳内にアナウンスが聞こえた。



「なっ!?」



 完全に捉えたと思われた剣は、空を斬り、空振りに終わる。

 やっと来たか。これを待っていた。

 避けられたことに驚愕した天上院だが、俺は転移で避けそこから天上院の顔面に拳を打ち付けた。



「ぐっ!!」



 拳が顔面に直撃し、天上院は殴られた方角に僅かだが飛んでいく。

 一瞬なにが起きたか分からない顔をしていた天上院だが、すぐに持ち直した。



「よく分かったね。今の攻撃」



 天上院はそう言うが、俺からしたら当然のことだ。

 【削除魔法】が効かない。なら、後は【超成長】に頼るしかない。

 天上院の攻撃をずっと読み取るようにして避けていたが、中々習得できなかったな。



 天上院も持っていたこの【予測】というスキル。

 効果は読んで字の如く、相手の行動を予測するスキルだ。

 スキルレベルが上がればもっといいのができるかもしれないが、これで充分だな。



 天上院の動きは単純だ。

 身体能力は上がってもスキルが制御できてないのもあり、まだ自由自在に動けていない。

 実際、動き回ることで誤魔化してるがスキルに振り回されていたしな。



「悪いが、もう当たらないぞ。お前の剣」

「そうかい!」



 俺はそう言うが、天上院は信じるわけもなく、また突っ込んでくる。

 無駄なことだ。

 


「そこ」

「がっ!?」



 お前の動きは、もう読めている。

 俺の横を通り過ぎようとしていた天上院に、俺は手だけ横に突き出すと、丁度天上院の顔に当たった。



 今の俺なら目を瞑ってても当たる。

 拳が当たったことにより天上院はよろけ、俺はそこから天上院を蹴りあげる。



「ぐぅっ!?」



 蹴りあげられ呻き声と共に天上院は宙に浮き、上空に舞い上がる。  

 俺に痛ぶる趣味はない。とっとと終わらせる。

 俺は転移で天上院のところまで行くと、拳に赤い炎を纏わせた。



「そろそろ終わりにするぞ。主人公」


    

 纏われた拳は、天上院に向かって振り抜かれる。

 


爆発(フレイナッ)――――」 

「天上院君!!」



 止めの一撃が天上院に振り抜かれようと時、美紀の叫び声が聞こえたと同時に無数の魔法が飛んできた。

 


「っ!?」



 突然飛んできた魔法に俺は咄嗟に転移で避け、そのせいで纏っていた炎が消えてしまった。

 そして、俺が離れたことにより美紀が転移で天上院を回収し地面に運ぶ。

 いいように邪魔されたな。 

 俺は地面に降り天上院達の方を見つめる。



「大丈夫?天上院君」

「美紀、皆.......」



 今まで黙って静観していた美紀達に、天上院は呆然と見つめる。

 


「天上院。俺達は仲間だ」

「皆であいつを倒すぞ」



 言葉は短いが、天上院は全員の目を見て「皆....」と小声で囁く。

 やがて、天上院の中で考えが変わったのか、笑顔を浮かべた。



「皆、少しだけ時間をくれ」 

「おう!」

「任せて!」



 天上院の言葉に返事をし、クラスメイト達は一斉に俺に向かって魔法を放ち始めた。

 なんだろう、この展開。完全主人公が勝ちそうなパターンだな。  



 飛んでくる魔法に、俺はバリアで防ぎながら思う。

 いったいなにが出てくるのやら。

 


「ロックウォール!」



 誰が叫んだのか、俺の目の前に巨大な土の壁を出現させると、そこに向かって全員魔法を放った。

 壁は徐々にヒビが入り、壁は巨大な塊となって俺の方に崩れ落ちる。


 

 落石か。

 そんなもの俺に効く筈もなく、落石も全てバリアで弾く。

 全て弾き終えたところで攻撃が止み、これで終わりかと思った俺だが、次の瞬間俺の視界が光で埋った。



「皆、ありがとう。もう大丈夫だよ」



 光の正体は、天上院の剣から伸びる巨大な光の柱。

 天を貫き、全てを照らす程の強い光。

 正確には結界内までだが、その眩しさに俺は手で抑えながら天上院を見つめる。



「神谷、これで終わりだ。この一撃で終わりにしよう」


 

 それと同時に、天上院は掲げていた剣を真っ直ぐ降り下ろした。



天の導き(ディブレイク)!」



 天を貫く巨大な光は、眩い光を放ったまま俺の方に落ちてくる。

 ゴゴゴッ!と振動音が聞こえ、大地が小刻みに揺れていく。凄いのが来たな。

 怯えるわけでも、焦るわけでもなく、俺はただ向かってくる光を眺める。



「終わる気もないし、負ける気もない」



 独り言のように、俺は呟く。

 最初は一人で戦っていたが、最後には皆で協力して相手を倒す。

 なんともありがちな話だな。



「テンプレ通りならお前達の勝ちかもしれないが、現実はそうはいかない。――――――――全反射(リヴェル)

 

  

 その瞬間、俺の頭上に大きな魔法陣が現れる。

 俺を包み込めそうなくらいの大きさの魔法陣は、特に変化を見せずその場に留まる。

 やがて、光の柱が魔法陣に接触したその時、魔法陣はその真価を表した。



 触れた瞬間、魔法陣は光の柱を受け止める、いや、吸収するように光を吸い込む。



「な、なんだあれは!?」

「返す」

 


 その途中、突如俺の目の前に頭上にあるのと同じ魔法陣が現れる。

 攻撃が吸収され天上院達は驚いているが、もう遅い。

 目の前に現れた魔法陣からは、吸収した光が天上院達に向かって放出された。



 放出された光線となり、天上院達に迫る。



「このままじゃ......!?」

「天上院!」

「俺達に任せろ!」



 迫る光線に焦る天上院に、仲間のクラスメイト達が天上院の横に立つ。

 あれを止める気だろうか。なにをしようと無駄なことだ。



「お前らに出番はない」



 そう言って俺は片足を上げドンッ!と地面を踏む。

 すると、天上院以外のクラスメイト達全員の足元に魔法陣が現れ、黒光りの鎖が飛び出してきた。



「きゃぁ!?」

「なんだこの鎖!?」

「う、動けねぇ!!」



 身体に巻き付く鎖に、クラスメイト達は翻弄される。

 中にはそのまま魔法を撃とうとする奴がいるが「魔法がでない!」と言って慌てていた。

 それは魔法も使えなくなる鎖。考え方次第ではそんなのもできる。



 文字通り手も足も出せず、天上院達に残されたのはこの攻撃に生身で耐えることだけだ。

 できるのは無事なのを祈ることだけ。

 光線が届く直前、天上院の顔が悲しみにも似た悲愴な表情に染まる。



「な、なんで、こんな――――――――――」


 

 最後に掠れた声を発しながら、天上院達は光線に呑み込まれていった。



 叫び声や悲鳴は聞こえない。

 衝撃音や風の音だけが、俺の耳のなかで広がる。

 やがて、徐々に光線が小さくなり、役目を果たし消えていく。

 そこに残ったのは、少し焦げた地面と、地面に倒れピクリとも動かない天上院達だった。



 これで終わったか。

 ようやく終わり、俺は目を瞑り息を吐く。

 勝負はついた。そう思ったその時、突然弱々しい声が聞こえた。

 


「か、神谷........」


 

 いきなり声が聞こえ、俺はその方を見てみると、剣を杖がわりにしながらも立つ天上院がいた。



「驚いた。まだ立てたのか」

「まだだ......まだ、終わってない....」



 驚く俺に、天上院は健気にも剣を構えようとするが、思うように身体が動かない。

 あれでまだやる気なのか。

 他の者は完全に気絶している。剣のお陰か、意識があるだけでも大したもんだ。



 震えながらも剣を構えようとする天上院の姿に俺は軽く感心していると、天上院は自分に言い聞かせるようにある言葉を呟いた。



「僕は、勇者だ。勇者は.....折れない!」 



 自らを奮い立たせ、天上院はなんとか剣を構える。

 だが既に息は荒く、満身創痍だ。

 意地でも立ち続けるその姿を見て、俺はしょうがないとばかりにため息をつく。



「そういうのは、もっと後にやれ」 

「あたっ!」



 そんなラスボス感出されても、こっちが反応に困るわ。

 そう言いながら、俺は天上院に近づき無理矢理押して座らせる。



「な、なにをっ!!」

「もうこの面倒な勝負は終わりだ。今回はお前の負け。それでいいだろ」



 面倒そうに俺は言うが、天上院は納得がいかないようで、反対してくる。



「ふ、ふざけるな!まだ終わってない!それに、僕が負ければ、皆が......」



 皆とは、ここにいない仲間達のことだろうか。

 それなら心配いらないだろ。あいつらがいるんだし。

  


「それなら大丈夫だ。そっちなら――――――」

  


 俺が天上院を安心させようと真実を述べようとしたその時、



――――――――聞こえるか、神谷!    



 どこからかまた声が聞こえてきた。

 言葉を遮られ、俺はなんだと思いながら辺りを見回すと、俺と天上院の前に大きな映像が映し出された。



「これは、宮田君のスキル!」



 見覚えがあるのか、天上院は声をあげるが、映像の中身を見て天上院は更に驚愕する。



「堂本君!皆!!」



 映像に映し出されたのは、天上院達に初めてあった時に見た奴等と、その奥で縛られている、さやと夏蓮だった。

 その映像に天上院は「間に合わなかった....」と絶望の色を浮かべているが、俺は俺で別の驚きを感じていた。



「彼女達は預かった。その場で大人しくしていろ!」



 強気な口調で男は告げてくるが、今の俺の耳には入らない。

 ......え、なんで捕まってるの?

 俺の頭の中では、ただただその疑問が尽きなかった。

おまけ


【悩み】


「はぁ.....」

「どうした?おっさん」

「最近、俺出てないなと思ってな....」

「スカラの時以降確かになかったな」

「どうやったら出番が増えるのか....」

「そこら辺は天に任せるしかないだろ」

「なぁ夜兎、どうにかならない――「ならん」って言うのはえーよ」 

「無茶言うな。無理なものは無理だ。それに俺はそれについては悩んでないし。正直お前の気持ちがよく分からん」

「なんでだよ?」

「まぁ、俺、主人公だからな!」

「オーケー、取り敢えず喧嘩売ってるってのはよく分かった」



―――――――――――――――――――



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