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どうやら、過去に会ってたようです

また長くなったので二分割です。時間がかかり申し訳ありません。

 それから、俺と黄花は何事もなく無事に夏蓮達が待つ異界の神社に戻ってきた。

 戻ってきたな。全く、変なところで死ぬかと思った。

 そう思う俺の横では、若干むくれ気味な黄花がそっぽを向きながら歩いている。



「まさか、ああなるとは...」

「や、夜兎様が悪いんですよ!全然降ろしてくれないから!!」



 ため息をつきながら言う俺と、自分の失態を恥じらいながら声をあげる黄花。

 まぁ、実際俺の悪ふざけのせいなんだけどな。



 実は先程、ちょっとした出来心で黄花を降ろさないでこのまま夏蓮達のとこまで行こうとしていた。

 当然黄花に「降ろしてください」と何回も言われたが、俺は軽く流すだけで降ろさない。



 ここまではよかった。

 だが、段々と近づくことへの焦りか、バレるのが恥ずかしい黄花はとうとう感情的になり、「降ろしてください!」と身体に電流を走らせたのだ。



 そのせいで、俺は軽く感電。

 敢えなく降ろすことにした。

 まだ、所々がビリビリくる。これ俺じゃなかったら死んでたぞ。



 前髪が少し焦げてないか気にしながら歩いていると、一番近くにいた小狐達がこちらに気付いた。



「あっ!?黄花様!!」

「帰ってきた!!」

「お帰りなさーい!!」



 帰りを待っていた小狐達は、一斉に黄花に駆け寄ってくる。

 俺はそれに巻き込まれないよう少し身を後ろに退き黄花達を見守る。

 余程心配していたのか、全員嬉しそうだ。

 それを見た黄花は先程のむくれた顔から満面の笑みに変わり、ただいまの挨拶を交わす。



「ただいま。皆さんいい子にしてましたか?」



 黄花の問いに小狐達は全員「うん!」と返事をしながら、なにがあったのか、どうやって倒したのかと、話を内容を興奮気味に尋ねる。

 その光景に俺は少し離れたところで大変そうだなと苦笑しながら見ていると、ふと視界に夏蓮の姿が見えた。

  


「お帰り」

「ただいま」

「お疲れさま」 

「どうも」



 多くは語らない。ただ言いたいことを、俺と夏蓮は告げる。

 


「後でまた祭りに行こうな」

「うん」


 

 まだ祭りは終わってない。戦う前に決めていた決意を果たすとしよう。

 その俺の言葉に、夏蓮は僅かに微笑む。



「念のため聞いておくけど、なにもしてないよな?」


 

 黄花の周りを群がっている小狐達を目線を向けながら、俺は聞く。

 聞くと、夏蓮は少しムッとした表情をしだした。



「心外。なにもしてない」



 冤罪をかけられ、夏蓮は不機嫌気味に言う。

 ならいいんだけどな。実はちゃっかりなんか教えてそうな気がして。

 言いつけを守ったのに疑われ、ご機嫌斜めになる夏蓮に「悪い悪い」と平謝りする。

 


「夜兎様」



 すると、話が一段落したのか黄花が小狐を後ろに引き連れ話しかけてきた。



「今日は本当にありがとうございました。お陰で我々は救われます」

「それはこっちにも言えたことだ。こっちこそありがとな」



 どっちみち、これが失敗したらこっちにまで鬼が来てただろうからな。

 隣の夏蓮から小声で「渋ってたくせに」とじっと見てくるが、俺は目を合わせない。



「夏蓮様も、この子達の面倒を見てくれてありがとうございました」

「楽しかったからいい」



 頭を下げる黄花に、夏蓮は気にしないでと仕草を取りながら言う。

 これで芸がなければよかったんだけどな。

 黄花の後ろで「またなにか教えてー!」と楽しそうに叫ぶ小狐達を見て、俺はつくづく思う。

 


「しかし大丈夫なのか?あの襲ってきた奴は」

「それに関しては、こちらでどうにかしてみます。任せてください」



 「もし駄目だった場合は、またお願いしますね」と黄花は冗談混じりな微笑を浮かべる。

 出来れば面倒事は勘弁願いたいんだが。

 俺は曖昧に「はは」と笑いながらやり過ごすと、突然黄花は袖の中からなにかを取り出した。



「こうして夜兎様達に会えたのも、なにかの縁。この縁に感謝をしなくては」



 取り出したそれをそっと大事そうに抱え、黄花は染々と述べる。

 その時、ふと俺は黄花が大事に持っているそれに目がいった。

 子供のような、ロボットの刺繍が入ったハンカチ。

 あれ?これって......。



「それ俺のハンカチ?」



 見覚えのあるハンカチを見て、俺は口を溢す。

 その言葉を聞いた瞬間、黄花は目を見開かせ硬直し、やがて震え声で聞いてきた。



「や、夜兎様。そ、それは、本当ですか」

「あぁ、そのハンカチを見て思い出した」



 家にいたときは思い出せなかったが、今なら分かる。

 ーーーそう、確かあの日、俺が小学生だった。

 両親が死んでから日が浅く、まだ新しい家族に馴染めず山で散歩していたら、声が聞こえたんだ。



『う...うぅ......』



 呻き声、いや、なにかに耐えるような苦しみの声。

 声が聞こえ周りを見回したが、周りには誰もいない。

 初めは気のせいかと思えたが、徐々に鮮明に聞こえてくるそれに、俺はなんとなく声をかけた。



『どうしたの?』

『足が.....』



 その一言を聞いて、すぐに怪我をしていることが分かり、当時の俺はどうにかしようとしたが、相手は姿が見えない。

 これでは助けようがなかった。



『どうすればいいの?』



 どうしようもなくなり、俺は『声』に対し問い掛けてみると、苦しみながらも『声』は応えてくれた。



『なにか....布を.....』



 布、と言われても、俺の手持ちにあるのは当時好きだったロボットアニメの模様が入ったハンカチだけ。

 果たしてこれで大丈夫なのかと思ったが、あるのはこれしかない。



『これじゃだめ?』


  

 ハンカチを掲げ、見せびらかすようにする。

 この訴えが届いたのか、『声』はまたしても応えてくれた。

  


『えぇ、それで大丈夫です。ですが、よろしいのですか?』

『いいよ。あんたが必要なら、俺よりあんたが使うべきだ』



 この時の俺は、なんの迷いもなくその声の主にハンカチを渡そうとする。 

 だが、そんな俺の態度に『声』は不思議に思ったのか恐る恐る聞いてきた。



『あなたは、怖くないのですか?』

『?なにが?』

『得体の知れない私の為にわざわざこんなことして、あなたはなにも思わないのですか?』



 その『声』の問いに俺はうーんっと考えたが、なにも出なかったのか頭を振った。



『分かんない』

『分からない?』

『別にあんたが怖いとかはないし、特に深い理由もない。ただ、困ってるならそれに手を貸してあげるだけだよ』



 そう言って俺は誰もいない場所でニコッと笑う。

 我ながら、この頃はまだピュアな心があったんだなと思わされる。純粋だった。堕落した今とは大違いだ。

 それを聞いて『声』はなにを思ったのか、暫く黙った後『ふふっ』と笑う。



『変わった人間ですね』

『そうなの?』



 笑う『声』に俺は首を傾げる。

 当時小学生の俺には『声』の言っていることがよく分からなかったが、今思えば確かに変わってる気がする。

 見えない姿に怯えず普通に会話してたもんな。なんにも疑わずに。それはおかしいわ。

 その時丁度、



『おにーちゃーん』



 遠くから夏蓮の声が聞こえた。



『あ、夏蓮だ』

『え?』

『それじゃあ、もう行くね。これここに置いてくから』



 そう言って俺は近くにあった道端にハンカチを置きそこから去ろうとするが、まだ用があるのか『声』に呼び止められた。



『なにかお礼をさせてください』

『いいよ。そんなの』

『そうはいきませんよ。受けた恩は返しますから』



 いらないと言っても引き下がらない『声』。

 苦しいのに無理しなきゃいいのに。当時の俺はそう思っていた。

 どうしたものかと頭を捻った俺は、一つの提案を出した。



『じゃあ、もしまた会えたらお願い一つ叶えて』

『お願いですか?』

『うん。だからそれでお願い。それじゃあね』



 少し強引気味に会話を終わらせ、俺は自分を探す夏蓮の下に急いだ。

 後ろから『声』が呼んでいる気がしたが、気にせず走った。



『あ、名前聞いてない』



 走る途中、俺はそう思ったが、まぁいっかと思いその場を去った。

 また会えるとでも思ったんだろうか。

 後日気になり再びあの場に戻ったが、もうハンカチもなく声も聞こえなかった。 

おまけ


【昔の話】


「お兄ちゃんなにしてたの?」 

「ちょっとした人助け」

「ここ人少ないのに?」

「人じゃないからな」

「じゃあ、なんなの?」

「んー、幽霊?」

「お兄ちゃん、頭大丈夫?」

「その反応はきついな」



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