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妖怪に変化はつきもの

 光に包まれ俺が目にしたのは、一本の長い通りだった。



「なんだここ?」



 辺りをキョロキョロと見渡すが、周りは霧で包まれなにも見えない。

 見えるのは前方に真っ直ぐ伸びる通り。

 そして、道を指し示すように照らされる小さな光がフヨフヨと浮かんでいる。



「変なところですね、マスター」



 イヤホンからメルの声が聞こえてくる。

 どうやら無事なようだ。

 まぁ、AIに無事もなにもないだろうけど。

 メルの無事が分かり、俺は浮いている光源体を観察する。


 

 魔法ではないだろうけど、なんとも綺麗だな。

 妖怪的にいうと、これは火の玉なんだろうか。

 なんとも不思議な空間に俺はボーッ眺めていると、目を覚ましたのか隣の夏蓮が口を開いた。



「なに、これ?」

「さぁな」



 夏蓮も俺と同じことを思ったのか、俺は分からず肩をすくめる。

 先程まで俺達は山の中にいて、狐を助けたらいきなり来て欲しいと言われ、ここまで来た。

 ならこれはこのまま進めということだろうか。

 狐がいない今、そう考えるのが妥当だろう。



「取り敢えず進むか」

「うん」

「はいです」



 俺がそう言うと、二人は返事をし、俺達は道なりに歩いていった。

 ーーーーーーどこまで歩いただろうか。

 景色が変わらないためどこまで歩いたかが分からず、俺と夏蓮は歩き続ける。

 


「長いな、この道」

「無駄に長い」



 手を繋ぎながら、俺と夏蓮は愚痴を溢す。

 どうせ呼ぶなら目的地の直ぐ近くにして欲しいもんだな。

 内心ため息をつきながらそんなことを思っていると、目の前に大きな影が見え始めた。

 

  

 俺の何倍もの大きさのある鳥居に、その奥にある神社のような、というかまんま神社みたいな建物。

 ここが目的地(ゴール)みたいだな。

 段々鮮明に見えてくる建物を見て俺は確信する。



 すると、上の方ばかり見ていて気が付かなかったのか、鳥居の前で一匹の狐がちょこんと座っていた。



「やっと来たー。ごめんねー、慌ててたから場所がちょっとずれちゃってて」



 申し訳ないとばかりに、狐は項垂れる。

 


「それはいいんだが、ここどこなんだ?」

「ここは僕達の住処だよ」



 項垂れる狐に、俺は一番気になる質問をすると、狐はそれだけ言って立ち上がった。

 


「さぁ、早く来て。黄花様はこっちだから」



 少し急かすような言い方をして、狐は鳥居を潜っていく。

 急かす狐に、俺達は後を追うようにして狐の後ろを歩くと、少し進んだとこで狐は立ち止まり急に叫び出した。



「黄花様ー!!ただいまー!!」



 子供のような高い声が辺り一帯に響き渡る。

 叫んでから数秒間無言の時間が過ぎ、なにも起こらないなと俺は怪訝そうな面持ちでいると、突如どこからか声が響き出した。



ーーーお帰りなさい。菜野芽(なやめ)



 その瞬間、包まれていた霧が晴れ始め、視界が良好になってきた。

 奥ゆかしい、女性特有な声と共に、霧が晴れていくと、目の前になにかがいることに気付いた。

 高さは俺より頭三つ分高く、後方にはゆらゆらと揺れる、この異質な影。



 いったいなんだと思い俺は目を細めまじまじと見ていると、霧が完全に晴れ俺はその姿を目にすることになる。

 姿は狐、だがその大きさが元の何倍あることか。

 俺が跨がれるくらいの大きさのそれは、貫禄を感じさせる佇まいに、ゆらゆらと揺れる九本(・ ・)の尻尾。



 まさしく、一度は見たことあるような妖狐って感じだな。

 


「いったいどこに行ってたんですか?心配したんですよ」

「ごめんなさーい」


 

 やんわり咎められ、狐は悪びれる様子もなく謝罪する。

 それから黄花と呼ばれる狐と菜野芽は何やら話し込んでいたが、俺はその間周囲を眺めていた。



 ここは異界なのだろうか。

 地面は普通の土、周囲が木で囲まれていて、後ろを見れば先程通った道が消えていた。

 【空間魔法(効果範囲 特大)】で調べてみても、場所が分からない。


 

 つまりはここは地球でも異世界でもないとういうことだ。 

 しかも、目を凝らして見てみれば、菜野芽と同じような狐達が、興味深そうにこちらを覗いているのが見える。



 微かに「あれって人間だよね?」「初めて見たー」とヒソヒソ話しているのが聞こえ、目を向けてみるとスッと姿を隠された。

 なんか、見世物みたいになってるな。



「なんか、沢山いる」

「みたいだな」



 夏蓮もそのことには気付いているようで、俺は面白いものを見るように微笑を浮かべる。

 ちょこちょこと顔を見せる仕草が、なんとなく愛嬌を感じるな?

 すると、話は終わったのか、巨大な狐である黄花が話しかけてきた。



「人間の人。私の菜野芽を助けてくれてありがとうございます。この子達の長である私からも礼を言います」

「気にするな。たまたま見かけただけだしな」



 礼を言う黄花に俺は軽く応えると、夏蓮の俺の手を握る力が少し増した。

 急にどうしたんだと思い夏蓮の方を見ると、若干だが震えている。

 どうやら、黄花の威圧に気圧されているみたいだ。

 


 それには黄花も気付いたようで、失態とばかりに呟いた。



「すみません。この姿では少々そちらの方には負担が掛かるようですね。姿を変えましょう」



 そう言うと、黄花の体は光に包まれ始めた。

 光に包まれた黄花は狐だったその姿が徐々に小さくなり、やがて人の形へと変化していく。

 光も消え、そこにいるのは、狐耳に巫女の格好をした綺麗な女性だった。



「これで大丈夫ですか?」



 狐だったのとはまた一味違う澄みきった声に、俺は「あ、あぁ」と少しどもる。

 まさか、狐から人型にまで変われるとは。

 テンプレ的にはあり得なくもない話だが、現実で見るのとはインパクトが違う。

 俺は驚きながらも、姿を変えた黄花をまじまじと見る。



 背は俺より低いくらいか、髪は狐と同じ黄色。

 胸もそこそこあり、優雅な雰囲気を醸し出していて、清楚なお姉さんみたいな感じだ。



「あの、そんなに見つめられても、困るのですけど...... 」



 長く眺めすぎたせいか、黄花は困った笑みを浮かべながら言う。

 それを聞いて、震えは止まったのか、夏蓮は今度は俺の脇腹をつまみ始めた。



「なに見とれてるの」

「いや、そういう訳じゃないぞ」



 ただ人型に変わって驚いただけというか、ちょっと見つめ過ぎたというか、決して見とれていた訳ではない。

 じっとこちらを見つめてくる夏蓮に、俺は「手を離してくれないか?」とやんわり止めさせようとしても、夏蓮は「なんかやだ」と言われて止めようとしない。


  

 兄に変な劣情を抱くなと言いたいのか、妹よ。

 しかもこれ、結構本気気味でやってるな、夏蓮。

 手を剥がそうとしても、グググッと必死に抵抗してくる。

 実際そこまで苦痛ではないが、チクチクして地味に痛い。

 そんは俺と夏蓮のやりとりを見て可笑しく思ったのか、黄花はクスクスと笑い始めた。



「仲がよろしいんですね」



 微笑ましいとばかりに言う黄花に、俺と夏蓮は同時に黄花を見て、次第に気恥ずかしくなったのか、つねるのを止めた。

 話が脱線してしまったな。

 


「それで、黄花、様?俺達は急にそこの狐に呼ばれて来たんだが......」

「ねぇねぇ、黄花様ー」

「何で人間がここにいるのー?」



 本題に入ろうとする俺を遮るように、先程まで遠くから俺と夏蓮を見ていた狐達が黄花の下に寄ってきた。

  


「安心してください。悪い人達ではないですよ」 

“わー!何かいっぱいいるー!” 

「あ、おい、ロウガ」


  

 狐達が出てくると、今度はロウガが勝手に出てきた。

 見たこともない生き物を見て興奮してるのか、俺の言葉を無視しロウガは狐達に近付いていった。



 最初は、近付いて来たロウガを警戒していた狐達だったが、危険はないと分かったのか徐々にロウガとの距離を詰め、あっという間に仲良くなっていった。



“わーい!”

「あはは!」

「おもしろーい!」


 

 元気だなあいつら。

 仲良くなった途端に追いかけっこを始めたロウガ達を見て、俺はそう思っていると、黄花は少し驚いたような顔して嬉しそうな笑みを浮かべた。



「まさか、式神まで所有してるなんて。それにこの膨大な霊力。菜野芽がはしゃぐのも分かりますね......」



 いいえ、ただの使い魔です。

 なにか勘違いされているようだが、これ以上話の腰を折るのを止めよう。

 「これならもしかして」と小声で呟く黄花に、俺は再度用件を聞いた。



「んで、黄花様。さっきの狐が呼んだ訳なんだが....」

「そうでしたね。本題を忘れるところでした。後、黄花で結構ですよ。人間は好きなので」  



 そう言うとさっきまでにこやかな表情をしていた黄花は、途端に真剣な表情に変わり、神妙な面持ちで俺達に告げた。



「実は、もうすぐこの山に崩壊が訪れようとしてるんです」

おまけ


【闇討ち】


“わーい!”

「おもしろーい!」

「元気だな、あいつら」

「まだあの子達は子供ですから」

「元気なのが一番」

「......まぁ、それもそうだな」

“隙を見て、こいつら寝首に噛みつく....”


 ※これはあくまでオマケです。

  



ーーーーーーーーーーーー


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