過去になにかあったみたいだ
若干お婆ちゃんとお爺ちゃんの呼び方が変わってますが、お気になさらず。
そして、その日の夜。
黄花との話も終わり、俺と夏蓮は山から戻り今は夕飯を食べている最中だ。
さっきまで居た場所が異空間だったため、時間がどうなっているか不安ではあったが、そこまで時間は経っていないようで安心した。
「やっぱりお母さんのご飯は美味しいわねぇ」
「貴女にそう言ってもらえて嬉しいわ」
長テーブルに家族全員が並んでる中、料理を食べながら母さんは幸せそうに隣に座っている婆ちゃんに言う。
料理で重要なのは真心というが、母さんにとっては婆ちゃんの料理が一番なんだろう。
母さんは料理に関しては嘘をつかない。
まぁ、そういうのを抜きにしても美味いのには変わりないけどな。
婆ちゃんの料理は、母さんに負けず劣らず美味い。
俺は心の中で絶賛しながら箸を進める。
隣にいる夏蓮も美味しいと思っているのか、口許を緩ませながら食べている。
「そういえば、夜兎ちゃん達お山の方に行ったんだってね」
「あぁ、行ったよ」
婆ちゃんの問いに俺は応えると、婆ちゃんは懐かしそうに頬に手を当てた。
「懐かしいわねぇ。あそこは昔私の遊び場だったのよ」
「よく行ったものだ」
懐かしむ婆ちゃんに同意するように、爺ちゃんも頷く。
婆ちゃんはともかく、爺ちゃんも行ってたのか。
昔を思い出している二人に、俺はへーっと思いながら聞いていると、婆ちゃんはなにか思い出したのか「あっ!」と言いながらパンッと手を合わせた。
「そういえば、実はあの山に狐様が住んでるのよ」
知ってます。今日会ったんで。
「へー、あそこ狐なんていたの?」
「違うわよ。動物じゃなくて、神様の方の」
「確か祠もあったね」
婆ちゃんの話に俺はなんとなく合わせる。
神様じゃなくて、妖怪だけどな。
俺の言葉を聞いて婆ちゃんは「そうそう」と言うと、唐突に驚きの事実を告げた。
「あそこは本当に狐様がいるのよ。なんせーーー私は一度会ったことがあるんだから」
その婆ちゃんの一言を聞いて、俺は「え?」となり婆ちゃんの方を向く。
夏蓮も今のを聞いて驚いたのか、箸を止め聞き耳を立てている。
妖怪は一定以上の魔力がある人にしか見えない。
だが、婆ちゃんにその一定の魔力はない。
なのに、どうして会ったことがあるなんて言うんだろうか。
俺は不思議に思っていると、その話に興味を持ったのか母さんは婆ちゃんに聞いた。
「それ本当?お母さん」
「えぇ、あれはまだ私が子供の頃だったかしら。当時私は一日中お山で遊ぼうと歩いていると、突然声が聞こえたの。
『お腹....減った.....』って。それを聞いて、私はお昼に食べようと思っていたお弁当のお稲荷さんを目の前にあった祠に置いたの。
『これでいい?』って私が聞くと、『ありがとう』って返ってきてね。その時から、ここには本当にいるんだって思ったわ」
「でも、それ以降はもう会えなくなっちゃったけど」と婆ちゃんは付け加える。
その話を聞いて、母さんは面白そうに「へー!!」っと微笑み、父さんは「素敵なお話ですね」と丁寧に述べていた。
確かに面白い話ではある。
だが、それ以上に、婆ちゃんが会ったのは多分本物の妖怪だということに、俺は驚いていた。
姿は見えなくても、声は聞けるんだろうか。
箸を止め、俺は少し考えていると、今度は母さんが俺に話し掛けて、
「そういえば、夜兎も同じようなこと言ってたわね」
その一言に俺の思考が一気に乱れた。
思いもよらない母さんの言葉に、俺は意表を突かれなにも知らないとばかりに「えっ?」と声をあげる。
あれ?そんなことあったっけ。
全く記憶にないんだが。
「そうだっけ?」
「夜兎がまだ小学生の時の話だから、覚えてないだけよ。あの時今日みたいにお山の方に行くって言って、帰ってきたら突然『なんか変な声が聞こえた』とか言ってハンカチを置いてきたって言ったのよ」
母さんからしたらあまり良い思い出ではないのか、「あれ買ったばかりなやつだったのに」と残念そうにしている。
はて、そんなことがあっただろうか。
首を傾げながら、俺は考え込む。
それが本当だとしたら、それは十中八九妖怪絡みだ。
それからの食事では、母さんや婆ちゃん達が思い出話に花を咲かせていたが、俺の頭の中では先程のことで頭が一杯だった。
ーーーーーーーーーーーーーー
部屋に戻り、俺は思い出そうと未だ頭を捻っていた。
小学生の頃だよな。
なんか、あったような気がするんだが、いまいち思い出せない。
今にも思い出せそうなんだが、喉のところで引っ掛かってる感じがして、俺はどうにも思い出せずにいると、障子の前で立っている夏蓮が俺に声をかけてきた。
「ねぇ」
いきなり声をかけられ、俺は吃驚して後ろを振り向く。
妹よ、頼むからノックはしてくれ。心臓に悪い。
ここドアないけど。
「どうかしたのか?」
「別になんとなく通り掛かっただけだけど、まだ思い出せないの?」
考え込む俺を見てまだ思い出せてないことを悟ったのか、夏蓮は俺に言ってくる。
「まぁな」
「お婆ちゃんが言ってたのって、やっぱりあの狐達のことだよね」
「そうだろうなぁ」
あの話からして、そうとしか思えない。
多分黄花にでも聞けば分かるんじゃないかと思うが、今はそれより昔の話だ。
どうも、この話が気になってしょうがない。
母さんの言うことが正しければ、俺は前に黄花のような妖怪に既に会っている筈だ。
いったい俺はなにをしたんだろうか。
再び俺は頭の中の記憶を引っ張り出そうと頭を捻る。
だが、不意に夏蓮の姿が目に入り、俺は母さんの話とは別のことを思い出した。
夏蓮にあれを渡すんだった。
そうだと思い、俺は【空間魔法(効果範囲 特大)】で取り出したあるものを夏蓮に渡した。
「夏蓮、ほれっ」
「?なにこれ?」
魔法で取り出し無造作に渡したそれを見て、夏蓮は首を傾げる。
銀色の飾り気のないシンプルなブレスレット。
そのブレスレットを渡して、俺は少し得意気に言う。
「それは着けてれば魔力が底上げされる魔導具だ。それさえあれば俺と手を繋がなくても、妖怪が見えるようになるぞ」
俺の説明に、夏蓮は「おー」と言いながらブレスレットを見回す。
どうやってそんなのを手に入れたかと言うと、勿論俺が作った。
作り方は簡単で、先ず【スキル創造(制限付き)】で【魔導具生成】のスキルを造ってからあのブレスレットを作った。
【魔導具生成】は好きな魔導具を作れる便利なやつだが、【スキル創造(制限付き)】同様魔力消費が高いため、多用出来ない。
しかも【スキル創造(制限付き)】で創ったから、一回使えば消えてしまう。
つまり、俺のステータスにはもう【魔導具生成】のスキルはない。
魔力消費が酷いせいで軽く目眩がしたが、苦労した甲斐はあったかな。
ブレスレットを見ながら、これで狐達と触れることが出来ると、夏蓮は目を輝かせている。
実は黄花との話の最中、夏蓮はしばしば狐の方を気にしていたのは、俺は知っている。
喜んでもらえてなによりだ。
「これで、俺と手を繋がなくても狐に触れるぞ」
よかったと思いながら俺は言う。
だが、それを聞いた夏蓮は、喜びから少しむぅっと浮かない顔でブレスレットをじっと見つめ出した。
「?どうかしたか?」
「......別に」
なにを思ったのか、夏蓮は俺からプイッと顔を逸らし、部屋から出ていった。
帰り際、後ろ向きで素っ気なく「ありがとぅ.....」と小声で聞こえ、俺は喜んでるんだよな?と少し疑問に思うのだった。
おまけ
【鈍感】
「マスター」
「なんだ?メル」
「鈍感なのも大概にした方がいいですよ」
「急に辛辣なこと言うなよ......」
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