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そろそろ成仏願いたい

 見計らったかのようなタイミングでロウガが現れた。

 まるで、主人公張りな登場だな。いったい誰に似たんだか。

 ある程度蹂躙し終え、口許が血みどろなロウガが俺の前にシュタッと降り立った。



「よくやった。ロウガ」

“やっぱりおいしくなーい”



 口の中の血をペッと吐き出しながら、ロウガはそう呟く。

 血まみれでそんなこと言わないで欲しいな。

 そんなロウガの姿に、俺は苦笑いする。

 なんだろう、この戦いでロウガが少し勇ましく見えてきた。



「向こうは終わったのか?」

“片付けてきたー!”



 “雑魚だったねー”と子供の声をしながら中々なことを平然とロウガは言う。  

 モンスターの性なのか、声質に似合わずお前も結構言うんだな。

 今のロウガの攻撃で操鬼は動揺したのか、統率がバラバラだ。

 今のうちに攻めるとしよう。



「残りも頼めるか」

“任せてー!”



 俺の頼みにロウガは元気よく返事し、いざ再度攻撃しようとした瞬間、



「......ユルサナイ」



 突如操鬼が近くにいた鬼の首を掴み始めた。



「ヨコセ.....」

「ギ...ギ...!」


 

 いきなり首を掴まれ、鬼は苦しそうな声を出す。

 掴まれた鬼の体が徐々に薄くなり、どんどん消えていく。

 まるで、操鬼に吸い取られているかのようだ。



「なんだあれ」

“きえてくー”



仲間割れとも思えるその光景に、俺とロウガは怪訝そうに見つめる。

 掴まれてるのは、確かスピードが異常に速いタイプの鬼だったな。足が発達しているのが特徴だ。

 消えていく鬼を俺達は黙って見守っていると、遂に掴まれた鬼が消えてなくなった。



 何が起きたんだ?

 見たところ、操鬼の身体に異変はない。

 いったいなにをしたんだろうと俺は思っていると、操鬼がこちらを向いた。



「......コロス」



 そう言って操鬼はまた突っ込んできた。

 またか、と思い構える俺だが、次の操鬼の動きに驚愕することになる。

 その速度は、先程とは比べ物にならない程に速かった。



「っ!!?」



 予測してなかった速さに、俺はふいを突かれ拳を一発もらい、後ろに後退する。

 踏ん張る両足。腕に走る重い衝撃。

 咄嗟に両手を構え防御をとったお陰か、勢いは軽減され踏みとどまる。 

 想定外の速さに、俺は驚き前を向くが、既に操鬼の姿がない。

 


“主!右!”



 どこに行ったと思ったが、ロウガの助言により俺は反射的に後ろに飛ぶと、右から拳を空振りさせた操鬼が現れた。

 体勢を立て直すため一旦距離を置こうとするが、この好機を逃さんと距離を取る俺に操鬼は付いてくる。 



 さっきはふいを突かれたが、姿が見えればどうってことない。

 迫り来る操鬼の攻撃に俺は避け続け、カウンターで蹴りを入れ距離を置いた。

 


 くそ、いったいどうなってるんだ。

 突然の事態に、俺は動揺する。

 なんで急に、こんな速度が速くなってるんだ。

 俺は先程の光景を思い出す。

 さっきはスピードの速い鬼を掴んだと思ったら、その鬼が消えてそこから.......速くなった。

   


 ........そういうことか。

 頭の中のパズルのピースが繋がり、俺は現状の全てを察した。

 なんで気づかなかったんだ。

 こいつ、能力を吸収(・ ・)してやがる。



「ロウガ!早くそいつらを倒せ!」

“分かった!!”



 俺はロウガにそう命じるが、既に操鬼の手には他の鬼が掴まれていた。

 巨体のパワー型の鬼に、烏帽子に着物を着た魔法を使える鬼だ。

 両手に掴まれた鬼は操鬼に吸収されていき、また消えていく。

 能力を重ねて吸収出来るのか。人がちょっと目を離した隙にやってくれる。



「......ゼッタイニコロス!」



 能力を吸収すると、操鬼はまた俺に向かってきた。

 一度様子を見ようと俺は後ろに退いたが、ドンッと後ろにぶつかる感触がする。

 目を後ろに向けると、そこには少し前まではなかった土の壁があった。

 


「やばっ!?」   



 早速魔法を使ってこられた。背後に壁を作り一瞬の隙を与えてしまった。

 前を向くともうそこには操鬼の拳があり、俺は反射的にしゃがみこんだ。

 頭を下げ頭上からボコッ!と壁を貫く音が聞こえ、俺はそこから真横に転移しお返しに拳を叩きつけた。



 当たった。繰り出す前に俺はそう直感したが、拳は壁に突き刺さってないもう片方の手でガッチリと受け止められる。

 それさえ読まれていたのか。手を掴まれた瞬間、俺の両手首が薄く輝きだした。



「っっ!?!?」



 禍々しい、暗い光。

 それを見た俺は脳が危険の警報をあげ、転移でその場を離れた。

 だが、もう遅かったようで、手を確認してみるとなにやら刻印のようなものが浮かび上がっている。



「なんだこれ」



 文字のような形をしたのが、手首をぐるッと回っている。

 これが何なのか分からないが、とても良いものである気がしない。

 俺の手首に文字が浮かんでいるのを確認した操鬼は、手を水平に上げ、



「オチロ」



 人差し指をクイッと下にさげた。

 その瞬間、手首の刻印が光だし俺の手が勢いよく地面に向かって落ちた。



「うぉっ!?」



 突然手が重くなり俺はバランスを崩しそうになるが、なんとか留まる。

 なんだこれ、腕が重い。   

 数百キロの鉛を手首につけられた、そんな気分だ。



「なんじゃこりゃ...おもっ.......!!」



 ろくなもんじゃないと思ったが、動きを制限するやつだったか。

 重たい腕に、俺は取り敢えず冷静になりながら刻印を消すため【削除魔法】を使った。



「消えろ」



 手首がちぎれそうな重さに耐えながら俺は唱える。だが、一向に変化がない。

 嘘だろ、もしかして......。

 刻印が消えず、俺は何回も同じように唱えるが、それでも刻印が消える気配がない。

 これ、魔法効かない耐性とかあるのか。



 【削除魔法】が効かず、俺は悪態つきたくなったが、今はそんなことを言っている場合ではない。

 両手が塞がれ、これを好機と見た操鬼は吸収したスピード型の鬼の力により、一気に俺との距離を縮め、腹に向かってアッパーを喰らわす。



「シネ...」



 怨念混じりのその拳は俺の身体を浮かせ、俺は防御出来ずに吹き飛んだ。

 これまた吸収したパワー型の鬼の効力か、拳がさっきより増している。

 くそ、こんな手に重りが着いてるのに浮かせられるとは。



 吹っ飛びながら、俺は威力の増した拳に顔を歪めると、操鬼がジャンプして俺に迫ってくる。

 操鬼が近づいてくることを察した俺は咄嗟に転移で離れ上空に逃げるが、



「っ!?嘘だろ!?おちっ!?」



 手が重すぎて落下し始めた。

 【風魔法】だけじゃこの重さは支えきれないのか、俺は耐えきれず地面に向かって落ちていく。

 あ、これはダメだ。

 浮くのが無理だと悟った俺は諦めかけたが、その時柔らかい感触が俺を支えてきた。 



「ご無事ですか?夜兎様」



 なんだと思いよく見てみると、狐姿の黄花が俺を背中に乗せながら声をかけてきた。

 これは黄花の背中か。温かい体温に、フカフカな毛並み。なんだか心地いいな。

 


“大丈夫?主ー”



 気持ちのいい黄花の毛並みを堪能していると、どこから現れたのかロウガが倒れている俺の横で心配してくる。

 どうやら、鬼達の方は片付けたみたいだ。

 下が全滅しているのが見え、俺は「なんとか」と生返事をする。

 


「というか、黄花は重くないのか?俺が」

「全然平気ですよ」

「こんなに手が重くなってるのに?」

  


 重たい腕を揺らしながら、俺は黄花に伝える。



呪印(じゅいん)は、掛かった本人にしか効かないので」

「呪印?」

「呪印は拷問や捕縛などに使うもので、掛かった者はその効果の通りに感じるんです。そして、それは掛けた者にしか解呪出来ず、またそれ以外での解呪は不可能です。解く方法は掛けた人に解呪して貰うか、その掛けた人を倒すことだけです」



 つまり、そう感じるだけであって、実際はそうではないと。  

 そんで解くにはその掛けた本人が解くか、そいつを倒すしかない。

 また面倒なことをやってくれたな。

 鉛のように重い腕を見ながら、俺はうわーっと嫌な顔をする。



 さて、ここからどうするか。

 幸い、動きは塞がれてるが魔法は使える。

 でも動きながらやるのは、ほぼほぼ無理。

 となれば、



「黄花、ロウガ。悪いが少し手伝ってくれ。いい加減あのでかいの成仏させるぞ」

「はい」

“分かったー!”



 俺の言葉に、黄花とロウガはやる気満々に頷いた。

 一人で駄目なら一人と一匹の妖怪とモンスターに頼ろう。

 黄花の毛並みに心地よさを感じながら、俺は最後の攻撃の準備をする。

おまけ


【毛並み】


「黄花の毛並みって凄いよな」

「そうですか?」

「めっちゃ、心地いい」

「ありがとうございます」

「......欲しい」

「へ?」

「この毛並みが欲しい」

「は、剥ぎ取るつもりですか......(ガクブル」

「そこまで言ってないぞ」



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