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いたたまれない気持ちになりました

 中学の元クラスメイトとの、まさかの再会を果たしてから翌日。

 いろいろと誤解をされていたものの、まだ俺の身の回りには変化はない。



 俺を倒すと宣言した天上院達はどこでなにをしているのか、見当はつかないが諦めたということはないだろう。

 諦めてくれた方が、一番嬉しいんだけどな。



「.......眠れん」



 いつものようにベッドの上で寝転がっていた俺だが、今日は妙にソワソワしている。

 なんだろう、いつ襲われても分からないとなると、変に落ち着かない感じがするな。



 いや、命狙われていると分かっていて呑気に寝てられるのもどうかと思うが、こうも落ち着かないとは。

 【気配察知】や【空間魔法(効果範囲 特大)】には反応がないから大丈夫だと思うけど、あいつらが特別なスキルを持ってたら厄介だ。



 楽観視してはいけない。

 そんなことを思っていると、突如携帯から着信音が鳴り出した。

 


「マスター、リーナ様からお電話です」



 リーナから?メトロンのことについてなにか分かっただろうか。



「出てくれ」

「分かりました!」



 メルは元気よく返事をすると、携帯が通話状態になる。

 俺は寝た体勢のまま携帯を手に取り、耳に当てた。



「もしもし?」

『もしもし、私だ』

「どうかしたのか?」

『メトロン様の件で少し話がある』



 やっぱりメトロンのことか。



「どうだったんだ」

『結論からいうと、メトロン様の仕業ではない可能性が高い』

「可能性?」



 なんとも曖昧な表現に、俺は首を傾げる。



「なんで可能性なんだ。本人に聞きに行ったんだろ?」

『実は、メトロン様は今行方を眩ませている』

「は?行方不明?」

『仕事が嫌でサボってどこかに行ってしまったらしい』



 サボったって.......本当に駄目な神だな。

 こんな非常事態になにをやっているんだ、あいつは。

 理由を聞いて俺は呆れたが、同時に少し納得もした。

 だから、可能性か。



「つまり、あいつがサボってる間に誰かが天上院達を転移させたか、あいつが隠れて本当にやっているかの、どちらかか」

『その通りだ』



 だとしたら、天上院達は騙されているかもしれないわけだが、果たして俺が言ったところで信じるかどうか。

 多分絶対信じないだろうな。あんなことやった後だし。 



『今後は、勇者達を転移させた犯人を探してみる。なにかあったら報告しよう』

「あぁ、頼む」

『用心するんだぞ。狙われているのは貴様なんだからな』



 最後に釘を刺され、俺は「分かってる」と言って通話を終了した。

 他に犯人がいるか......。

 多分またどっかの神なんだろうけど、知ってる奴で心当たりが全くない。



 いや、知ってるのが狂った戦闘狂(スカラ)暗黒主義者(ゲルマ)しかいないから、最初から分かる筈もないか。

 どっちも絶対違うだろうし。



「考えるだけ無駄か........」



 ベッドの上で寝返りを何回か打ちながら俺はダラダラとしていると、突然腹に衝撃が走った。



“あーるーじー!”

「ぐふっ!?」



 ベッドからやや高めな位置で、ロウガが降ってきた。

 犬小屋から、こっちに移動してきたのか。

 ロウガが腹に落下してきたことにより俺は若干噎()せるが、ロウガはお構いなしに話しかける。



“お散歩行こー!主ー”



 その前になにか言うことがあるだろう。

 目の前で噎せている主に、心配の一言はないのだろうか。

 胸らへんを前足でぺしぺしと叩きながら催促するロウガに、俺は言いたげな顔をする。



「もう少しソフトに転移してきてくれ、ロウガ」 

“それより、お散歩行こーよー!”


 

 最近、ロウガの奴俺に対しての扱いが酷い気がする。

 余程お散歩に行きたいのか、俺の願いを話し半分に聞き流されてしまった。



「お散歩って、またあの草原に行くのか?」

“今度は普通にお散歩したーい”



 今度は普通のお散歩か。

 まぁ、気晴らしに外を歩くのも悪くないか。

 


「それじゃあ、行くか」

“うん!”



 できれば、日陰の多いところを通りたいな。

 そんなことを思いながら、俺はロウガと一緒に家を出た。





―――――――――――――――――――――――





“~♪~♪”



 外に出てから、俺はロウガと木陰の道を歩いている。

 ご機嫌なロウガの鼻唄も聞こえながら、俺はボーッとしながらあくびをする。



 日陰だと大分涼しいな。

 道路際に植林があり、それが日を遮っているお陰でこの道は日陰になっている。

 とても命を狙われている人間には見えないが、さっきみたいに気にしすぎもよくないだろ。

 身が持たない。



“楽しいねー、主ー”

「そうだなぁ」



 気分よく話してくるロウガに、俺は気の抜けた返事をする。

 平和だ。とても今から争い事が起きるような雰囲気ではない。



(まさか、あいつら地球に来たからどっかに行ってたりして)



 ふと頭のなかでそんな予感がしたが、まさかまさかと俺は首を横に振る。

 俺を倒す!とか豪語してた奴等が、その辺を私服着て歩いてるわけないだろ。



「まさかな........」



 ないないと思いながら苦笑いをしている俺だが、突然固まったように足を止めた。



 いきなり立ち止まったことに、ロウガは“どうしたのー?”と聞いてくるが、今の俺の耳には入らない。

 おいおい、本当にしてたよ.....。



 俺の目の前では、昨日天上院と一緒にいた奴の一人が、私服を着てなにか上に手を伸ばそうとしていた。

 天上院達の顔は隠れてた奴以外は、茶番をしてる間に覚えている。



 眼鏡をかけた大人しそうな風貌。

 間違いない。後ろにいたから若干分かりずらかったけど、天上院達と一緒にいたやつだ。

 なにをしてるんだと彼女を見ていると、帽子が木に引っ掛かっている。



 それが取れずに四苦八苦しているようだ。

 男子ならともかく、女子には届きそうにない微妙な位置だな。


 

「どうしよう.........」



 一向に帽子が取れず、困り果てた彼女はチラッチラッと周囲を見渡してから木の枝に向かって手を伸ばした。

 すると、伸ばした手から風が集まっていくのが見える。



 あ、これはいかん。   

 魔法を行使しようとしてるのを見て、俺は止めるべく魔法を消しに掛かる。



(消えろ)



 その瞬間、集まっていた風が一瞬にして消滅した。



「え?あ、あれ?な、なんで?」

「無闇に魔法は使うな」

「え、あっ!?」



 俺の姿を見たびっくりした彼女は、俺から距離を取り反撃の構えを取った。

 対応が早いな。流石は勇者様ってか。 

 だが俺は気にせず少しジャンプして引っ掛かっていた帽子を取り、警戒する彼女に手渡した。



「ほら」

「え、あ、ありが、とう」



 差し出された帽子と俺を交互に見ながら、戸惑った様子を見せる彼女。

 流されるように帽子を受け取り、なんて言ったらいいか分からない表情をしている。

 


「あんまり簡単に人の前で魔法は使わない方がいい。どこで見られてるか分からないからな」



 実際、ここら辺を歩いている人が何人かいる。

 見つかったら、騒ぎになりかねない。



「やるなら、周囲に完全に人がいないのを確認するか、バレにくい魔法を使え」


 

 そうしなきゃ、また俺が記憶を消さなきゃいけなくなる。そういう面倒事は異世界でやってくれ。

 俺に指摘され、彼女は「う、うん......」と気の小さい声で呟きながら俯いた。



 なんだか、やりづらいな。

 そりゃあ、標的である俺に話しかけられたらそうなるのも無理はないが。

 目を合わせようとしない彼女に、俺は対応に困っているとロウガが彼女の足元に近づき下から彼女の顔を覗いた。



「わん!(大丈夫ー?)」



 愛らしい瞳で見つめるロウガを見て、彼女は次第に口許を緩ませふふっと笑った。

 少しは気が緩んだようだ。ナイスだロウガ。

 


「お前、天上院と同じ勇者だろ」

「あ、はい」

「なんでこんなところにいるんだ?」

「今日は、一日、自由行動の日、なので」



 人と話すのが苦手なのか、俺から目を逸らしながら話す。

 声も小さく聞き取るのがやっとだ。

 それにしても、あいつら本当にそんなことしてたのか。

 なんだか、さっきまで気にしてたのがバカらしくなってきたな。



「聞いといてなんだが、そんなこと俺に言っていいのか?一応お前達の敵だぞ」

「そ、それをいうなら、貴方は、なんで、私に、不用意に、近づいたん、ですか」

「なにもする気はないし、この距離で不意討ちされたところで、お前らくらいなら別にどうってことないからな」



 自分を下に見られて癪に触ったのか、彼女は少し眉をひそめ怒った表情をする。  



「バカに、しないで.....」



 その顔を見て、俺は証明するために人差し指をクイッと曲げながら挑発をした。



「試しにやってみるか?今なら誰も見てないぞ」

「っ!?このっ!!」

 


 そこまで言われて我慢できなくなった彼女は、至近距離で風の魔法を放った。

 風を凝縮させた球体は俺に届こうとしたが、



「消えろ」



 その前になにもなかったように消えていった。

 また魔法が消滅し、彼女は信じられないといった顔を浮かべ唖然としている。



「なっ?大丈夫だったろ?」



 驚いている彼女に俺は平然と言うと、彼女は勝てないと実感したのか諦めたように力なく呟いた。



「私を、どうする、つもりですか」



 急にそんなことを言われ、俺はえ?っと戸惑う。なにかされるとでも思ってるのだろうか。

 変な勘違いされ、もう無理だと諦めた彼女の目には涙が溜まる。



「わ、私はともかく、皆には酷いこと、しないで、ください」



 今にも泣きそうな彼女を見て、俺はまずいと思い慌てて弁解した。



「ま、まてまて、俺は別になにもしない」

「え?」

「俺が話し掛けたのはお前が無闇に魔法を使おうとしたからだ。そっちからなにかしてこない限り、俺はなにもしない」



 そう言って無理矢理話を切り上げ、俺は「それじゃあ」と言ってロウガと共に通りすぎようとする。

 本当になにもしないで去っていく俺を見て、驚いた表情をした彼女は勇気を振り絞り「あ、あの!」とさっきより大きな声で俺を呼び止めた。



「こ、ここら辺に、九重(ここのえ)という家を、知りませんか?」



 九重と言われ、俺は立ち止まり暫く考えたが、そんな家は聞いたことがなかった。



「いや、知らないな」

「そ、そうですか......」



 俺が知らないと分かると、彼女はあからさま残念そうな顔で俯いた。

 なんか、悪い気持ちになるな。



「その家がどうかしたのか?」

「わ、私の実家、です」



 実家、地球でのこいつの家か。

 どうやら、彼女は自分の家を探したようだが、迷子にでもなったんだろうか。


 

「自分の家が分からないのか?」

「帰ってみたら、違う人が住んでて、どこかに引っ越しちゃった、みたい、なんです」 



 なんとも不運だな。

 だから、こうして探してたのか。 

 しかしなんだろう。一年半振りの帰宅というのに、その場所がまったく分からないというのも、なんだか可哀想だな。

 


 「折角、会えると思ったのに.....」と暗い表情で彼女は小声で囁く。

 ..........しょうがないか。

 話し掛けた手前、いたたまれない気持ちになった俺はため息をついてから彼女に尋ねた。



「なぁ、親の名前は解るな?」

「え、あ、はい」


 

 なら、よし。それが分かればなんとかなるだろ。

 いったい何なんだと不思議そうにする彼女を余所に、俺はポケットから携帯を取り出す。

 


「メル」 

「はい!」

「どんな手を使ってもいい。今から言う名前の人物の住所を割り出せるか?もちろんバレないようにな」

「お任せくださいです!マスター」



 九重なんて珍しい名前、情報関連に関しては天才的なメルに任せれば一瞬で割り出せるだろ。

 


「ロウガ、ちょっと散歩のコースから外れるけど、いいか?」

“いいよー!あのお姉さん可哀想だし!”



 ロウガも納得してくれたようで、俺は再度彼女の方を見る。

 俺に見られ彼女はオドオドしていたが、話は理解したようで恐る恐る俺に尋ねてきた。



「え、えと、分かるん、ですか?」

「あぁ、だから両親の名前を教えてくれ」



 居場所が分かると言われ、彼女は少し顔を明るくさせ、すぐに名前を教えてくれた。

 余程嬉しいのか、さっきまでの警戒心が一気になくなってる。

 俺が言うのもなんだが、それでいいんだろうか。



 両親の名前も分かり、改めてメルに聞くと一瞬にして住所が割り出された。

 流石はメル。ハッキングはメトロンのでお手のものだな。



「ここからだと遠いようだから、俺が転移で送ろう」

「え、あ、いや、ですが」

「いいから、えっと、確か九重だっけ?」

「は、はい、九重静香(ここのえしずか)、です」

「じゃあ九重。少しここから移動するぞ」

「は、はい」



 俺に促され、九重は俺の後ろを付いていく。

 なんか、おかしなことになってきたな。

 自分の命を狙う勇者の道案内。 

 なんとも奇妙な感じだが、悪い奴ではなさそうだ。

   


 これで俺の誤解が解ければいいが。

 そんな希望を思いつつも、俺は九重を両親の下に送っていった。

おまけ


【声かけ】


“主また女の子に声かけてるー”

「変な言い方するな」

“やっぱり女ったらしだなー”

「あのなぁ....俺が誰かれ構わず声かける人間に見えるか?」

“見える見えないじゃなくて、事実を言ってるんだよ”



――――――――――――――――――――――


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