フラれた奴を慰めるのは止めた方がいい
天上院から叫ばれたその一言に、俺は怪訝な表情をする。
メトロンの命令?あいつがそんなこと言ったのか?
納得がいかず、俺は確認を取るためリーナに視線を向ける。
視線を向けるとリーナも驚いているようで、目が合うと首を横に振っている。
どうやら、なにも知らないようだ。
「本当にメトロンが言ってたのか?」
いまいち信じることができず俺は天上院に聞くと、天上院は「そうだ」と言って頷いた。
「メトロン様から聞いたぞ。君の数々の悪行を」
「悪行?」
「貰ったスキルを使って人の記憶を操作したり、大事なAIを奪ったり、街にモンスターを連れ歩いたり、部下の天使様に手を出したりとしてるそうじゃないか!」
「だ、誰が手を出しているだ!?私はまだなにもされてない!!」
自分のことを言われ、リーナは恥ずかしげに叫ぶが天上院は気にせず続ける。
「それだけでは飽きたらず、メトロン様に多大な虐めを重ねているそうだな!」
畳み掛けるように天上院が言い終わると、俺は無言のまま目を閉じる。
やばい、反論しようがない。
物は言い様だな。特に最後のは反抗できる部分がどこにもなかった。
奪ったといえば奪ったし、手を出したといえば、ある意味したのかもしれない。
あながち間違いでもない気がする。
さてさて、なんと言ったものか。
「さぁ、どうなんだ!!神谷!!罪を認めるんだな!?」
責め立てるように叫ぶ天上院。
それに俺はうーんと唸り、暫く無言のまま黙り込み、
「まぁ.........大体合ってるな」
「なに認めてるの!?」
潔く罪を認めた。
長く悩んだ末に肯定すると思ってなかったのか、さやは仰天している。
いや、違うといえば嘘になるし、かといって嘘言ったところで多分こいつら信じないだろ。
だったらいっそ認めた方が今後の展開が楽になりそうだから認めたわけなんだが、さや達はそれが不服なようだ。
「そこは否定するところでしょ!!なに考えてるの!?」
「貴様頭がどうかしてるのか!?」
「本当、馬鹿」
後ろから俺の両肩をぐらぐらと揺らすさやに、その両隣で罵倒を放つリーナと夏蓮。
酷い言われようだな。ちょっと素直になっただけなのに。
まさかこうも簡単に認めると思わなかったのか、天上院は少し驚いた様子をしている。
「み、認めるのか?」
「そう言ってるだろ」
肩透かしをくらった天上院は唖然とし、次第に手をわなわなと震わせた。
「悪いとは思ってないのか?たくさんの人に迷惑をかけて、なにも感じないのか!」
「いや、悪いとは思うが、あれは仕方ないことだし」
あんな戦闘とかの記憶を残しておくわけにはいかないだろ。
それを聞いてなにを勘違いしたのか、天上院は拳をギュッと握り、怒りの視線を向けてきた。
今にも襲いかかってきそうだ。
「それで、お前らは俺を倒しに来たんだよな?今からやるのか?」
「お前ぇ........!!」
我慢の限界か、悪びれない俺の態度に天上院は怒りながら一歩踏み出す。
だが、さっきと同じ隣にいた女子が天上院の肩を掴んだ。
「天上院君!」
肩を掴まれ、その女子の方を見る天上院。
その彼女の力強い言葉の意味を聞き取ったのか、天上院は冷静に「分かってる」と呟き平常を保とうとする。
「今はそれよりも、そこの人達が先だ」
「は?」
「その後ろにいる女の子達。白髪の子はそうじゃないけど、二人は見たところ一般人だね。そんなか弱い女の子を無理矢理連れて、恥ずかしくないのか!」
いや、連れられてるのは俺の方なんだけど。
え、なに、こいつ俺がさや達を無理矢理連れて歩いてるとか思ってるの?
さっきの光景見てなかったのか、完全に俺罵倒されてたじゃん。
「え、お前どこを見て言ってんの?」
「さっきから、彼女達が君に憎しみの視線で向けてるじゃないか!」
天上院の言葉を受け、俺は後ろを見てみる。
あー、確かにそうだ。全員、俺に呆れて怒った視線を向けてる。
「君達、今の会話で彼が行ってきた所業は聞いたと思う。悪いことは言わない。早くこっちへ!」
キランッと優しい笑顔を振り撒きながら、天上院は数歩こちらに近づいてくる。
そんな天上院に三人は、
「気安く話しかけるな。勇者ごときが」
「自意識過剰すぎ」
「あの、それ以上近づかないでください」
絶対的な拒絶を示した。
まさか、こんなに拒否されると思ってなかったのか、天上院は「え?」と言いながら硬直した。
今まで静観していた他の奴等も「あの天上院がフラレた!?」とざわついている。
騒ぐとこそこなんだな。
まぁ、そうなるのも当然といえば当然な気もする。
リーナは男にドライ、夏蓮は嫌というほど男慣れしていて、さやに関してはそもそも男が苦手。
これを前にして、魅了しようとする方が無理だ。
リーナの場合怒ってるだけってのもあるけど。
しかも、さやはリーナの後ろに隠れて如何にも怯えた様子で、夏蓮とリーナは明らかな不快なトーンで言うもんだから、精神的ショックはかなり大きい。
これは、なんか可哀想に思えてきたな。
仲間からフラレたという単語が聞こえ、天上院の顔はだんだん羞恥心でいっぱいになり顔を俯かせている。
予期してなかったことに固まる天上院に、俺は気遣うように一声掛けた。
「まぁ、その、気にするなよ」
「くぅっ!!そんな慰めはいらないよ!!」
気休めな同情だっただろうか。
俺は申し訳なさそうに言うが、天上院はフラれたことを触れられまた恥ずかしげに顔を赤くしながら叫んだ。
触れるべきではなかったな。
「と、とにかく!僕達は君を倒す!この地球のためにもね!!」
若干ヤケになりながら天上院はビシッと言い放つ。
その天上院の言葉に、俺は「そうかい」と微笑を浮かべながら返す。
中々面白いなこいつ。そう思っていると、突然天上院は俺達に背を向けた。
「行こう、皆」
天上院の号令の下、全員がぞろぞろと去っていく。
え、帰るのか?
俺達を囲んでいた奴も、同様に移動している。
本当に帰ろうとしているな。
「倒さないのか?」
「今日は元々戦う気はなかった。もし君が聞いてたのと違う人間だったら考えを改めたけど、やっぱり君は聞いてた通りの人間だ」
「あ、ごめん。さっきの嘘。前言撤回する!」
「今更言っても遅いよ!!」
その言葉を聞いて俺は即座に弁解を述べるが、そんな言い訳が通じるわけもなく。
背を向けながら語っていた天上院は、俺の言い訳に思わずこっちを向いた。
最後まで絞まらないな、こいつは。
「僕は君を許さない!他人を弄ぶ君はね!!その時まで待ってろ!!」
そう声を荒げる天上院に、俺はもう言っても無駄かと思い諦め気味に呟き、
「できれば、来てほしくないな」
指でパチンッと音を鳴らした。
その瞬間、覆っていた赤い結界は一瞬にして消え去り、元の青空に戻る。
結界が消滅しそれが信じられないのか、天上院達は足を止め空を見上ながら呆然と立ち尽くす。
「分かってると思うが、やるなら場は弁えてやれよ。後処理するのが面倒だからな」
転移で天上院の隣に立ち、俺は肩にポンッと手を置く。
「っ!?」
いきなり耳許に声が聞こえ、肩に感覚が走り天上院は咄嗟に払おうとするが、既に俺は転移で戻っていた。
驚いた表情でこちらを見る天上院に、俺は軽く手を振る。
そんな俺に天上院は若干悔しそうな顔をし、再び背を向け全員去っていった。
それを最後まで見送ると、後ろでリーナがため息をつく。
「大変なことになったな」
「まったくだ」
あそこで嘘ついてたら、見逃してくれたかもしれないのに。
なんて惜しいことをしてしまったんだ。
「にしても、なに考えてるんだメトロンの奴」
こんなことして、そこまでして俺を潰したいのか。
確かに、今まで色々やった気もするけど。
わざわざ勇者まで連れてくるか?普通。
「取り敢えず、私が確認を取ってみよう。なにか他に意図があるかもしれない」
あんな事細やかに詳細を言われて間違いはないと思うけど、ここはリーナに任せるとしよう。
まったく、本当に面倒なことになったな....。
暑い日差しを浴びながら、俺は深々とため息をつく。
最後から最後まで、俺の夏休みに安らぎはないんだな。
おまけ
【コスプレ】
夜兎の下から去ってから
「なに?あの子達」
「コスプレかしら~?良い年してや~ね~」
「.......天上院君」
「うん............全員散開!!」
―――――――――――――――――――
ブックマーク、評価よろしくお願いします。