集団コスプレイヤーかと思えば元クラスメイトでした
まだ暑さのある夏の終盤。
夏休みももうすぐ終わりとなり、学生の大半は課題に追われている頃だろう。
「やっぱり夏は冷たいものに限るよねー」
「美味しかった」
「まったくだな」
住宅街を歩きながら、さやと夏蓮とリーナはうんうんと頷いている。
今日は夏蓮達とショッピングモールにあるスイーツ店で冷たいものを食べに行き、今はその帰りだ。
俺としては家から動きたくなかったけど、皆から頼まれるとどうにも断れない。
なぜだろう。
「そういえば、リーナちゃん最近見なかったけどどこか行ったの?」
「休日は天界に戻り修業をしに行っていた。最近自分が実力不足だと感じてな、己を鍛えてた」
最近見てないと思えば、そんなことしてたのか。
「それでも、誰かさんにはまだ追い付けそうにないけどな」
「いや、こっち見て言うなよ」
なにか言いたげな目で、リーナはこちらを見る。
俺が言うのもなんだが、比較する対象を間違えてる気がする。
レベルなんて簡単に上がるし、俺。
「あ、そうだ。神谷夜兎、貴様にこれを渡しておく」
俺を見て思い出したのか、リーナはポケットから小さな水晶の玉を渡してきた。
「なんだこれ?ビー玉?」
「それは【隠し玉】と言ってな。これは持っていれば、相手にステータスを見られなくなる優れものだ。それと同じような効果のスキルがあるが、これはどんなスキルでも絶対に感知されない。それに魔力を流せばスキルでしまっても使えるぞ」
それを聞いて、俺は凄いなと思い【隠し玉】を上にあげ光を通して見回す。
「くれるのは嬉しいが、これ俺が持っても使う機会あるのか?」
「貴様これまでの経験を忘れたのか?敵に情報を与えるものじゃないだろ」
おっしゃる通りです。まぁ、いづれ敵にステータスがバレることあるだろうし、なくて損はないか。
「それも、そうだな」
俺はありがたく受けとることにし、早速魔力を流した。
すると、透明だった【隠し玉】が、徐々に変色し青色に変わった。
「これで完了だ」
「なんか、綺麗な色だね」
「確かに」
変色した【隠し玉】をもの珍しそうに、さやと夏蓮が見つめる。
「ちなみに、私は赤だ」
「違う色があるのか」
「あんまり、意味はないけどな」
そんなもんなのか。
自分の【隠し玉】を見せながら、リーナは苦笑する。
「貰っておいてなんだが、いいのか?こんなの貰って」
「別にいいさ。天界なら誰でも持ってるぞ」
「え?そうなのか?」
なんか、前にスカラから神は鑑定が効かないだのなんだの言ってた気がするんだが。
「なんか、スカラに神はステータスが見えないようになってるとか言われたんだけど...」
「?なんだそれ?そんなの知らないぞ。大方、スカラ様の悪ふざけだろ」
あの野郎。あんな場面でそんなしょうもない嘘ついてたのか。
手に【隠し玉】を握りしめながら、俺は言い知れぬ腹立たしさを感じた。許さん.......。
「そ、それよりもさぁ、やっぱり夏はソフトクリームだよねー。あれ美味しかったなぁ」
話を変えようとしたのか、さやがさっき店で食べた時のことを話し出した。
「いやいや、夏といえばアイスだろ」
「かき氷でしょ」
だがそれに異議があるのか、リーナと夏蓮は口々に否定する。
「えー、絶対ソフトクリームだよ。あの柔らかい舌触りがいいんじゃん」
「柔らかいソフトより、少し固く味わい深いアイスが一番だろ」
「かき氷は夏といえば定番。口に入れたらスッと溶けるあれがいい」
なんか討論が始まった。
お互い不服なのか、それぞれのよさを語るさや達を、俺は無言のまま傍観している。
どっちでもいい俺からしたら、混ざる気にもなれない。
会話に入らず、俺は空を見ながら「今日も暑いなぁ....」と呑気なことを言っていると、話の矢がこちらに飛んできた。
「夜兎君はどう思う?やっぱりソフトクリームだよね?さっき食べてたし」
「いや、アイスの方だろ」
「かき氷が一番」
正直どうでもいいです。
なんてことも言えず、俺はなんて応えようか迷う。
ソフトクリームを選んだのだって、別に気分で選んだからなぁ。
「............なんでもよくないか?」
「よくないよ」
「真面目に選べ」
「使えない」
結局本心を言ってしまった。
暑さのせいか面倒だなと思い、つい本音が。
予想を裏切る答えに、三人は少し怒った様子を見せる。夏蓮に至っては罵倒ものだったが。
三人の反応に俺は「えー......」と解せない気持ちになった。
適当な解答を言った俺を置いて、三人はまだ話を続ける。
(あー、どうにかこの話が終わらないかなぁ......)
聞いてると、なぜか三つとも食べ比べようという話になってるんだけど。
俺はもう速やかに帰って、残りの夏を楽しみたいんで止めて貰えませんかね。
語る三人を見ながら、俺は密かに願う。
すると、その直後だった。
――――――空が赤いなにかに包まれた。
「?なんだ?」
突如、空が青から、薄い透明な赤い板を被せたようになっている。
「え?なにこれ!?」
「空が!?」
「赤くなってる」
これには、さや達も驚き会話を中断し空を見上げている。
願い叶ったな。嫌な形でだけど。
呑気に思う俺だが、空の赤い壁のようなのを見て、勘づいた。
これは、壁、いや、結界なのか?
妖魔の時に似たようなのがあったのを思いだし、俺はそう察する。
しかし、誰がこんなことを。さっきまではなにも感じなかったぞ。
いったい誰がと思案する俺に、解答とばかりにどこからか声が聞こえてきた。
――――――君が神谷夜兎だな。
男の声だった。
いったいどこからだと周囲を探るが、相手はすぐに姿を現す。
真っ正面の道から、鎧や修道服のようなものを着込んだ集団がこちらに歩いてきた。
「お前の場所はすぐに分かった。尋常じゃない魔力を放ってるからな」
三十人くらいだろうか。
その集団で先頭に立つイケメン顔の男が、俺を睨みながら言った。
「お前は.........誰だ?」
なんかどっかで見た気もするが、全然思い出せん。
思わせ振りな俺の台詞に男は睨む顔を崩しかけたが、持ち直し話を続けた。
「まぁ、僕達も忘れてたしな。そこはいい。改めて自己紹介はしよう」
そう言って男は息を吸い声を大にして言った。
「僕の名前は天上院輝。そして、僕達は異世界に送られた元君のクラスメイトだ!」
天上院輝。そんな奴いたっけ......。
何分、クラスにはほとんど接してこなかった俺からしたら、名前を出されたところでなにも分からない。
思い出せず頭を捻っていると、先にリーナが「あっ!!」と声を出した。
「そうだ確かにこいつらだ」
「知ってるのか?」
「こいつらがメトロン様が送った異世界人だ。間違いない。というか、なぜ貴様が覚えていない」
「いや、送られた奴等に興味ないし」
「貴様は......」
当たり前のように即答する俺に、リーナはため息をつきながら頭を押さえる。
これには、さやと夏蓮も「まぁ、夜兎君だしね...」「言っても無駄」と分かられているのか、諦め気味だ。
言い方はあれだが、理解できてなによりだ。
「......話を続けていいか?」
律儀に待っててくれたのか、天上院はこちらの様子を伺いながら聞いてきた。
興が冷めてきたのか、睨み顔がまた崩れてきている。
「あぁ、それはいいんだが。それよりお前ら.....」
言葉を途切らせ、鋭い目付きで天上院達を見る。
俺の目を見てか、天上院は緊張した顔で少し身構えた。
「な、なんだ.......」
「.........そんな格好で恥ずかしくないのか?」
「くっ!!?向こうではこれが普通なんだ!!」
さっきから言おうと思ってたが、そんな鎧やら修道服やら、見られたら速攻ネットにアップされること間違いなしだぞ。
拍子抜けな俺の言葉に天上院は緊張した自分が恥ずかしくなったのか、少し顔を赤くしてツッコンだ。
「天上院君、落ち着いて」
「あ、うん。ごめん、つい......」
隣にいた見るからに魔法使いっぽい女子に宥められ、天上院は落ち着き深呼吸する。
さて、そうしている間にこっちも.....。
「リーナ」
「分かっている。二人とも、私の後ろに」
リーナも理解しているようで、さやと夏蓮を後ろに下がらせ俺が前に出た。
これまで茶番をしてきたが、相手さんは中々に俺達と敵対する気満々のようだ。
なんせ、四方八方から俺達を襲う準備をしてるんだから。
数は、八人か。配置も悪くない。連携はしっかりしてるようだ。
向こうの数は総勢三十八人。中学の時のクラスなら四十人いた気もするが、まぁいいか。
落ち着く、天上院を見て、今度は俺から話しかけた。
「そういえば、この結界みたいなのはお前らがやったのか?」
上を指差しながら、俺は天上院に聞く。
「そうだ。これがあれば人が入ることはないし。誰にも気づかれない。被害を出さずに済む」
あくまで狙いは俺だけか。
意外と殊勝な心がけだな。人民に被害はだしたくないとは。
「それで、俺になんのようなんだ?元クラスメイト達」
碌な理由じゃないのは分かるけど。
余裕な態度な俺に対し、色々と振り回された天上院は気を取り直し強気な口調で言い放った。
「僕達はメトロン様の命により、再びこの地球に帰ってきた。目的は神谷夜兎、君を倒すためだ!」
おまけ
【もしも】
もしも、天上院達が街中で登場したら
「あれ?ここ地球?」
「みたいだね、天上院君」
「帰ってきたんだね!!」
「みたいだね!」
「ねぇ、見てあの人達」
「変わったコスプレね。なんかのイベントかしら」
「集団でよくやるわねぇ」
「.....ねぇ、天上院君」
「言わないで、言うと心が折れる.....」
「異世界に帰りたい....」
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