ゲームでレベル差が200以上あるのは負け確
や、やっと、出せた…。
両親との再会を終え、俺と九重はお互いに沈黙したまま歩いていた。
自分から送っといてそのまま放置もできないため、帰りも近くまで送っているのだ。
ただ、いかんせん気まずい。
「......あれでよかったのか?」
「はい、いいんです。あれで」
深い沈黙の中発せられた俺の言葉に、九重はか細い声で囁く。
本人はそう言うが、本当にいいんだろうか。
というのも、両親と再会をしたといったが、実際は遠くから見ていただけだった。
話し掛けることをせず、ただ遠くから両親が過ごしているところを眺めるだけで、九重はその場から立ち去ったのだ。
そんな顔だと、説得力ないな。
隣では、あれでいいと言っておきながら九重はしんみりとした顔をしている。
「会ったところで、両親は私のことは、分からない、ので」
「どういうことだ?」
「メトロン様が、私達が地球に留まらないようにって。両親に会っても、私だって分からないん、です」
自分で言ってまた悲しくなったのか、九重は更に顔を暗くさせる。
そんなことになってたのか。
九重から聞かされる真実に、俺は驚きながら九重を見る。
留まらせないためって、まだ魔王は倒せてないんだな。
「そ、それに.........」
「それに?」
「私だけ、会うことは、できません」
私だけ、か。仲間想いなんだな。
普通だったら集団というのは、一人は仲間外れになったり、浮き出た存在ができたりするものだが、思ったよりこいつらの絆は深いようだ。
自分の悲しみにも耐えてまで、仲間を優先する。それは中々できないことだ。
九重の言葉に、俺は「そうか」とだけ応えると、九重は少し緊張した様子で俺に話し掛けた。
「あ、あの?」
「なんだ?」
「め、メトロン様が言っていたこと、ほ、本当、なん、ですか?」
変に緊張してるのか、言葉を途切らせつつも九重は俺を見て言う。
どうやら、この一連の流れから俺が悪さをしてたのか疑いを持ったようだ。
目を見る九重に、俺は少し考えたが、
「あぁ、本当だ」
事実を述べた。
「そ、そうなん、ですか」
少し期待してたのか、それを聞いて九重は残念そうに顔を俯かせた。
そこで違うと言ったところで、他の奴等が信じるかどうか分からない。
下手したら、あいつになにかされたのか!?と変な誤解を受けそうだ。
そういうわけだから、悪いが悪役のままでいさせてもらう。
「俺としては、お前みたいなのが異世界で生き残ってる方が不思議だけどな」
「そ、それは、皆がいたから、です」
自分で言ってて照れくさいのか、九重は恥ずかしげに微笑む。
「さ、最初は、戦いも、魔法も、怖かったです。自分には無理だって、そう思って、ました。
でも、そんな私でも、皆は励ましたり、元気づけてくれたん、です。こんな勇気のない、私を」
囁くような小声に、顔は嬉しそうに柔らかい笑みを。昔を思い出すように、九重は呟く。
「だから、私は、皆のために頑張り、ます」
曲がり角で立ち止まってから、決意を固めるように九重は俯きがちだった顔をあげ前を見る。
声量は小さいままだが、声質は確かに強かった。
(それを敵である俺に言われてもなぁ.....)
要するに俺を倒すために頑張るってことだろ。
それは素直に頑張れとか言えないな。
正直、どう反応したらと俺は困ったが、言えることは一つだけある。
「意気込んでるところ悪いが、お前達は俺には勝てない」
「え?」
「今までなにをしてきたかは知らないが、お前達と俺とでは経験の差がありすぎる。天と地のな」
世界を闇に染めようとした神と戦ったことはあるか、
世界を破壊する程の化け物と戦ったことはあるか、
大量のモンスターや妖怪達を一人で相手取ったことはあるか、
どちらにせよ、レベル的に差は歴然。
会った時に確認したが、一番高い天上院で183だ。その時点で天上院達勇者は先ず勝てない。
「わ、私達は負けません!」
「だといいな」
むきになる九重に俺は軽く流すと、九重は更にむきになった。
「私達がこれまで、通ってきた道は、何物にも代えられない、友情であり、宝物です。なにも知らない貴方が、勝手なこと言わないでください!」
怒ったように大きな声で、九重は感情的に叫ぶ。
いきなり大きな声で叫ばれ俺は若干呆気にとられてると、自分が叫んだことに気づいた九重はハッとなり顔を赤くした。
「す、すいません!出過ぎたことを!!」
恥ずかしそうに頭を慌てて何回も下げる。
驚いた、あんな声が出せるのか。いきなり出た大きな声に俺は意外そうな顔をするも、微かに微笑を浮かべた。そういうの、悪くないな。
「き、今日はありがとう、ございました。ここで、結構です」
「そうか、気を付けてな」
“またねー”
俺は片手で小さく手を振ると、九重は俺に背を向け歩いていく。
ロウガも別れの挨拶を告げると、聞こえていないのにも関わらず九重は僅かにニコッと笑ってから再び歩いて行った。
去っていく九重を見送ると、俺は独り言のように呟いた。
「全部片付けたら、あいつら送り返すか」
このままいられても迷惑だし。
それに、あいつらには魔王を倒すという使命がある。
こんなところで油を売ってるわけにもいかないだろ。
九重が去って行った方を見つめながら俺はしょうがないとばかりに息を吐くと、突然ロウガが俺に向かって言ってきた。
“変わったねー、主ー”
「変わった?」
“前はそんなに積極性なかったのにー”
じーっと見つめながら言うロウガに、俺はそうだろうかと自分を思い返す。
確かに、今までの俺がやらなきゃ駄目だから仕方ないからやるといった感じで、自分からやるなんてことはしなかったかもしれない。
俺も段々変わってきたということだろうか。
あまり自覚がないから、なんとも分からないな。
変わったんだろうか、俺は。
帰りの道を歩く最中、俺の頭の中には終始そのことが引っ掛っていた。
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その夜、廃屋では天上院達勇者組が今日のことについて語り合っていた。
それぞれ久しぶりに見た親の顔について話し合い、華を咲かせている。
笑う者、涙を流す者、様々な表情を浮かべているが、その中で天上院は一人外を眺めていた。
別に家族に会えなかったわけじゃない。
両親には会えたし、元気な妹の姿も見れた。
だがそれ以上に、やはり異世界のことが気が気でなかったのだ。
「みんな.....」
浮かない顔をしながら、天上院は夜空を見上げる。
大丈夫とは思っていても、すっぱりと気持ちが割り切れるものではない。
あそこでは沢山の人にお世話になった。
返しきれない恩がまだまだある。
そんなもやもやとする天上院のところに、美紀が後ろから声を掛けた。
「天上院君」
声を掛けられ振り返ろうとした天上院だが、突如後ろからなにかに拘束され、動けなくなる。
いきなりなことに「へ?」と天上院は変な声を出し、いったいなんだと後ろを見る。
見ると、美紀が後ろからギュッ!と抱きついてきていた。
「み、美紀?いきなりどうしたんーーーー」
「どうして、あの時私を置いて行ったの?」
暗がりの中発せられた美紀の言葉に動揺し、天上院は言葉を途切らせた。
どうしてと聞かれた天上院だが、なにも応えられず静かな時間だけが過ぎていく。
中々答えが返ってこない天上院に焦ったく思ったのか、美紀は天上院の背中に顔を埋めながら喋り出した。
「私、少しの間部屋に籠ってたの。どうして、いなくなったんだろうって。どうして、私から離れちゃったんだろうって。ずっと思ってたの」
重々しく語る美紀。自然と腰に巻きつかれた腕の力も増していく。
ずっと言いたかったのだろう。再会の瞬間からこれまで、二人きりになる時間があまりなかったから。
美紀にここまで言わせて自分もなにか言わなければと思ったのか、天上院は閉ざしていた口を開いた。
「ごめん、美紀。でも、あれが僕にできる最大のことだから。だからーーー」
「知ってる。天上院君はいつもそうだもん」
自分より他人を優先し、誰よりもその人のために尽くそうとする。
美紀にはそれが分かっていた。だが、半年以上待ったこの気持ちをどうすることもできなかった。
「ごめんね、こんな時に。こんなこと言ってる場じゃないって分かってるの。でもね、天上院君........」
そう言うと、美紀は天上院から離れ後ろに一歩退いた。
拘束が解けたことにより天上院は後ろを振り返ると、そこには美紀が仄かに顔を赤くし目を潤ませていた。
「美紀........」
「天上院君、私ね、天上院君が........」
その時だ。
美紀が天上院に何かを伝えようとした時、突然美紀の後ろにある物陰からざわざわと影が見えた。
「ちょ、押すなよ!」
「俺だって見たいんだよ!」
「美紀、ちゃんと上手くいくかな〜」
「てかお前ら、そんな声で喋ってたらあっちに聞こえ......うわっ!?」
自分も見たいという欲が事故を生んだのか、物陰から見守っていたクラスメイト達がなだれ込んできた。
それにより、クラスメイト達は美紀と天上院と目が合う。
「「......」」
「「「「......」」」」
お互いに目が合い、なんと言っていいか分からず無言の間が過ぎ去る。
その中で天上院は「ははっ...」と苦笑いをするが、その前では美紀が顔を真っ赤にしながらプルプルと震えていた。
「皆、なに、してるの?」
震えながらも絞り出る美紀の言葉に、クラスメイト達 は取り繕うように焦り出す。
「あ、いや、たまたま通りかかっただけだから」
「俺達のことは気にせず」
「どうぞ、続きをして」
「どうぞ、どうぞ」
「できるかぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
どうぞと言われてもできる筈もなく、恥ずかしさが頂点に達した美紀の叫び声をあげる。
やっぱりなと思ったクラスメイト達は、美紀の叫び声を聞いた瞬間全力で逃げていくが、相手が悪い。
「待てぇぇぇぇ!!」
「ちょっ!?美紀、転移はずるいだろ!」
「折角のところを邪魔してぇぇぇぇぇ!!」
すっかりご乱心な美紀にそんな言葉が通じるわけもなく、転移を繰り返し暴れ続ける。
どうりで周りが静かだなと思ったら………。
その様子を観察していた天上院はどうしたもんかと思ったが、見ていて自然とふふっと笑みを浮かべた。
この皆となら、どんなことでもやっていけそうだ。
神谷でも、魔族でも、魔王相手でも、皆で協力していけば勝てないものはない。
「天上院!見てないで止めてくれよ!!」
クラスメイトに助けを求めらるが、流石にさっきのは酷いと思った天上院は「暫く反省して」と言って静観し続けた。
天上院の助けも無理だと分かったクラス内では、美紀との壮絶な鬼ごっこが始まる。覗きは流石に許せないな。
顔には出ないものの、天上院も天上院で怒っているようだ。
本当に、いいところだったのに……。
そう思った天上院ではあるが、同時に少しホッとしている。
まだ、その時じゃない。まだやり残したことがたくさんあるから。
怒り狂う美紀を見ながら、天上院は頬を緩める。
今宵の 天上院達勇者組の夜は、戦う前にも関わらずとても賑やかだった。
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次の日。
今日もベッドの上でゴロゴロしていようと思った俺だが、今回は書店で本を買うため出かけていて、今はその帰りだ。
いつも読んでるやつの続巻が出たからな。読者としては買わない手はない。
袋は大事に【空間魔法(効果範囲 特大)】で収納してある。後でじっくり読もう。
少しうきうきした気分で歩く俺だが、ふと昨日のことを思い出す。
昨日は勇者の一人である九重との遭遇により、少しだけ天上院達のことが知ることができた。
昨日が自由行動の日とか言っていたから、動くとしたら今日からということになる。
どこから来るかは分からないが、俺としてはどこからでも受けて立つつもりだ。
といっても、【気配察知】とかにはまだ反応はないから、まだ大丈夫とは思うが。
「もしかして、遠くからいきなり現れたりして」
「よく分かったね」
冗談めかしに言った俺の一言に、背後から返事が聞こえた。
後ろに人はいない。ということは………!
状況を理解し振り向こうとしたと同時に、声の主は俺の背中に手を触れた。
その瞬間、俺の目の前の景色が道路から土の大地へと変わった。
ここは、どこだ……。
突然変わった景色に俺は困惑する。
周りは崖に囲まれ、谷のようになっていて、空はどっかで見たのと同じように赤い。
これだけ見ればもうなんなのかは分かるが、前方から聞き慣れた声が聞こえてきた。
「神谷!!」
少し遠目から名前を叫ばれ、声のする方を見ると、そこには鎧を着た天上院達が待ち構えていた。
「約束通り、君を倒しにきた」
悪役ならここで待っていたぞ勇者共!とか言うんだろうか。
俺も言った方がよかったりするのかと、呑気なことを思っていると天上院の隣に一人の女子が出現した。
「ありがとう、美紀」
「うん、頑張ってね。天上院君」
「あぁ、任せて」
どうやら、さっきの転移はあいつの仕業のようだ。
美紀と呼ばれた彼女は天上達に別れを告げてから、再び転移で姿を消した。
にしても、ここはこいつらが作ったんだろうか。
周りが崖に囲まれたこの場所を見渡しながら、俺は思う。
まるで陥没し巨大な穴が空いたかのようなところだが、どう見ても天然なものではない気がする。
俺のためによくやるな。
「呼ぶなら普通に呼んでくれ。わざわざそうしなくても、こっちから行ったぞ」
「なんらかの対策をされたら、困るからね」
余裕そうに俺は軽口を叩くが、天上院はそれを流しクラスメイトに号令をかける。
「僕達にはまだ向こうでやることがあるんだ。すぐに終わらせて貰う。皆!!」
その瞬間、クラスメイト達は左右に広がり陣形を組んでいく。
前衛組は前に、後衛組は後ろに、そして魔法が撃ちやすいように前衛組が間を空けている。
全員真剣な眼差しで、武器を握っている。うわー、殺す気満々だな。
武器を構える天上院達に対し、俺は素手のままなにも構えずただ突っ立っている。
どうせ、やらなければいけない戦いだ。もう逃げる気はない。
それにしても、「すぐに終わらせて貰う」ねぇ……。
「勘違いするなよ」
「なに?」
「すぐに終わるのは、俺でなく、お前らだ」
数が何人いようが、どれだけ連携を組もうが、関係ない。
「こっちは帰って読みたい本があるんだ。やるならとっととやるぞ」
圧倒的レベルの前では、そんなもの無意味だ。
「お前らに格の違いを教えてやる」
全員倒して纏めて異世界送りにしてやる。
俺の挑発すぎる言葉を火種に、勇者対悪役の戦いが始まる。
おまけ
【お誘い】
「呼ぶなら普通に呼んでくれ。わざわざそうしなくてもこっちから行ったぞ」
「そうなのか、じゃあそうする」
ーーーーーーーーーー後日
ピロンッ
「マスター、メールです」
『今日の昼の2時からこっちで作ったフィールドに集合!!場所は赤い結界があるからすぐに分かるよ(^o^)/遅刻厳禁だからねー♪
クラス一同より』
「友達か」
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