表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
142/180

逃げるのは悪役の専売特許だと思う

 勇者対悪役の戦い。

 お互いに、というより天上院達の方は緊張した面持ちで武器を構え、張りつめた空気が流れ出ている。

 この戦いにおいて、俺は一つ守らならければいけないことがある。

 それは、天上院達の武器やスキルを消さないことだ。



 あいつらにはまだ向こうで魔王退治が残っている。

 ここで、スキルや武器は消すことはできない。

 だから、今回は【削除魔法】はほぼ使えないと言っていいだろう。 



 結果は変わらないだろうけど。

 そうしたちょっとしたハンデがついた中、先に動いたのは勇者の方だった。



「魔法撃て!!」



 結界中に響き渡る程の天上院の号令により、後ろの後衛組から無数の詠唱が紡がれる。

 「フレイム!」「ガイアランス!」「ウォーターバレット!」「アイスブロック!」ちゃんと聞こえたのはそれくらいだろうか。

 他にも光や闇、雷の魔法もあるが、よく聞き取れなかった。



 火の球、土の槍、風の竜巻、氷の礫、水の塊、その他にも様々な魔法が俺に向かって飛んでいく。

 彩りは綺麗だが、当たれば大ダメージになりそうだな。



 当たればの話だけど。



「数があればいいってわけじゃない」



 なにも構えないまま、俺は無機質に呟く。

 こんなもの【削除魔法】で消す必要もない。

 なにか行動を起こす素振りを見せず、俺は飛んでくる魔法をただ見つめ続ける。



「それじゃあ、俺には届かない」



 そう呟いた瞬間、飛んできた魔法が次々と何かに阻まれるようにして、衝突していった。

 俺はなにかした素振りを見せていないのに、魔法がどんどん消滅していく。

 飛び交う魔法が俺を目の前にして消えていくその光景に、天上院達は目を見開き、驚きの表情を表した。



 まぁ、流石になにかはするけどな。

 全ての魔法が消滅し、その時になってやっと天上院達は魔法を阻んだ正体が分かった。



「ば、バリア?」



 天上院達の中で誰かが囁いた。

 向こうには魔法のバリアみたいなのはないのだろうか。驚いた顔をしている。

 これも一応【光魔法】の応用なんだけどな。改良してるだけど。



 俺の足元には、俺を中心とした魔法陣があり、そこにドームのような形で薄い光の膜が俺を守るようにして囲んでいる。

 俺がやったのは魔法を撃たれる直前にこれを張った、それだけだ。



 いくら数があっても個々の力が弱ければ意味がない。

 この程度これくらいあれば普通に防げる。

 魔法を全て弾いたことにより、役目を終えたバリアはスゥーッと消えていく。



「残念だが、正面からの魔法はお勧めしない」

「じゃあ、こっちはどう」



 余裕な態度のまま、俺は天上院達に忠告する。

 だがバリアが消えた直後、突如背後から声が聞こえ、気配を感じる。

 突然感じた気配に俺は後ろを振り向くと、後ろから別の魔法が飛んできていた。



 土と水の魔法。

 迫り来る二つの魔法に、俺は物怖じせず目の前に地面から壁を作り出す。

 直撃を防ぐための土の壁に魔法はぶつかり、相殺される。



 なるほど、そういうことか。

 相殺されたことにより土の壁は崩れ、俺の周囲に僅かな土煙が巻き起こるなか、俺は一人納得する。



 後ろには、魔法を放ったであろう二人の後衛と、その二人の肩を掴んでいるさっき見た転移魔法使いの美紀とかいう奴がいた。

 つまり、あいつが二人を転移させて後ろから狙ったと。



「惜しかったな」



 しっかり自分の得意なことを生かしているな。

 これも防がれ動揺する二人とは裏腹に、美紀の目は全く驚いていない。

 その時、今度は天上院の方から凄い勢いでなにかが突っ込んできた。



「貰った!」



 スピード系のスキルか。

 あの間合いから一瞬にして距離を詰められ、男は剣を上から振るう。

 単騎で挑むその度胸は認める。

 でもな―――――――



「遅い」

「ぐぁっ!!」



 それよりも、俺ならもっと速く動ける。

 振るわれた渾身の一撃は空振りに終わり、男に【首トン】が決まる。

 手刀が首筋に当たり、男は僅かな悲鳴と共に地面に倒れ伏した。



 まず一人。

 そう思う俺に対し、天上院の方は焦りの混じった声があがった。



「一人じゃ駄目だ!前衛組は連携を崩さずに四方から攻撃!後衛組はタイミングを見て援護してくれ!!」



 仲間が瞬殺され驚愕していた奴等は天上院の声で我に返り、全員気を引き締め直した。



「皆、出し惜しみせず、スキル全開でいくよ!!」

「「「「おぉぉ!!」」」」



 自らのスキルを発動させながら、天上院達は俺を囲うようにして向かってくる。

 剣に炎を纏わせたり、身体中の筋肉がムキムキになったり、身体が獣に変化したりと、色んな変化を見せていく。



 俺も含めて全員メトロンからの恩恵で独自のスキルを得ている。まさに、多種多様だな。 



「いくぞ!!」

「くらえ!!」



 体勢を低くして獣姿の男が、その上から炎の剣の男が、それぞれ同時に仕掛けてくる。

 先に炎の剣の男が水平に剣を振り抜き、そこから獣姿の男が爪で俺を引き裂きにいく。

 上を避ければ下から、下から避ければ上から攻撃がくる。

 悪くはないが、忘れてはならない。



 何人で掛かってこようが、お前らの攻撃は当たることはない。



「単純だな」

「ぐぇっ!!」

「っ!?ちょっ!?」



 俺は身を後ろに退かせながら炎の剣を避け、そこから獣姿の男を蹴り上げる。

 蹴り上げられ顔が真上を向き、炎の剣を持った男を巻き込みながら倒れ込んだ。

 蹴られた獣姿の男は脳が揺れ、意識が朦朧としている。

 そのせいで巻き込まれたもう一人は、中々起き上がれないでいた。



 これで三人。

 静かに心のなかで俺は数を数えていると、今度は目の前に別の奴が立ちはだかる。 



「これでもくらえ!!」



 立ちはだかった軽装の男は大きく息を吸い込むと、いきなり口から火を吹き出した。

 今度は火を吹くスキルか。

  


「面白いスキルだな」

「ぶほっ!!」  



 放射される火を簡単に避け、耳元に俺の囁き声を聞きながら火吹き男は腹に拳を受ける。

 拳を受け、火吹き男の身体はくの字に曲がると、地面に崩れ落ち、沈黙した。  

 これで四人。  



 またしても、仲間がやられ流石に動揺が止まらないのか、天上院達は俺を囲んだまま動こうとしない。

 だがその時、少し遠くから野太い声が聞こえた。


 

「全員離れろ!!」



 見ると、筋肉がムキムキになった男が地面を手で抉り取り、巨大な地面が持ち上げていた。

 持ち上げられた地面からは、抉りとったような跡が残り、ムキムキな男の額に血管が浮かび上がる。   

 おー、なんか凄い。



「どぉぉぉぉぉりゃぁぁぁぁ!!!」



 ドスの効いた叫びと共に、抉られた地面がブォンッ!と投げられた。

 投げられたことにより、俺の近くにいた奴等は瞬く間に離れていく。

 本当に殺す気満々なことで。俺はそれを呑気に見つめる。



 若干の放物線を描きながら、飛んでくる地面に俺は逃げもせずタイミングを見計らう。

 相手を諦めさせるには、圧倒的力の差を見せつけるのが重要。

 こんな場面でさえ、転移を使わずして切り抜くことはできる。



 徐々に迫ってくる地面に俺は体勢を整え、右の拳に炎を纏わせる。



爆発拳(フレイナックル)



 炎を纏った拳は地面に触れた直後、爆発を起こし粉々に砕く。

 パラパラと小石が降り注ぎ、地面が砕けたことにより俺の周囲に土煙が舞う。

 このくらいは楽勝だな。そう思う俺だが、周囲からは「嘘だろ......」「あり得ねぇ......」と萎縮した声が聞こえる。


 

 どうやら、向こうも少しは力の差が理解できてきたようだ。

  これで諦めがついてきたかなと思った俺だが、ここで天上院が襲いかかってきた。



「神谷!」



 人の名前を呼びながら、天上院は俺に斬り掛る。



「甘い」



 降り下ろされる剣を紙一重で避け、俺は天上院の顔面に拳を突き立てようとすると、突然剣に光が帯始めた。



「っ!?」



 突然輝き始めた剣を見て、俺は本能的に咄嗟にその場から離れる。

 離れたと同時に、剣の先から光の刃が俺のいた場所に向かって伸びた。

 なんだあれ、ライト○ーバーみたいだな。あのままだったら、突き刺さってたな。


     

 光の刃をかわされると、いきなり天上院がこちらに向かって叫んだ。



「君はこんな力を持っていて、どうして世の中のために使わない!!」


 

 まだ言ってるよ、こいつ。 

 両手で光を帯びた剣を握り締めながら、天上院は俺を睨む。

 いや、どうしてもなにも、



「使う必要がないだろ」



 使うのは俺に利がある時か、そうしなきゃいけない時だけだ。

 まぁ、それが世の中のために繋がるかもしれないが、平和なこの世界に魔法はお呼びじゃない。

 俺みたいなのがいなくても、今まで地球は無事に回ってきたんだから。



 俺の答えがどう捉えられたのか、天上院は「お前はぁ...!」と口調を荒くし目付きが鋭くなった。

 あれ、なんか誤解が更に深まった気がする。なぜだ。

 不可解な天上院の反応に俺は首を傾げると、突然こっちに魔法が飛んできた。



「あなたは私達が倒す」



 ギリギリのところで避けると、また美紀がさっきと同じ方法で攻撃をしてきたと思ったら、また元の場所に戻った。

 あいつが中々厄介だな。

 そう感じていると、憤慨していた天上院が俺に言ってくる。



「君がどう思ってようがこの際どうでもいい。僕達は君を倒す。それだけだ」

「できるならな」



 やけに自信満々に言い放つ天上院に、俺は余裕な態度で返す。

 すると、いきなり美紀が天上院に声を上げた。



「天上院君!準備できたよ!」



 その声を聞いて、天上院は「よし!」と作戦通りといった顔をする。

 あ、これもしかして、これ時間稼ぎだったのか。

 今になって作戦の意図を理解し、突然天上院達は俺の前方を開けるように退くと、何人かの後衛が円の形を取るように立っていた。

 


「僕達は今まで皆で戦ってきた。何回も敗北を知り、挫折を繰り返してきた。でも、だからこそ、得るものもあった」


 

 配置に立った後衛達のそれぞれの魔力が、円の中心に集まっていく。



「神谷、それを今ここで見せよう」

 


 その瞬間、中心から様々な色を混ぜたような禍々しい魔力ができあがった。

 合体魔法ってやつか。

 それを見て、俺は「おー」と興味深そうに見つめる。

 一人で駄目なら皆でってことか。中々凄そうだな。

 そうは思った俺だが、これには一つ欠点があった。



 溜めが長いな。

 数秒経っているのに、未だ魔力は発射されない。

 わざわざ当たりに行くつもりはないし、これならすぐ避けられる。

 溜まっていく魔力を見ながらも、俺は逃れようとすると、



「逃がしはしない」

「っ!?」


 

 突如身体に光の鎖が巻き付いた。

 いったいなんだと思い鎖を先を追うと、メガネをかけた男が鎖を持っている。あいつの仕業か。  

 抜け出そうと考えた俺だが、まだ終わっていなかった。



「まだだ!」

「このまま大人しくしてな」



 今度は別の方向から鎖が飛んできて、足と身体に巻き付かれた。

 動きづらい。身体は二重に巻かれ、足までやられると、正直立ってるのも辛い。

 拘束されたか。慌てることなく、俺は冷静に分析する。

 この程度どうってことはないが、これはチャンスかもしれん。

 鎖を見ながら、俺は思う。そう考えている内に、向こうの準備が整った。



「これで終わりだ!神谷!!」


 ドォォォォン!!



 その声と同時に、結集していた魔力が発射され、俺に見事に直撃した。

 直撃した瞬間、爆音と共に土煙が宙を舞い、辺りに衝撃が走る。



 これで倒せたのか。

 天上院達は全員息を呑みながら俺の方を見つめる。



「や、やったのか......」



 誰が言っただろうか。

 戦いおいて言ってはならない台詞に、俺は見えない視界の中言った。

 


「それ言っちゃ駄目だろ」



 突然聞こえた俺の声に、天上院達はの表情に動揺が現れる。

 やがて土煙が晴れ、そこに現れたのは鎖が巻き付かれたままだが平然としている俺の姿だった。



「神谷、ど、どうやって.....」



 流石にこれで無傷はおかしいと感じたのか、天上院は震えた手で俺を指差す。

 まぁ、天上院の言いたいことも分かるんだが、その前にこの鎖がいい加減邪魔すぎる。



「外すか」



 そう言って、俺は身体に力を入れる。

 ぐぐぐっと力を入れると、鎖は意図も簡単にパキンッ!と音を建てながら砕け散った。



「なっ!?」

「鎖がっ!」

「どうなってんだよ!?」



 鎖を千切られ、俺を縛ってた奴等は驚いているが、こんなのは造作もない。

 外そうと思えば、いくらでも外せたが、敢えて外さなかった。

 力の差を見せつけるためには、こういうのも必要かなと思いやってみたが、どうやら効果はあったな。



「残念だったな。それだけやっても、俺には届かない」



 唖然とする天上院達に、俺は告げる。

 どうやって避けたかと言われても、実際俺は避けてない。

 ただ、全力で防御に徹しただけだからな。



「魔力ってのは便利だよな。纏えば身体が強化されるんだから」


  

 俺の言葉を聞いて理解したのか、天上院はあり得ないという顔をしている。

 いくら、身体を強化したからって、爆発や衝撃に耐えられるなんてほぼ不可能。

 だが、爆発や衝撃の威力より、魔力の強化が上をいけば話は別だ。



 相当の差がないとできないけどな。

 天上院達の反応に俺は満足すると、おれはこの辺でいいかと思い、一掃するため動き出すことにした。

 


 そろそろ悪役にも疲れた。この戦いもそろそろ終わらせよう。



「お前達の実力は大体分かった。分かってると思うが、その上で言ってやる」



 言葉の途中で、俺は片足をゆっくり上げる。



「俺には絶対に勝てない」



 ドンッ!と上げた片足を地面に叩きつけると、足元に巨大な紫の魔法陣が現れた。

 俺や天上院達全員を覆う程の魔法陣に、天上院達は全員下を向いて注目する。

 


 なにが起こるのかと息を呑む彼等。

 その瞬間、変化は起こった。



「!?な、なんだ!?」

「か、身体が.....!!」

「重い......!?」



 突然身体に重りでも乗っかってきたかのような重さを感じ、天上院は地面に膝をつく。

 他の奴等も同様に重力に逆らえず膝をつき、中には倒れ込んでいる奴もいる。

 一見重力の魔法に見えるが、実際は違う。

 これは単に身体が重くなる呪いだ。



 といっても、魔法陣内しか使えないからそこら辺は使いようだ。

 


「一応言っておくと、これは【闇魔法】の応用の改良版だ。覚えとけ」   



 俺の言葉を聞いて、動揺していた奴も全員俺を見る。



「最初に言ったよな?格の違いを教えてやるって」



 怒りもせず、皮肉になることもせず、俺はただ淡々と述べる。

 今の天上院達が俺がどのように見えているだろうか。

 恐怖か、憎しみか、どちらにせよ尊敬とかではないだろう。



「今からそれを証明してやる」



 俺は意味深なうすら笑みを浮かべてから、上空へと上昇していく。

 ある程度見下ろせる高さまで行くと、俺の体から六色の魔力が吹き出す。



 最後は派手に終わらせよう。

 体から吹き出る『火』『水』『土』『風』『光』『闇』の魔力は、徐々にその強さを増していき、臨界点に達した。

 さっきのお返しついでに、久しぶりに使ってみるか。



 その瞬間、俺の周りに、赤、青、黄、緑、茶、黒の槍が現れ、六角形を描くようにして天上院達を囲む。

 囲むようにして地面に突き刺さった槍はそれぞれを線で結び、六角形を形作る。

 


「安心しろ、威力は抑えてある。死にはしない」



 形作られた六角形の中心の上空には、槍から流れ出る魔力が結集し、大きな魔力の塊ができあがっていく。



 それが天上院達の恐怖をどれだけ駆り立てていくか。

 動けない彼等は今、ただ強大な攻撃を受けることしか許されていない。

 魔法で防ぐなんていう冷静さはないだろう。

 


「お、おい!これやばいんじゃないのか!!」

「ど、どうすんだよ!!」



 冷静さを失った勇者達は震えたように騒ぎ立てる。

 そんなこと言ったところで、誰も止められない。



「六槍封波」


ドオォオオォオォオォオン!!



 震える勇者達に、無慈悲な鉄槌が下される。

 上空に集まった魔力の塊は、動けない天上院達に向かって一気に放出された。

 威力は抑えたといっても、大地は震え地震に似た揺れが起きる。



 土煙が結界中全体に舞い、俺はゆっくりと地面に降り立った。

 これで全員片付いただろうか。

 そう思い、俺は次について考える。


  

 よくよく考えれば、38人も異世界に送れる程魔力があるだろうか。

 【時空転移魔法】は距離の分だけ魔力を消費する。異世界だとどれくらい掛かるか分からない。

 もし全員送れなかったらどうしようと悩んでいると、丁度土煙が晴れてきた。



 土煙が晴れると、案の定勇者達は倒れている。

 だが、微かに息があるようで意識を保っている奴が結構いた。

 威力を抑えすぎただろうか。まぁでも、それでも動けないに変わりはないか。

 問題ないと思いそう楽観視ししていると、


 

「神谷......」



 目の前で声が聞こえた。

 いきなり声が聞こえなんだと思い見てみると、そこにはまだ元気そうな天上院と美紀が立っていた。



「驚いた。まだ立てるのか」

「美紀のお陰で助かったよ」



 あー、そういうことか。

 天上院の言葉を聞いて俺は理解した。

 あの瞬間に、美紀が転移で天上院と一緒に逃げたのか。

 案外冷静な対処ができるみたいだな。

 今の攻撃をかわされ俺は素直に感心する。



「神谷、君は...!」



 仲間をやられ今にも襲いかかって来そうな雰囲気を漂わせる天上院に、美紀が間に入る。



「天上院君、ここは」

「分かってる」



 美紀の言いたいことは分かるのか、天上院の剣にまた光が帯びた。

 さぁ、次はなにをしてくるのやら。

 天上院の攻撃に俺は身構えるが、次の瞬間予想外なことが起こる。



「神谷、勝負は一先ずお預けだ」

「は?」

「今は皆が大事だ。今は逃げさせて貰う!!」



 そう言ったと同時に、突如天上院の剣から強い光が発した。

 まさか逃げると思わなかった俺は、意表を突かれまともに目眩ましをくらう。



「全員、離脱するんだ!!!テレポートブレスレットを使って!!!」



 視界が眩しい中、全員に届くよう天上院は大声をあげる。  

 その声が届いたようで、意識のあるクラスメイト達は一斉に腕に着けていたブレスレットに手を触れ、呪文を唱えた。



「テレポート!」「テレポート!」「テレポート!」「テレポート!」「テレポート!」「テレポート!」「テレポート!」「テレポート!」「テレポート!」「テレポート!」「テレポート!」



 連鎖するように勇者達は呪文を唱え、その場から姿を消していく。

 え、これって、まさか........。

 次々と聞こえてくる勇者達の声に、俺は驚きながらも察する。

 まずい、逃げられる。



 俺は慌てて止めようと目を開こうとするが、一向に開かない。



「え、ちょ、逃げんな!」



 苦し紛れに俺は叫ぶが、誰も聞いてはくれない。

 暫くしてやっと目が開いたが、その時にはもう天上院達の姿はなくなっていた。

 誰もいなくなった広い空間に、俺は一人呆然としながら立ち尽くすと、「えぇ.....」と落胆した声をだす。



「そんなのありか....」



 勇者が逃げるってどうなんだよ....。

 いや、仲間の安否を心配するのは分かるけどさぁ......。

 そういうのは、悪役がやるもんだろ。

 しかも、テレポートブレスレットって....完全に逃げること想定してたなあいつら。

 いつの間にか結界も消え、気絶した奴等も回収されている。



 いや、まさか逃げるなんて思わないじゃん。

 流石にあいつらを一辺に止める手段とかないぞ。

 誰に言ってるのか、俺は言い訳を連ねる。



 なんだろう、不完全燃焼な感じ。

 この言い知れぬ気持ちを抱えたまま、俺は一人愚痴りながらも誰もいない空間を見つめていた。

そんなに無双はできなかったな.....。


おまけ


【克服】


「天上院ってやっぱりモテるよな」

「いや、そんなことないよ」

「いやいや、モテるだろ?なぁ、さや」

「え、あ、うん、そうだね....」

「ほら、さやもそう言ってる」

「いや、距離を置いて怯えられながら言われても説得力ないんだけど....」

「まぁ、さやは男が苦手だからな」

「なんとかならないの?なんかやりづらいんだけど」

「慣れて貰うまで話かけてみたらどうだ?何事も経験が重要だ」

「わ、分かった。やってみる」


ーーーーーーー

 

「ね、ねぇ、ちょっといいかな?」

「えぇ!?」

「あ、いや!?驚かせてごめんね」

「あ、い、いえ」(ぷるぷる)

「あ、あの、そんな怯えなくてもだいじょう―――」

「うぇぇ......」(今にも泣きそう)

「....神谷、僕には無理だ。心が痛い」

「無理すんなよ」



――――――――――――――――


 ブックマーク、評価よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ