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祭りに女の子を一人にして、良いことが起きた試しがない

 それから小狐達のショーは気まずく終わり、夜兎と夏蓮は家に帰っていった。

 帰る際、疲れていた夜兎に対し、夏蓮は満足気味でいたのはいうまでもない。

 小狐達は「楽しかったー!」と言っていたが、それが黄花を微妙な気持ちにさせていた。



「あれー?黄花様なにしてるのー?」

「菜野芽ですか.......」



 その日の夜、一人神社の外で立っていた黄花の下に現れた、一匹の狐の姿。

 夜兎達に助けられ、黄花と出会うことになるきっかけとなった狐、菜野芽だ。

 声を掛けられ黄花はチラッと菜野芽に目向けると、すぐにまた目線を戻した。



「お祈りをしていたんです」

「お祈り?」



 黄花の返答に菜野芽は首を傾げる。

 黄花は普段そんなことしない。

 少なくともそんなことをしている姿を見たことがなかった菜野芽にとって、黄花のその行為は疑問だった。

 


「とうとう、明日ですから」 



 そう言って、黄花は上を見続ける。

 今夜は満月。光輝く静かな光が神社一帯を照らす。

 ここは異界であるが、月は見える。

 静かで、神秘的な、明かりの少ないこの場所には欠かせないものだ。



「黄花様なら大丈夫だよー!!」

「ふふっ、そうですね。ありがとうございます」

 


 菜野芽からの励ましの言葉に、黄花は元気が出たのか静かに微笑を浮かべた。  

 そこでふと、黄花は手に持っているあるものに目を向ける。

 子供のものだろうか。その手には一つのハンカチが握られていた。

 端に小さなロボットの絵が張られ、少し廃れているがあまり汚れていない。

 余程大事にしていたのが見て取れる。



(大丈夫です、きっと......)



 少し強めにギュッとハンカチを握りながら、黄花は念じる。

 黄花は人間は悪い奴ばかりでないのを知っている。

 それは、過去に人間に助けられたことがあるからだ。  

 正直、夜兎達が来るまで黄花は、不安からかこの再封印が失敗するんじゃないかと思っていた。

 だが、夜兎達が来て、その不安に一筋の光が差す。

 また、人間に助けられることになりますが、どうか私達に勝利を.......。



「夜は冷えます。戻りましょうか」

「はーい」



 颯爽と後ろに翻し、黄花と菜野芽は神社に戻る。

 黄花達が去り、外はより静けさを増したが、月は変わらず辺りを照らしていた。


   



ーーーーーーーーーーーーー






 いよいよ今日か。

 朝食を食べながら、俺はなんとなく思う。

 この日この夜に、いよいよ妖魔が復活するかもしれないというのに、俺の日常に変化はない。

 全員、今日も今日とて婆ちゃんの朝御飯に舌鼓を打っている。



 当たり前といえば、当たり前だが。

 夏蓮も特に気にした様子はない。

 まぁ、あいつは元々そういう性格だからというのもあるが。

 なにも知らないとはいえ、些か緊張感に欠けるな。

 そんなこと思いながら、俺は朝御飯を食べていると、突然母さんが思い出したかのように言ってきた。



「そういえば、今日お祭りがあったわね」



 それを聞いて、俺はあーっと思う。

 そういえば、そんなのあったな。  

 ここは田舎だが、祭りがある。

 都会に比べて規模は小さいかもしれないが、存外悪いものではない。

 花火も上がるし、多分この田舎で一番大きなイベントだろう。

 確か、二年前も行ったことがある。

  


「そうだったわね」

「折角なんだから、二人ともまた一緒に行ったらどう?」



 そう母さんに勧められるが、俺はうーんっと渋った様子を見せる。

 実は、妖魔の再封印の時間帯も祭りの途中ぐらいからだ。

 残念だが、今回は見送ろう。



「いや、今回はちょっとーーーーー」

「行く」



 俺が祭りに行くのを断ろうとしたが、そこに夏蓮が少し大きめな声で遮ってきた。

 突然夏蓮に遮られ、俺は驚いて夏蓮の方を見るが、夏蓮は涼しい顔をしている。

 


「じゃあ、決まりね」 

「なら、浴衣も出しましょうか」



 話がどんどん決まり、母さんと婆ちゃんは楽しそうに会話している。

 あぁ、これは駄目だ。

 こうなったらもう二人を止める術を、俺は知らない。

 二年前も同じ様に夏蓮の浴衣で盛り上がっていたな。

 


 可愛いものが好きなのは、いくつになっても変わらないってことだろうか。

 しかし、どうして夏蓮はあんなことを言ったんだろうか。

 今日封印があるのを知っているというのに。

 俺は気になったがこの場では聞くに聞けず、朝食中ずっと口を閉ざしていた。





ーーーーーーーーーーーーー






「どういうつもりなんだ?」



 朝御飯が食べ終わり、俺は早速夏蓮に祭りに行くと言った理由を聞いた。

 夏蓮は俺の事情を知ってあんなことを言うほど馬鹿じゃない。

 きっとなにか目的があるんだと思う。

 聞かれると分かっていたのか、夏蓮は動じず応えた。



「その方がバレにくいでしょ」

 


 ただし、夏蓮の口から返ってきたのは簡潔的な答えだった。

 いや、もうちょっと説明が欲しいんだけど。



「どういうことなんだ?」

「仮に、お祭りに行かないでどこかに行って、それがお母さん達にバレたら大変、でしょ?」

「まぁ、そうだな」

「なら、一緒にお祭りに行って最初から家から離れてれば、安全」



 「その時は、私も神社で待ってるから」と付け加えられ、俺はえーっと少し困った顔になる。

 どうして、そういう結論に至ってしまったのだろうか。

 黄花から聞いた話では、そこまで再封印に時間が掛からないとは聞いたが、本番はなにが起こるかは分からない。

 


 下手に遅くなって怪しまれても困るんだが。

 夏蓮の答えに俺は考えさせられたが、やがて諦めたかのように「はぁ」と息を吐いた。



「まぁ、しょうがないか」



 今更何を言ってもしょうがないか。

 今頃母さんと婆ちゃんが浴衣の準備でもしてるだろうし。

 決まってしまったなら行くしかない。

 それに、


「夜に一人置いてくよりはましか」

「?なんで?」



 俺の言葉が理解出来なかったのか、夏蓮は首を傾げる。


 

「夜の祭りに一人でなんて、心配で置いてけないだろ」

  


 田舎とはいえ、女子を一人残しておける程、俺はお気楽じゃない。

 それに、夏蓮は身内の俺から見ても可愛い妹だ。  

 前の時みたいにナンパされるかもしれない。

 兄としてはそれだけは避けたいな。

 俺の言いたいことが理解できたのか、何故か夏蓮は呆れていた。


 

「それをもっと別方面にも向ければいいのに」



 いったいどの方面にだろうか。

 小声で呟かれたその一言に、俺はどの方面かと夏蓮に聞いてみたが、「知らない」と夏蓮の顔を逸らされてしまった。

 なんだろう、もっとやる気を出すことにも向けろということだろうか。

 だとしたら、中々きついことを言うな。



「それよりも、またあそこに行っても狐達に変なことするなよ」

「なんのこと?」

「芸を教えるのは禁止」

「えー」



 話を切り替え、俺は夏蓮に釘を刺しておくが、夏蓮は嫌そうな声で不満を漏らす。

 拒否しても駄目。あれを見てから黄花の顔が苦笑いしっぱなしだったんだからな。

 俺の身にもなってくれ。



「それでいいなら、連れていく」

「...分かった」


  

 それを言われたらしょうがないのか、夏蓮は渋々と承諾した。

 これでよし。

 承諾する夏蓮を見て、俺は内心ほくそ笑む。

 どっちみち連れていくんだけどな。流石に置いては行けないし。

 これで言質はとった。



「じゃあ、ダンスはいい?」

「いや、駄目だからな」

「芸じゃない」

「そういう屁理屈はいいから」



 ダンスまで却下され、夏蓮は少しムッと不満そうな表情をする。

 諦める気はないんだな。





ーーーーーーーーーーー





 それから夜になり、今から俺と夏蓮はお祭りに行こうと準備している最中だ。

 といっても、準備してるのは俺でなく夏蓮の方だ。

 部屋のなかで、母さんと婆ちゃんが夏蓮に浴衣を着せている。

 玄関前で俺は夏蓮が来るのを待っていると、突如部屋の扉が開いた。



「お待たせ」



 夏蓮の声が聞こえ俺は振り向くと、そこにはまごうことなき美しい姫様の姿があった。

 赤が基調の綺麗な模様が施された浴衣に、まとめあげられた髪。

 少しお化粧でもされてるのか、まさに大和撫子のようだ。

 


 相当頑張ったようで、母さんと婆ちゃんは後ろでうんうんと満足げに頷いている。

 


「これは凄い」

「綺麗に着飾ったな」



 父さんと爺ちゃんも同意見なのか、後ろで笑みを浮かべていた。

 これは、確かに凄いな。

 俺も俺で、浴衣を着た夏蓮を見てからはずっと「おー」と言っているばかりで、なにも言えなかった。



 なんか、二年前よりも力を入れてる気がする。

 そう思い俺は感動していると、夏蓮は俺に話し掛けてきた。



「行こ」



 その反応だけで満足なのか。

 持ち前の無表情さを発揮し、夏蓮は用意されていた下駄を履き玄関を出た。

 


「じゃあ、行ってくる」

「行ってらっしゃい」

「気を付けてね」



 母さん達に見送られ、俺は夏蓮を追うようにして、玄関から出ていった。

 外に出てから、俺と夏蓮は祭りがやっている方へ歩いていた。

 再封印の時間までまだ少しある。

 だから、それまで祭りを見ていこうという話になっていたのだ。



「しかし、今年は凄いな。なんというか、気合いが入っている」

「去年出来なかったからって、お婆ちゃんが張り切ってた」



 左様で。

 そういえば、朝食の時も一番ノリノリだったのは婆ちゃんだったな。

 改めて夏蓮の浴衣姿を見てみるが、やはり凄い。

 語彙力がないが、そうとしか言い様がないんだよな。

 そう思いながら、俺は夏蓮の浴衣姿をじっくり見ていると、夏蓮が俺の視線に気付いた。



「......なに?」

「いや、中々綺麗だなって」

「あ、そう」


  

 俺の言葉に夏蓮は素っ気ない態度を取る。

 見た感じでは素っ気なく見えるが、内心は喜んでいるな。

 口許がひくひく動いている。嬉しいときの反応だ。

 感情を隠そうとする夏蓮を見て、俺はふっと微笑む。

 


(出来るだけ早く済ませよう)



 嬉しがる夏蓮を見て思う。

 ここまで着飾って少ししか祭りに行けなかったっていうのも、なんだか寂しいものがある。  

 それに、俺も夏蓮と祭りを回りたくなってきた。

 出来るなら、早く終わらせてしまおう。



 妖魔再封印前に、俺は一つの決意が出来た。



おまけ


【出店】


「夏蓮、もしなにか欲しいものとかあったら言ってくれ」

「なんで?」

「射的や輪投げとかなら、一撃で仕留めるから」

「スキルで?」

「スキルで」

「それ、ずるくない?」

「一回やったら、店主に泣きつかれた」

「止めてあげて」



ーーーーーーーーーーーーー



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