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最後に色々やられてしまった

 小学生の時の記憶が蘇り、俺はやっと全てを思い出した。

 あれ以降、色々あった末、完全にこの事を忘れてたわけなんだが。

 いやはや、よくこんな濃い思い出を忘れたもんだな。



 にしても、あの『声』がまさか黄花だったとは。偶然というのは恐ろしい。

 


 全てを思いだし俺は暫し感動に浸っていると、突如黄花の眼から一筋の涙が流れた。

 え、な、泣いてるのか?

 いきなり泣かれ、俺はどうしたらと目が泳ぐ。



「ど、どうしたんだ??」

「あー、泣かした」



 突然泣かれ、動揺する俺に、泣かした俺を冷ややかな目で見る夏蓮。

 夏蓮に反論する暇もなく俺はあたふたしていると、いきなり黄花は涙を流しながら俺の前で跪き始めた。



「やっと出会えました。我が恩人」

「お、おんじん?」



 急な態度の変えよう。

 この黄花の態度に戸惑うが、黄花はそれでも続ける。

 


「あの時は助けて頂き、ありがとうございます」

「あ、はい」

「不慮の事故で足に重傷を負った私に、怖がる素振りを一切見せず救ってくださったこの恩。一時も忘れておりません」


  

 「あのハンカチで応急措置が出来たお陰で、無事助かることが出来ました」と付け加え、黄花はへりくだる。

 重い。なんか急に重い感じになってきた。

 当時の俺からしたらそんなつもりないんだけど。



「あの後お会いしたかったのですが、先代の長に人間に会ったことがバレてしまい会うことができなかったのです。申し訳ありません」 

「いや、別にそれはいいんだが......」

「つきましては、あの時約束した願いのことですが」

「あー、あれか。別になにもしなくていいぞ。子供の頃に言ったことだ」

「そういうわけにはいきません。受けた恩はきっちり返させて貰います。ですからーーーー」



 そう言うと、黄花は顔をあげた。

 その顔には、涙はもうなく、真剣な表情をしている。



「夜兎様の側で恩を返させてください」

「俺の側で?」



 また突拍子のない提案に、俺は聞き返す。  



「それって、俺についてくるってことなのか?」

「本来ならそうしたいんですが、残念ですが私にはこの子達がいますから」



 跪きながら、黄花の目線を後ろの小狐達に向ける。

 話の内容を分かっていないのか、小狐達は首を傾げたり、隅で遊んでいたりと、自由にしていた。

 確かに、置いてはいけないよな。



「じゃあ、どうするんだ?」

「なので、なにか用があればいつでもお申し付けください。幸い、夜兎様には場所を一瞬で移動できる術をお持ちのようなので」



 要するに、なにか用があればいつでも手伝ってくれるということか。

 それだけ聞けば、悪くない話に思える。

 でもなぁ、



「することなんてないぞ」

「私がそうしたいんです。私が恩を返せたと思えるまで、夜兎様の側にいたいんです」



 どうやら、決意は固いようだ。

 渋る俺に、黄花は諦めまいと主張を続ける。

 なんか、聞き方によってはプロポーズされてる気分になるな。

 少し気恥ずかしさを感じながらも、俺は悩む。



 どうしたもんかと俺は夏蓮に視線を向けるが、夏蓮は遊ぶ小狐達を見るのに夢中で話に入ってきていない。

 夏蓮よ、せめて会話に入ってきて欲しいんだけど。


 

「......まぁ、別にいいか」



 少し悩んだ結果、俺は黄花の案を呑むことにした。

 恩を返したいというのなら、そうさせておこう。なにかあったら、手伝って貰えればいいだけだ。

 俺の承諾の言葉を聞いて、不安そうにしていた黄花の顔が一気に明るくなった。



「よ、よろしいのですか?」

「あぁ、これからよろしくな」



 そう言って俺は黄花に手を差し伸べす。

 いつまでも、跪かせるのも落ち着かない。

 差し伸べされた俺の手に、黄花は両手で掴み立ち上がる。



「こちらこそ、不束者ですが、よろしくお願いします!」



 嬉しそうに声を若干弾ませながら、黄花は丁寧にお辞儀をする。

 なんか本当にプロポーズされてるみたいだな。

 黄花の言葉遣いに俺は何とも言えない気持ちになる。



「なんか告白みたい」



 お辞儀をする黄花を見ながら、夏蓮は小声でポツリと呟いた。

 会話聞いてたのか。そっぽ向いてると思ったら。

 俺でも思っても言わなかったことを、さらっと言ったなこいつ。

 


 そんな夏蓮に俺は苦笑いしていると、突如ポケットしまっておいた携帯のバイブが鳴り出した。

 なんだ?電話か?

 取り出してみると、画面のなかでメルがなにか伝えようとしていた。



「話は聞きました!それならよい方法があるです!」

「お前、聞いてたのか」

「はい!!」

   


 盗み聞きしていたのを悪びれず肯定するメルに呆れながらも、俺は良い方法がなんなのかを尋ねた。



「それで、良い方法って何なんだ?」

「それは黄花様が、マスターにいつでも側にいられるような方法です!」

「それは本当ですか!?」


 

 それを聞いていち早く反応した黄花が、やや興奮気味に画面の中のメルに迫る。反応速いな。

 転移でもしたのと思える速度で近づかれ、俺はびっくりし若干身を退かせる。

 そんな期待を胸に膨らませる黄花に、メルは任せてくださいと言わんばかりに胸を張った。



「はい!マスター、【使役魔法】を使ってくださいです!」



 【使役魔法】と言われ、俺は一瞬なんのことか分からなかったが、「あー」と思い出した。

 そういえば、そんな手もあったな。

 あれ使ったのロウガの時以来だからすっかり忘れてた。



「黄花を使役するってことか」



 俺の言葉にメルは「そうです!」と頷く。

 確かに【使役魔法】は相手が人間じゃなきゃ使うことが出来る。妖怪の黄花なら可能だろう。

 そして、その【使役魔法】の中でメルが言いたいのは、それにある俺専用の疑似転移。



 俺の近く限定なら、世界中どこにいたって一瞬来ることが出来る。

 メルはそれが言いたいんだろう。



「でも、なんでメルが俺のスキルのこと知ってるんだ?」

「ま、マスターのことはなんでも知ってるのです」



 なんかはぐらかされた気がする。

 メルには俺のスキルを教えた覚えはない。メトロンから奪った資料にでも書いてあったんだろうか。

 いまいち腑に落ちないが、今はそれは置いておこう。

 


「黄花、そういうわけだけど、どうすーー「やります!」」



 確認を取るより前に、黄花が首を縦に振った。

 聞くまでもなかったようだ。

 食い気味に頷かれ、俺は「そ、そうか」と若干狼狽えるが、気を取り直し【使役魔法】を黄花にかけようとする。



「それじゃあ、やるぞ」

「お願いします」



 そうして、俺は目を閉じ意識を集中させる。

 黄花を使役する。そう念じていると、ふいに頭の中でアナウンスが聞こえた。



“黄花の使役が完了しました”



 元々黄花に名前があるからか、前回よりあっさりと終わってしまった。

 


「終わったぞ」



 俺が終わりを告げるが、なにも変化がないからか、黄花は「え?もうですか」不思議そうに自分の体を見回した。

 体には変化がないから分かりづらいんだろう。



「試しに俺の後ろに行きたいと念じてみろ」

  


 俺に言われ、黄花は言われるがままに念じてみると、目の前から黄花の姿が消えた。

 隣にいた夏蓮が少し驚いていたが、俺の後ろに現れた黄花の方が一番驚いている。  



「こ、これは......」

「な?大丈夫だろ」



 暫く驚いて唖然としていた黄花だったが、徐々に実感し始め驚きの表情から満面の笑みに変わった。



「ありがとうございます。夜兎様!これから精一杯頑張ります!」



 本当に嬉しいのだろう。

 再び凄い勢いで頭を下げる黄花に、俺は反応に困り「あー、うん」と生返事をする。  

 喜んでくれるのはいいが、いつ呼ぶか分からないので何とも言えない。

 多分、ほとんど呼ばないことになりそう。



「それじゃあ、俺達はもう行くな」



 そろそろ行かないと祭りに間に合いそうにない。

 話を切り上げ俺と夏蓮は背を向け転移で帰ろうとしたその瞬間、



「あ、夜兎様」



 黄花に呼び止められた。

 いきなり呼び止められ俺は振り返ると、黄花は両手で俺の肩を掴み、そっと顔を俺の耳元に近づけた。

 


「もし、中々呼んでくれなかったら私から行きますからね」



 少し楽しげに、そして悪戯っぽく、黄花は耳元で囁く。

 顔が近い。息が耳元にかかりくすぐったい。最後にとんだ奇襲を掛けられた。

 突然な黄花の行動に俺は思ったが、黄花の奇襲はそれだけではなかった。



「これは、操鬼から助けてくれたお礼です」



 そう言って黄花は俺から離れると見せかけて


ーーーーー俺の頬に唇を重ねた。



「あっ!!?」



 頬にキスをされ、隣からは夏蓮の悲鳴が聞こえたが、今の俺にはあまり聞こえない。

 キスをし終えた黄花は悪戯が成功したような笑みを浮かべ、恥ずかしそうに顔を仄かに赤くし口を手で隠す。



 急にキスをされ俺は何がなんだが理解が出来なかったが、段々と思考が働き、次第に「ははっ」と苦笑いをする。

 これは、呼ばなきゃ駄目なやつだな。

 呼ばなかったら何をされるか分からない。この黄花の行動で俺はそう直感した。



 もしかしたら、とんでもないのを引き受けてしまっただろうか。

 これからのことに、俺はキスをされた嬉しさと後悔が混ざりあい変な気分になる。

 


「そ、それじゃあな」



 今度こそ本当に別れを告げ、俺と夏蓮は元の場所に戻った。

 はぁ、なぜこうなったんだろう。

 元の場所に戻り、俺は息を吐きながら先程のことを思う。

 


 黄花ってあんな感じだったっけ?

 予想に違う大胆なことに俺は少し困惑していると、隣からなにか視線を感じる。

 横を見てみると、夏蓮があからさま不機嫌な顔でじーっとこちらを睨んでいた。



「ど、どうしたんだ?」

「........ばか」


  

 それだけ言って、夏蓮は一人でヅカヅカと歩いていった。

 それに俺は更に困惑し「え、ちょ、ちょっと!?」と夏蓮を追いかけるが、夏蓮は一切取り合ってくれない。

 


 なんで怒ってるんだ?夏蓮の背を追いながら、俺は疑問に思う。

 今宵は快晴な夜空。空には花火が上がり、色とりどりな空を飾っているが、俺の心は曇ったままだった。

これでこの話は一旦終わりでまた、日常パートに入ります。謎の襲撃者については、まだ少し先です。



おまけ



【素直】


「なぁ、夏蓮」

「.......(ぷい」

「夏蓮ってばー」

「.......(ぷい」

「話を聞いて欲しいんだけどー」

「.......(ぷい」

「....わたあめ食べるか?」

「.......食べる」

「そこは素直だな」


ーーーーーーーーーー


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