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対極の人間って案外バランスが取れてる気がする

 辺りは静寂に包まれた一面白の空間。

 神聖な空気が放たれ、その中央には地球儀に似た不思議な物体と椅子にもたれかかる人物が一人。



「あ~、疲れた~」



 その人物、金髪に子供のような容姿を持ち、天上院達を異世界送りにした張本人。メトロンだ。

 メトロンは背中をダランとさせながらどっと疲れたように息を吐く。



「お疲れ様です。メトロン様」


  

 その斜め後ろではメトロンの専属の天使が、労いの言葉をかける。

 といっても、いつもの機械のような感情の篭らない声ではあるが。

 


 相変わらずの真面目なメガネっ子ちゃんだなー。

 それが不満なのか、メトロンは椅子を反対に座りながら不満げに述べる。



「レーネちゃんさー、もうちょっと疲れた主人に対してもっと言うことないの~?」



 ブーブーと文句を垂れるメトロンだが、レーネと呼ばれた天使の口調は変わることはない。 



「でしたら、いい加減この部屋をどうにかして頂けないでしょうか。正直、見てておかしくなりそうです」



 それどころか、主に対して罵倒を放つ。心なしか、言葉がさっきよりきつく聞こえる。

 メガネをクイッと上げ、嫌そうな顔で部屋のなかを見渡した。



「えー、いいじゃーん。なんか神聖な場所って感じがするでしょ?」

「全くしません」



 人を敬う心がないのだろうか。

 反抗するメトロンに、レーネはにべもなく即答する。

 実はこの部屋、一見果てしなく続いているように見えるが、そこまで広くはない。

 壁や床、天井が綺麗に白で塗りつぶされているだけで、実際は狭かったりする。

 


 だから部屋に入る度に遠近感覚が鈍くなり壁にぶつかるは、全部白いせいでドアが見つかりにくいはで、レーネにとっては邪魔でしかなかった。

    


「いやいや、他の神達だって同じことしてるでしょ。このいかにも神がいそうって感じ」

「今時、こんな部屋にしているのはメトロン様ぐらいしかおりません。事前に調査済みです」

 


 まさかまさかと言うメトロンだが、レーネはこれまた即答で否定する。

 えー、なんでこの遊び心が分からないのかなー。



 この神達が仕事として使う部屋は、各自好きに模様替えをすることができ、それぞれが自分の好みに合わせて変えている。

 なかには、メトロンのような変わり者もいるわけだが、彼にとってはそれが不服なようだ。



「じゃあ、なにがいいのさー」



 やや不機嫌気味に聞くメトロンに段々面倒に思えてきたのか、レーネはだるそうに応える。



「普通のにしてください」

「普通ってどんなの?」

「少なくとも、部屋一面が白いのでないのは確かですね」



 そう言われて考えたのか、メトロンは椅子を反対に座ったままう~んと考える。

 


「じゃあ.......部屋中黒くしてみる?」

「頭大丈夫ですか?」

 


 どうしたらそんな思考に至ったのか。

 予想外すぎてレーネは頭痛がするように頭を抑えた。

 だがここで怒るわけにはいかない。自分は神に仕える天使。

 天使がそんなことでいちいち目くじらを建ててどうする。

 自分にそう言いつけ、レーネはため息をつきつつもメトロンに部屋の希望を言った。

 


「せめて壁はどうにかしてください。ドアが分かりづらくて不便です」

「考えとくね」

 


 他にも言いたいことはあるが最低限の希望を述べ、メトロンはそれに曖昧な返事をする。

 


「それにしても、今日はやけに疲れたなー」

「お茶をお持ちしましょうか?」



 肩を自分で揉みながら、メトロンは「お願い」とレーネに告げる。

 命を受けたレーネはメトロンの後ろで、スキルの力か机とティーセットをどこからともなく取りだした。

 魔法の火でお湯を沸かしたりなど、レーネは手早くお茶を淹れる。   



「どうぞ」

「ありがとう」



 淹れたてのお茶を受け取り、メトロンは一口飲むとふぅっと心地よさそうな声を出す。

 あー、やっぱりレーネちゃんのお茶は美味しいなー。

 お茶を飲みながらメトロンはそう思うと、ここでふと少し甘いものが欲しくなった。


 

「レーネちゃん。なにかお菓子出してーーー」

「お茶菓子ならこちらに」   



 メトロンが言い終わる前に、レーネはメトロンの前に沢山のお菓子が乗った机を置いた。

 流石レーネちゃん。仕事が速い。

 これでもっと愛想があれば完璧なんだけどなぁ。



 机の上のクッキーを食べながら、メトロンは嘆くが同時に虚しくも思う。

 レーネちゃんに愛想があるわけないけど。

 レーネとメトロンは、意外にも長い間一緒に仕事をしている。

 だからこそ、もうレーネちゃんは変わることはないんだなと、メトロンは痛感しているのだ。



 といっても、それでも長い間一緒にやっていけてるのだから、相性は悪くはないんだろう。



「なんか、最近気が重いんだよねぇ」

「なにか悩みでもあるのですか?」



 レーネにそう言われ、メトロンは考えるが思い当たる節がいくつもある。

 神王に天上院達を異世界召喚したのがバレるわ、

 スカラが人の世界で暴れるわ、

 夜兎から陰湿な嫌がらせを受けるわで、メトロンの心は色々とズタボロだった。



「うん、まぁ少しね」 

「ご友人にご相談されてはいかがですか?」



 悩むメトロンに、レーネは提案する。

 まさにその友人にも悩んでるんだが、メトロンも同じことを考えていた。



「いや、僕もそうしたんだけど......」



 なにかあったのか、歯切れの悪そうにメトロンは言い淀む。



「?どうかされましたか?」

「いや、相談したらもっと面倒なことになったっていうか、そもそも人を間違えたというか......」



 なんて言っていいか分からず、メトロンは言葉に詰まる。

 当然スカラ以外にも友人はいる。今回はその友人に相談したわけなんだが、する人がいけなかったのだろうか。



 余計な誤解は生むし、なにか変な気を起こそうとしてたし、今思えばなぜあの子に相談してしまったんだろう。

 近くにいたからつい話してしまったんだが、メトロンは今になって後悔している。



「とにかく、それでも駄目だった」

「そうですか」



 思い出すだけでため息をつくメトロンを見て、レーネは聞かない方がいいと思ったのかなにも聞かない。

 すると、なにを思い付いたのか、メトロンは「そうだ!」と言って椅子から立ち上がった。



「暫くどこか遊びに行こう!」

「なに馬鹿なことを言っているのですか?」



 名案とばかりに叫ぶメトロンに、レーネは冷めたトーンで言い放つ。 



「いやさ、最近僕精神的に疲労が溜まってると思うんだよ。だから、リフレッシュするためにちょっと出掛けようとねーーー」

「暫くはまだ他にも業務が入っております。休まずやってください」

「たまには休んでもーーーー」

「ズル休みは駄目です」



 真面目なレーネにはなにを言っても通用しない。

 分かっていても、こればっかりはどうにかならないだろうか。

 


「ほんとに駄目ー?」

「駄目です。リフレッシュなら、いつも狂ったようにやっているゲームとやらをやればいいではないですか」 

「外に出るのがいいんじゃん」

「外の背景が映った画面を見れば一緒です」



 酷い言いようだが、これも長年の付き合いで慣れている。

 頼み込んでも許可をくれないレーネに、メトロンはチェッと思いながらお茶を口に含む。

 まるで、学校を休みたがる子を叱る親子のようだが、これがいつもの彼らだ。



 いったい、どっちが主人なのか分からない。

 それに、一度止められたからって諦めるメトロンではなかった。

 


(こうなったら、こっそり抜け出すかな...)

(こっそり抜け出すとか思ってそうですね)



 だが、それさえもレーネにはお見通し。

 こっそり微笑を浮かべるメトロンに、レーネは鋭い視線を送っている。

 


(そうと決まれば準備しなきゃね!)

(抜け出したら神王様に報告しておきますか)  



 ウキウキするメトロンとは反対に、レーネは冷静に判断を下す。

 元々、神王からメトロンがなにかしたら報告するようにと命令されているレーネ。



 自分の主を正しい道に導くのも天使の役目。

 その為なら主人より上の神に従うのは当然のことだ。

 このメトロンの行動が後に『吉』と出るか、『凶』と出るか、どちらにせよ先ず良いものでないのは確かだった。

さてはて、いったいどんなフラグか。


おまけ


【部屋の模様】


「他に部屋の模様はなにがいいの?」

「無難にレンガ模様の壁とかはどうですか?」

「えー?普通すぎなーい?もっと面白いのでいこうよー」

「部屋の模様に面白いも何もないと思うのですが。例えばなんですか?」

「そうだねぇ.........部屋中宇宙模様の壁紙とか?」

「話聞いてましたか?」



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