不覚にもやられてしまった
気付いたらpv20000000行ってました。
本当にありがとうございます。
人気がないところを見つけ、俺達は早速ロウガとの遊びが出来る場所に転移した。
「着いたな」
“わーい!!”
無事目的地に着き俺はそう言い、ロウガは転移したと同時に嬉しそうに駆け回る。
犬はこういう広いところって好きだよな。狼だけど。
天然の芝生、地平線の彼方まで続く緑のカーペット。景色は中々なものだ。
それに天気も快晴。そよ風も吹き、運動には丁度いい環境。
この爽快ともいえる景色に、さやは目の前の景色に感動の声をあげた。
「わぁ!すごーい!ここどこなの!?」
「さぁな、その辺は適当にやってるし」
海外であるのは確かだが、正確な位置は分からない。
いや、調べようと思えば調べられるが、あんまり興味がないしな。
どこでも行ける俺からしたら場所なんてどうでもいいことだ。
「ここでなにするの?」
「そうだなぁ、手始めに準備運動がてら先ずは.......これだな」
そう言って、俺は手からなんの変鉄もないゴムボールを出現させ、さやに見せる。
「それって、ただのボールだよね?」
「まあな」
さっき変わった犬の遊びと言ったからか、さやは少し拍子抜けな声を出す。
確かにこれはどこにでもある犬用のボールだが、これでもロウガはモンスター。
そんじょそこらの遊び程度じゃ満足はしない。
俺がボールを出したのが見えたのか、ロウガは俺の下に駆け寄ってくる。
「よし、投げるぞ。ロウガ」
“はやくはやくー!!”
俺の手に持っているボールを凝視しながら、ロウガは待ち遠しいとばかりに尻尾を振る。
ロウガの準備が出来たのを確認し、俺はボールを大きく振り、
「取ってこい!!」
全力で投げた。
“わーい!!”
投げられたボールは微かに視認出来る位の速度でビューンッ!!と音を建てながら、地平線の彼方まで真っ直ぐ飛んでいく。
そして、その速度に追いつくが如く速さでロウガもまたボールを追いかけて走っていった。
ロウガはスピードに長けているタイプのモンスターのようで、力はともかく速さめちゃくちゃ速い。
だから、俺が全力で投げてもロウガは問題なく取ってこれる。
余波で俺の周りが少し突風に見回れ、さやは目を瞑り目を開けた後には、もうロウガの姿はなかった。
「え、今何が起きたの?」
あまりにも速すぎて一般人のさやには見えなかったのか。
何が起きたのか分からず、さやは呆然とする。
そんなさやに俺は「今にわかる」とだけ言ってロウガが走っていった方角を眺めていると、遠くの方から何かが走ってくるのが見えた。
“ただいまー!!”
異常な速度で戻ってきたロウガは俺の前で急停止する。
その口にはしっかりとボールがくわえられていて、俺はボールを受け取りロウガと「よくやった」と頭を撫で、ボールをさやに差し出す。
「というわけで、ほれ」
「なにがというわけなの!?」
いきなりボールを渡され、さやは驚きの声をあげる。
つい反射的にボールを受け取ってしまったさやは、どうしたらいいのかとボールと俺を交互に見ながら戸惑っていた。
「さっきみたいに投げれば大丈夫だぞ」
「いや、無茶言わないでよ!!」
無茶振りにも程があると、さやは拒否しているが、そんなの俺だって無理だと分かっている。
誰も一般人のさやにそんなのを求めていない。
「いいから投げてみろって。ロウガも待ってるぞ」
「わん!!(はやくー!)」
「うぅ......」
俺の急かしとロウガの待ち遠しそうな顔に気圧され、拒めに拒めず、さやはもうどうにでもなれという勢いでボールを投げた。
「え、えい!!」
女子特有なフォームで投げられたボールは、数メートル先までゆるゆると放物線を描きながらーーー突如ビュンッ!!と遠くに飛んでいった。
「え!?なんで!?」
“わーい!!”
明らかおかしいボールの軌道に、さやは仰天するが、ロウガは気にせず追いかけていく。
流石に露骨すぎたな。
自分の操作ミスに俺は少し反省する。
さやのボールがあんな飛びかたをしたのは勿論俺のせいで、【風魔法】を使いボールを無理矢理飛ばした。
これがあるから大丈夫だからさやにやらせた訳なんだが、驚いたさやはこちらを見つめている。
「なっ?大丈夫だったろ」
「先言ってよそういうの!!」
ーーーーーーーーーーーーーーー
何回か同じようにロウガにボールを投げ、他の遊びもやり尽くし、俺とさやは今は休憩中だ。
「改めて思うけど、ロウガちゃんって凄いんだねぇ」
「まぁ、一応モンスターだしな」
草原に座り込み、ふわふわと浮かぶボールを追いかけ回しているロウガを見て、さやと俺は軽く雑談する。
元気だなぁ、ロウガ。
【風魔法】で浮かせてあるため、これはこれでロウガも楽しんでようだ。
「中々楽しかったな」
「そ、そうだね.......」
笑顔な俺に対し、さやは若干疲れた顔をする。
最初にやった意外にも、ボールの他にフリスピーを使ったり、魔法で大迷宮並みの迷路を創って遊んだりしていたら中々時間が経ってしまった。
「ロウガちゃん元気だねー」
「そうだなー」
お互いまったりしながら、暫し無言の時間を過ごす。
夏だけど運動したせいか結構気持ちがいい。
たまにはこれもありかもしれないな。
遊ぶロウガを見つめながら俺は肘を付きながら思っていると、さやはポツリと呟いた。
「なんか、不思議」
「なにがだ?」
突然の呟きに俺はさやの方を見ると、さやはどこか遠くを見るような顔をしていた。
「前までは男の子にも喋れさえもしなかった私が、今じゃこんな風にしてるって思うと、なんか不思議」
「未だその喋れる相手が俺しかいないけどな」
湿っぽく言うさやに俺はからかうと、さやは「これからもっと増えるの!」とぷりぷりと頬を膨らませる。
からかった俺だが、さやの言うことにも一理あると思い、「でもまぁ」と言葉を付け足した。
「俺もそう思うことがあったな」
去年までなら、自分がこんな事になるとは思ってもみなかっただろうな。
まぁ、クラスが異世界召喚されるなんて事普通は起きないけど。
染々と過去を思い返す俺に、さやは「だから」と言って俺の方を見つめる。
「いつもありがとう。これからもよろしくね」
「!?.....」
汚れのない澄みきった笑顔。
思わず吸い込まれるような、常人なら見惚れてしまうような、輝いていた、そんな笑顔だ。
俺はその笑顔に少しだけ魅入られ、固まっていると、ボールに飽きたのかロウガが俺の膝の上に乗ってきた。
“僕知ってるー。そういうのリア充って言うんでしょー”
「お前そんな言葉どこで覚えたんだよ......」
きっと夏蓮辺りが悪ふざけで教えたんだろうが、お陰で正気に戻れた。
なんか、前にもこんなことあったよな。
不覚にもまた見とれてしまった。
さやの方はどうしたのかと首を傾げているだけで、なにも気付いていない。
これだから天然は恐ろしい。
今度は気を付けようと俺は軽く頭を振っていると、ロウガが前足で俺の身体をぺしぺしと叩いてきた。
“主ー!ボールー!”
見ると、俺の膝の上にはボールが転がっている。
どうやらさっきので集中力が途切れたか。
「というか、お前まだやるのか」
“もっともっとー!!”
まだまだ元気が有り余っているようで、ロウガは元気そうに尻尾をぶんぶんと振る。
しょうがない。もう一回やるか。
「よし、取ってこい!!」
“わーい!!”
勢いよく投げられたボールをロウガは嬉しそうに走っていく。
あっという間にロウガがボールと共にいなくなり、俺はそれを確認するとさやの方を振り向いた。
「そういえば、さっきの返事言ってなかったな」
「え?」
返事と言われて、さやはキョトンとしたが、俺は笑みを浮かべながらさっきの返事を返した。
「こちらこそよろしくな。さや」
俺の数少ない親友。
色々な感謝の意を込めて述べた俺の言葉に、さやはにっこりと笑いながら「うん!」と応える。
夏の日差しが暑いなか、こんな気持ちになったのはいつ振りだろうか。
夏はそんな好きじゃないが、今だけは悪くないと、俺は思うのだった。
おまけ
【メインヒロイン】
「なんか、不満」
「なにがだ?夏蓮」
「さやちゃんだけ対応が違う気がする」
「違うってなにが?」
「なにこの圧倒的リア充感」
「いや、別にそういうわけでもないだろ」
「絶対ある」
「だとしてもだ、よく考えてみろ」
「なにを?」
「ここのメインヒロイン、さやだぞ」
「こっちにも何かあってもいいじゃん」
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