色々事情があるみたいです
モンスターと聞いて、俺は驚きながらも冷静に考える。
考えてみたこともなかったな。
前にメトロンのミスでモンスターが押し寄せてきたことはあったが、地球にモンスターが存在するとは思わなかった。
菜野芽 狐人族 Lv2
体力 120/300
魔力 350/350
スキル
変化
試しに【鑑定】かけてみたが、確かにモンスターだ。
スキル欄に【変化】とある時点で確定している。
しかも、気になるのは名前があるってことは、誰かが付けているということだ。
いったい誰が名前を付けたんだろうか。
少し考え込んだ俺だが、その前に一つメルに気になることがあった。
「てかそれどこで知ったんだ?」
携帯を取りだし、俺はメルに聞いてみる。
「先日、マスターに元マスターのところに行って嫌がらせをしてこいと言われた時に、ついでに使えそうな情報を持ってこいとも命令されたので、色々持って来てたのです」
そう聞いて、俺は「あー」っと忘れてたかのような顔をする。
そういえば、そんなことも言ったな。
スカラの一件ですっかり忘れてたけど。
そんな俺とメルとの会話を聞いて何の話か気になったのか、夏蓮は俺の肩を掴んできた。
「ねぇ、さっきから何の話?あそこに何かいるの?」
両手で肩を掴みグラグラと揺らしながら「ねぇ、ねぇ」と聞く夏蓮に、俺は喋りづらそうに応える。
「あ、あぁ。ここにモンスターと思われる狐がーーー」
「見たい」
狐がいると言い終える前に、夏蓮は「見せてー」と抑揚のない声でせがんできた。
感情がないのは相変わらずだが、相当気になってるな夏蓮の奴。
顔をチラッと見たが、僅かに目の開きが大きい。
これは興味津々の証拠だ。
だが、見せてと言われてもなぁ.....。
この好奇心旺盛な妹様をどう宥めたものか。
どうしたらよいか分からず、俺は困っているとメルが助け船を出してくれた。
「それでしたら可能です」
メルの言葉を聞いて、夏蓮は揺らすのを止め、携帯の中のメルを見た。
「それ本当?」
「はい。マスター、夏蓮様の手を握ってくださいです」
「え、あ、あぁ。分かった」
メルに言われ、俺は言われるがままに夏蓮の手を取った。
突然手を握られ、夏蓮は少しむず痒そうに握った手を見ていたが、メルはそのまま話を続ける。
「そして、その手を伝うようにしてマスターの魔力を夏蓮様に流すのです」
「そんなことして大丈夫なのか?」
なんか、こういうのってやり過ぎたら体がもたなくなり、危ないみたいな感じがするんだが。
「少しなら問題ないですよ。大量にやると流石に危険ですが」
なら、気を付けてやらなきゃな。
メルの説明を聞き、俺は後ろにいる夏蓮の手に集中するため目を瞑る。
体にある魔力をほんの少し夏蓮に流し込むように集中させ、自然と夏蓮の手をギュッ!っと握る力が強くなる。
「ん......」
自分の身体の中になにかが流れ込んでくるのが分かるのか、夏蓮は体に力を入れ僅かに声をだす。
これ以上はまずいか。
「これで見えるか?夏蓮」
夏蓮の反応に俺は魔力を止め、そう聞く。
すると、魔力を止めたことにより何かが見えるようになったのか、夏蓮は驚いたように「おー」っと狐を眺める。
「本当にいた。しかも尻尾が二本ある」
どうやらこれで本当に見えたようだ。
メルに「見えてからでも手は離さないでおいてくださいです」と言われ、一応離さないでおいている。
無事夏蓮も狐を見ることが出来、俺は改めて狐を観察する。
やっぱりあるんだよな、二本の尻尾。
俺の幻覚とかではないんだよな、実際夏蓮にも見えてるし。
気になった俺は、メルに何故この地球にモンスターがいるのか尋ねた。
「なぁ、メル。なんで地球にモンスターがいるんだ?この世界の神はとうの昔に死んだんだろ?」
今は代理メトロンが管理しているが、あいつなら面倒くさがってこっちのモンスターの管理までしてなさそうだ。
それよりゲームやりたいとか言ってそうだし。
俺がメルに尋ねると、メルは「えーっとですね~」と言いながらどこから取り出したのか資料見たいな紙の束を取り出し、確認しながら言った。
「かの昔、本来の地球の神は元マスターと同じようにこの世界にもモンスターを生み出していました。でも、元マスターがやっているようなやり方とは別のものです」
「別のもの?」
俺の返しに、メルは「はい」と頷く。
「地球の神はモンスターに、人間と同じような成長性を持たせたのです。元マスターの世界とは違い、地球のモンスターは高い知能を持ち、自我を持たせた。そして、人間と同じように互いに成長していくモンスターを造り出したのです。いずれは共存させるために」
つまり地球の神様はモンスターに高い知能と自我を持たせて、俺達人間と共存させようとしてたのか。
メルの話をまとめ、俺は理解すると同時にこの狐と似たような存在がいたことに気付き、メルに言う。
「もしかして、そのモンスター達って人間からは妖怪とかって言われてないか?」
「その通りです。遠いところでは悪魔とも言われてたみたいです」
俺の発言にメルは肯定し、俺は「まじかー」と天を仰ぎ、夏蓮は「おー」と少し声を輝かせながら狐を見る。
妖怪って本当にいたのか。
衝撃の事実に俺は少しの間口を閉ざしていると、夏蓮が後ろからメルに質問をした。
「なんで妖怪は今は全然いないの?」
夏蓮の質問に、メルは「ちょっと待ってくださいです~」と言いながら束になっている資料の紙をめくる。
すると、見つけたのかメルは「あったです!」と言ってからその質問に応えた。
「最初は二つとも出会わないように慎重にやっていたみたいですけど、ある日たまたま人間が妖怪を目撃してしまったみたいなんです。奇妙な姿をした妖怪達を目にした人間は驚き慌てて、直ぐに退治をしようとしたんです」
そこまで聞いて、俺と夏蓮は顔をしかめる。
ここまで聞いたなら後は予想は出来る。
襲われるとでも思ったのだろうか、なんともありがちな人間の愚かしいところだな。
「それから、人間達に存在を知られた妖怪達は襲われることを恐れ、あまり人前に現れないようになりました。ですが、中には反撃しようとする妖怪もいたようで、その時には人間達は陰陽師とか、エクソシストとかいう人に退治を頼んでいたそうです」
ここでも聞いたような名前が出てきたな。
どんどん説かれていく歴史の謎に、俺は今後の展開を察しながらも、黙ってメルの話を聞く。
「彼等は強く反撃する妖怪達を、次々と倒していきました。それを見た地球の神は慌てて彼等の力を奪い取ってある程度妖怪達は平和になったのですが、そこで地球の神も丁度亡くなられたようです。以後妖怪達はそのまま姿を見せなくなり、やがて一定以上の魔力を持った人間以外は見えない体質に進化を遂げ、今もひっそりと暮らしているそうです」
資料を読み終わりメルに「如何でしたか?」と聞かれたが、俺は「はぁ....」っと感嘆の息を漏らすばかりで、なにも言えなかった。
中々奥の深い話だな。
夏蓮も同じことを思ったのか、聞き終えて感傷に浸っていた。
「なんとも、悲しい話だなぁ」
「ですねぇ」
読んでてメルも思ったのか、俺に共感する。
人間が失敗しなきゃ、今頃は妖怪達と過ごす社会が出来上がっていたってのに。
俺とメルは呑気に語っていると、後ろから夏蓮に「ねぇねぇ」と揺らされ、狐の方を指差した。
「助けてあげないの?」
指差される狐を見て、俺は思わず「あっ」と声をあげる。
しまった、メルの話に気を取られていたせいですっかり忘れていた。
俺は怪我を治すため狐の怪我をしている箇所に、手をかざした。
その瞬間、俺の手は淡い光に包まれ、暫く手をかざしたままにしておく。
ある程度かざしたら、俺は手を離すと、そこにあった狐の傷が消えていた。
これでもう大丈夫だろう。
傷が癒えたのを確認すると、眠っていた狐の目が徐々に覚めていった。
「んー、あれ?ここどこー?」
「「!?」」
次の瞬間、目を覚ました狐の口から子供のような高い声が聞こえた。
これを聞いた俺と夏蓮は声を出さないながらも、目を見開かせ顔を見合わせる。
おいおい、今喋ったぞ、この狐。
喋るのは少し予想していたが、実際に見ると吃驚するな。
狐が喋り戸惑った俺だが、取り敢えず話しかけることにした。
「大丈夫だったか?怪我してたみたいだが」
「え?に、人間!?」
いきなり話しかけられ、狐はキョトンとした顔でこちらを見たが、次第に盛大に驚き咄嗟に俺達と距離を取った。
まぁ、見える筈もない人間に話しかけられればそりゃあそうなるよな。
若干ビクビクとしながらこちらを伺う狐に、俺は「まぁ待て」て言いながら狐を落ち着かせようとする。
「別に俺達はなにもしない。寧ろ助けたかっただけだ」
「助ける?」
「足怪我してただろ?それを治してただけだ。それに何かしようとするなら、先ず捕まえようとするだろ?」
俺に言われ、狐は自分の足を確認し「本当だ!治ってるー!!」と喜びにも似た驚きをあげ、暫くあちこちを走り回ると、俺の下まで来た。
「助けてくれてありがとー!」
「治ってよかったな」
お礼を言う狐に、俺は微笑みながら頭を撫でる。
俺が頭を撫でると、狐は気持ち良さそうに目を細め、「きゅ~ん」と鳴き声をあげる。
それを見て夏蓮も撫でたくなったのか「私もやる」と言って撫でるのを交代した。
「治ってよかったです」
「そうだな」
「可愛い」と言いながら頭を撫でる夏蓮を見ながら、俺とメルは嬉しそうに話す。
ある程度撫で終わったのか、夏蓮は満足して手を離すと、狐は俺を見てあることに気付いた。
「うわー!人間さん!!凄い霊力持ってるー!!」
「霊力?」
「私達で言うところの魔力ですよ。マスター」
知らない単語に俺は首を傾げたが、メルが補足を入れてくれた。
妖怪だから、魔力とかの強さが分かるんだろうか。
俺の多大な魔力を見て、狐は嬉しそうに俺の回りを駆け回り始めた。
「わーい!!これなら黄花様の助けになる!!」
喜ぶ狐に俺は訳が分からず戸惑っていると、狐は立ち止まり、俺にあるお願いをしてきた。
「お願い!!一緒に黄花様に会って来て!!」
「黄花様?」
黄花とはいったい誰なんだろうか。
それを聞く前に、狐は急げ急げとばかりに祠の前に移動し、俺達を呼びつける。
「早く!こっちに来て!!」
いったい何なんだ?
いまいち事態が把握出来ず戸惑う俺だが、一応狐の後を追い、祠の後ろから前に移動する。
「ついてきて!!」
俺達が移動したのを確認すると、狐は祠に向かってダッシュで突っ込んでいった。
消えた?祠に飛び込んだ狐が消え、俺は少し驚いたが、一種の【転移魔法】なのかと勝手に解釈する。
「どうする?」
手を繋ぎながら顔を横に向け聞いてくる夏蓮に、俺は少し考えたが、直ぐに答えを出した。
「行ってみるか」
あの様子から罠だとは考えられないし、何かあっても【時空転移魔法】なら空間が違っても移動が出来るから問題ない。
俺がそう決意すると夏蓮も賛成なのか「分かった」と言って反対はしなかった。
覚悟を決め、俺はゆっくり祠に手を伸ばし、指先が祠に当たると、突如目の前が白い光に包まれた。
「っ!?」
突然の光に俺は目を瞑り、やがてその場に俺と夏蓮はいなくなった。
おまけ
【出る杭は打つ】
“ねぇ、主ー”
「どうした?ロウガ」
“なんか、新しいキャラ出てたよねー?”
「あー、あの狐のことか?」
“可愛かった?”
「確かに可愛かったな」
“そっかー.....”
「お、おい、どこに行くんだ?」
“ちょっとそいつ狩ってくる。出る杭は打たなきゃ”
「やめい」
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