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何事もなく終わればいいとかフラグ発言

 少し祭りを見回ってから、俺と夏蓮は黄花達が待つ神社まで来た。

 祭りはやはり規模が小さかったが、それなりに楽しそうで魅力的なのが多くあった。

 だから、出来るだけ早く済ませて祭りに戻りたい。



「お待ちしておりました。夜兎様」

「よっす、黄花」

「今日は頼みますね」

「任せてくれ」



 互いに軽い挨拶を済ませ、俺と黄花は顔を見合わせる。

 やる気に満ちてるな。いつもより顔が引き締まっている。

 黄花の顔を見て俺はそう思うと、小狐達が一斉に夏蓮の下に駆け寄った。



「あー!人間さんだ!!」

「ねぇねぇ!!あれまた教えて!!」

「もう一回やりたい!」



 小狐達は前回のあれが気に入ったようだ。

 まさか、あれを気に入るなんてな。

 その小狐達の反応に夏蓮は嬉しそうに口許を緩めるが、じっと見つめる俺の視線を見て申し訳なさそうに言った。



「ごめんね。今日は駄目」

「えー!?」

「なんでなんでー!!」



 駄目と言われ、小狐達は「やってやってー!」と駄々をこね始める。

 その様子に夏蓮は困っていると、黄花が口を挟んできた。



「皆さん、人間さんを困らせてはいけませんよ」



 黄花に咎められ小狐達はしゅんとなり、大人しくなった。

 そんなに気に入ってたのか、あれが。

 しゅんとなる小狐達を見て、俺は苦笑を漏らしていると黄花は早速封印場所に行こうと俺に背を向けた。



「それでは、行きましょうか」

「あぁ」



 黄花に促され、俺は後をついていく。



「行ってらっしゃい」

「「「がんばってー!」」」



 見送る夏蓮と小狐達に、俺は背を向けたまま手を振りながら歩いていく。

 向かう場所は妖魔封印の場所。敵が眠る場だ。






ーーーーーーーーーーーーーーー






 

 月が明るい晴天の夜空。

 辺りは静かに暗く、月に照らされ露にしている山の奥地にある一つの空間。

 そこに佇む巨大な石と、一人の人間と妖怪の姿があった。

 


「それでは、手筈通りお願いします」

「分かった」



 封印の石の前で黄花が確認を取ると、石の方に向き直る。

 周囲は静かだが、微かに虫の音が聞こえ、嵐の前の静けさのようだ。

 そこで黄花は目を閉じ、すぅっと息を吸いながら両手を水平に上げる。



 するとその時、黄花と封印の石の下に、五角形の魔法陣が現れた。



 これが、地球での魔法か。

 初めて見るそれに、俺は暫し興味深そうに観察する。

 黄花が言うには、『魔法』ではなく『術式』というらしい。

 五角形の先には、なにやら文字が施された札があり、上空に浮いている。


  

 完全に、陰陽師が使ってるようなそれだ。

 二つはリンクしているのだろうか。

 石と黄花にある魔法陣は同期してるかのような、連動した動作をしている。



「おっと、いかんいかん」



 つい見いってしまった。俺も持ち場に着かなきゃな。

 封印の前段階である黄花の魔法を見ていた俺は、少し慌てて自分の所定の位置に移動する。



 所定の位置とは、結界が張られていない外側のことだ。

 山奥の森だから、道はなく歩きづらい。

 黄花曰く、結界が張られているなかでは、操鬼は鬼を呼び出せないらしい。

 だから、必然的に呼び出すなら結界の外。

 そして、俺がその鬼達をなかに入れないように守る。それが今回俺が頼まれた仕事だ。



「さて、どこから来るか......」


 

 結界外だと、前に聞いた兆候のような揺れや雄叫びは聞こえない。

 つまりいつ来るかは分からないということだ。 気は抜かないようにしとかなきゃな。

 暫く【空間魔法(効果範囲 特大)】で周囲の魔力の反応を探っていると、こことは少し離れたところで反応があった。

 いきなり来たか。



 感じた魔力反応に俺は直ぐ様転移でその場所に向かう。



「ギ、ギ......ギ..ギギ!」



 すると、その場所には夜の闇に赤くギラリと光る目を持った、小さな鬼がいた。 

 赤い皮膚に二本の角、腰に巻かれた虎の皮、まさに昔話に出てくる鬼その者だ。



 異世界のオーガとかとは、少し違うな。これは地球仕様というやつだろうか。

 壊れたロボットのような声を出し、生きてる感じがまるでしない。

 意思とかはなさそうだな。



 悠長に俺は小鬼を眺めていると、こちらに気付いたのか小鬼が俺に向かって走り出した。

 


「ギギー!!」



 俺を見た瞬間、気味の悪い奇声を発しながら突っ込んでくる。

 まるで餓えた子供のように、よだれを垂らし口を開けながら走る小鬼を見て、俺は逃げもせずただ突っ立ったまま一言だけ発する。



「失せろ」

「ギ...ギ..」



 その言葉と同時に、風の刃が突如として小鬼に襲い掛かり、小鬼の首が跳ねた。

 走ってきた小鬼は徐々に速度を失い、やがて地面に倒れ光の粒子となって消えていった。

 消えるのは異世界と一緒か。

 消えていく小鬼を見ながら、俺はなんとなく思う。



 にしても、今のが操鬼が操る鬼ってやつか。意外にも弱かったな。

 もう少し強いのが出てくるかと思っていた俺は拍子抜けをする。

 他にも違う鬼がいるんだろうか。  

 そう思った俺は、暫く出てくる鬼の対処を続けた。



 


ーーーーーーーーーーーーー





 鬼って色々いるんだな。

 目の前の武装した鬼を瞬殺してから、俺はへーっと思う。  

 結論からいって、他の種類の鬼はいた。

 さっきの武装したのや、やけにスピードが速い鬼に、図体のでかい力のある鬼。とにかく色々なのがいた。



 といっても、どれも取るに足らない相手であるから、これはこれで拍子抜けだ。

 まぁ、こんなもんなんだろうか。

 迫りくる鬼達の強さに拍子抜けに思う俺だったが、



「っ!?」



 次の出現する鬼の数に驚愕することになった。

 最初の奴等は様子見だったのか、鬼を倒すのと同時に結界の周りに大量の反応が現れた。

 その反応と同じタイミングで俺の前にも大量の小鬼や色々な鬼が出現する。


 

 どうやら、向こうは今度は数で押してくるみたいだな。

 でも、



「それでも、足りない」

 


 その程度じゃ、突破なんて夢のまた夢だ。

 わらわらと出現してくる鬼達を目にし、俺は片手を上に掲げる。

 最初は驚いたが、蟻が何匹いたって変わらない。

 【空間魔法(効果範囲 特大)】で既に数は把握済み。とっくに標準は定めてある。



千本矢(アレイン)



 そう唱えると、上にあげた手から一本の光の矢が空に向かって放たれた。

 ぶれることなく真っ直ぐ光の矢が飛んでいき一定の高さまで届くと、徐々に勢いを失っていく。

 夏に因んで花火ってな。

 俺は飛ぶ光の矢を眺めていると、突如矢が弾けるように分裂していった。



 十や二十じゃない。何百、何千という光の矢が雨のように降り注ぎ、その全てが小鬼達の方に落ちていった。

 まるで、花火のようだ。

 ターゲットは既につけてある。逃げるのは不可能。



「ギガッ!?」



 降り注がれた矢は、小鬼の頭を貫き、絶命させる。

 頭、心臓、腹、逃げる術なく小鬼達は様々な箇所を貫かれ、続々と倒れていく。 

 本当は【火魔法】とか使って本当の花火みたいにしたかったけど、それをやったら火事になるよな、この山。



 花火が出来ず、俺は少し残念そうな気持ちになる。

 今頃は結界の反対側でも、同じ様に虐殺が行われているだろう。

 俺は暇そうに降り注ぐ光の矢をボーッと見つめていると、やがて終わったのか光の矢は消えていく。



 見ると、そこには何体もの小鬼が倒れ、粒子となって消えていった。 

 これで大丈夫かな。

 敵を片付けるのも一段落し、俺は一息つく。 

  


「呼び出すなら、せめて【破壊神】くらいの奴を連れてくるんだな」  



 そうじゃなきゃ、俺を倒すはおろか、足止めなんて無理だ。

 さて、それじゃあ、黄花のところに行ってみるか。



 実は、この頼みを受けた時から、俺は夏蓮から聞いたお約束が起きそうな気がしていた。 

 ないとは思う、いや、思いたいんだが、一応念のため行っといた方がいいよな。起きてからでは遅いし。

 俺は黄花の様子を見るため、代わりの護衛を呼び出した。

  


「ロウガ」

“はーい!!”



 俺に呼ばれ、ロウガは待ってましたとばかりに元気な声を出す。

 


「これから、俺は黄花の様子を見に行くから、後は任せたぞ」

“任せてー!!”



 ロウガは時たま俺と遊び、もとい修行を繰り返してきた。

 こいつら程度なら問題なく殺れる。

 それにロウガの速度は尋常じゃなく速い。これぐらいの距離はロウガなら軽い。

 それに、ステータスも最初の頃から比べ物にならない程に進化している。



 ロウガ(シルバーウルフ) 狼族 Lv95


 体力 4900/4900

 魔力 4850/4850


 スキル

噛み砕き 突進 俊足 風魔法 



 この通り、ロウガは俺との修行(遊び)で中々な進化を遂げた。

 一番驚きなのは、ロウガが【風魔法】を覚えたことだ。 

 修行の途中で急に覚えてきた時は吃驚したんだよな。

 いやはや、成長したもんだ。



 ステータスを見ながら俺は染々感じていると、丁度その時目の前に小鬼が現れた。

 ロウガの小手調べのつもりか。どっちにしろいいタイミングだ。



「頼むぞ、ロウガ」

「わん!(うん!)」



 そう言うと、ロウガは左右に移動しながら小鬼に近付き、体当たりをかます。 

 そして、きっちり体を抑えてから小鬼の首に噛みつき、喉を噛みちぎる。  

 ぐちゃっと生々しい音を建てながら、ロウガの口は赤黒い血でポタポタと垂れている。

 


「ギ..ギ...」



 噛みつかれた小鬼は程なくして動かなくなり、光の粒子となって消えていくと、ロウガは「アオーンッ!!」と勝利の遠吠えをあげる。

 いつ見てもエグいな。  

 ロウガの戦いを見て、俺は思う。

 


 忘れそうになるけど、ロウガってやっぱり狼なんだよな。

 血に餓えてるんだろうか。

 噛み砕いた喉をぐちゃぐちゃと噛むロウガ。



“不味い”


  

 だが、おきに召さなかったのかロウガはすぐにペッと噛み砕いたのを吐き出す。

 まぁ、そりゃあそうだろうな。

 少なくとも、野生の狼とかなら生きるためにこういうのは食べるんだろうが、ロウガは違う。

 家に飼われてから半分ペットと化したロウガには、もう生肉では満足できないだろうな。 

  


「まぁ、いいか。そんじゃあ、頑張れよ」

“がんばるー!!”



 これ以上ここにいても仕方ない。

 俺はロウガに背を向き、黄花の様子を見に、封印の場所に赴く。

 何事もなく終わればいいんだけどな.....。

 ......いや、待てよ。



「これって、フラグか?」



 何事もなく終わればいいなんて、これはフラグなのだろうか。

 最近、そういうのばっか気にしすぎてよく分からなくなってきた。

 でも、なんだろう。ただ、これだけは言える。



「嫌な予感がしてきたな」



 少しだけ急いでみるか。

 この場はロウガに任せ、俺は黄花の下へ急ぐ。

 気休めかもしれんが、どうか何も起こらないでください。

おまけ


【妖怪の本心】


楽屋(小鬼)


「あー、顔が痛い」

「こっちは、首だよ」  

「あんな噛む必要ないよなぁ」 

「片目貫かれて見えねぇよ」

「体が持たん」

「しかも、あんな声までやるとは」

「なんだよ、ギギ....って、わけ分からん」

「しゃあねぇさ。何せ俺達は....」

「ただのやられ役」

「そういうことだ」

「よし、なら今から飲みいくか!」

「お!いいねぇ~」

「行こう行こう!!」

「そんじゃ、みんなで行くか!今夜はオールだ!!」

「「「「おー!!」」」」


「元気だなー、あいつら」

“顔ぐちゃぐちゃなのにね”



ーーーーーーーーーーーーーー


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