地球にも存在するようです
蝉の鳴き声が響き渡る夏の中旬。
夏も中盤になり、今人気スポットには観光客や旅行者で大賑わいだろう。
観光名所では人でごった返し、人の波に呑まれるのが関の山だ。
とても行く気にはなれない。
そんな中、俺、夜兎もちょっとした旅行をしている。
ガタンッ!!
なにかに躓いたのか車が大きく揺れたせいで着いていた肘がずれ、俺は眠りから覚まし目蓋が微かに開いた。
「そろそろ着くな」
景色を見ながら呟く父さんの声が、ぼんやりと聞こえてくる。
その父さんの言葉を聞いて、俺は若干眠気が残りながらも、窓の外を覗いた。
外は田んぼ、ススキ、川が見え、都会とはかけ離れた田舎の景色が広がる。
トンボが飛び交い、窓からでも蝉の鳴き声が聞こえてきて、少しうるさい。
(なんも変わってないな、ここ)
二年前に来たときと何一つ変わってない。
前々から田舎とは思っていたが、ここまで田舎だったとは。
ここは母さんの生まれ故郷。
母さんはああ見えて田舎の出身で、昔に料理について学びたくて上京したらしい。
そして、今から行くのがその母さんの親、つまり俺の爺ちゃんの家だ。
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「いらっしゃい。みんな」
「よく来たな」
無事家に着き玄関から中に入ると、爺ちゃんと婆ちゃんが出迎えをしてくれた。
「久しぶり、お父さん、お母さん」
「ご無沙汰しています。お世話になります」
懐かしそうに言う母さんとは対し、父さんは律儀にお辞儀をする。
相手方の両親の家だからか気を使っているのだろうか。
いつも以上に礼儀正しい。
「夜兎君と夏蓮ちゃんもいらっしゃい」
「こんにちは。お婆ちゃん」
「こんにちは」
婆ちゃんに話しかけられ、俺と夏蓮は軽く挨拶をする。
二人共もうすぐ年齢が70を越えるというのに、少し若々しい。
顔のシワも少なく、髪の毛だってまだ婆ちゃんの方は白髪が見えない。
特に婆ちゃんの方は母さんと似て、いつも明るくホンワカしている。
因みに、俺が婆ちゃんをお婆ちゃんと呼んでるのは、流石に婆ちゃんと呼ぶのが気が引けるからだ。
なんか、婆ちゃんと呼ぶと悲しそうな顔をしそうで、言うのが怖い。
昔にお婆ちゃんと呼んでたのが間違いだっただろうか。
「久しぶりだな。お前たち」
「そうだね。お爺ちゃん」
「二年ぶり」
少ししわがれた低い声で爺ちゃんは喋る。
物静かで、無表情、寡黙でなにを考えてるのかが分からず、そこが夏蓮によく似ている。
この場合、夏蓮が爺ちゃんに似たんだろうが、ここに一番遺伝を感じた。
若干片言気味で喋られるため、無言で見つめあってる時とかテレパシーでもしてるんじゃないかと思えてくる。
爺ちゃんと婆ちゃん、このキャラの濃い二人。
一応俺の両親は事故で死んで母さん達に引き取られたんだが、俺の実の母さんは今の母さんとは姉妹だ。
だから事実上俺の本当の祖父と祖母にあたるわけで、それもあってか両親を亡くした俺に二人は優しく接してくれた。
「立ち話もなんだから、どうぞお入り下さい」
婆ちゃんに促され、俺達は靴を脱ぎ家の奥へと入っていった。
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一通り居間で爺ちゃん達と話終え、俺は別の部屋で休憩をしている。
ここには二、三日泊まるため、今いる部屋が俺の寝床となるらしい。
畳のある部屋は家にはないため、寝ると仄かに畳独特の臭いが感じてこれはこれでいい。
目の前にある縁側から吹いてくる風、吊るされているチリーンと鳴る風鈴の音。
これぞ、夏って感じだ。
この家は見た目は古いが、無駄に広い。
二階はないがその分幅があり、こうした余った部屋がある。
サ〇エさんみたいな家というのが一番近いだろうか。
二人だと広すぎて困ると婆さんが嘆いていたの頷ける。
「随分となにもないです」
「ここは、そういうところだからな」
携帯から聞こえるメルの声に、俺は寝ながら応える。
「景色が見たいです!」というメルの要望を叶えるため携帯を立て掛けておいたが、これといって見るものもないだろうな。
畳の上でダラダラしていると、突如縁側から足音が聞こえだした。
「あ、やっぱり寝てた」
見ると、そこには予想通りと言った声をあげた夏蓮がいた。
「なんか用か?」
「暇」
用を聞く俺に、夏蓮は簡潔に応えた。
いや、そんな無表情で「暇」と言われてもな....。
簡潔過ぎて要領が全く伝わってこない夏蓮の言葉に、俺は暫し無言で見つめる。
「........」
「.......暇」
「いや、聞こえてるぞ」
二度も同じことを言われ、俺は体を起こし、夏蓮に聞く。
「暇と言われても、どうしようもないんだが....」
「暇だから、一緒に散歩に行こう」
畳の上で座る俺を見下ろしながら、夏蓮はやっと用件を言ってくれた。
だったらそれを先に言って欲しかったな。
多分、夏蓮は俺から誘うことを期待してたんだろうが、流石にそんな人の心を読める程俺は察しはよくない。
「私もお外見てみたいです!」
散歩と聞いてメルは興味を持ったのか、携帯の画面ではいはーい!と手を上げる。
まぁ、ずっとこの何もない風景を眺めるのも退屈だろうからな。
俺も暇だったし、行くとしよう。
「そんじゃあ、行くか」
重い腰を上げ俺と夏蓮は散歩をしに玄関へと向かう。
途中母さん達に散歩をしに行くことを告げ、俺は靴を履くのと同時に、ポケットからあるものを取り出す。
「なにそれ?」
「イヤホン型の小型カメラだ」
俺が取り出した物を見て、夏蓮は物珍しそうに見る。
見た目コードのないただのイヤホンに見えるが、そこに小さなカメラが付いた代物だ。
最近は便利なもので、探していたら見つかったため購入し、ついにそれを試す時が来た。
イヤホン型のカメラと聞いて、夏蓮はなにを思ったのか、俺を疑わしい目で見つめてくる。
「......盗撮するの?」
「いや、なんでだよ」
こんな何もないところで何を盗撮するんだよ。
というか、あったとしてもするわけないだろ。
あらぬ誤解を受け俺は否定しようとすると、メルが先に異議を申し上げてきた。
「マスターはそんなことしないです!それにそんな手を使わなくても、覗こうと思えばいくらでも覗けるのです!」
前半部分はともかく、後半が酷いな。
そんな「凄いでしょ!」と胸を張って言われても、苦笑いしか出来ないぞ。
フォローになってないフォローに俺は口許をひくつかせ、夏蓮は「うわ」と身体を庇いつつ後ろに身を引く。
そんな加速した勘違いに、俺は慌てて誤解を解く嵌めになった。 先が思いやられそうだ。
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「全く、変な誤解を受けた」
「つい、うっかり」
道を歩きながら、俺は軽くため息をつく。
その隣で夏蓮は悪びれる様子もなく「ごめんごめん」と平謝りをする。
本当にそう思ってるんだろうか。
平謝をする夏蓮を見て、俺はそう思っていると、メルが目の前の景色を見て感嘆の声をあげていた。
「木がいっぱいで、綺麗です!」
今俺達が歩いてるのは、山の中で、少し斜面だが周りが木で覆われちょっとしたアーチ状になっている。
自然豊かで空気も綺麗なのは、都会ではまた味わえないことだ。
木で覆われたお陰で夏でも日陰ができ、涼しい場所となっているので俺はここが結構気に入っていた。
「何も変わってないね、ここ」
「そうだなー」
ポツリと呟かれる夏蓮の言葉に、俺は呑気な口調で頷く。
二年ぶりに来たが、やっぱりここら一帯は前の時から何も変わらない。
この田舎には、夏や冬によく来ていて、夏休みや冬休みで来るのが通年になっている。
去年は俺のこともあって、田舎にはこれなかったんだが、変わっていなくて少し安心した。
にしても、懐かしいなぁ。
俺はボーッとしながら、俺は山道を歩く。
昔はここでたまに散歩をしたもんだ。
この田舎には小学生くらいから通っていて、暇な時はたまにここに来ていた。
あの頃は知らない場所に心を踊らされていたっけ。
昔の記憶が蘇り、俺は懐かしんでいると、前の方から小さな祠が見えてきた。
「お、これまだあったのか」
祠を見て、俺は少し嬉しそうにしながら祠に歩み寄り、しゃがみこむ。
懐かしい、よくここに来たときにお参りをしていたっけ。
どんなのが奉られてるのかは知らないけど。
屋根を擦りながら俺は懐かしんでいると、夏蓮もそれを見て懐かしそうに言った。
「懐かしい」
「だな」
夏蓮には、たまに俺と一緒に散歩に行ったこともあり、この場所をよく知っている。
所々苔がこびりつき、時代を感じさせるそれは、廃れることなく残り続けていた。
まだまだここには残っていそうだな。
暫く、俺は懐かしげに祠を眺めていると、メルが何かを見つけたのか俺に報告してきた。
「マスター、祠の後ろでなにかが動いたです」
そう言われ、俺は後ろ?と重いながら立ち上がり、祠の後ろを覗いた。
すると覗いた瞬間、俺はある生物を目撃し驚いた表情を浮かべた。
「狐?」
この山に狐なんていたっけ?
ここでは見かけない動物に、俺は不思議がっていたが、怪我をしていることに気づき、慌てて近づく。
どうやら、足を怪我したみたいだ。
だが、傷を見て大したことじゃないと分かり俺はホッとすると、夏蓮が後ろから覗いてきた。
「どうしたの?」
「狐だ。こんなところにいるとはな」
夏蓮の言葉に、俺は物珍しそうに言う。
だが、そんな俺の言葉におかしいと感じたのか、夏蓮は「ん?」っと首を捻った。
「狐?.....どこに?」
予想外な夏蓮の反応に、俺は「え?」と驚き夏蓮の方を向くが、夏蓮は疑問とばかりに首を傾げていた。
別に俺が邪魔で見えない訳じゃない。
夏蓮の目は真っ直ぐ狐の方を向いている。
だというのに、なぜ見えてないのだろうか。 疑問に思った俺は再度確認をとるため、狐に指を差しながら夏蓮に聞いてみた。
「お前、本当に見えてないのか?」
「全然見えない」
再度確認をとっても、夏蓮は見えないと言って首を横に振る。
いったいどうなってるんだ?
ますます不思議に思い、俺は改めて狐の方を見回す。
少し汚れた黄色の毛、前足の傷に二本の尻尾。
....ん?待てよ。
「尻尾が二本?」
狐って尻尾が一本だったよな?
尻尾が二本あることに驚き、俺は尻尾を凝視する。
いつの間にか新しい雑種でも出てきたんだろうか。
狐を見ながら俺は考えていると、メルが驚愕の事実を告げてきた。
「マスター、恐らくそれはモンスターです」
データ一回消えて慌てて書き直してしまった。
次は気を付けよう......。
おまけ
【書き込み】
「メルって寝たりするのか?」
「スリープモードならありますけど、基本寝なくても大丈夫です」
「寝ないときって何してるんだ?やっぱりネットか?」
「はい、最近は書き込みしたりしてるです」
「書き込み?なんの?」
「『最近彼女がうざったいんだけど、どうしたらいい?』とか『モテるための秘訣トップ10』だったり後はーーー」
「頼むから、お前もうちょっとましなのにしてくれ」
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