これはもはや才能だろうな
そして、翌日。
妖魔が復活するのは明日のため、今日はその下見をするために、俺と夏蓮はもう一度あの場所に行こうとしていた。
「それじゃあ、行くぞ」
「うん」
母さん達にまた山に行くと告げてから、俺達は転移で神社まで転移しようと外に出る。
俺の【時空転移魔法】は場所以外にも時間と空間にも移動が出来る。
だから、わざわざ祠に行かなくても一瞬で行けるようになった。
家から少し離れたところで俺と夏蓮は転移すると、神社には小さな狐達があちこちで遊んでいた。
「わーい!」
「あははー!!」
「まてまてー!!」
なんか前に来た時より多くなってないか。
前回は隠れていたせいか、なんか数が多く感じる。普段はこんな感じなんだろうか。
おいかけっこや、じゃれあい、中には昼寝している狐もいて、とても和やかな光景だ。
まるで動物園みたいだな。
「あ!昨日の人間さんだ!」
「本当だ!」
近くにいた小狐が俺達に気付き声をあげると、それに連鎖をしていくように他の狐も気付き、気付けばあっという間に囲まれてしまった。
「今日はどうしたの?」
「どうやってここに来たの?」
「人間さんも一緒にあそぼー!!」
昨日のことで警戒心が薄れたのか、狐達は次々と声をかける。
あちこちから聞こえる質問や誘いの声に、俺は「あ、あぁ」と戸惑い、夏蓮は狐に囲まれ「おー」と目を輝かせている。
嬉しそうだな、夏蓮。
膝を折り狐達を撫で回す夏蓮を見て、俺は夏蓮の動じなさに微笑を浮かべた。
すると、この騒ぎを聞き付けたのか、神社の中から、黄花が少し驚いた様子で出てきた。
チラッと見えたが、そこ部屋になってたんだ。
「あら、夜兎様に夏蓮様」
「おっす」
人の姿で出てきた黄花に、俺は軽く挨拶を交わす。
どうやってここに来たのか気になる黄花だったが、狐に囲まれて困っていた俺に助けを出してくれた。
「ほら皆さん、人間さん達が困っているでしょ。一度離れて下さい」
やんわりとした優しい声に、小狐達は「はーい」と言いながら道を開けた。
やっと解放された。
ホッとする俺とは対照的に、夏蓮は残念そうにしていたが、今は我慢してほしい。
小狐達に離れてもらい、黄花は改めて挨拶を交わした。
「どうもこんにちは。今日はよろしくお願いいたしますね」
「あぁ、こちらこそな」
「先程はすいませんでした。なにぶんまだ幼いもので」
「気にするな。子供はあれぐらいが丁度いい」
俺は謝罪する黄花にそう言う。
「ところで、どうやってここまで来たんですか?」
「ちょっとした俺の力でな」
そう言って俺は証拠を見せるため、黄花の後ろに転移する。
いきなり俺が消え、後ろから「なっ?」と声を掛けられ黄花は動揺していたが、納得したのか「なるほど、頼もしいですね」と微笑む。
「それでは、参りましょうか」
「あぁ」
黄花の言葉に頷き、俺は黄花の後を追おうとするが、その前に夏蓮に一言告げようと俺は振り返る。
「夏蓮、今から行ってくるけど、お前は残るか?」
「うん。ここにいる」
今から行く封印場所に夏蓮が行ったところで何にもならないことくらい、夏蓮でも分かっている。
それに、今回付いて来たのだって、こっちより狐達の方が本命だろうからな。
好きにさせておこう。
「夏蓮様。この子達のこと、お願いします」
「任せて」
バッチオーケーと親指を立てながら夏蓮は応える。
夏蓮は動物を手懐けるの上手いからな。
ロウガの時みたいに、大丈夫だろう。
小狐達に「「「いってらっしゃーい!」」」と見送られながら、俺と黄花は妖魔、操鬼が封印されている場所に向かった。
ーーーーーーーーーーーーーー
「ここが封印場所です」
黄花に案内され辿り着いた場所は、異界から出て山の奥深くのところ。
周りは自然を感じさせる樹木が並び、そこに空けられたような一つの空間。
なにかを抑えているかのような巨大な石が、俺の目の前にあった。
「これがそうなのか」
石を見ながら、黄花は「そうです」と頷く。
思ったより、シンプルだな。
もっと大きな祠的なものがあるのかと思ってた。
「しかし、この山にこんな場所があったのか」
「ここは周りに人避けの結界が施されてるので。他にも効果はありますが、これのお陰で人間は来ないんです」
なるほど、それは見つからない訳だ。
石には縄が巻かれ如何にも封印してる感があるが、見たところおかしなところはない。
いったいどうやって復活の兆候を見つけたのだろうか。
「見たところ、変わったところなんてないな」
「今に分かりますよ」
今に分かる?どういうことだろうか。
黄花の言葉に不思議に思いながら、俺は石を眺めているとーーー突然それは起こった。
「っ!?」
注意深く石を観察している途中、突如地面が揺れ出した。
ゴゴゴッと揺れる草木や地面。
地震の揺れに比例するように、辺りは揺れる。
オ゛ォォォオ゛オ゛ォォォオ゛ォォオ゛ォオ゛オ゛!!!
そして、地震の次は石の中から、いきなり何かの叫び声が響き出した。
まるで何かに反応しているかのように叫ぶそれは、力強く俺の脳内にまで響く。
俺は最初ただの地震かと思ったが、直ぐにこれは違うと察した。
(これが兆候か)
あまりの煩さに、俺は耳を塞ぐ。
多分ここ以外は地震なんて起きていない。
前にもこれがあったなら、近くに住んでいる婆ちゃん達が気付いていてもおかしくない。
なら、揺れてるのはここだけ。
揺れる地面に耐えながら冷静に分析する俺。
やがて、叫ばれた声は徐々に消え、揺れていた地面も段々激しさがなくなり、最後にはなにもなかったかのように元に戻った。
収まったか。
揺れと声が消え、俺は無言のまま黄花の方を見ると、黄花は察したのか説明し出した。
「今のが兆候です。前はもっと揺れが少なかったですが、やはりどんどん増してきています」
やっぱりそうなのか。
黄花の言葉を聞いて自分の考えが確信に変わる。
「凄い声だったな」
よくこんな声が人に聞こえなかったな。
結界に声を遮る効果でもあるんだろうか。
石をじっと見つめながら、俺はそんなことを考える。
すると、黄花はそっと封印の石に手を触れ、少し悲しげな顔をし出した。
「最初は、この操鬼だって妖魔になる前は普通に私達と同じただの妖怪だったらしいんです。ただ、普通の妖怪より力が強い。それだけの妖怪。それがあの日、人間達がその操鬼の力を恐れて、強襲を仕掛けたのです。
こちらはなにもしてないのに。
ただ、普通に暮らしていただけなのに。
強襲により家族は殺され、怒り狂った操鬼は妖魔と化した」
突然語られた昔の話に、俺は黙って耳を傾ける。
なんとも嫌な話だな。
目を瞑り、俺は黄花の話からなにかを感じとるように瞑想する。
「じゃあ、それ知っていてあんたはなんで人間が好きなんだ」
ふと思い浮かんだ俺の疑問に、黄花は少し気恥ずかしいのか、頬を僅かに赤くしながら応えた。
「人間は悪い人ばかりではないと知っているので。それに.......」
「それに?」
「......いえ、なんでもありません」
首を横に振りながら、黄花は話を終わらせる。
結局なにが言いたかったんだろうか。
少し気になった俺だが、特に追求はしなかった。
言いたくないなら深く聞く気はない。
「明日は、絶対成功させましょう」
「そうだな」
最初は渋ったが任された以上失敗する気はない。
悲しげな顔から明るい顔で言う黄花を見て、俺は一層そう思った。
ーーーーーーーーーーー
それから色々話し合った後、俺と黄花は神社に戻った。
だが、
「なんだこれ.......」
帰ってきてそこで目にしたのは、組体操のピラミッドの形をとった小狐達だった。
「あ、お帰り」
そして、それを満足げに眺めていた夏蓮。
いったい、ここを離れていた間になにがあったんだろうか。
小狐達によって作られたピラミッドは、寸分の揺れもなくピシッと綺麗に揃っている。
数が多くその大きさもでかい。
まるで、毎日みっちり練習しているような完成度だ。
心なしか、小狐達の顔もキリッとして見えるな。
「お前、これどうやったんだ......」
「頑張った」
いや、頑張ったとかじゃなくて......。
人様の狐でなにを遊んでるんだ。
あの無邪気さが完全に消えてるぞ。
俺はこれはやってしまったかと思いそーっと黄花の方を見ると、
「ははっ......なんか凄いことになってますね.....」
苦笑いを浮かべていた。
「もっと凄いこと出来るよ」
それを誉め言葉と受け取ったのか、夏蓮は意気揚々と応える。
いやいや、黄花の顔を見てみろよ。
苦笑い通り越してひきつってるぞ。
最早ははっという笑いも聞こえず、黄花はひきつった顔のまま固まっている。
「見てて」
頑張った成果を見てほしいのか、夏蓮はピラミッドの形をとっている小狐達に合図を送る。
夏蓮がパンッと一回だけ手を叩くと、小狐達はそれに反応し、上から順番に飛び降りていく。
一定のリズムでピョンピョン飛ぶその姿は、訓練された兵士の如く。
洗練された動きで次に形どられたのは、一列に並びぐるぐると回る体勢。
まんま、チュー○○ートレインじゃん。
しかも、途中二本足で立つことにより、より完成度を高くしている。
芸が細かい。
「ロウガ一人じゃこれが出来ない」
これがやりたかったのか、夏蓮は満足している。
そりゃあ、ロウガ一人じゃ出来ないだろうな。
だからって、それを他人の狐でやるのもどうかと思うぞ。
夏蓮には調教の才能でもあるのだろうか。
スキルがあったとしても、俺には出来そうにないぞ、これ。
この完成度の高さに、俺は思わず「おー」と感動したが、黄花はそれどころではなかった。
「あぁ、子供達がぁ......」
今まで可愛がってきた子供を取られたような、そんな心境だろうか。
踊る小狐達を見ながら悲しむ黄花に、俺は取り敢えず謝っておいた。
「あー、なんか悪いな、家の妹が」
「い、いえ。任せたのは私ですから.......」
「ほ、ほら、人間悪い奴ばかりじゃないから。夏蓮も悪気はないから」
気休めかもしれない慰めの言葉も黄花に効果はなく、黄花は暗い顔をする。
さっきまでのしんみりとした空気が一気に壊れたな。
夏蓮の卓越された芸を見ながら、俺はこの明日への不安を思い乾いた笑みを浮かべていた。
大丈夫だろうか。こんなので。
おまけ
【対抗心】
「すごかったなー、狐達のあれ」
「でしょでしょ」
“う~......”
「?どうかしたのか?ロウガ」
“......僕もあれやる”
「あれって、さっきのやつか?いや、無理だろ。物理的に」
“やーだー!”
「人数的問題だ」
“分身作ってよ!主ー!”
「無茶言うな」
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