おっさんとの出会い
1月7日 文章、タイトル、変更と修正しました。
腹へり時の昼下がり、中華屋【メンメン】は沢山の客の話し声や厨房の掛け声で賑わっていた。
「お待たせしました。チャーシュー麺と醤油ラーメンと餃子のセットになります」
「お、きたきた」
運ばれてきた料理におっさんは待ってましたといった感じで言った。
今俺は前に約束した通りおっさんとラーメンを食べに来ている。事件が落ち着くまでおっさんとの約束は待っているつもりだったが、多分そうするとおっさんは惚けるからな。
だから学校の休みの最終日で行こうと俺がおっさんに言った。というか無理矢理連れ出した。案の定おっさんは最初惚ける気だったけどな。
「さて、料理も来たことだし食うか。ん?どうした?」
「........いや、別に」
さっきまで行くの渋ってた奴の態度じゃないな。そんなに奢るの嫌だったのか。俺はおっさんの態度に何とも言えない気持ちになったが、おっさんは気にせずラーメンを食べ始めた。
「ずずずぅ!!...........あー、やっぱり噂通り旨いな」
「ずずずぅ!!..........確かに旨いな」
流石はテレビや雑誌で紹介されるだけはあるな。この腰のある麺、透き通る様なスープ、どれを取っても旨い。
よし、次は餃子だな。そう言って俺は餃子を箸で掴み口の中に入れた。
もぐもぐ.........うん、やっぱり旨い。流石は【メンメン】。料理の仕事に外れなしだな。
「しかしまあ、お前も災難だったな。入学式から三日でテロ組織に出会すなんて」
おっさんはラーメンを食べながら言った。
「まあな。だがまあ、そのお陰でこうしてこの旨いラーメンにありつけるならそれも悪くないな」
「ラーメンの為に鎮圧されたテロ組織って........」
俺の言葉におっさんは苦笑した。
まあ理由はどうあれ俺的には運が悪いのは俺よりもテロ組織の方だと思うがな。
何万とある学校から唯一異世界スキルを持っている俺がいる学校を選んだんだからな。相当運が悪いと言っていいだろう。
「まあ、何はともあれ。お前が無事でよかったぞ」
「俺があんなんで殺られるわけないだろ」
「ははは!!そりゃそうだ!!」
おっさんはしきりに笑った後、物思いにふけるように言った。
「そういや前もこんな感じだったよな」
「前?」
「ほら、お前と初めて会ったあの日だよ」
「あー、あれか」
懐かしそうに言うおっさんとは対称的に俺はどうでもよさそうに言う。
「あんときはまじで驚いたぞ。まさかあんな事出来る奴がいるなんてな」
おっさんはあの時の事を思い出すように目を閉じた。
ーーーーーーーーーーーーーーー
「ったく何がもっと真面目に働けだよ。だったらお前がもっと真面目に働けってんだ馬鹿野郎!!」
あの時俺は理不尽に上司に叱られそれを愚痴りながら居酒屋から家に帰る途中だった。
大分飲んでいたせいで足は千鳥足になりフラフラになりながら俺は暗い通りを歩いているとーーーー
ぎゃぁぁぁぁ!!
そんな帰りの中近くで悲鳴が聞こえた。
何だ?今の悲鳴は。隣の工事中のビルからか?
悲鳴が聞こえ俺は酔いが少し覚めると直ぐ様そのビルの中に入った。
ビルの中を探索していると俺は倒れている人を見つけ直ぐにそこに駆け寄ろうとしたが、俺は自然と足が止まる。
何故止まったかというと、そこには倒れている人の奥に一人の少年と数人のナイフを持ったチンピラ達がいたからだ。
(おいおい何だよこの状況。早く助けねぇと!!)
覚悟を決め俺はいざ少年を助けようとしたとき、目の前に信じられない光景が広がった。
突如少年の周りに球の様な形をした風の塊が出現し、チンピラ達を襲い始めたのだ。
「ぎゃぁぁぁぁ!!」
「た、助けてくれ!!」
「悪かった!!俺達が悪かったから!!もう許し...ぎゃぁぁ!!」
チンピラ達は助けを請うが少年は一切風の塊を止める事はなかった。
風の塊はチンピラ達を吹き飛ばしていき工事中の柱や地面に嫌な音を建てながら激突していく。そして吹き飛ばされたチンピラ達はピクリとも動かなくなった。
何じゃこりゃ、何がどうなってんだ?
俺はその光景に言葉が出てこなかった。
驚きの余り酔いは完全に覚め、俺はただただその光景を眺め続る。
すると少年はこちらに気付いたのか、こちらを警戒しながら睨み付けてきた。
おっとこれは不味いな。このままじゃ俺もあのチンピラ達と同じ運命を辿る気がする。
何か言わなきゃな。
「あー、何だそれ?手品か?」
「...............は?」
俺の言葉に少年は何秒か間を空けた後、間抜けな顔をしながら言った。
あれ、何か言葉間違えたか?
「あーいや待て、俺は怪しい者じゃない。俺は警察だ」
「警察?」
警察と聞いて少年は訝しげな目で俺を見た。
「警察が何でここにいる」
「俺が来たのは偶々だ。偶然悲鳴が聞こえて駆け付けたらお前が居たって話だ」
俺の話を聞いても少年はまだ俺を疑わしい目で見ている。このままじゃ埒が明かないな。
「なあ、お前は何者だ?あれってやっぱり手品なのか?」
「いや、あんな手品あるわけないだろ」
そりゃあそうか。
「まあここでは何だ。場所でも変えようか。そうだ、ラーメンでも食いに行くか」
「は?ラーメン?」
「あぁ、この近くにラーメン屋があるからそこに行くぞ」
そう言って俺は反対側を向き歩きだそうとしたが、少年が待ったをかけた。
「ちょっと待て。こいつらを先ずどうにかしなきゃ駄目だろ」
少年は倒れているチンピラを指差した。
「あー、そうだなー。放っておくか」
「放っておくんかい」
「別に死んでるわけじゃないだろ。だったら放っておけ。俺今勤務時間外だし、余計な仕事が増えるだけだし」
「...........あんた本当に警察かよ」
「ちゃんとした警察だ。それより早く行くぞ。何だか無性にラーメンが食べたくなってきた」
俺はそう言って少年を急かす様に言った。
少年は呆れながら俺の後ろを着いていくのだった。
ラーメン屋に着き俺と少年はラーメンを食いながら話をしていた。
「ずずずぅ!!.......ほう、異世界召喚ねぇ」
「ずずずぅ!!.....信じるのか?」
「まあ、あれを見た後だとなぁ.....」
正直少年の言う通りとても信じられる話じゃないが、俺にはどうもこれが嘘には聞こえないんだよな。
「にしても異世界かぁ。なあ、俺にもそのスキルってのはあるのか?」
「ちょっと待ってろ」
そう言って少年は俺をじっと見つめてきた。
「柔術と体術があるな」
「まじか、でもそれって俺が柔道や空手をやってたからか?」
「多分そうだろうな」
じゃあ実質俺にスキルはないのか。何か残念だな。
「まあ、スキルがあるだけ凄いと思うぞ。たまにない奴もいるしな」
若干気落ちしていたのがバレたのか少年がさりげなくフォローを入れてきた。
心配してくれてるのか?何だ、見掛けに寄らずいい奴じゃないか。
「ありがとな」
「何の事だ」
惚ける少年に俺は軽く微笑むと少年は知らんふりしながらラーメンを啜った。
「そういやお前、何であそこにいたんだ?」
「ん?あぁ、魔法の試し撃ちをしようと思ったら何かチンピラに絡まれてな。返り討ちにしてた」
少年は悪びれた様子もなく言う。
それは何ともまあ運の悪いチンピラ達だったな。
俺はそのチンピラ達に少し同情した。
「それにしてもそのスキルってのは便利だよな。なんでも出来るんじゃないか?」
「何でもはできない。まあ、便利なのは否定しないけどな」
「そうか.......よし!決めた!!」
俺は箸をラーメンの器の上にカチャ!!っと置いて少年の方を見た。
「今度から何かあれば俺に相談しろ。安心しろ俺は警察だ。何かしらの役には立てるぞ」
「は?何言ってんだ急に?そんなことしてあんたに何の得があるんだ?」
「もしもの時はお前には俺の仕事を手伝って貰う。なに、お前にとっちゃ楽な仕事だ。勿論お前のスキルについては誰にも話さない。どうだ?俺と組まないか?」
そう言って俺は少年に手を差し伸べた。
少年は俺と手を交互に見ながら暫く考え込み、やがて俺の差し伸べた手を握った。
「裏切ったら容赦はしないぞ」
「そっちこそな」
そう言って俺と少年は熱い握手を交わした。
「そういや今更だがお前名前は?」
「本当に今更だな.....俺は神谷夜兎」
「俺は石田哲二。これからよろしくな夜兎」
「あぁ、おっさん」
「おっさ!?せめて石田さんと呼べよ」
「おっさんはおっさんだろ。これからよろしく頼むぞおっさん」
「だから!!.........まあいいか」
こうして俺と夜兎の持ちつ持たれつな関係が生まれた。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「ーーーーーーっとまあこんな感じだったな」
随分と長い回想だったな。
まあ、確かに俺とおっさんとの出会いはこんな感じだったな。
あの時はまだ【転移魔法】とかなかった時だから遠くに行くに行けず仕方なく工事中のビルを選んだんだよな。まさか、そこでチンピラに絡まれる何て思わなかったが。
しかし今思えば何故俺はあの時おっさんの記憶消さなかったんだろうな。
今なら多分気絶させる事位はしてるだろうに。
.......分からん。
「まあ、これまで色々とあったが、これからもよろしく頼むぜ。相棒」
「誰が相棒だ」
勝手に人を相棒認定してんじゃねぇよ。
「固いこというなよ。餃子貰うぞ」
「あ、ちょ!それ!最後の一つ!」
「男が小さいこと気にすんなって」
そう言っておっさんはははは!!と笑った。
このおっさん、調子に乗りやがって......。
その後も俺とおっさんは色んな意味で盛り上がりながらラーメンを食べた。
これも腐れ縁ってやつか。
ブックマーク、評価よろしくお願いします。